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第101話
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「どうかしましたか?」
「領民の幸福を預かる大公としては恥ずべき発言だが、そこまでしてやる必要があるのかとも思う。そのブレアナ。今の姿こそ哀れだが、お前にしたこと、言ったことを考えると、自業自得とも思ってしまうんだ。あの下卑た親の元に戻す気はないけど、治療費を払って入院までさせなくても、無償の施設に預ければいいんじゃないか?」
本当に恥ずかしいことを言っていると思っているのか、フレッド様の言葉は歯切れが悪く、伏し目がちだった。……私はかつて、ブレアナにされた仕打ちをフレッド様に話している。その時のフレッド様の憤慨ぶりは相当なもので、きっと、今でも私のために怒ってくれているのだろう。
その気持ちが嬉しく、愛おしかった。
だから、微笑しながら私は言う。
「以前に、お話ししましたよね。私がエリナさんの言っていた『何か嫌なことをされて、言われて、それで復讐するのが正しいのか、本当に意味のあることなのか』って問いを、自分自身の問いとして、心に語りかけ続けていると」
「ああ」
「苦しめられたら復讐して、傷つけられたら傷つけ返して、それで楽しいのか。それで本当に、幸せになれるのか。……今日、苦しんで傷ついたであろうブレアナの顔を見ましたが、少しも楽しくないし、幸せな気持ちにもなれませんでした。昔は、握り締めた自分の拳に爪が食い込み、血を流すほどに憎んだ相手だったのに」
「…………」
「私を見捨てた実父ラルフ。大好きだった母を侮辱し、私を『卑しい血』と蔑んだ継母グロリア。二人の困窮した姿を見て、少しは気が晴れるかと思ったら、そんなこともありませんでした。……それはきっと、私が今幸せだから。もしも自分がつらい状況にいたら、こんなふうには思えなかったでしょう」
「そうかもな」
「だから今こそ、やられたらやり返して、苦しめられたら苦しめ返すという『負の輪廻』を断つ絶好の機会だと思うんです。だから、傷ついたブレアナを助けたいんです。これは彼女のためであり、私のためでもあります」
フレッド様は『よくわからない』というように首をかしげる。
「なんだか、難しい話だな。やられたらやり返す悪い流れが『負の輪廻』で、それを断ち切りたいっていうのはわかるが、それがどうしてお前のためになるんだ?」
「またいずれ、お話ししますよ。……さあ、ブレアナ。立って。もう不安な思いをしなくてもいいのよ。これから、もっと安心できる場所に行きましょうね」
私は、ずっと体育座りの姿勢で白い壁を眺めているブレアナを立たせた。先程のラルフの台詞ではないが、ブレアナは驚くほど従順に私の言うことに従う。白いブラウスの裾から、青白い手首が見える。そこにはいくつもの真っすぐな傷痕があった。
「領民の幸福を預かる大公としては恥ずべき発言だが、そこまでしてやる必要があるのかとも思う。そのブレアナ。今の姿こそ哀れだが、お前にしたこと、言ったことを考えると、自業自得とも思ってしまうんだ。あの下卑た親の元に戻す気はないけど、治療費を払って入院までさせなくても、無償の施設に預ければいいんじゃないか?」
本当に恥ずかしいことを言っていると思っているのか、フレッド様の言葉は歯切れが悪く、伏し目がちだった。……私はかつて、ブレアナにされた仕打ちをフレッド様に話している。その時のフレッド様の憤慨ぶりは相当なもので、きっと、今でも私のために怒ってくれているのだろう。
その気持ちが嬉しく、愛おしかった。
だから、微笑しながら私は言う。
「以前に、お話ししましたよね。私がエリナさんの言っていた『何か嫌なことをされて、言われて、それで復讐するのが正しいのか、本当に意味のあることなのか』って問いを、自分自身の問いとして、心に語りかけ続けていると」
「ああ」
「苦しめられたら復讐して、傷つけられたら傷つけ返して、それで楽しいのか。それで本当に、幸せになれるのか。……今日、苦しんで傷ついたであろうブレアナの顔を見ましたが、少しも楽しくないし、幸せな気持ちにもなれませんでした。昔は、握り締めた自分の拳に爪が食い込み、血を流すほどに憎んだ相手だったのに」
「…………」
「私を見捨てた実父ラルフ。大好きだった母を侮辱し、私を『卑しい血』と蔑んだ継母グロリア。二人の困窮した姿を見て、少しは気が晴れるかと思ったら、そんなこともありませんでした。……それはきっと、私が今幸せだから。もしも自分がつらい状況にいたら、こんなふうには思えなかったでしょう」
「そうかもな」
「だから今こそ、やられたらやり返して、苦しめられたら苦しめ返すという『負の輪廻』を断つ絶好の機会だと思うんです。だから、傷ついたブレアナを助けたいんです。これは彼女のためであり、私のためでもあります」
フレッド様は『よくわからない』というように首をかしげる。
「なんだか、難しい話だな。やられたらやり返す悪い流れが『負の輪廻』で、それを断ち切りたいっていうのはわかるが、それがどうしてお前のためになるんだ?」
「またいずれ、お話ししますよ。……さあ、ブレアナ。立って。もう不安な思いをしなくてもいいのよ。これから、もっと安心できる場所に行きましょうね」
私は、ずっと体育座りの姿勢で白い壁を眺めているブレアナを立たせた。先程のラルフの台詞ではないが、ブレアナは驚くほど従順に私の言うことに従う。白いブラウスの裾から、青白い手首が見える。そこにはいくつもの真っすぐな傷痕があった。
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