制服の少年

東城

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18章 12月24日

+++++クリスマス・イブ 前編

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裸で何も着ていない朝日は、目覚めると寒くて身震いした。
昨夜、いちゃいちゃして、そのまま栄のベッドで寝てしまったんだっけ。
今日はクリスマス・イブで二学期の終業式。
横に栄がいる。自分みたいに素っ裸じゃない、きちんと寝巻を着てる。
「栄、おはよう」背中に頬を寄せて言うと、気が付く。またスマホでミヤジと話してる。
「じゃあ、分かった。また後で」
ガチャ。
朝日はイライラしてきた。
「また、ミヤジって人と話してたの?」
「うん。ちょっとね、話聞いてた」
「そんなの後にすればいいじゃん。毎朝毎朝、話してさ。ミヤジって人も変だよ」
「心の病気で仕事休んでるんだよ」
「でさ、今日のクリスマスどうするの? 何時に帰ってくるの?」
「定時で終わる予定だけど、仕事帰り、宮前の実家に寄るから帰りは八時か九時ごろになると思う」
「クリスマス・イブなのに? また遅くなるの?」
「帰ってきてから一緒にクリスマスしよう。お腹空いたら、先に食べてても構わないよ」
なんだよ。また宮前、宮前って……でも病気ならしかたないか。友達だものね。
昨夜、キスしながら、何回も確認するように『朝日、愛してる』って栄は言ってくれた。
嘘じゃないと思う。

***

終業式の後、担任から一人ずつ呼ばれて、教壇の前で通知表をもらう。
朝日は自分の席で恐る恐る通知表を開いた。
英語と国語が五、あとは全部三、数学頑張ったのに三。美術だって気合入れて丁寧に絵を描いたのに三。塾に通ってるのに、毎日、勉強しているのに。
全部五と四なら栄も喜んでくれるのに……残念すぎる。気持ちがへこむ。落ち込んで通知票を鞄に入れた。
鶴見が前の席から振り返って通知表を堂々と開いて、俺の見ろよーって慰めてくれた。
「俺なんてオール三」
鶴見は勉強しないし、塾も通ってないのに、すごいよ。
それに引き換え自分は……。

終業式なので学校は午前中だけで終わり、家に帰るとサンドイッチをモソモソ食べる。
そう言えば、栄、また遅くなるんだよね。
スマホを取り出して信次さんにラインで連絡入れる。
「信次さん、遊びに行っていい?」
「いいよ!俺んち来いよ」
通知表をリビングのテーブルの上に置き、私服に着替えると信次さんのマンションに遊びに行くことにした。
チャイムを鳴らすと、五秒もしないうちにドアが開いて、すごく嬉しそうな信次さんが登場。
「メリークリスマス」肩をポンと叩いて、家に入れてくれた。
校長の話が長くて退屈だった終業式と成績のことを話した。
「英語と国語が5なんてすごいじゃん。朝日って頭いいんだなー」
褒められて、とっても嬉しくて、朝日は、へへへって照れ笑いする。
その後、一緒にコンビニにお菓子と飲み物を買いに出かけた。
レジの横に156円の子供用のクリスマス・シャンパンが置いてあった。
「これ、買っていい?」
「本当のシャンパンじゃないよ。アルコール1%未満ってジュースじゃん」
「飲んでみたいの」
おねだりして前から飲んでみたいと思っていた子供用シャンパンを買ってもらった。
信次さんとクリスマスらしいことをしたかったからだ。

マンションに戻って、普通のグラスのシャンパンを注いで貰った。
「本当はシャンパン用のグラスがあればいんだけど、うちにないから。ネットでたくさん注文するからよ、今度シャンパンタワーするか?」
「なにそれ?」
「グラスでタワーを作って、一番上からシャンパンを注ぐんだよ。俺がシャンパンコールして盛り上げてやるよ」
この人、ホストでも違和感ない顔と服装だから、ホストごっこもいいかも。
「朝日様から、指名入りましたー!! ドンペリ・ゴールド入りましたー!!ってか? ホストしたことないから、良く知らねーけど」
「楽しそうだね」
顔を見合わせて笑う。
「乾杯」グラスを軽くカチンとして、子供用シャンパンを飲む。
信次さんは「これドンペリより美味しい」とか冗談を言ってる。
「朝日と飲むから特別なんだ」って、おちゃらけてみたり、上機嫌だ。
お喋りして、子供用シャンパンを飲んで、ソファーでのんびりしていたら、眠くなってきた。
昨夜、夜更かしして寝不足だった朝日はうとうとして、寝入ってしまった。

夢の中で、去年のクリスマス・イブにファーストキスを栄にあげたシーンの再上映が始まる。
クリスマス・ツリーの赤と緑にチカチカ光るミニライト。
チカチカと、とくんとくんと胸の鼓動が重なる。
「僕に君のファーストキス、くれないか?」
栄はお医者さんで、とっても優しい人。好きって言ってくれて、大切に大切にしてくれる人。
汚い、消えろって皆から嫌われていた自分。
不釣り合いだよ。
「僕なんかで本当にいいの?」
「朝日とキスしたい」
こんな自分とキスしたいの?

(いいよ。こんな僕で良ければ。なにもあげるものないから、僕のファーストキスを貰って)

ふっと唇に何か当たった感じがして、夢から覚める。唇の感触にキスの記憶が呼び起こされる。
ファーストキスは、ただ触れるだけの短いキスだったけど、まだ鮮明に覚えいてる。はじめて特別な人扱いされて、心がふわーっとして気持ちよかった。
(キス? あ、栄だ。おかえりなさい。)
まだ夢の中に半分いて、うまく思考回路が回らない。
寝ぼけていた朝日は嬉しくなって目を閉じたまま、相手の首に腕を回す。
自分からもチューっとキスを返した。
いつもの大人のキスをされたので口を大きく開けて受け入れる。
やさしく舌を吸われたので自分も吸いかえす。
急に両肩を掴まれて、唇が離れた。
「朝日、なんてキスすんだよー」
栄の声じゃない。二分の一オクターブ高くて、語尾を流す言い方。
(でも、え、そういえば、ここ僕の家じゃないよね。って、ことは誰?)
目を開けると信次さんが頬を赤く染めて、息切らせながら、心配そうな顔をしてるのが見えた。
「ご、ごめん。間違えた」朝日は慌てて起き上がろうとするが、革のソファーで手が滑ってずるっと床に落ちそうになった。
注意しながら、のろのろと上半身だけ起こす。
「間違えたってなんだよ。誰と間違えたんだよ?」
信次さんの声が怖い。声のトーンがいつもより低くて、目も座っていて怖い。
両頬を手のひらで挟まれて軽く揉まれる。痛くはなかったが、不愉快だった。
「誰にキス教わったの? 随分、慣れてるじゃん。はじめてじゃないよな?」
「え、え? 鶴見っちに教えてもらった。ネットで読んだとかで」
「バレバレな嘘つくんじゃねーよ。中学生の鶴見弟がこんなキスするわけねーだろ。できるわけねーだろ。大人に教えてもらったんだろ?」
両頬を手で挟まれたまま顔を上下に揺すられる。てめえ、本当のこと言えよと脅されてるみたいで怖い。
「違うよ。違うよー」
「保護司にキスされてんだろ? もう、やられちゃったの? 男同士一緒に住んでるっておかしいだろ? 朝日みたいな可愛い子だったら稚児さんにうってつけだろう?」
たたみかける様に質問される。この人、怖い。
「は? 稚児さんってなに?」言っていることが分からない。
シャツのボタンを一個外された。
(え? 服を脱がされる??)
「もう、やられちゃったの?」
シャツのボタン、もう一つ外された。
このままいたら犯される。
ダメだよ。はじめては栄にあげるって約束したんだから。
クリスマスに大人にレイプされるなんて悲惨すぎる。
「うわーっ」朝日は信次さんを押しのけて、大声で叫んで立ち上がった。
朝日は逃げ出した。
玄関に置いてある靴を急いで履いて、ドアを思いっきり押し開ける。
エレベーターまで全速ダッシュだ!!と思ったその瞬間、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「逃げなくていいよ。ただのテストだから。変なこと、もうしないから」
信次さんの手が伸びて、ギイイッ、パタンとドアを閉めた。
そのまま片腕で抱きしめられたまま、ずるずると朝日は玄関に座り込んだ。
もう逃げられない。がっしり抱きしめられロックされて逃げられない。
「保護司とはキス止まりなんだよな? ヤられてないんだよな?」
「ヤられてないよ。まだ僕、バージンで、十三歳だよ」
信次さんも座って後ろからさらに朝日を愛おしそうにぎゅううと抱きしめる。
両手とお尻に当たった玄関のタイルが冷たい。
「キスだけでも、俺、悔しいよ。まだ年端もいかない子供なのにディープキスなんて教え込まれて。朝日の保護司、やばくない?」
「信次さんだってやばいよ。キスしたじゃん」
「俺も人のこと言えねーか。そうだよな。朝日の寝顔可愛いから、思わず軽くチュッってキスしたら、思いっきり舌入れてくるから焦ったよ」
「もー、寝てるからってキスするな」
信次さんはふっと笑って、朝日の髪を撫ぜた。いつもどおりの信次さんに戻っていた。
「可愛いから、つい。ごめんな」
「信次さん、ホモなの?」
「俺、ゲイじゃないよ。その、バイってやつ」
「バイ?」
「バイセクシャル。俺、男でも女でもいけるほう、両刀使い。朝日は?」
いつもの軽い口調で聞かれた。
「まだそういうのよく分からないよ」
「いつからか朝日のこと思うと胸がどきどきして、どうしてるかなっていつも考えていた。キスしたから怒ってる?」
「焦っただけだよ」
「ごめんな。さっきのは保護司に変なことされてないか朝日を試しただけだから」
「テストにしてはリアルすぎだよ」
信次さんは、朝日の乱れた髪を手櫛手整え、ボタンを留める。
「玄関寒いから、ソファーのほう行かない?」
手を優しく握られて、リビングに連れて行かれた。
(なんで、逃げないんだろう。あっちに行ったら、またキスされちゃうよ。)
ソファーに座ると頬にちゅうされた。
「このキスはテストじゃないからな」
次にやわらかい唇が朝日の閉じた唇にふれた。
「朝日、好き」
唇を離すと、告白された。
後頭部と腰に手を添えられて、ゆっくりとまるでお姫様を扱うみたいにやさしく丁寧にそのまま、ソファーに押し倒された。

「舌出して」ぎゅむっと下唇を親指で押されて頼まれた。
「ダメだよ。そんなの」
「いいから」
声が少し怖かったので、言われた通り、口を開けて舌を出す。
舌の先端をぺろっと舐められて、ヒッっと身をすくめる。
唇がふれないまま、舌を絡ませたり、猫みたいにぺろぺろ舐められる。
(このキス、栄ともしたことある。ベロチューってやつかな?)
貪るように口を合わされて、吸われて、温かい湿った舌が、くちゅっと自分の口に割り込んできた。上の口蓋や前歯裏の歯茎の部分を丁寧に舌で愛撫される。
まるで所有物だと言わんばかりの情熱的なキス。すごいキス。呼吸が止まってしまいそう。ジワジワ体が気持ち良くなってくる。
「俺、朝日大好き……萌えすぎて、胸が熱い」
ハアハアと息遣いが聞える。
朝日も知らないうちに喘いでいた。
ムズムズして勃ってきた。恥ずかしくて朝日は自分の股間を片手で隠す。
ああ、やばい……どうしよう……だめだよ……でも栄がいるからつきあえない、困るって言えないし。
「俺の特別な人になってくれる?」
「そういうの、栄に聞かないと。でもダメって言われると思う」
「栄、栄、ってその保護司と朝日ってどういう関係なの? 俺、朝日、大好き。栄って奴より朝日のこと大切にするから。な、俺と付き合ってくれよ」
「でも僕まだ中坊だし」
「俺、真面目に告白してるんだけど。もう止められないよ。朝日が逃げても追いかける」
「スマホ、返す」
ポケットからスマホを取り出して、差し出す。
この人、マジだ。スマホなんて持っていたら24時間好き好きメッセージ、ラブラブ・スタンプ、ノンストップだ。

手にスマホを握らされた。
「困ったらすぐ連絡しろ。保護司にセクハラされたり、意地悪されたり、怒鳴られたりしたら、児相に通報するから俺に連絡いれてな」
うっわー、この人もめんどくさい人だと一気に疲れる。
別に虐待されているわけでもないのに児童相談所に通報して欲しくないよ。
「もう帰るから」
立ち上がって背を向けると、真面目な声でまた告白された。
「もう逃がさない。好きだ。朝日」
後ろから、がばっと力強く抱きしめられ、腰に腕を回されて、ぎゅうぎゅうされる。
「ギ、ギブアップ。ベアーハッグ……プロレス技かけるのやめて」
信次さんは腕を解いて、はーってため息つく。
「もー、ロマンチックなシーン台無し。何、もー、帰っちゃうの? 送ってくよ」
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