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1章 中学2年生
ーーーーー 指導室
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六月になってすぐに生徒指導の先生から桐野に連絡が入った。
最近、朝日が問題行動を起こしているらしい。
昼休み、廊下でサッカーをしていて教室の窓ガラスを割った。先週も教室で野球をして窓ガラスを割った。
病院の仕事を終えて桐野栄之助が帰宅するのは通常夜九時ごろだ。
今日はめずらしく定時で終わり、渋滞も軽かったので六時に家に着く。
狭い駐車場に車を止めて、アパートの階段をのぼる。
ドアを開け「ただいま」と家に上ると「おかえりなさい」と少年の声が返ってきた。
「あー、はやかったねー」リビングのソファーで数学の勉強している朝日は、にっこり笑って言う。
去年の十一月まで、こんなふうに出迎えてくれる人はいなかった。
朝日も黙っていればかなりの美少年なのに、関西弁で「こん応用問題、いっこもわからへん。まじ、あかん」と叫ぶ。
「朝日、また関西弁になってる」
「あ、やべ。一人でいるとき京都モードで考えてるから、気ぬくとついつい」
そういえば初めての恋人は大阪の人だったなと、ふと桐野は思い出した。それから七、八人ぐらい男と付き合った。でも誰とも長続きせず、半年ももたず別れた。
「学校で目立つよ」
「せやなー。よう構わんねん」
「学校の先生から連絡が来たよ。窓ガラス割ったんだってね」
理由を聞いたら、雨が降ってるから廊下でサッカーして鶴見と遊んでいたそうだ。
***
梅雨のうっとうしい天気が月曜から続いていた。
勤務中に中学から電話がきて、朝日がまたやらかしたので学校に来るように言われた。後日で良いかと聞いたが、今日来て欲しいと厳しい口調で生徒指導の先生から言われた。
(中一のときは全然問題なかったのに。なんで中二になってからバカなことばかりやるんだ。)
仕事を早退し、学校に車で向かう。蒸し暑く息苦しいので運転しながらネクタイを緩めた。
職員室に行くと、担任の男の先生が桐野を出迎え、生徒指導室に案内してくれた。
引き戸を開けると、朝日と鶴見が椅子に座っていた。向かいの椅子にはいかつい中年教師が腕組して怖い顔で二人に説教していた。
桐野を見て、朝日は申し訳なさそうに目を伏せた。
指導の先生が簡単に何があったか説明する。
昼休み、教室で他の男子グループと殴り合いの喧嘩。素手ならまだしも机の上から飛び蹴り。朝日に蹴られた相模という男子は頭を椅子に打って流血。鶴見が朝日サイドなので当然二人の勝ち。
桐野は絶句した。
「だって、あいつら、とうかのこといじるからだよ」不満そうな口調で朝日がつぶやく。
「そんなことで喧嘩!? とうかちゃんが普通に振舞えば、男子にからかわれることもないんだよ」
「あいつら床にとうかのスマホ、投げ捨てて蹴ってさ。かわいそうだったし。僕の友達だし。でもさ、僕を先に殴ってきたの相模なんだよ」
「かわいそうって、とうかちゃんの言動が問題で、朝日とは関係ないじゃないか」
鶴見が笑って言った。
「今日の朝日かっこよかったっすよ」
こいつに影響されて朝日も悪いことしていると桐野は決めつけた。
「あのね。問題起こすときって、いつも鶴見君がそばにいるよね」
鶴見はしれっとした顔で続けた。
「廊下でラインやってて、俺が教室に戻ってきたときには、殴り合いの喧嘩が始ってました。五対一じゃ、朝日の不利じゃないですか。俺が全部締めてやりましたよ。あの連中、五人いれば俺に勝てると思ってたらしいんだけど、マジで馬鹿」
最近、朝日が問題行動を起こしているらしい。
昼休み、廊下でサッカーをしていて教室の窓ガラスを割った。先週も教室で野球をして窓ガラスを割った。
病院の仕事を終えて桐野栄之助が帰宅するのは通常夜九時ごろだ。
今日はめずらしく定時で終わり、渋滞も軽かったので六時に家に着く。
狭い駐車場に車を止めて、アパートの階段をのぼる。
ドアを開け「ただいま」と家に上ると「おかえりなさい」と少年の声が返ってきた。
「あー、はやかったねー」リビングのソファーで数学の勉強している朝日は、にっこり笑って言う。
去年の十一月まで、こんなふうに出迎えてくれる人はいなかった。
朝日も黙っていればかなりの美少年なのに、関西弁で「こん応用問題、いっこもわからへん。まじ、あかん」と叫ぶ。
「朝日、また関西弁になってる」
「あ、やべ。一人でいるとき京都モードで考えてるから、気ぬくとついつい」
そういえば初めての恋人は大阪の人だったなと、ふと桐野は思い出した。それから七、八人ぐらい男と付き合った。でも誰とも長続きせず、半年ももたず別れた。
「学校で目立つよ」
「せやなー。よう構わんねん」
「学校の先生から連絡が来たよ。窓ガラス割ったんだってね」
理由を聞いたら、雨が降ってるから廊下でサッカーして鶴見と遊んでいたそうだ。
***
梅雨のうっとうしい天気が月曜から続いていた。
勤務中に中学から電話がきて、朝日がまたやらかしたので学校に来るように言われた。後日で良いかと聞いたが、今日来て欲しいと厳しい口調で生徒指導の先生から言われた。
(中一のときは全然問題なかったのに。なんで中二になってからバカなことばかりやるんだ。)
仕事を早退し、学校に車で向かう。蒸し暑く息苦しいので運転しながらネクタイを緩めた。
職員室に行くと、担任の男の先生が桐野を出迎え、生徒指導室に案内してくれた。
引き戸を開けると、朝日と鶴見が椅子に座っていた。向かいの椅子にはいかつい中年教師が腕組して怖い顔で二人に説教していた。
桐野を見て、朝日は申し訳なさそうに目を伏せた。
指導の先生が簡単に何があったか説明する。
昼休み、教室で他の男子グループと殴り合いの喧嘩。素手ならまだしも机の上から飛び蹴り。朝日に蹴られた相模という男子は頭を椅子に打って流血。鶴見が朝日サイドなので当然二人の勝ち。
桐野は絶句した。
「だって、あいつら、とうかのこといじるからだよ」不満そうな口調で朝日がつぶやく。
「そんなことで喧嘩!? とうかちゃんが普通に振舞えば、男子にからかわれることもないんだよ」
「あいつら床にとうかのスマホ、投げ捨てて蹴ってさ。かわいそうだったし。僕の友達だし。でもさ、僕を先に殴ってきたの相模なんだよ」
「かわいそうって、とうかちゃんの言動が問題で、朝日とは関係ないじゃないか」
鶴見が笑って言った。
「今日の朝日かっこよかったっすよ」
こいつに影響されて朝日も悪いことしていると桐野は決めつけた。
「あのね。問題起こすときって、いつも鶴見君がそばにいるよね」
鶴見はしれっとした顔で続けた。
「廊下でラインやってて、俺が教室に戻ってきたときには、殴り合いの喧嘩が始ってました。五対一じゃ、朝日の不利じゃないですか。俺が全部締めてやりましたよ。あの連中、五人いれば俺に勝てると思ってたらしいんだけど、マジで馬鹿」
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