何でも屋さん

みのる

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第3話 夜空を覆う虹色の缶詰

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『♪ジングルベ~ル、ジングルベ~ル♪』

街の一角でも、この時期はやはり人を呼び込もうと躍起になっている。

そんな中たまを愛でながら、ハンテンを羽織りこの店の店主はひと欠伸。聞き慣れた引き戸の音と共に来客。

『いらっしゃい。また来たのかい?』

店主はにや~とまた、嫌な笑い。こころなしか、青年の表情から焦りのようなものを感じる、例の青年が…口を開いた。

『この店は、何でも手に入るんだろ?だったら……』

店主はまた、嫌な笑いを浮かべた。


青年の顔には満面の笑顔。その左の手は、可愛らしい女の子の手としっかり繋がれていた。2人は浮かれながら店を出ていった。
店主がボヤく。

「この時期はやはりこういう商品を求める人が後を立たないねぇ。最も、”彼氏、彼女”と言うものはこんな安易な手に入れ方をすると、後で絶対に後悔するよ?」

そこにまたガラガラガラッ…と来客を示す音。

『いらっしゃい。ゆっくり見ていっとくれ』

来店したのは社会人っぽい1人の青年。ひとしきり店内をキョロキョロしてから…意を決して店主に話しかけた。

『……あのぅ…此処では何でも手に入ると伺って来たのですが…』

何処か不審げな青年を安心させるよう、店主は自慢げに答える。

『あぁ。何でも!手に入らない物は無いよ』

青年はそれでも心配そうに漸く用件を口にした。

『オーロラも…可能なのですか?』

店主はその、規模の大きさにやや驚きながらも答えを返した。

『あぁ、大丈夫だ。ちょっと値は張るがな』

青年は安堵に顔をほころばせ、それでも購入意欲は無くさない。

『幾らでも買います!!』

その言葉にこころを動かされた店主は、1つの缶詰を取り出し…ショーケースに置いた。

『コイツを夜になったら普通の缶切りで開けてやると見れるハズだ。たださすがにオーロラ程のモノは5分位しかもたないんだ』

店主が差し出す缶詰を、またまた不審そうに見つめる青年。それを見て店主が一言。

『信じれないのか?なら別に良いんだよ』

その缶詰をしまおうとする。


結果信用しきれぬままその缶詰に大金を支払う青年の姿があった。

家に帰って最愛の妻に迎えられる。

『おかえりなさい、あなた』

青年は妻にこう告げる。

『これから庭で…素晴らしい物を見せてあげる』

2人で庭に出て、懐中電灯で照らして購入した缶詰を缶切りで開ける青年。缶を開けている最中…空からチラつく白い結晶。

『あ…雪…』

妻が嬉しそうに呟いた。


青年が缶を開け切った時…にわかに大空に広がる、色とりどりの光の集合。妻がその見たこともない美しさに、ただひたすらに空を見つめ…感嘆の声を漏らす。
『なんて美しいのでしょう』

そこで青年は照れながら妻に囁いた。

『いつもオレの為に色々してくれてありがとう、メリークリスマス!!』

夫婦は、そのオーロラの素晴らしさ故に時が経つのも忘れてうっとりと”束の間の自然の織り成す絶景“を堪能していた。

そのクリスマスイヴの夜、街の至るところで同じ容姿の彼氏、彼女が見受けられた事は言うまでもない。

そして…某県で数分の間、突如として天空に現れたオーロラがニュースとなり世間を騒がせていた事を知らぬのは、オーロラ缶を購入した夫婦のみであった。
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