新☆何でも屋

まんじゅうを買いに来たばぁさん。※

日々の天気も微妙に変わりやすくなり、いよいよ「あの嫌な時期」を迎えようとしていた。

『んがぁァァァァあああ‼』
よほど暇なのであろう。店主中村のバカデカい欠伸が店内に響き渡った。
近場で昼寝をしていた仔猫達、その怪音に一斉に奥の部屋に逃げ込んだ。

そこにだ！
ガラガラガラっ‼何時もの音を立てて引き戸が開いた。
『約束通り、来てやったぞ～！』
それに対して店主中村も返事をする。
『遂に来やがったか⁉ババァめ。』

『前に言った通りに、まんじゅうを買いに来てやったぞ？』
なんとも偉そうなばぁさんである。
『分かってるよ！……コレだろ？』
そう言うと店主中村は店の奥からまんじゅうを出して来た。
…………おぼろまんじゅうを。
※おぼろまんじゅうとは、まぁ……一般的に紅白まんじゅうや葬式まんじゅうだと想像してください。

『なんだいコレは？ワシが欲しいのはもっとハイカラなまんじゅうだ！花の形をしたのとか……なんかあるだろう⁉』
そこで店主中村は不機嫌モードに入り、文句を言う。
『それじゃあ「和菓子」だろ？ばぁさんは今、まんじゅうと言ったろ？まんじゅうはコレだろ！』

無論ばぁさんも引き下がらない。
『だが、それはあんこで出来ているだろう？だから！まんじゅうだ‼』
無茶苦茶な理論である。
そこで店主中村、舌打ちして
(ああ言えばこう言う…口の達者なババァだなぁ…なんか……疲れたから…もうイィや……)

意外とアッサリ引き下がり、また店の奥から商品を取り出す。
『それで…幾つ要るんだ？ババァ。』
『とりあえずどんなのか見せてくれよ？』
ヤレヤレ…と思いながら店主中村は何種類かの和菓子を取り出してばぁさんに見せた。

『とりあえず、ウチにあるのはこんなところだな。こん中から好きなの選べよ！クソババァめ。』
季節感満載な紫陽花をかたどった和菓子、桃色や黄色の花を形づくった物、きんつばや桜餅……etc……とにかく多種多様な和菓子を並べる。

『おぉ！コレなのよコレ♡コレとコレと……』
店主中村が名前も知らない綺麗な和菓子ばかりを選択したばぁさん。満足気に店主中村に、
『コレだけ、貰おうか？約束通り！お代は勉強してくれよ？』
ばぁさん、二タニタ嫌な笑いを浮かべる。

『何処までもガメツイババァだ。…じゃあ、1つ300円で7つ買ったから……合計2100円だ！そこから大負けに負けて2000円でどぉだぁ‼』
そこでばぁさん、ポツリ一言。
『たったの100円かい？………ケチだねぇ‼もっと何とかならないのかい⁉アンタ男だろ？1500円にしとくれよ！』
店主中村、断腸の思いで叫ぶ。←ンなこたァ無いのだが。
『じゃあ……間をとって1750円でどぉだぁ～っっっ‼‼』

そこでばぁさんのトドメの言葉…炸裂。
『ワシャあ、1500円になるまでココを動かないよ。』
店主中村………遂にキレた。
『だぁ～～～っっっ‼‼‼もうそれでイィよ！持ってけドロボー‼‼』

自分の言い値通りにディスカウント出来たばぁさん、歯のところどころ抜け落ちた口をニンマリと開き…
『おぉ♪それでこそ男だねぇ！ありがとよ♪♪』
鼻歌をうたいながら店を出て行った。

静まり返った店の中で、店主中村ポソリ呟く。
「ババァの癖に綺麗な和菓子ばかりを買って行きやがって……最後までガメツイババァだな……ほんとにまったく」
精魂尽きた店主中村。そして早々と店を閉め始めるのであった。