一途な令嬢は悪役になり王子の幸福を望む

紫月

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幸福な未来への約束

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「アイザック様の催眠術を自力で破るとは、お前のセフィル様への執念もなかなか凄まじいな。」
目覚めてすぐ、側にいたフランツお兄様が発した第一声がこれだ。
お兄様の辞書に思いやりという言葉はない。
そうそう、何故私が生きているかって?
「身体中を奇跡の血が巡っているおかげで、刺し傷も塞がってよかったな。」
そうなのである。
あの時いち早く駆けつけてくれたお兄様が、本当なら血が噴き出してしまうため短剣を抜いてはいけないのだが、容赦なく傷口からサックリ抜きやがったのだ。
おかげで奇跡の血が作用して、刺し傷が瞬く間に塞がったのである。
血の効能を知らずに短剣を抜いていたなら、ボコボコにぶん殴っていいほどの暴挙だと思う。
だが冗談のような本当の話だ。
奇跡の血、半端ない!!
「公にはなってないが、催眠術を操るアイザック様は要注意人物だったんだ。
セフィル様に毒を盛ったことが明るみになって、どうやって拘束するか策を練っている最中だったんだ。
なのに単身敵陣に乗り込みやがったどっかの阿保のおかげで計画はオジャン。
セフィル様まで危険に晒すわで大迷惑を被った。
なんとかアイザック様を拘束することはできたが、納得はできん。
売り捌いてやろうか。」
お兄様、ウッハウッハのボロ儲け的な意味ですか!?
戦々恐々としてると、父が仲裁に入ってくれた。
「その辺にしておけ、誰にでも失敗はあるんだ。」
お、お父様!お優しい!!
「まんまと催眠術をかけられて、秘密をゲロッたのは他ならぬ父上ではないですか。」
………踏んづけてもいいですか?お父様。
私の尊敬の念を返せ。

それはそうと………。
「あ、あの、セフィル様?」
「ん?なんだ?アリア。」
何故先ほどから、セフィル様はニコニコしながら私の両手を握っているの?
因みにまだ起き上がれる状態ではないので、ナイトドレスのままベットで寝ている状態だ。
格好も恥ずかしければ、家族の前で手を握られてることも恥ずかしい。
嬉しいけど、鼻血でそう……。
ハッ!そういえば私、気を失う前に抱き締めて貰わなかった?
しまった!どうせならチューをお願いすればよかった!!
淑女がはしたない?
そんなん知るか!!
後でお願いしてみようか?
なにせ私達は両想いだ。
もう一度言う、何度でも言う!
両・想・い・なのだ!!
「どうしたんだ?アリア。
顔が赤いぞ?」
「セフィル様、なんでもありませんわ。」
「そうですセフィル様。
どうせ"こんなことなら接吻でもお願いしとけばよかった"とか考えてるだけです。」
お兄様、的確すぎです!
「……そうなのか?アリア。」
うわーーん!セフィル様が突っ込んでくるよーー!!
「アリア、プルプルしてどうした?
トイレなのか?」
お父様は黙ってらっしゃい!
側でお母様がクスクス笑っている。
「さあさ、アリアも無事だったのですから、今は2人きりにしてあげましょ。」
ええ!!ま、まだ、心の準備が……。

3人がそそくさと部屋を出て行くと、急に静寂が気になりだす。
なにか話さないと……。
あ!まだお詫びを言ってない!
「あ、あの、セフィル様。
随分ご迷惑をおかけしてしまったようで申し訳……」
「迷惑は俺の方がかけた。
俺がアリアや周囲に誤解されるような態度だったからいけなかったんだ。」
「そんなこと……」
「そんなことある。
俺がサラ嬢に気があるという噂はアイザックが流したものだったようだが、奴に付け入る隙を与えた俺が悪い。
現にアリアもその噂を信じていたじゃないか。
辛い思いをさせてすまなかった。」
「そんなことありません!」
無意識に涙が溢れた。
「確かに私は貴方を愛しているから辛かったけど、貴方は何も悪くない!」
私が噂を信じなければこんなすれ違いはおこらなかった。
セフィル様は「疑うのはよせ」と言っていたのに、貴方を信じられなかった私こそ悪いのだ。
「そう言ってくれるなら、今度こそちゃんと婚約者になろう、アリア。
ずっと側にいてくれないか?」
プロポーズ、だと思った。
セフィル様は私の手の甲にそっと口づけを落としてくれる。
セフィル様の温もりが手の甲に伝わる。
あぁ、なんて幸せなんだろう……。
あの時死ぬことも覚悟したけど、やはり生きて貴方の側にいたい。
「はい、謹んでお受けします。」
生きて、2人で人生を歩んでいきたい。

こうして私達は婚約してから初めて、幸福な微笑みを交しあったのだった。
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