制服の少年

東城

文字の大きさ
21 / 34
11章 初恋

―ーーーー 初恋の相手

しおりを挟む
なかなか朝日が起きてこないので、桐野は様子を見に行く。
近頃は定期的にきちんと片付けをしているようで、以前ほど散らかってない。
カーテンをそっと開けると、朝日はだるそうに寝返りして言う。
「今日学校休む」
「どうして?」
「すごくだるい」
昨夜、朝日を愛しすぎて少し無理をさせてしまった。
もちろん最後まではしていない。
朝日のバージンを貰うのは、しばらく待とうと決めている。
背が一六〇センチになってからか、一五才を超えてから。

でも、少年のきれいな体に欲情して、昨夜は朝日を何回もいかせてしまった。
全裸の朝日を自分の膝にのせて、キスして、愛撫して、敏感なところを指で手で愛してあげた。
そもそも誘いに乗ったのは朝日。自分から裸になった朝日が、いけないんだ。

(裸になって欲しいって頼んだわけじゃないのに、朝日は自分から全部脱いだ。
僕は裸にならなかったし朝日のほうから誘ったんだよ。)
まだ何も知らない純粋な少年なのに甘い言葉でうまく言いくるめて、服を脱がしたり、色々なこと教えているのは自分。
「学校休んでもいいよ。僕から担任に連絡入れておくからね。塾も休んでいいよ」
「栄、ごめんね。僕、また具合悪い」
「どうしたの?」
「昔の夢みて、朝方、また過呼吸の発作でた」
「東京の学校で同級生に嫌がらせされた夢?」
「うん。汚いハザマに触ると伝染するって嫌なこと言われた」
「ひどい。そのころ、朝日は親にネグレクトされていて……」
朝日の過呼吸の発作がまた始まって、息が荒くなる。
「その子たち、本当の朝日のことを知らなかったんだよ」
前髪を額から払ってあげる。
「僕は知ってるよ。朝日は、とてもやさしくて、繊細で、素敵な子」
朝日がはっとした顔をして、目を見開く。
「朝日は、僕の天使さん」
「栄……」涙の潤んだ目で見つめる朝日。
桐野は無言で、また心が痛いの?と眼差しで聞いた。
「僕は心のお医者さんだから君の心を治せるよ」
「栄に優しいこと言われると胸が痛くなる」
「心の治療すると心が少し痛くなるんだよ」
「うん」
「時間は、かかるけど、僕が治してあげるからね」
目に溜まった涙を親指で拭ってあげる。
(たぶん、癒えるまで三年はかかると思うけど、きちんと治してあげるからね。)

「栄、聞いてもいい? 恋人ってなに?」
「朝日は、恋人って何だと思う?」
「好きな人? 付き合ってる人?」
「もっと特別な人のことを恋人って呼ぶの」
「特別な人?」

幸せにしてくれる人。
一緒にいると、とても嬉しくなる人。
とても大切な人。
愛している人。
愛してくれる人。
最愛の人。

桐野は、いままで様々な男性と付き合った。きちんと付き合ったのは七人。体だけの関係は十人は超えてはいないけど何人いたか正確には覚えていない。
皆二十代の男性ばかり。経験者で大人の付き合いができた。
朝日は、まだ中学生でバージン。
最近、反抗期で言葉遣いも悪いし、生意気なことを言う。
でも、まだ全然子供で、おかしの食具のオモチャで一人で戦争ごっこをしていたり、お風呂にアヒルを浮かべてチャプチャプ遊んでる。
十三にしては幼いと思える行動もちらほら。そんな子供らしいところも含めて、愛している。
初めての感情を朝日には抱いている。
── 慈愛。朝日を慈しみたい。

「栄、大好きだよ」
「愛してるって言って」
朝日は横を向いて恥ずかしそうにしている。そっと朝日の唇を親指で触る。
やわらかい子供の唇。
「昨日みたいに、僕にキスしてくれる?」
「早く仕事行かないと遅刻するよ」そっけない言葉が返ってきた

結局、はぐらかされてキスも愛してるも言ってくれなかった。
思春期だからしかたないか。
反抗したり、思っていることと反対のことを言ったり、難しい年齢だから。

***

残業して十一時過ぎに桐野は帰ってきた。
(残業なんて最悪。毎日、定時で上がって、朝日と過ごしたい。)

鍵を開けて家に入る。朝日はすでに寝てるみたいで、家の中は真っ暗だった。
さっさとお風呂に入って寝よう。
入浴後、ミネラルウォーターを飲みながらパジャマ姿で自分の部屋に戻る。
昨夜のこと思い出すと、どきどきして眠れない。
全裸の朝日が自分の膝にのってくれて、すごく激しいキスを交わして。
自分の首に腕を絡めて、キスを返してくれた朝日。
愛おしい。寝る前に顔を見たい。
(でも寝てるから悪いな。)

少し開いたドアから、朝日が「おかえり」って顔を覗かしてる。
「覗いていないで入ってきなよ。今日は疲れているから、しないよ」
パジャマ姿の朝日が裸足で部屋に入ってくる。
「ここに座って」
ベッドの横をぽんぽん叩くと朝日は、ちょこんと隣に座る。
「お仕事大変だね」
「遅くなってごめんね」ぎゅっと朝日を抱きしめる。
「どうしたの?」
「疲れた」
「やなことあったの?」
心のバランスを保つため、仕事の嫌なことは絶対に家に持ち込まないことにしていた。
仕事の話や不愉快な出来事は家で話さないルールを決めていた。
私生活が仕事で穢されるのは我慢できなかった。
「朝日、もう大丈夫?」
「もうだるくないよ」
朝日の首に昨夜つけたキスマークが花びらみたいに散ってる。
キスマークつけちゃいけないって分かっているけど、燃え上がっちゃうと止められないんだよ。明日、包帯でキスマーク隠してあげよう。そうしないと恥ずかしいよね。
昨夜は可哀そうなことをしたな。こんど愛してあげるときは、やさしくしてあげようと思う。

***

土曜に高校の同窓会があった。
同窓会と言えば華やかなイメージだが、男子校だったので男しかいない地味な集まりだった。
都内のホテルで昼から会食。キョロキョロ見回すが宮前治の姿は見当たらない。
同級生に宮前はと聞くと、二年前からマレーシアに海外赴任しているらしいとのことだった。
(日本にいないんだ。)
親友だったのに、宮前に彼女ができてから会うのが辛くて、自分から疎遠にしてしまった。もう八年近く会ってない。

宮前治、中高と六年間片思いだった人。告白なんて、とてもできず、ただの親友だった。
スポーツが得意で、爽やかで、誰とでも仲良くできて、まるで太陽の様に明るい子だった。
宮前のきりっとした少年らしい唇にキスしたいと何万回願ったことか。
「残念だな。ひさびさに顔見たかったのに」がっかりして、遠い目をする。

ガリ勉君だった銀行員の本田君に「ビール飲む?」とグラスを渡された。
車で来たからと断る。
友達と近況を話す。皆、銀行や商社、新聞社、マスコミなど一流企業で働いている。でも高校生のころみたいに、あのころあった出来事や、先生の話で盛り上がる。
「英語の沼田先生は本当にいい先生だった」
「英語の授業、すごく楽しかったよ。授業中に踊り出すし」
宮前も先生に合わせて、YO!YO!とラップ対決して、盛り上がってた英語の授業。

宮前に再会できたら、友達としてまた仲良くなれるかもしれないと桐野は思う。
彼女が出来たからって、嫉妬して連絡を絶ってしまった自分が情けなくなる。
本当に素敵な友達だった。そんなつまらないことで、何故、切ってしまったんだろう。

***

家に戻ると、リビングでぼーっとテレビを見ている朝日の横に座って、顔を見る。
「朝日、君の初恋の相手って誰?」
「はあ?」
当惑して、語尾を上げ気味で聞き直す朝日。
「帰ってきて早々、重すぎる質問して、ごめんね」
(お願い。僕だって言って)
桐野は朝日をじっと見る。緊張して手をぐっと握りしめる。
朝日はジーッと考え込んでいる。
「栄じゃね?」
上目遣いで眉間にしわ寄せて難しそうな顔して、ロマンチックのひとかけらもない。
可愛い顔で、花がほころぶように笑って、「栄だよ」って言ってくれたらいいのに。
じゃね、じゃねって何だよ。
桐野はソファーの上のリモコンを取り上げて、テレビの音量を下げる。

「朝日、僕に告白して。まだ君の告白を聞いてない」
「いまさら、なに?」
「告白してお願いだから」
「スキ」ぼそっと呟く朝日。
「好きじゃなくて、もっとはっきりと」
「付き合って」棒読み。
(わざとやってるな。何その気持ちの入ってない言い方。)
照れ隠しでわざと棒読みしていることに桐野は気が付いている。子供ぽくって可愛い。
「愛してるって言って」まじめな顔で桐野はお願いする。
朝日の頬が赤くなる。さっきまでの生意気な中学生顔がとても愛らしい顔に変化する。
桐野は朝日の顔を観察する。
まつ毛の長い二重の目が綺麗。子供らしい愛らしい口。前髪で隠れてる広いおでこも可愛い。本当にきれいな顔をしている。
朝日は、まつ毛をぱたぱたと瞬きして、急にそわそわする。
「言えないよ。恥ずかしくて」
「なにが恥ずかしいの?」
「だって、わざとらしーというか。なんかおおげさすぎる。それって大人が言う言葉で、僕にはまだ重すぎる」
「口真似だけでもいいから」と頼む。
まじって顔をしてる朝日。
もじもじして、口尖らせたり、唇を噛んだり。
思春期の男の子特有の恥じらいなのか、なにを躊躇しているのか。
しかたないなーと、朝日は小さい声だけど、ゆっくりとはっきりと発音する。
「あいしてる」

朝日の顔、真っ赤。
(はじめての告白は、緊張するよね)
初々しい中学生に告白されて、自分も高校生に戻った気分になる。

中学生と高校生同士なら背徳感も罪悪感もなく、ピュアな愛情だけで付き合えるのに。
「僕もだよ。朝日、愛してる」ぎゅっと肩を抱く。
「どおしたの?」
「なんでもない。ただ君の初恋の相手が僕でよかった」
「今日の栄、なんか変」
「僕以外の人なんて好きにならないでね」

初恋の相手は自分。ファーストキスも自分。
とても幸せな気分。なにもかも自分が初めて。
ずっとずっとこの幸せが続きますように。
朝日の成長を見守りながら、幸せを育めますように。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます

松本尚生
BL
「お早うございます!」 「何だ、その斬新な髪型は!」 翔太の席の向こうから鋭い声が飛んできた。係長の西川行人だ。 慌てん坊でうっかりミスの多い「俺」は、今日も時間ギリギリに職場に滑り込むと、寝グセが跳ねているのを鬼上司に厳しく叱責されてーー。新人営業をビシビシしごき倒す係長は、ひと足先に事務所を出ると、俺の部屋で飯を作って俺の帰りを待っている。鬼上司に甘々に溺愛される日々。「俺」は幸せになれるのか!? 俺―翔太と、鬼上司―ユキさんと、彼らを取り巻くクセの強い面々。斜陽企業の生き残りを賭けて駆け回る、「俺」たちの働きぶりにも注目してください。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖
BL
☆久田悠人(18)は大学1年生。そそかっしい自分の性格が前向きになれればと思い、ロックバンドのギタリストをしている。会社員の早瀬裕理(30)と恋人同士になり、同棲生活をスタートさせた。別居生活の長い両親が巻き起こす出来事に心が揺さぶられ、早瀬から優しく包み込まれる。 次第に悠人は早瀬が無理に自分のことを笑わせてくれているのではないかと気づき始める。子供の頃から『いい子』であろうとした早瀬に寄り添い、彼の心を開く。また、早瀬の幼馴染み兼元恋人でミュージシャンの佐久弥に会い、心が揺れる。そして、バンドコンテストに参加する。甘々な二人が永遠の誓いを立てるストーリー。眠れる森の星空少年~あの日のキミの続編です。 <作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→本作「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」

龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」 大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。 しかも、現役大学生である。 「え、あの子で大丈夫なんか……?」 幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。 ――誰もが気づかないうちに。 専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。 「命に代えても、お守りします」 そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。 そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める―― 「僕、舐められるの得意やねん」 敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。 その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。 それは忠誠か、それとも―― そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。 「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」 最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。 極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。 これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

欠けるほど、光る

七賀ごふん
BL
【俺が知らない四年間は、どれほど長かったんだろう。】 一途な年下×雨が怖い青年

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

処理中です...