新☆何でも屋

みのる

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和菓子ばあさんの過去

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何でも屋恒例の光景となってしまったが、店主中村が今日も暇そうにしながら椅子の背もたれにもたれ掛かっている。
『あぁ暇だぁ~、俺を満足させる様な何かおもしろい事でも無いものか!?
・・・しょうがない動画でも見てるか。』

店主中村がMyTubeでもみるかと思いポケットからビグホを取り出し操作し始める。何を見ようかと最新の動画を吟味しているとどこからか聞こえてくる歌声に耳を傾ける。

♪紫ーに浸かった~ こーの私~
笑ってーる人が~ まーだいるよ~
ほら5度めー聞こえてる~ あーの笑い~
開かれた 口から出て
聞ーこえつづけた~♪

おっ?この歌は・・・俺の好きなZ NIPPONの紫じゃないか!!
良い声だな、きっと可愛い子が歌ってるだな♡
あまりもの美声に歌ってる人物は可愛い女の子と決めつけニヤける店主中村。
歌声の方は何でも屋の方へと段々と近付いて来たが、後もう少しという所でサビが終わってしまい、歌ってた人もそのまま歌うのをやめてしまった。
歌が終わった数秒後に何でも屋入口の引き戸に人影が写り、そのまま引き戸かガラガラと開くものだから歌ってた人物が来たと思い、思わず身を乗り出して店に入って来た人物を見倒す店主中村。

『げっ!!何だよ和菓子のババァかよ!?』

『おや、客に向かってゲッとは随分なご挨拶だね?そんな調子で客にランク付けして口に出してたらいつか客を無くすぞ!!
まぁ、たいして流行ってない店なんか早くつぶれてくれた方が、ここの空き地も広くなって子供達の遊び場が出来ていいんだけどねぇ?』
店に来たのが和菓子婆さんだった為ガックリとした店主中村が、思わずもらしてしまった一言を数倍のイヤミで返されてしまう、流石は年の功である。

『そんな事よりも歌を歌ってた人と会わなかったかい?
かなりの美人だと俺は思うだが…どうだ合ってるだろ?』
歌を歌ってた人物を、どうしても知りたい店主中村が婆さんに尋ねると、急に婆さんが頬を染め両手を顔に当て身体をクネクネとさせ始めた。

『やだねぇ、そんなにワシは美人かえ?』

『ババァ、遂に耄碌もうろくしたか?誰がババァが美人だなんて言ったんだ!?』

『たった今歌ってた人は美人だったろう?って聞いたじゃないか、自分で言っといて忘れたのかい?やだねぇ♡』

『だから歌ってた人だって言ってるだろ・・・えっ?ま、まさかあの歌を歌ってたのってババァだったのか?』

『そう、ワシだよ?』

『えー!?ババァなら演歌じゃねぇのかよ?若者向けの歌なんか歌えるのか?』
歌っていたのが婆さんだったという事が判明し店主中村は驚愕する。

『こう見えてもワシは若い頃歌手だったのさ。
で、どんな歌でも歌えるからこの近辺では歌姫のよねちゃんって呼ばれたもんさ。』

『へ~、歌手やってたのか!?ただの和菓子好きのババァじゃ無かったんだな!?
う~んそうだな、疑うわけじゃ無いが試しに何か演歌を歌ってくれよ?』

『なんだい歌えってのかいしょうがない奴だな、じゃあ何にしようかね・・・』
とは言うもののいまいち信じ難い店主中村は何か歌えと婆さんにリクエストする、一方婆さんの方も面倒くさそうにしてはいるがどこか嬉しそうで歌うつもりらしい。

『よし吾朗にしようかね♪

♪吾朗は地をほる~
アイアイサー アイアイサー
へんじがもどるよ
アイアイサー アイアイサー♪

と、まあこんなもんだけど上手いもんだろ?』
出始めを少し歌い、満足げに歯が抜けた口をにんまりとさせ目を細める婆さん。

『あぁ、確かに上手いな・・・しかしその美声と顔のギャップが腹立つな。』

『そうそう、ワシは歌を歌いに来たんじゃ無くて店主に頼み事が有って来たんだったよ。』

『頼み事ってまた和菓子でも買いにきたのか?』

『今日は良い桐の箪笥タンスを1つね・・・、ついでに饅頭もらっとくよ。』

『桐箪笥と和菓子ね、ほらよ。』
本来の目的を思い出した婆さんが箪笥と饅頭を注文すると、すかさず箪笥といつもの綺麗な和菓子を取り出す店主中村。

『今日はそれじゃなくておぼろ饅頭にしとくよ。』

『どれだって同じだろ!?ほんとにまったく・・・ほらよおぼろ饅頭だ。』

『手間かけてすまないね。』

『別に構わないけど今日はどうした?やけに素直だな、それにいつもなら綺麗な和菓子ってうるさいのに何か悪いもんでも食ったか?』

『うるさいねぇ~、たまにはこう言うのも食べたくなるのさ!』

『わかったよ、会計だが値段は桐箪笥が良いやつだから・・・25万だな、それとおぼろ饅頭は2個セットで安いからサービスしといてやるよ。
で、箪笥はどうやって持って帰るんだ?』

『もちろんアンタが運ぶに決まってるじゃないか!?』
今日はいつもと違いおぼろ饅頭が食べたい気分らしい婆さん、しかしいつもと様子が違う婆さんを心配する店主中村。
が箪笥を家まで運べと言われ憤怒する店主中村、そんな中村の頭の中では某ドラマのテーマ曲が流れていた。
♪ちゃらりらりらりら~んらぁん
ちゃんらんららぁ~ん♪
ちゃりらんららぁん・らら
らんららぁんらんららぁん~♪
(某中華料理店が舞台なドラマの曲)

『げっ!!ふざんけんなよババァ!?
うちは宅配サービスはしてないし俺は店番で忙しいんだ、箪笥なんか運んでられるか!!』

『だったら何かい!?アンタはこんな重い箪笥を年寄りのワシに運べって言うのかい!?
どうせ客なんか来ないんだから運んどくれよ、家も近いんだからさ!』

『チッ、わかったよ運べば良いんだろ?運べば?
これから運ぶから引き戸を全開に開けてくれ!』

『おや、すまないねぇ。』

婆さんに入口の引き戸を全開に開けてもらい、婆さんの家まで箪笥を運んで行った店主中村がゼーゼーと肩で息しながら帰ってきた。
『つ、疲れた~、あの婆さんに関わるといつも疲れ果てるな・・・少し早いけど今日は閉店にしよ・・・』

しまった!!

本日閉店と決めた中村は、看板を店の中に収納し代わりに本日閉店の文字が書かれた木を引き戸に取りつけ、引き戸に鍵をかけ戸締りを終え一息つこうといつもの席へと歩を進めるが、肝心な事を思い出し思わず叫び声をあげる。

『箪笥を運ぶ事に気を取られて金貰うの忘れてたぜ・・・
戸締りしちまったしまた出ていくのも面倒臭いな、また次来た時と言ったらあのババァの事だからとぼけられる気もするし、仕方ない明日にでもババァの家に行くかな…
おや?なんだこれは・・・』

箪笥の代金を貰うのを忘れていた事に気付くが、また鍵を開けて行くのも面倒だし明日にでも婆さんの家に行くかと決め、いつもの席に座った店主中村がふと視線をレジの方に向けると、反対側からは見えない位置に茶封筒が置かれていた。
店主中村が茶封筒を手に取り中を調べると現金30万と折り畳まられた紙が出て来た。
30万入ってた事に驚き何だこの金は?と思いつつ紙を広げてみるとそこには達筆な字で
“手間をかけたね、お釣りは手間賃に取っときな   米”
とだけ書かれていた。

『あのババァいつの間に仕込んだんだ!?つうか店に来た客に盗られたらどうするつもりだったんだ!?』
粋な真似をしていた婆さんに呆れる店主中村であった。
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