制服の少年

東城

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12章 不思議なお兄さん

+++++信次さん

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学校に行く前、栄からプレゼントをもらった。紙袋を開けてみるとスマホが入っている。
「やっぱりケータイぐらい持ってた方がいいかと思って」
「わーわー!! ありがとう! ありがとう」学生鞄にスマホを入れる。
朝日は、うれしくてうれしくて、小躍りしたくなる。友達に見せてやろーっ!!

昼休みにスマホを見せびらかした。
「じゃーん! スマホデビュー!」
「ぎゃはーーーー!!ぎゃはははは」とうかは青いスマホを見るなり大爆笑した。教室に響き渡るとうかの笑い声に注目が集まった。
「なにがおかしいんだよ!!」朝日が怒る。
「だせーだせー。それキッズ携帯じゃん」
「キッズ携帯って?」
「小学生用のケータイ。それ、電話かけたり検索ぐらいしかできないよ」とうかは腹を抱えて、ヒーヒー言いながら笑ってる。

「キッズ携帯でも最近はすげーよ。GPS入ってるし」まこちゃんが見せてと手を伸ばす。
「GPSって?」
「追跡機能。どこにいるか分かる機能」最近色々物騒だから、キッズ携帯でも持っていたほうがいいよと色々説明してくれた。

「キッズ携帯、まじでウケる。小学生かよ! 迷子対策のGPS搭載」
とうかは、まだゲラゲラ笑っている。笑いすぎて目につけている眼帯がずれていた。

***

とうかに散々キッズケータイと笑われて、朝日は機嫌が悪い。
(なんだよ。普通のスマホ買ってくれればいいのに。)

塾の前に三沢軒に行くと信次さんがいた。ずるずるワンタン麺を食べてる。
朝日を見つけると、こっちにこいと手招きする。
相変わらず派手な恰好をして髪はいつもきれいに整髪剤で整えている。
(ピアスとかアクセサリーしてたら、もろホストじゃん。)
ちゃらちゃらした貴金属は付けていないけど高そうな金色の腕時計をしている。

信次さんと同じテーブルに座り、大介のお母さんにホイコーロー定食をお願いする。
ぶすっとした朝日に信次さんは「どうした?」と聞く。
朝日はカバンからキッズケータイを取り出し見せる。
「やっとスマホ買ってもらえたと思ったら、キッズケータイで友達にバカにされた」
「それ契約料安くてよくね?」
「お金の問題じゃないよ。うちは貧乏じゃないよ。ただ、子供扱いされているだけ」
「そのモデル、人の車に忍ばせたことあるよ。追跡機能あるやつだよ。けっこう使えるよ」
「僕はスマホ欲しいのにさ」
「スマホなんて中学生に危険なおもちゃを与えるようなもんだからガラゲーとかでいいと思うよ。キッズケータイでも電話かけられるし別にいいんじゃね?」
「ダサいダサいって、友達に言われた」
「言いたい奴には勝手に言わせとけば?」
食事が終わると、キッズケータイを貸してと言われた。
信次さんは受け取ると、下を向いて、ケータイをいじっている。うつむいたが顔、渋くてカッコいいと朝日は思う。
「俺の連絡先を登録しておいたから、困ったこととかあったら連絡入れてね」

返してもらって確認する。
【塾シンジ先生】と登録してある。
「塾の先生なの?」ホスト先生じゃん。笑いがこみあげてくる。

「コンサルとかそれっぽいこともやってる。塾の先生って登録しておけば、お兄さんにあれこれ突っ込まれなくていいだろ?」
塾の先生ということにしておけば、「新しい友達?」とか「今度、家に連れてきてよ」とか友達チェックを入れられることもない。
「そうだね」
「これ検索履歴とかも管理されてるから、変なことググったりするなよ」
「なんでこんなもの買ってきたんだろう」
「朝日のこと心配なんだろうよ。月々の固定料金も安いし。千円だったっけ?」
「だからお金のことじゃなくて!!」

毎週三日、塾の前に三沢軒で信次さんと夕食を食べるのが習慣になってしまった。
学校であったこと、昔住んでた京都のこと、一学期自宅謹慎になったこと、自分のことを話す。
信次さんは、うんうんっていつも興味深く聞いてくれる。
でも、栄のことはあまり話さなかった。保護司ということを言ってしまうと、色々詮索されそうで。
「朝日の兄ちゃんと三人で美味しいもの食べにいこーぜ」ってたまに言われる。

栄は信次さんよりも年上だし、朝日に似ていない。
栄が信次さんのこと知ったら、もう三沢軒で夕ご飯食べるの禁止されるだろうし、あれこれ詮索されるし、最悪の場合、説教されそうで怖い。

「塾ってどこ?車で送ってやろうか?」
「新百合。電車ですぐだからいい」
「電車のほうが速いよな」
「どうして、僕に親切にしてくれるの?」
「俺も親いないし。一人で飯食うのヤダから」
「本当にそれだけ?」
「実は俺、薄幸な子供の話にうるうるしてしまうとこがあって。ロリショタとかそういうのじゃなくて、ほら、小公女とかフランダースの犬とか俺、マジで好きなの」

そういう話に弱いの……って。たしかにああいう児童文学の名作のお話はいいけど、この人、大人だよね。
「ロリショタってなに?」朝日の質問に、「ん?」って信次さんは言葉に詰まる。
「朝日みたいなかわいい男の子を食おうとするオジサンのこと」
「食う? 僕を?」
「子供好きの変態オヤジのことだよ! 分かった?」
はーってそんなことも知らないのかよとため息つく信次さん。
「うん。気を付ける」
信次さんは大きい手で朝日の頭をポンポンする。
「親のいない兄弟、萌え度65度。朝日の兄ちゃんと三人で食事しよーぜ。おごるからさ。焼き肉なんかどう?」
「怒られそうだから、やめとく」
「よく知らない大人と食事なんてとんでもないって? 怒られるって? やけにしっかりした兄ちゃんなんだな」
「まあ……」
「けなげな兄弟に腹いっぱい焼き肉食わせてやりたいのにな。萌え度80度」
栄のこと高校生だと勝手に思ってる。高校生じゃないよ、信次さんより年上だよ。
「朝日の兄ちゃんも可愛い?」
「あんまり可愛くない。機嫌が悪いとすぐ怒るし」
顔良いけど可愛さはゼロ。背も信次さんよりちょっと高い。

「兄弟なのに似てないの?」信次さんは残念そうな顔してチェって言う。
「勝手に想像してれば!」
「もしかして、兄弟仲悪いとか?」
「じゃあ、そろそろ行かなきゃ。塾に遅れる」
信次さんは急にニコニコして、じゃあねーって手を振る。
「朝日、バイバーイ」
ただのチャラ男じゃないのこの人?と朝日は思いながら、塾の教材の入ったリュックをよいしょと背負う。
「明日も一緒にメシ食おうな!!」
「うん」

朝日は信次さんと夕ご飯を食べるのが楽しみになっていた。
聞き上手な信次さん、本当のお兄さんみたいに面倒見もいいし、本当にいい人だと最近分かった。
「兄ちゃんに焼き肉の件、聞いといてな!」
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