制服の少年

東城

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13章 小説

ーーーーー 高橋の小説とミヤジのツイアカ

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二日も朝日がいないんだと考えると、桐野は寂しかった。今日から、朝日は京都と奈良二泊三日の修学旅行。

朝日のキッズケータイがリビングのテーブルの上に置きっぱなしになってるのを見かけた。キッズケータイだって分かってから、持ち歩きたくないみたいで、いつもその辺に放置している。
せっかく買ってあげたのにと残念な気分になる。

とうかと高橋に頼んで朝日を映画部に入部させたが本人はやる気がなく、幽霊部員。
理由を聞いてみたら「つまんない」から。
とうかと高橋は修学旅行が終ってから、演劇部に協力してもらって映画撮影をすると息巻いていた。

『修学旅行中、朝日の様子をラインで教えてください』とうかと高橋にメッセージを送っておいた。でも一向に報告してこない。
痺れを切らせて、何回も『朝日、どうしてますか?』メッセージをとうかと高橋に送る。
『朝日は姪浜君と赤坂君の優等生班なのでなんの心配もいりません。( ^ω^ )ニコニコ』と高橋から返答があった。
とうかと高橋も修学旅行で浮かれて、いちいち人のことを気にしている暇は、ないのだろう。映画部のあの真面目な男子生徒と一緒の班なら朝日も大丈夫だろう。問題を起こしたり、キレたりしないだろう。
一度、駅前のファミレスで映画部のミーティングを開催してもらい、自分も偶然をよそおって、隣の席に座った。
姪浜と赤坂という真面目な男子は合格。友達チェック済みだ。

***

「ただいま」
家に帰ってきても誰も桐野を出迎えてくれない。
去年はそれが当たり前だった。
衝動的に朝日を引き取って、保護司になったのは去年の十一月。
普通の人ならそんな無謀なことはしないし、面倒なことに巻き込まれたくないと躊躇する。
市から手当てがもらえるが大した額ではない。
なんとなく自分でも気が付いていた。はじめっから下心があって引き取ったって。
無理にそう考えないようにしていた自分。

今年の夏から、朝日に触ったり、裸にしたり、犯罪だという自覚はある。
もしも誰かに通報されても大したことには、ならないだろう。罰金さえ払えばいいのだから。
不起訴にできる自信もあるし、弁護士に依頼すれば何事もなかったことにできる。

暇なので、久々にノートパソコンにログインして、こないだ会った同級生たちからのメールを読み返す。
銀行員の本田君から新しいメールが来ていた。
メールを開けると、マウスを持つ右手が止まった。
【桐野へ、先月の同窓会、楽しかったね。宮前だけど、ドイツに赴任中だって。ツイッター見てみたら? 宮前のアカウントは @osamu1303berlin。
また忘年会で近況報告しよう。 本田学より】

さっそく、ツイッターにアクセスしてみる。プロフ名は「ミヤジ」。宮前の「宮」と治(おさむ)の「じ」でミヤジ。本人の画像はない。
映画のツイート、マレーシアやベルリンの風景、サッカーネタが多い。サッカーと映画が大好きだった宮前は昔と変わってない。
速攻でダイレクトメール送るのも変だし、しばらくツイートを読ませてもらおう。もっとミヤジツイートを読みたいと、はやる気持ちを抑えて、ブラウザーを閉じる。
宮前の顔を思い浮かべる。まるで八月のまぶしい日差しのような笑顔が素敵だった。
日に焼けた顔がとても愛敬があって、笑うとキラキラしていて、誰にでも好かれる男子。見つめているだけで幸せで、声を聞いているだけでうっとりして、一緒に下校するだけでデートしている気分でうきうきした。
最後に会ったのは大学一年の夏。二十八才の今、どんな青年に成長したのだろう。まったく変わっていないといいのだけど。

***

金曜に朝日が修学旅行から帰ってきた。桐野は朝日を出迎えるために年休を取って家にいた。
朝日は、ちょっと疲れてるみたいだった。
「楽しかった?」と聞く。
「すっごく楽しかったよ」可愛らしく微笑んで、お土産に万華鏡をくれた。

昼間から朝日を抱く。二日も会えなかったから燃え上がってしまった。もちろん最後まではしていない。
ただ裸で抱き合って、お互い握りあって気持ちいいことしただけ。
気持ちいいことしてくれたお礼に、朝日のを口でもしてあげた。
終ってから、浴室で口をゆすいで、シャワーを浴びて戻ってくると、朝日はベッドで上向けに寝て、天井を見ていた。左手首を目の上にあてて、魂を抜かれたみたいにぼーっとしている。

桐野は万華鏡を手に取って、日光にかざして、くるくる回す。
万華鏡の中で、色とりどりの幾何学模様やマントラが広がる。
朝日の横に寄り添って「見てみる?」と聞く。
目にあてて、見せてあげた。
「きれいだね」ふって笑う朝日。
── かわいい。
朝日の体も悦びを教え込まれて、反応が毎回変わっていく。
夏は、あれほど嫌がっていたのに、秋には自分から服を全部脱いでくれるようになった。
桐野に体を委ねてくれる。
(一年かけてやっと恋人どうしになれたね。)
万華鏡よりも裸で愛し合えた方が嬉しくて桐野は多幸感に包まれた。
未成年と淫行、そんなのもう関係ない。朝日も自分も幸せなら、そんなことはどうでもいい。

***

ある日の昼休み、高橋からメッセージが届いた。
『修学旅行は無事終わりました。(≧▽≦)お土産買ってきたんで、今度会いましょうね(^_-)-☆』

土曜の午後に高橋と会う約束をした。
朝日は友だちと遊ぶ約束があるからと外出している。
桐野は高橋と駅前の安いコーヒーを提供するチェーン店カフェで会った。
窓際の静かな席に座る。
「これお土産です」
京都の定番のお土産八つ橋。
「ありがとう」明るい爽やかな笑顔で桐野はお礼を言う。
プリントアウトした文化祭の脚本もくれた。
「これ、文化祭の映画の」
ぱらぱら目を通してみる。
普通の学園ものの中学生日記的な話。

高橋は顔にかかった髪を人差し指で耳にかける。
前より大人びてきた。まだあどけない少女だが大人になったら美人になる顔立ちをしている。
「実は別に小説を書いたんです。読んでみます? まだ書いている途中ですけどね」
高橋は目を伏せて低い声でつぶやいた。
「小説も書いたの? すごいね」
「モデルがいるので、書くのに時間かかりませんでした。メールで送りますからメアド教えてください」
名刺の裏にメールアドレスを書き、高橋に渡す。
高橋は両手で名刺を受け取ると、立ち上がって、にこっと微笑む。
そして、コーヒーのお礼を言ってカフェを後にした。
朝日と同い年なのにとてもしっかりしている少女だ。両親にそう躾けられたのだろう。朝日から聞いた話では、高橋は両親を亡くして、祖母と住んでいるそうだ。

***

約束どおり、その日の夜にメールが届いていた。
【題名 「十四才の庭」。気が向いたときに一章ずつメールで送ります。原稿は添付ファイルに入ってます】
添付ファイルを開けると、やけに長い小説が入っていた。
題名は「稲城こよみ」
中学生の群像小説のようだった。
なにか違和感を感じて目次に目を通す。

一章「稲城こよみ」
二章「桜木真琴」
三章「鶴見流星」
四章「羽間朝日」
五章「高橋百合子」

桐野の知っている子供たちの本名が章につけられている。
一章を少し読んでみると稲城こよみは「とうか」のことだと分かった。
朝日に聞いてみた。
「とうかちゃんの本名ってなんていうの?」
「稲城こよみだよ。とうか、テストの名前にも、とうかって書いて先生に怒られてたよ」
「とうかちゃんのお母さんはどうしたのかな?」
「うーん、詳しいことは知らないけど、離婚したらしいよ」
とうかの本名は稲城こよみ……知らなかった。創作ではなくすべて事実が描かれている。これは面白いと読み進める。
心を病んだ母親のせいで家庭崩壊、母親に殺されかけたこと、小学五年の時、親が離婚したこと、不登校になり全寮制のフリースクールに通っていたこと。
一人称で、とうかの口調そのままつらつらと語られていた。
個人情報の暴露みたいで倫理的にはよろしくないけど、とにかく面白かった。

職場の昼休みに屋上で読んだ。
『小説、とてもおもしろかったです。第二章楽しみにしています』
『明日、第二章をメールで送ります( `・∀・´)ノヨロシク』
『楽しみにしてます』

高橋の小説が楽しみだった。

***

「桜木真琴」の章も読み終わった。次は鶴見流星の話が来る予定だ。

めずらしく、高橋がラインで通話をかけてきた。
「私、鶴見君のことよく知らないので調査して書き直してます」
「朝日は学校でうまくいってる?」
「最近、かなり落ち着いたみたいで、前みたいに廊下でサッカーしたりしてませんよ」
「お昼は?」
「相変わらず、鶴見君と一緒に食べているけど。そのほうが私はいいと思う」
「そうなの?」
「鶴見君といれば、いじられることないから。ほら鶴見君、ヤンキーで怖いし」
「鶴見君の章、飛ばして、朝日の章を読ませてよ」
「正直言うと、朝日の章、書くのやめようと思って」
「どうして?」
「私の今のレベルでは書けないから」
「高橋さんの小説おもしろいし、文章もうまいよ」
「文章のことじゃなくて、私自身の洞察力というか成熟度というか。朝日、私と違う世界にいるから」
「あの子、流されやすくて影響を受けやすいよね」
「朝日って感受性が強すぎて、ついていけないときある」
「たしかに、繊細だよね」
「取材がてらに聞いていいですか?」
「いいよ」
「普通の人なら、中学生の男の子を引き取って一緒になんか住まない。それもよく知らない子。どうして一緒に住んでるんですか?」
「保護司で、朝日の生活態度の指導や精神面のケアしているから」
「なんでそんな大変なことしてるんですか?」
「人助けだと思って」
「高校生になるまで面倒みるんですか?」
「高校になっても、そのつもりだけど」
「そうですか。私これから、ちょっと買い物があるから失礼します」
「そう。それじゃ」
「朝日、お稲荷さんに食べられちゃったの?」
聞き取れないほど小さな声でボソボソ高橋がつぶやいた。
「え? なに?」
言っている意味が分からない。朝日がお稲荷さんに食べられる?
「じゃ、またね。桐野先生」
ガチャ。
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