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14章 イベント
+++++ハロウィーン その1
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修学旅行の帰りの新幹線で、とうかは一人で語っている。
朝日と鶴見はスマホで動画を見て、とうかのおしゃべりを聞き流していた。
高橋は車窓を流れる田園風景を眺めながら、とうかの話につきあっていた。
「ハロウィーンどうする? 高橋」
「私はハロウィーンにはなにもしないよ」
「えー、つまんないの。朝日は?」
「僕も別になにもしない」
「渋谷行きて。でもさ、お父さんが一人で渋谷なんて行っちゃダメだって。桐野先生、渋谷に連れてってくれないかな? 朝日から頼んでよ」
「栄は人混み嫌いだから、どうかな。で、なんの仮装するの?」
「グールに決まってるでしょ。朝日は?」
「うーん。エースがいいかな」
「エース、上半身裸だし寒くないか? ハロウィーンってコスプレと違うんだよ」
「言われてみればそうかも」
ハロウィーンなんて大人が勝手にバカ騒ぎする日みたいで、朝日は興味なかった。
***
修学旅行が終わって数日後、栄に言われた。
「今週の日曜日、とうかちゃんと三人で渋谷のハロウィーンに行こう」
「え? でも、混むし。栄、チャラいの嫌いだったよね?」
「とうかちゃんがどうしても行きたいって言うから」
最近、とうかと栄は仲がいい。一緒にスーパーに買い物に行ったり、本屋に行ったり、二人がなぜそんなに気が合うのか不思議だった。
「僕は保護者として参加するだけだから仮装しないけど、朝日は何がいい?」
「なんでもいい」
「じゃあ、適当に僕が決めて、衣装を用意するからね」
***
ハロウィーン当日の夕方、駅のホームで、とうかと栄と朝日は東京方面上り電車を待っていた。
とうかは眼帯と黒のゴスロリ服でキメている。栄は普段着。
朝日は恥ずかしくて下を向いてる。
「朝日、似合ってるから顔上げなよ」とうかに慰められた。
「全然似合ってない。これおかしい。中二病丸出し」
革のロングコートの下はぴちぴちのボンテージっぽい黒いタンクトップで、下は半ズボンと膝まであるブーツ。テーマは黒天使。桐野栄之助プロデュース。
「こんなバカみたいな格好して小田急線に乗れるかよ!!」
「ヴィジュアル系入ってて、かっこいいと私は思うよ」とうかは、真面目に答える。
朝日の目の周りは黒のアイシャドウで狸みたいだった。ピンクの口紅が塗られ、髪はジェルでふんわりボリュームセット、ところどころ金色のラメが入っている。
「なんだよ、この鳩みたいな羽」
ランドセルみたいに背負ってる小ぶりの羽を朝日は脱ぐと、とうかに渡して、「とうかが背負って」と言う。
「べつにいいよ」とうかが受け取って背中に背負う。ゴスロリ衣装にマッチして愛らしかった。
「朝日はご機嫌斜めだね」
栄は朝日を二ヤッと見て、意味ありげにスマホをポケットから取り出す。
朝日は顔を上げて栄を睨む。
お昼を食べてからすぐに仮装させられて、その後、お家で撮影会。
スマホで画像を大量に撮られて、カムコーダーで変なポーズまで撮られて。
その後のことは、思い出したくもない。
ソファーに座った栄の前にひざまずいて、かしずいて、自分の口にアレを。アレって、大人の男性器。無理矢理お口でご奉仕させられた。
思い出して寒気がしてきた。味とか肉棒の食感……嘔吐しそうになって両手で口を押える。
(やだよ、ホームで吐きそうになるなんて)
初めてのフェラご奉仕体験がハロウィーンの日。最悪。
「朝日、具合悪いの?」とうかが顔を覗き込む。
「なんでもねーよ」
新宿行きの電車が来たので、乗り込む。
「こんな姿、同級生に見られたらどうするんだよ。中二病ってバカにされるよ」
「うちら中二なんだから別にいいじゃん」
車内はガラ空きで座席に座る。
とうかがやけに大人しい理由は、妙な空気を察しているらしい。栄と朝日を交互に見て、空気を読みまくっている。この二人喧嘩でもしたのかとチラチラ観察されている。
雰囲気が変 ── とうかが思っていることがダイレクトに朝日は分かって、気まずくなる。
多摩川を過ぎたところで、栄がスマホを見ながら、うふふふって笑ってる。最近、ツイッターばかり見て、ミヤジって人のアカウントに毎日何回もアクセスしている。
朝日もミヤジのツイアカを見せてもらったけど、映画の話と写真ばかりであんまりおもしろくなかった。
「あ」急に栄がまじめな顔になる。
「職場から緊急の呼び出し。僕の患者が失踪したって。今から病院に行かないと」
「ええええーー!!」とうかが残念そうに叫んだ。
「申し訳ないけど、今夜のハロウィーンは中止。子供だけで夜の渋谷はあぶないから、次の駅で降りて、下り電車に乗って、家に帰ってね」
「せっかく楽しみにしてたのに」とうかは泣きそうな顔になって言う。
栄は、とうかのことなんかなんとも思っていない。
朝日に仮装させて遊びたかっただけで、もともと渋谷の仮装パーティーには興味はない。
「中学生だけで渋谷なんてダメダメ。今日は解散。来年もハロウィーンはあるから、来年に行こうね」
仕方なく、成城学園前で降りて、とうかと朝日は逆方面の電車に乗る。
とうからしくない。さっきから黙り込んでいる。
「そんなにハロウィーンに行きたかったの?」
「だって去年からずーっと楽しみにしていて、服だってお年玉で買ったのに」
とうかは下を向いてがっかり落ち込んで、ゴスロリ服のリボンをいじってる。
そんなとうかが可哀そうになってくる。
「大人と一緒に行ければいいんだよね」
「大人の友達がいるの?」
朝日はポケットからケータイを取り出して、電話をかける。
「信次さん? 朝日です。今夜、あいてる?」
「ちょっと朝日、なに堂々と電話かけてるの?」とうかは慌てる。
「空いてる? 良かったらハロウィーン行きませんか?」
「誰に電話してるの? 電車の中でケータイで通話しちゃだめだよ」とうかが小さい声で注意を促す。
周りの乗客たちが携帯で会話をしてる朝日を見ている。
「あ、そうですか。じゃあ、駅前で会いましょう」
ぴっ!
「とうか、信次さんが渋谷に連れて行ってくれるって」
***
駅の改札を出て、駅前のロータリーの横で朝日ととうかは信次さんを待つ。
ダーク天使少年と白い天使の羽を背負ったゴスロリ眼帯少女は人目を引いていた。
「なに、あの子たち、かわいい」
「ハロウィーンの仮装?」
通りすぎる人が朝日ととうかをジロジロ見てコメントしていく。
振り返って見ていくオジさんもいた。
「もー、はやく信次さん来ないかな」
そわそわしながら朝日は足踏みする。六時に駅前で信次さんと待ち合わせをしていた。
駅の丸いかけ時計で確認すると、もう六時一五分だ。
「だれ、その信次さんって人?」
「僕の友達」
「信次さんって、なにしている人?」
「羽間と稲城じゃん」横から中学生の声がした。
いじわるな同級生男子三人組がコンビニの袋をぶらさげて、にやにやしている。
一学期、殴り合いの喧嘩をした連中だった。
背伸びしてかっこつけているけど、あか抜けない男子たちで、お母さんが買ってきてくれたような安っぽい私服だった。
「変な格好している奴らがいるかと思えば、アホ羽間とキモ稲城じゃん」
「ガチオタクじゃん。うわー、おまえら、マジでキテるな」
三人はスマホをかざして、朝日ととうかを撮影しだした。
「なに、勝手に撮ってんだよ!」とうかが怒鳴った。
「中二病カップルって拡散してやる」
「朝日に嫌がらせしたら鶴見が黙っていないよ。しめられるぞ」
「うるせーんだよ。オタクのくせに」
「明日、鶴見に言いつけてやる」
「いちいちうっせーんだよ」
相模がとうかの右肩をどんと押して、突き飛ばした。
朝日は、とうかをかばって支えようとするが、強く押されたので、二人ともアスファルトに転がり込んだ。
「痛たあ」
もう今日はついてない。
どこからか大声が飛んできた。
「いじめ、かっこ悪い!ダメ」
信次さんだ!!
「お前ら、西中の生徒だろ? 校長先生に連絡するぞ」
いじめっ子たちは大人に注意されたことで当惑している。
なにあの人? 先生? 通りすがりの人? と仲間内でこそこそ話している。
「俺ら、いじめなんてしてないよ」
「じゃあ、撮った画像消して、二人に謝って!」
「あんた何なんだよ??」
「塾の先生」信次さんはニッと笑って、横ピースをした。
朝日は噴き出しそうになる。
黒いスーツで赤いシャツ、どうみても普通の勤め人じゃない。水商売かチンピラみたいな服装して、塾講だって!!
「正義のヒーロー??」とうかがすくっと立ち上がる。
塾の先生でも先生だから、やばいと判断したのだろう。いじめっ子たちは、とうかに謝った。
「ごめんな、稲城。動画は消したから校長先生に言わないで」
朝日のことは大嫌いみたいで、誰も謝らなかった。
ちらちら振り返りながら、そそくさ去っていくいじめっ子集団にとうかは、プンプン怒りながら叫ぶ。
「鶴見に言いつけてやるからなー」
威勢の良いとうかに信次さんは感心して尋ねた。
「お嬢ちゃん、朝日の彼女?」
「ち、違いますよ! ただの友達ですよ」
とうかは、あわわわっと手を振って否定する。
「なんだ、友達か」
「助かりました。塾の先生」
とうかは、ぺこりと頭を下げる。
「明日、ホムペでメアド調べて、学校に苦情メールしとくから」
「気が利きますね」
「俺さ、いじめとか大っ嫌いだから」
「塾の先生、記念に写真撮ってもいいですか?」
信次さんは得意のイケメン・スマイルでキメた。
パシャリ!! とうかは勝手にスマホで信次さんの写真を撮ってる。
「イケメンフォルダーのコレクションがまた増えた!!」
朝日はのろのろ立ち上がり、ムーって不満顔をした。
「信次さん、おそい」
「ごめんな。ちょっと仕事の電話が長引いちゃってよ」
朝日の右手の手のひらが擦り剥けて血が滲んでいた。
「大丈夫、朝日?」信次さんは血を見て、困った顔をした。
「朝日、怪我してる。うちに来る?」とうかが心配そうに聞いた。
余計なことを言ってバカな男子を挑発してしまったせいで、また朝日に迷惑をかけて責任を感じているようだった。
「こんなの大したことないよ」
ちょっと皮がべろんってなってるけどって、朝日はちょんと擦りむいたとこを触る。
「俺んちに来なよ。ここからすぐだし。手を洗ったほうがいいよ」
「うん、そのほうがいい。じゃあ塾の先生、朝日のことお願いします。私は帰るから」
とうかは背中の天使の羽を朝日に返す。抜け落ちた白い羽が数枚、空を舞う。
「とうか、ハロウィーンパーティーは?」
「なんか、別にどうでもよくなっちゃった。来年まで待つよ」
「ごめんね」
「なんで、朝日が謝るの? じゃあね。お大事にね」
とうかは、とたとた歩いて家に帰ってしまった。がっかりするかと思ったけど、そうでもない。でも、いつもと全然態度が違う。
どうしちゃったんだろうと不思議に思った。
朝日と鶴見はスマホで動画を見て、とうかのおしゃべりを聞き流していた。
高橋は車窓を流れる田園風景を眺めながら、とうかの話につきあっていた。
「ハロウィーンどうする? 高橋」
「私はハロウィーンにはなにもしないよ」
「えー、つまんないの。朝日は?」
「僕も別になにもしない」
「渋谷行きて。でもさ、お父さんが一人で渋谷なんて行っちゃダメだって。桐野先生、渋谷に連れてってくれないかな? 朝日から頼んでよ」
「栄は人混み嫌いだから、どうかな。で、なんの仮装するの?」
「グールに決まってるでしょ。朝日は?」
「うーん。エースがいいかな」
「エース、上半身裸だし寒くないか? ハロウィーンってコスプレと違うんだよ」
「言われてみればそうかも」
ハロウィーンなんて大人が勝手にバカ騒ぎする日みたいで、朝日は興味なかった。
***
修学旅行が終わって数日後、栄に言われた。
「今週の日曜日、とうかちゃんと三人で渋谷のハロウィーンに行こう」
「え? でも、混むし。栄、チャラいの嫌いだったよね?」
「とうかちゃんがどうしても行きたいって言うから」
最近、とうかと栄は仲がいい。一緒にスーパーに買い物に行ったり、本屋に行ったり、二人がなぜそんなに気が合うのか不思議だった。
「僕は保護者として参加するだけだから仮装しないけど、朝日は何がいい?」
「なんでもいい」
「じゃあ、適当に僕が決めて、衣装を用意するからね」
***
ハロウィーン当日の夕方、駅のホームで、とうかと栄と朝日は東京方面上り電車を待っていた。
とうかは眼帯と黒のゴスロリ服でキメている。栄は普段着。
朝日は恥ずかしくて下を向いてる。
「朝日、似合ってるから顔上げなよ」とうかに慰められた。
「全然似合ってない。これおかしい。中二病丸出し」
革のロングコートの下はぴちぴちのボンテージっぽい黒いタンクトップで、下は半ズボンと膝まであるブーツ。テーマは黒天使。桐野栄之助プロデュース。
「こんなバカみたいな格好して小田急線に乗れるかよ!!」
「ヴィジュアル系入ってて、かっこいいと私は思うよ」とうかは、真面目に答える。
朝日の目の周りは黒のアイシャドウで狸みたいだった。ピンクの口紅が塗られ、髪はジェルでふんわりボリュームセット、ところどころ金色のラメが入っている。
「なんだよ、この鳩みたいな羽」
ランドセルみたいに背負ってる小ぶりの羽を朝日は脱ぐと、とうかに渡して、「とうかが背負って」と言う。
「べつにいいよ」とうかが受け取って背中に背負う。ゴスロリ衣装にマッチして愛らしかった。
「朝日はご機嫌斜めだね」
栄は朝日を二ヤッと見て、意味ありげにスマホをポケットから取り出す。
朝日は顔を上げて栄を睨む。
お昼を食べてからすぐに仮装させられて、その後、お家で撮影会。
スマホで画像を大量に撮られて、カムコーダーで変なポーズまで撮られて。
その後のことは、思い出したくもない。
ソファーに座った栄の前にひざまずいて、かしずいて、自分の口にアレを。アレって、大人の男性器。無理矢理お口でご奉仕させられた。
思い出して寒気がしてきた。味とか肉棒の食感……嘔吐しそうになって両手で口を押える。
(やだよ、ホームで吐きそうになるなんて)
初めてのフェラご奉仕体験がハロウィーンの日。最悪。
「朝日、具合悪いの?」とうかが顔を覗き込む。
「なんでもねーよ」
新宿行きの電車が来たので、乗り込む。
「こんな姿、同級生に見られたらどうするんだよ。中二病ってバカにされるよ」
「うちら中二なんだから別にいいじゃん」
車内はガラ空きで座席に座る。
とうかがやけに大人しい理由は、妙な空気を察しているらしい。栄と朝日を交互に見て、空気を読みまくっている。この二人喧嘩でもしたのかとチラチラ観察されている。
雰囲気が変 ── とうかが思っていることがダイレクトに朝日は分かって、気まずくなる。
多摩川を過ぎたところで、栄がスマホを見ながら、うふふふって笑ってる。最近、ツイッターばかり見て、ミヤジって人のアカウントに毎日何回もアクセスしている。
朝日もミヤジのツイアカを見せてもらったけど、映画の話と写真ばかりであんまりおもしろくなかった。
「あ」急に栄がまじめな顔になる。
「職場から緊急の呼び出し。僕の患者が失踪したって。今から病院に行かないと」
「ええええーー!!」とうかが残念そうに叫んだ。
「申し訳ないけど、今夜のハロウィーンは中止。子供だけで夜の渋谷はあぶないから、次の駅で降りて、下り電車に乗って、家に帰ってね」
「せっかく楽しみにしてたのに」とうかは泣きそうな顔になって言う。
栄は、とうかのことなんかなんとも思っていない。
朝日に仮装させて遊びたかっただけで、もともと渋谷の仮装パーティーには興味はない。
「中学生だけで渋谷なんてダメダメ。今日は解散。来年もハロウィーンはあるから、来年に行こうね」
仕方なく、成城学園前で降りて、とうかと朝日は逆方面の電車に乗る。
とうからしくない。さっきから黙り込んでいる。
「そんなにハロウィーンに行きたかったの?」
「だって去年からずーっと楽しみにしていて、服だってお年玉で買ったのに」
とうかは下を向いてがっかり落ち込んで、ゴスロリ服のリボンをいじってる。
そんなとうかが可哀そうになってくる。
「大人と一緒に行ければいいんだよね」
「大人の友達がいるの?」
朝日はポケットからケータイを取り出して、電話をかける。
「信次さん? 朝日です。今夜、あいてる?」
「ちょっと朝日、なに堂々と電話かけてるの?」とうかは慌てる。
「空いてる? 良かったらハロウィーン行きませんか?」
「誰に電話してるの? 電車の中でケータイで通話しちゃだめだよ」とうかが小さい声で注意を促す。
周りの乗客たちが携帯で会話をしてる朝日を見ている。
「あ、そうですか。じゃあ、駅前で会いましょう」
ぴっ!
「とうか、信次さんが渋谷に連れて行ってくれるって」
***
駅の改札を出て、駅前のロータリーの横で朝日ととうかは信次さんを待つ。
ダーク天使少年と白い天使の羽を背負ったゴスロリ眼帯少女は人目を引いていた。
「なに、あの子たち、かわいい」
「ハロウィーンの仮装?」
通りすぎる人が朝日ととうかをジロジロ見てコメントしていく。
振り返って見ていくオジさんもいた。
「もー、はやく信次さん来ないかな」
そわそわしながら朝日は足踏みする。六時に駅前で信次さんと待ち合わせをしていた。
駅の丸いかけ時計で確認すると、もう六時一五分だ。
「だれ、その信次さんって人?」
「僕の友達」
「信次さんって、なにしている人?」
「羽間と稲城じゃん」横から中学生の声がした。
いじわるな同級生男子三人組がコンビニの袋をぶらさげて、にやにやしている。
一学期、殴り合いの喧嘩をした連中だった。
背伸びしてかっこつけているけど、あか抜けない男子たちで、お母さんが買ってきてくれたような安っぽい私服だった。
「変な格好している奴らがいるかと思えば、アホ羽間とキモ稲城じゃん」
「ガチオタクじゃん。うわー、おまえら、マジでキテるな」
三人はスマホをかざして、朝日ととうかを撮影しだした。
「なに、勝手に撮ってんだよ!」とうかが怒鳴った。
「中二病カップルって拡散してやる」
「朝日に嫌がらせしたら鶴見が黙っていないよ。しめられるぞ」
「うるせーんだよ。オタクのくせに」
「明日、鶴見に言いつけてやる」
「いちいちうっせーんだよ」
相模がとうかの右肩をどんと押して、突き飛ばした。
朝日は、とうかをかばって支えようとするが、強く押されたので、二人ともアスファルトに転がり込んだ。
「痛たあ」
もう今日はついてない。
どこからか大声が飛んできた。
「いじめ、かっこ悪い!ダメ」
信次さんだ!!
「お前ら、西中の生徒だろ? 校長先生に連絡するぞ」
いじめっ子たちは大人に注意されたことで当惑している。
なにあの人? 先生? 通りすがりの人? と仲間内でこそこそ話している。
「俺ら、いじめなんてしてないよ」
「じゃあ、撮った画像消して、二人に謝って!」
「あんた何なんだよ??」
「塾の先生」信次さんはニッと笑って、横ピースをした。
朝日は噴き出しそうになる。
黒いスーツで赤いシャツ、どうみても普通の勤め人じゃない。水商売かチンピラみたいな服装して、塾講だって!!
「正義のヒーロー??」とうかがすくっと立ち上がる。
塾の先生でも先生だから、やばいと判断したのだろう。いじめっ子たちは、とうかに謝った。
「ごめんな、稲城。動画は消したから校長先生に言わないで」
朝日のことは大嫌いみたいで、誰も謝らなかった。
ちらちら振り返りながら、そそくさ去っていくいじめっ子集団にとうかは、プンプン怒りながら叫ぶ。
「鶴見に言いつけてやるからなー」
威勢の良いとうかに信次さんは感心して尋ねた。
「お嬢ちゃん、朝日の彼女?」
「ち、違いますよ! ただの友達ですよ」
とうかは、あわわわっと手を振って否定する。
「なんだ、友達か」
「助かりました。塾の先生」
とうかは、ぺこりと頭を下げる。
「明日、ホムペでメアド調べて、学校に苦情メールしとくから」
「気が利きますね」
「俺さ、いじめとか大っ嫌いだから」
「塾の先生、記念に写真撮ってもいいですか?」
信次さんは得意のイケメン・スマイルでキメた。
パシャリ!! とうかは勝手にスマホで信次さんの写真を撮ってる。
「イケメンフォルダーのコレクションがまた増えた!!」
朝日はのろのろ立ち上がり、ムーって不満顔をした。
「信次さん、おそい」
「ごめんな。ちょっと仕事の電話が長引いちゃってよ」
朝日の右手の手のひらが擦り剥けて血が滲んでいた。
「大丈夫、朝日?」信次さんは血を見て、困った顔をした。
「朝日、怪我してる。うちに来る?」とうかが心配そうに聞いた。
余計なことを言ってバカな男子を挑発してしまったせいで、また朝日に迷惑をかけて責任を感じているようだった。
「こんなの大したことないよ」
ちょっと皮がべろんってなってるけどって、朝日はちょんと擦りむいたとこを触る。
「俺んちに来なよ。ここからすぐだし。手を洗ったほうがいいよ」
「うん、そのほうがいい。じゃあ塾の先生、朝日のことお願いします。私は帰るから」
とうかは背中の天使の羽を朝日に返す。抜け落ちた白い羽が数枚、空を舞う。
「とうか、ハロウィーンパーティーは?」
「なんか、別にどうでもよくなっちゃった。来年まで待つよ」
「ごめんね」
「なんで、朝日が謝るの? じゃあね。お大事にね」
とうかは、とたとた歩いて家に帰ってしまった。がっかりするかと思ったけど、そうでもない。でも、いつもと全然態度が違う。
どうしちゃったんだろうと不思議に思った。
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