義妹の身代わりに売られた私は大公家で幸せを掴む【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
98 / 105

第97話

しおりを挟む
 その時、これまでずっと俯いていたブレアナが顔を上げ始めた。

 まるで亀のように――いや、亀よりもさらにゆっくりとした動き。

 本当に、本当にゆっくりと顔を上げたブレアナが、光のない目で私を見る。

 私も、ブレアナを見る。

 二人の視線が交錯したとき、私の胸に浮かんだのは、怒りでも恨みでもなく、かすかな憐れみだった。……ブレアナは、グロリアよりもさらにやつれていた。フレッド様もブレアナの顔を見ていたが、言葉を発さなくても、フレッド様の表情で今何を考えているのか分かった。

『シンシアとブレアナ。言うほど似てないじゃないか』

 そう思っているのだろう。

 それほど、ブレアナの顔は痩せこけ、本来ならそっくりの私と人相が異なっていたのだ。どれほどのストレスを受ければ、若い娘の頬の肉がこんなに落ちてしまうのか。

 私は思わず、口を開いた。

「申し訳ありません、大公様。大変不躾ですが、彼女たちに質問する許可をいただけますでしょうか」

「わかった」

「ありがとうございます」

 改めてブレアナに向き直り、私は問う。

「ブレアナ、いったい何があったの?」

 ブレアナは自我のない人形のように、ぼおっと私を見たまま、何も答えなかった。

 代わりにグロリアが口を開く。

「ラルフが三ヶ月前に事業に大失敗したのよ! それで、私たちみんなこのザマよ! ブレアナなんて、学校でいじめられて、今じゃろくに食事もせずうちに引きこもってるわ! 全部ラルフの……この能無しのせいなのよ!」

「なんだと! お前だってあのクソみたいな会社に投資することを勧めたじゃないか! 商売のことなど何もわからん馬鹿女のくせに、口出しだけはしてきおって! それで失敗したら全部俺のせいか! ふざけるな!」

 ブレアナがやりたい放題を通せていたのは、うちが裕福で、取り巻きがたくさんいたからだ。お金が無くなり、取り巻きが消え去った結果、ブレアナに酷い目にあわされて恨みを抱いていた子たちが、今度は一斉にブレアナをいじめだしたのは想像に難くない。

 他人をいじめる人間ほど、自分がいじめられると弱いものだ。なるほど、これで、ブレアナの病的なやつれ方も納得がいった。

 それにしてもこの夫婦、度胸があるのか何も考えていないのか、よくも高貴なる大公様の御前で、これほど激しく言い争えるものだ。言葉の応酬はすぐに暴力へと発展し、グロリアがラルフの顔面に爪を食い込ませ、ラルフがグロリアの髪を引っ張るその有様は、場末の酒場の乱闘さながらであった。

 これにはフレッド様も嘆息し、呆れたように窘める。

「もうわかったから、怒鳴り合うのも暴力もよせ。まったく、本当はお前たちを叱ってやろうと思っていたのだがな。よほどの悪人でない限り、俺は領民が苦しむのは望まない。前大公――父上の名において、少し融資をしてやる。それで堅実な経営をし、会社を立て直せ。ただし、シンシアの許可が下りればの話だが」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた── 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は── ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

妹は謝らない

青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。 手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。 気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。 「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。 わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。 「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう? 小説家になろうにも投稿しています。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール
恋愛
両親に虐げられ 姉に虐げられ 妹に虐げられ そして婚約者にも虐げられ 公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。 虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。 それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。 けれど彼らは知らない、誰も知らない。 彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を── そして今日も、彼女はひっそりと。 ざまあするのです。 そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか? ===== シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。 細かいことはあまり気にせずお読み下さい。 多分ハッピーエンド。 多分主人公だけはハッピーエンド。 あとは……

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

ぱんだ
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

処理中です...