制服の少年

東城

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1章 中学2年生

ーーーーーおかえり

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学ランを着た中学生の少年は、朝日という名前だった。
朝日は、桐野栄之助が面倒を見ている少年だ。
十三歳の少年は純潔で、とても綺麗な顔と肢体をしている。ときどき朝日は、はっと息をのむような美しい表情や微笑みを浮かべる。
完璧な美の前では人は敗北するしかないのか。
いけないと思いながらどんどんはまっていく、キラキラ光り輝く宝石みたいな素敵な恋。
桐野は文学的なことを考えながら朝日を見つめる。

桐野も上品な雰囲気を持った顔立ちの良い青年だった。医師の桐野は朝日の監督者だった。
長男ということで過大な期待をかけられ、有名政治家の父親と優しい母親に大切に育てられた。

その一方、朝日は生後間もなく母親に育児放棄された後、京都の祖父母に養育されていたが、小学五年生の時に相次いで祖父母が急逝した。
ろくでなしの母親に引き取られて東京に来てからというもの母親と内縁の男からネグレクトなどの虐待を日常的に受けた。
去年の十一月に朝日は傷害事件を起こし、桐野が保護司になった。

過去の話は二人ともあまり話さない。
最近の話題と言えば、同級生の話ばかり。学校でこんなことがあったよ。また新しい友達ができた。友達から、こんなものもらったよ。
桐野はうれしい反面、朝日の気持ちが友達に移っていくのが寂しい。
(友達の話はもう止めて。もっと僕の話も聞いて、僕のことも見て欲しいな)

友達の話を続ける朝日を抱き寄せて、キスでおしゃべりを中断させる。
朝日に深い口づけをするときは背徳感がいつも付きまとう。

「こういうの困るんだけど」朝日は恥ずかしそうに目を伏せて言った。
頬がかすかに赤い。
「困るってなにが?」
「恥ずかしいし。キスするのは、まだちょっと」
まだキスに慣れないのか。ういういしい朝日がいとおしく思える。
「なに?」
「僕、まだ、中二だし、大人の人とキスは……」
「どうしてキスはダメなの?」
「よくわからないけど、いけないことのような気がする」
最近、自分の意見をはっきり言うようになった。もともとの性格はそうだったのだろう。今まで遠慮してあまりダイレクトには言わない子だった。

「いけないことなんかじゃないよ」
「でも、男同士だよね?」朝日は、ちらっと桐野を見る。
「だから僕は男しか好きになれないんだって」
このことは何十回も言ったのに、なぜ朝日はまだ分からないのだろうか。
「どうして?」
「自分でも分からないけど、気が付いたらそうだった。君は?」
「うーん。まだ分からないや」
でもキスさせてくれるということは、男でも大丈夫なんだろう。

「友達を家に招待して、パーティーしようか?」
話題を変えて、そう持ち掛けた。
「それ、いい。楽しそう」朝日はわくわくしだした。
「こどもの日にする?」
「じゃあ、声かけてみるよ。えーと、五、六人ぐらい連れてくるけどいい?」
「全然オッケー」
朝日と話していると楽しい、自分も十代の少年に戻ったかのようだ。
煌めいていて新鮮で好奇心のかたまりでイノセントな十代。
だが、そんなものは桐野の幻想だったと五月五日のこどもの日にはっきりと分かった。
中坊どもに甘い幻想を、ことごとくぶち壊された。
中学二年生 ── 黒歴史と不条理、子供特有の残酷さがマックス状態、闇に覚醒し、ホルモン過剰で身体と精神のアンバランスでムラムライライラがエンドレスの、奈落の底のような時期。
中二病に脳を侵された中学生は覚醒し、ダークサイドに堕ち。ある者は闇(病み)の伝道師となる。

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