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第57話
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エリナさんも大公様の信頼に応え、よこしまな意思を持つ者が料理に毒を盛ることを防ぐため、すべての調理を一人でおこなっていた。……なので今回、料理に毒物を混入させることができたのは、エリナさんだけということになってしまう。
この事実に大公様も衝撃を受け、大公家の一室にエリナさんを監禁してしまった。即投獄しなかったのは、いまだに現状を受け止められないというか、エリナさんのことを信じたい気持ちがあるのだと思う。
だが、状況証拠は決定的であり、少しずつエリナさんのことを認め始めていた使用人たちも、手のひらを返して『あいつが犯人に違いない』と噂を始めた。彼らによると、エリナさんには犯行のチャンスだけではなく、動機も十分にあるのだという。
ご存じの通り、エリナさんも、私と同じく大公様の意思で集められた娘の一人だ。現在の大公様は認知症気味で、体力も低下しており、私は何もされずに済んだが、エリナさんがこのお屋敷に来たばかりの頃の大公様は、それは壮健で、なんと、毎晩のように寝室にエリナさんを呼び出したという。
田舎の村から強引に連れてこられた無垢な娘が、どんな気持ちでその呼び出しを受け続けたのか――その時の仕打ちを思えば、たとえ現在、大公様に信頼されて寵愛を受けていたとしても、消えることのない恨みを胸に抱いていてもおかしくないと、使用人の皆はまことしやかに言うのである。
……一般論としては、確かにあり得る話だと思う。しかし、経理室で二人っきりになったとき、エリナさんがしみじみ『いろんな噂もあって、大公様を軽蔑する人も多いけど、私は感謝してる』と言っていたことを思いだすと、エリナさんが大公様に毒を盛りたいほど恨んでいるとは、どうしても思えなかった。
何より、たとえ恨みがあったとしても、あの実直なエリナさんが、大公様の信頼を裏切って仇をなすとは考えにくいのだ。その気持ちを誰かに話したかったが、エリナさんを完全に罪人として決めつけている使用人たちには、とても話せる空気じゃない。
アマンダは私の話に耳を貸すとは思えないし、ローラは体調を崩して寝込んじゃってるし、結局、いつも通りというか、お弁当の配達のついでに、フレッド様に心情を吐露することにした。
「お前の言いたいことはわかるよ。俺だってエリナの実直さと誠実さは知ってる。普通なら、主に毒を盛るなんてあり得ないことだ。でもな……」
「でも? でも、なんですか?」
「今回に関しては、まったくないとも言い切れないんだよな。お前も噂は聞いているだろう? あいつがこの屋敷に来たばかりの頃、ほとんど毎晩のように寝室に呼ばれてたって」
――――――――――――――――――――――――――――――――
本日から新作『魔界プリンスとココロのヒミツ』で、第2回きずな児童書大賞にエントリーしてます! 大人でも楽しめる内容ですので、こちらも見てもらえると嬉しいです!
この事実に大公様も衝撃を受け、大公家の一室にエリナさんを監禁してしまった。即投獄しなかったのは、いまだに現状を受け止められないというか、エリナさんのことを信じたい気持ちがあるのだと思う。
だが、状況証拠は決定的であり、少しずつエリナさんのことを認め始めていた使用人たちも、手のひらを返して『あいつが犯人に違いない』と噂を始めた。彼らによると、エリナさんには犯行のチャンスだけではなく、動機も十分にあるのだという。
ご存じの通り、エリナさんも、私と同じく大公様の意思で集められた娘の一人だ。現在の大公様は認知症気味で、体力も低下しており、私は何もされずに済んだが、エリナさんがこのお屋敷に来たばかりの頃の大公様は、それは壮健で、なんと、毎晩のように寝室にエリナさんを呼び出したという。
田舎の村から強引に連れてこられた無垢な娘が、どんな気持ちでその呼び出しを受け続けたのか――その時の仕打ちを思えば、たとえ現在、大公様に信頼されて寵愛を受けていたとしても、消えることのない恨みを胸に抱いていてもおかしくないと、使用人の皆はまことしやかに言うのである。
……一般論としては、確かにあり得る話だと思う。しかし、経理室で二人っきりになったとき、エリナさんがしみじみ『いろんな噂もあって、大公様を軽蔑する人も多いけど、私は感謝してる』と言っていたことを思いだすと、エリナさんが大公様に毒を盛りたいほど恨んでいるとは、どうしても思えなかった。
何より、たとえ恨みがあったとしても、あの実直なエリナさんが、大公様の信頼を裏切って仇をなすとは考えにくいのだ。その気持ちを誰かに話したかったが、エリナさんを完全に罪人として決めつけている使用人たちには、とても話せる空気じゃない。
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「でも? でも、なんですか?」
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