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リリア姫の頼み
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その言葉の通りであった。
リリア姫の唇の動きからは、異世界の言語を使っていることが分かるが、実際に刀兵衛の耳に聞こえてくるのは、聞き慣れた日ノ本の言葉であった。
「これは、魔道書の力によるものです。この書物を発動させると、お互いの意思の疎通が最適化されます。人間の言葉だけでなく、亜人の言葉すら翻訳することが可能です」
「ということは、拙者の喋っている言葉もそのまま伝わる、と?」
刀兵衛の疑問残る言葉に、リリア姫は微笑を浮かべて頷いた。
「そうです。あなた様の喋っている言葉は、わたくしの国の言葉で伝わっています」
呪術としか言いようがない。いや、そんなものを遥かに凌駕している。これまでに出会った僧や巫女に、こんな力を持つものはいなかった。
そもそも、あの怪物と対峙したときに、このどこからどう見ても非力なお姫様は謎の法力──いや、魔力とでも言うべきか。この力で相手を絶命させたのだ。やはり、この世界についての認識について、いろいろと整理をせねばならぬ。
真面目くさってそう考える刀兵衛に、園姫は屈託なく笑い声を上げた。
「はははっ! 刀兵衛、そう真面目な顔をして考えこむな! わらわも、それは最初は度肝を抜かれたが、ここはまことに馬鹿馬鹿しいほど不思議な世界なのじゃ! 原理など分からぬ! 真面目に考えるだけ時間の無駄というものじゃ! そんな時間があるのなら、剣の鍛錬でもしたほうがよいぞ!」
流石は、竹を割ったような性格の園姫であった。
こちらの世界に来て三月ということだが、この様子なら、すぐにこの世界の在り様に順応したことであろう。
「なに、三日もあれば慣れるものじゃ! しかし、刀兵衛……。そちは落城の後、どうしたのじゃ? よかったら、聞かせてくれぬか」
「はっ。拙者は城を討って出たまま……ただひたすら、前に、前にと進みましてござりまする。途中、数え切れぬほどの兵や将を斬り倒し、追手や落ち武者狩り、果ては山賊まで斬り捨てましたが、やがて崖の上に辿り着き……このまま生きていくことは虚しい。そう思い、そのまま海中に没しましてござりまする。恐らく、落城から三日ほど後のことであったかと」
「ふむ、そうじゃったか……。刀兵衛ほどの腕の持ち主なら、どんな大名にも仕えることができたと思うのじゃが……。誠にもったいなきことじゃな……」
「拙者こそ、もったいないお言葉でござりまする。しかし、もう拙者はほかの主君に仕える気は、起こりませなんだ」
「なるほど。つまり、刀兵衛はわらわ一筋であったと! はははっ! なんじゃ、わらわを照れさせるでないぞ、刀兵衛っ!」
そういうつもりで言ったのではないでござる。と言い直そうとして、しかし、つまりはそういうことなのだ、とかえって得心した刀兵衛。
やはり自分は、この竹で割ったような性格の園姫が好きなのだ。
それはなにも刀兵衛だけに限った話ではない。園姫の家臣や領民達は、誰もがその豪快で包容力のある性格に惚れていた。もし男に生まれ、それなりの領土を持つ国に生まれていれば、それこそ歴史に名を残していたであろう。
返す返すも、山城の城主にはもったいない器であった。
武者修行をして全国津々浦々まで廻った刀兵衛だが、これほど傑出した人物には、ついぞ会うことがなかったのだ。
「園様から、刀兵衛様の剣技についてはお聞きしておりました。刀兵衛様、どうかお願い致します。お力をお貸しくださいませ!」
リリア姫の唇の動きからは、異世界の言語を使っていることが分かるが、実際に刀兵衛の耳に聞こえてくるのは、聞き慣れた日ノ本の言葉であった。
「これは、魔道書の力によるものです。この書物を発動させると、お互いの意思の疎通が最適化されます。人間の言葉だけでなく、亜人の言葉すら翻訳することが可能です」
「ということは、拙者の喋っている言葉もそのまま伝わる、と?」
刀兵衛の疑問残る言葉に、リリア姫は微笑を浮かべて頷いた。
「そうです。あなた様の喋っている言葉は、わたくしの国の言葉で伝わっています」
呪術としか言いようがない。いや、そんなものを遥かに凌駕している。これまでに出会った僧や巫女に、こんな力を持つものはいなかった。
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真面目くさってそう考える刀兵衛に、園姫は屈託なく笑い声を上げた。
「はははっ! 刀兵衛、そう真面目な顔をして考えこむな! わらわも、それは最初は度肝を抜かれたが、ここはまことに馬鹿馬鹿しいほど不思議な世界なのじゃ! 原理など分からぬ! 真面目に考えるだけ時間の無駄というものじゃ! そんな時間があるのなら、剣の鍛錬でもしたほうがよいぞ!」
流石は、竹を割ったような性格の園姫であった。
こちらの世界に来て三月ということだが、この様子なら、すぐにこの世界の在り様に順応したことであろう。
「なに、三日もあれば慣れるものじゃ! しかし、刀兵衛……。そちは落城の後、どうしたのじゃ? よかったら、聞かせてくれぬか」
「はっ。拙者は城を討って出たまま……ただひたすら、前に、前にと進みましてござりまする。途中、数え切れぬほどの兵や将を斬り倒し、追手や落ち武者狩り、果ては山賊まで斬り捨てましたが、やがて崖の上に辿り着き……このまま生きていくことは虚しい。そう思い、そのまま海中に没しましてござりまする。恐らく、落城から三日ほど後のことであったかと」
「ふむ、そうじゃったか……。刀兵衛ほどの腕の持ち主なら、どんな大名にも仕えることができたと思うのじゃが……。誠にもったいなきことじゃな……」
「拙者こそ、もったいないお言葉でござりまする。しかし、もう拙者はほかの主君に仕える気は、起こりませなんだ」
「なるほど。つまり、刀兵衛はわらわ一筋であったと! はははっ! なんじゃ、わらわを照れさせるでないぞ、刀兵衛っ!」
そういうつもりで言ったのではないでござる。と言い直そうとして、しかし、つまりはそういうことなのだ、とかえって得心した刀兵衛。
やはり自分は、この竹で割ったような性格の園姫が好きなのだ。
それはなにも刀兵衛だけに限った話ではない。園姫の家臣や領民達は、誰もがその豪快で包容力のある性格に惚れていた。もし男に生まれ、それなりの領土を持つ国に生まれていれば、それこそ歴史に名を残していたであろう。
返す返すも、山城の城主にはもったいない器であった。
武者修行をして全国津々浦々まで廻った刀兵衛だが、これほど傑出した人物には、ついぞ会うことがなかったのだ。
「園様から、刀兵衛様の剣技についてはお聞きしておりました。刀兵衛様、どうかお願い致します。お力をお貸しくださいませ!」
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