制服の少年

東城

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5章 女子中学生と男子中学生

ーーーーー 梅雨

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***

とうかと高橋を家まで送って自宅に戻ってくると台所の電気がついていた。
朝日が電話で誰かと話している。

「栄、おかえり。大介がうちに来るって。お母さんがおいしいもの作ってくれるから、うちで一緒に食べよって」
それじゃねと朝日は電話を切り、蒸し暑いからシャワーを浴びると言って、風呂場にのろのろ歩いていった。
カフェと違って、2DLKのアパートは静かすぎる。桐野は沈黙が嫌でテレビをつけると天気予報が流れた。
明日も雨、梅雨前線が停滞、湿度九十%、見ていてもつまらない。
スマホからラインの着信音があった。
『先生、さっきはどうもごちーっつ★アリガト♪ 朝日、生きてる?』
とうか、からだった。
『大丈夫そうだよ。学校での朝日の様子をラインで報告お願いします』
『りょ!』
次に高橋からメッセージが来た。
「約束の本お願いしますね(」
「明日、学校で朝日が大丈夫かメッセージで報告お願いします」
「わかりました。今度三人でグループチャットしましょ」

少女たちとラインでメッセージを取り合っている自分が滑稽に感じる。
僕の大切な朝日、大好きな朝日、僕だけの朝日、いつも一緒。
女子中学生にありがちな友達の独占。
高橋に言われたとおり女子中学生みたいなのかもしれないと桐野は自嘲する。

少女同士のあやふやな友情。
女子同士手をつないでどこにでも行くとか、秘密の交換日記とか、おそろいのヘアピンつけてみたり。
そういうことをしてると心まで繋がっている気がして。ただの一時的な親友ごっこで、子供じみたお遊びの延長。
人工甘味料みたいな甘ったるい感情と一緒にして欲しくない。

スマホをポッケにしまうと、カフェでの女子中学生たちの会話を思い出した。
── 朝日、ふつーの中学生じゃないじゃん。
── 普通って?
── 両親いてさ、普通の家庭でさ、普通に育って。
── それは朝日のせいじゃないよ。
── まあ、うちらも普通の家庭環境のJCじゃないし、人のこと言えたわけじゃないんだけど。

一年の三学期に編入した時分はまあまあクラスになじんでいた。
春休みの間、新しいクラスでうまくやっていけるかずっと悩んでいた。
二年生になって早々問題行動。
これからどうやって軌道修正するか、教育するか計画しなければと真剣に思う。

***

シャワーを浴びてスッキリした朝日がリビングに来た。
ぼーっとしている。昨夜の薬は子供にはきつすぎたらしい。
「高橋さんが言ってたよ。クラス会議でこないだのこと皆で話し合ったんだって。いじめとかないクラスにしようって先生がまとめてくれたんだって」
「そんなの嘘だよ」
「明日は保健室登校でいいからね。担任にメールしておくから。どうしてももうダメだったら転校ってこともできるし」
「うん」
「だからそんなに落ち込まないで」
「学校のことで落ち込んでるんじゃない」
「分かってるよ」
「自分の家庭環境とか、じいちゃんもばあちゃんも死んじゃったとか、自分のバカみたいな救いようのない性格とか。もう自分のこと嫌い」
「僕は朝日のこと好きだよ」
「うっ……」また泣きそうになる朝日。

***

約束どおり大介が自転車で店のおかもちを抱えてやってきた。
「おじゃましまーす」と家に上がる。
髪形も顔も普通の中学生。部活はバスケ部で背は朝日より高い。
「桐野先生のもあるよ」
大介は、おかもちからチャーハンとスープを出してテーブルに並べた。
「母ちゃん最強チャーハン。明日から朝日、学校だからお祝いだ。母ちゃんに頼んで作ってもらった」
一見ふつうの餡かけチャーハンだがエビや豚肉がたくさん入ってボリュームがある。スープはコーンと卵の中華風。
朝日はレンゲでチャーハンをすくって、一口食べると「おいしい」と笑った。
「いっぱい食べて元気になってね」大介は朝日を励ます。
「友だちっていいね」つい、桐野はそう二人に言っていた。
さっきまで落ち込んでいた朝日も少し元気が出てきた。朝からなにも食べていなかったから、すごくおいしそうに食べている。
食事しながらアニメの話や近所の水族館に行ってきたこと、たわいもない会話をしてる少年たちはさっきの女の子たちと大違いで健全だった。
とうかと高橋はクラスでも浮いた存在なんだろう。

大介は空の食器をおかもちにいれると「じゃあ、明日ね」とバイバイする。
「うん。お母さんにもありがとうって言っておいてね」朝日は階段の下まで大介を送っていった。

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