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第41話
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私は「はい」と頷いて、大公様が指さした場所に腰を下ろす。
高貴な方の使用する最上級のベッドの感触。それは自分が今、大公様の寝室にて、大公様のベッドに座しているという現実感そのものであり、その逃げられない現実が、私の心を焼くようだった。
さっき決意した通りに、感情をゼロにしようと努力するが、これから起こることを思うと、どんなに気持ちを鎮めようとしても、どうしようもなかった。
当然だろう。感情をなくそうと思うだけで、本当に感情がなくなる人間がいるとしたら、それはもう人間ではない。我ながら、できもしない馬鹿な決意をしたものだと苦笑する。
「どうかね?」
大公様のその言葉で、私はまた困ってしまった。ただ『どうかね?』って言われても、こちらとしては返答のしようがない。だからといって聞き返すのも無礼な気がして、私は黙るしかなかった。すると、先程と同じく、大公様は少しだけ言葉をつけ足した。
「メイドの仕事はどうかね?」
なるほど。だんだんわかってきた。どうやら大公様は、言いたいことをまず最初に極限まで簡略化して述べ、それから言葉を付け加える話し方のクセのようなものがあるみたいだ。何故、こんな時にメイドの仕事について聞くのだろうと思ったが、私は素直に、思ったままを答える。
「とてもやりがいがあります。いろんなことを勉強させてもらえますし、毎日が充実しています」
「そうか、そうか。他のメイドたちとは、喧嘩にならんか?」
「あの、えっと、最初は少しそういうこともありましたが、今は大丈夫です」
最初の頃は、アマンダとよく言いあいになったが、最近ではアマンダの方が、私やローラのことなんてほとんど無視してるし、向こうが突っかかってさえ来なければ、こちらから喧嘩を吹っ掛けたりはしない。
「そうか、そうか。上司の上級メイドは、よくしてくれるかね?」
「はい。エリナさんもミシェルさんも立派な方で、尊敬できる先輩です」
「うんうん。エリナか。うん、エリナか。んんんん、エリナかあ」
大公様は、時々唸るような声を上げながら、何度もエリナさんの名を呟いた。その唸り声が重たかったので、一瞬怒っているのかと思ったけど、その表情は満足げなので、この唸り声もたぶん、大公様の話し方のクセのひとつなのだろう。
「エリナ、エリナ、エリナ。あの子も最初は色々と問題があったが、今では最も信頼を置くメイドだ。へらへら笑わず、寡黙なところもいい。ワシはおしゃべりなメイドは好かん」
「は、はぁ……」
それならば、どうしておしゃべりなブレアナやアマンダを大公家に連れてこようと思ったのか理解に苦しむが、まさかそんなことを言うわけにもいかず、私はあいまいな愛想笑いを浮かべるしかなかった。
高貴な方の使用する最上級のベッドの感触。それは自分が今、大公様の寝室にて、大公様のベッドに座しているという現実感そのものであり、その逃げられない現実が、私の心を焼くようだった。
さっき決意した通りに、感情をゼロにしようと努力するが、これから起こることを思うと、どんなに気持ちを鎮めようとしても、どうしようもなかった。
当然だろう。感情をなくそうと思うだけで、本当に感情がなくなる人間がいるとしたら、それはもう人間ではない。我ながら、できもしない馬鹿な決意をしたものだと苦笑する。
「どうかね?」
大公様のその言葉で、私はまた困ってしまった。ただ『どうかね?』って言われても、こちらとしては返答のしようがない。だからといって聞き返すのも無礼な気がして、私は黙るしかなかった。すると、先程と同じく、大公様は少しだけ言葉をつけ足した。
「メイドの仕事はどうかね?」
なるほど。だんだんわかってきた。どうやら大公様は、言いたいことをまず最初に極限まで簡略化して述べ、それから言葉を付け加える話し方のクセのようなものがあるみたいだ。何故、こんな時にメイドの仕事について聞くのだろうと思ったが、私は素直に、思ったままを答える。
「とてもやりがいがあります。いろんなことを勉強させてもらえますし、毎日が充実しています」
「そうか、そうか。他のメイドたちとは、喧嘩にならんか?」
「あの、えっと、最初は少しそういうこともありましたが、今は大丈夫です」
最初の頃は、アマンダとよく言いあいになったが、最近ではアマンダの方が、私やローラのことなんてほとんど無視してるし、向こうが突っかかってさえ来なければ、こちらから喧嘩を吹っ掛けたりはしない。
「そうか、そうか。上司の上級メイドは、よくしてくれるかね?」
「はい。エリナさんもミシェルさんも立派な方で、尊敬できる先輩です」
「うんうん。エリナか。うん、エリナか。んんんん、エリナかあ」
大公様は、時々唸るような声を上げながら、何度もエリナさんの名を呟いた。その唸り声が重たかったので、一瞬怒っているのかと思ったけど、その表情は満足げなので、この唸り声もたぶん、大公様の話し方のクセのひとつなのだろう。
「エリナ、エリナ、エリナ。あの子も最初は色々と問題があったが、今では最も信頼を置くメイドだ。へらへら笑わず、寡黙なところもいい。ワシはおしゃべりなメイドは好かん」
「は、はぁ……」
それならば、どうしておしゃべりなブレアナやアマンダを大公家に連れてこようと思ったのか理解に苦しむが、まさかそんなことを言うわけにもいかず、私はあいまいな愛想笑いを浮かべるしかなかった。
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