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お客様が欲しいのはこれですか?いやむしろこれですよね?
しおりを挟むある日の昼下がり、店主中村がいつもの様に留守番をしていると1人の好々爺が店に入って来た。
『じゃまするよ!』
『よぉジィさん、何が欲しいんだ?
言ってくれたらなんでも出すよ?』
『あ~?あんだって?』
『ジィさん、聞こえるか?』
『ワシャァ~、じぃさんじゃない!!(激怒)
おじぃさんじゃ♡』
爺さんがショーケースを見ながらキョロキョロしていたから思わず店主中村が声をかけるが、耳が少し遠い様だったので店主中村が声のボリュームを上げて話しかける。今までニコニコしていた顔を怒った顔に豹変させ、じぃさんじゃないと怒鳴り付ける、がまた直ぐに元のニコニコ顔の好々爺に戻り「おじぃさんじゃ♡」と付け加えた。
怒鳴られた店主中村は一瞬身構えたが、すぐにガクッとなり思わずツッコミを入れてしまう。
『どっちでも一緒じゃねぇか!!』
『いや兄ちゃん、じぃさんとおじぃさんじゃ全然違うんじゃぞ?
おじぃさんにはおがついてるじゃろ?』
『お、おぅ、でそのおとはいったいどう言う意味なんだ?』
『おは敬語だぁねぇ。』
『そ、そうか…そいつは悪かったな…気に触るような事を言って…(け、敬語かぁ???)
で、ジィじゃなくおジィさん、何が欲しいんだ?』
『あぁ、そうじゃ!長芋は精力が付くんじゃ♪』
『んなこたぁ一言も言ってねぇよ、な・に・が・欲・し・ん・だ!?』
『確かにこれからの季節、流し素麺は格別に美味いのぅ☆』
『流し素麺じゃねぇよ!!
良いか!?良く聞けよ!?何が欲しいんだ?』
『ほぇ~、ワシが羊羹が好きだとよく知っとるのぅ?兄ちゃんワシのストーカーか?』
『誰が羊羹なんて言ったんだ!?聞いてりゃさっきから初めの一文字しか合ってねぇじゃねぇか、それに誰が好き好んでおジィさんのストーカーなんかするっかての、ほんとにまったく!!』
『そんなに誉められたら照れるのぅ♡』
『誉めてねぇよ!!』
「さて、このジィさんにいったいどんな言い方をしたら良いか・・・」
大声で何度言っても聞き取れない爺さんに、悩み果てる店主中村が思わず小さく呟いてしまう。
『だからさっき言ったじゃろ!!ワシはじぃさんじゃなくて、おじぃさんじゃ!!』
『わかったからそんなに怒るなよおじぃさん、俺が悪かったからさ・・・つうかどんな耳をしてるんだ!?散々大声で言ってる事が聞き取れないのに、何で小さな声で呟いた事が聞こえてるんだよ!?ほんとにまったく…(呆)』
『ん、何だ?おジィさん何してんだ!?』
『兄ちゃんがワシの耳がどんな形の耳をしているんだ!?って言うから良く見えるように見せてやってるんじゃ!』
『あぁ、そうかいそいつぁわざわざすまねぇな、でももうよく見たから引っ込めてくれていいぞ・・・
で、買いたい物は何だおじぃさん?』
『ワシャァ~、カイワレ大根は嫌いじゃ。』
『あぁ、そうかい…(参ったなジィさんの欲しい物がいっさい分からんしいったいどうしたら・・・)』
爺さんと上手くコミニュケーションが取れず困り果てて居た店主中村だが、もしやこれか?と思いある物を取り出した。店主中村的には欲しい物はこれかな?と言うよりも、むしろ欲しい物はこれだよな!!と自信があった筈だ。
『おじぃさん、欲しい物ってもしかしてこれか?』
『ッ!?何と失敬な!!ワシの耳はまだまだ達者じゃぞ!?
ワシがここに買いに来たのは補聴器じゃ無くて、入れ歯の安定剤じゃ!!ほんとうにまったく!』
『それを先に言えよ!!今までのやり取りはいったい何だったんだよ、ほんとにまったく‼
で、おじぃさん欲しい物はこれか?』
爺さんが何を買いに来たのかわかる頃には店主中村は精根疲れ果てていた。
『おぉ、それじゃそれじゃ♪
近頃歯茎が痩せて来たのか入れ歯の安定が悪くてのぅ、小さな食べ物も入れ歯と歯茎の隙間に入ってきて、痛くて困ったもんじゃ!』
『それなら入れ歯安定剤より、この入れ歯なんかどうだ?
この入れ歯を買ったジィ・・・じゃ無くておジィさんや、おバァさんに評判いいぞ?』
『ほぉ、それならその入れ歯を買うかのぅ♪』
支払いを済ませ入れ歯を受け取った爺さんは、引きつった顔をしながらの店主中村の視線を余所目に、店主中村の目の前で堂々とはめていた入れ歯を取り外し、今買ったばかりの入れ歯を代わりにはめ直すのだ。
『ほぉ、ワシの口にピッタリはまりおったわい♪』
などと言いながら爺さんは満足げに店を出ていった。店を出た所で知り合いと会ったのか何やらごにょごにょと話し、そのまま帰っていった。
一息ついた中村がふと視線を落とすと、ショーケースの上には爺さんがある物を忘れていた。店主中村は直ぐに爺さんを追いかけるでも無くを苦言を漏らす。
『ゲッ!!汚ぇな、外した入れ歯をここに捨てて行かずに持って帰れっての!!何で俺が人の入れ歯を処分しなきゃならないんだ!?ほんとにまったく……(御立腹)
ブツブツ言いながら薄いゴム手袋を取り出したかと思うと、ゴム手袋を手にはめ放置されいた入れ歯をゴミ箱に処分する。続いて除菌シートを取り出し入れ歯が置かれていた辺りを拭いていると、どこからとも無く歌声が聞こえてきた。
♪地に散るー草みたいに~ 川に流ーれて~
地に散るー草みたいに~ 影をー陰険にする~
こんなー様に~ 私らも~
はしゃいでると すごいだろ~
ある日は 明ーい生き様は
サカミチのぼれば~ 秋の山~
こんな風には 地の草の~
ひねくれた思い 知りません~♪
おや?この歌は「地に散る草みたいに」だな、それに歌ってるのは・・・あのババァか…
ヤダなぁ店に来ないでくれよ、俺ァさっきのジィさんの相手で疲れ果ててるんだ。
疲れ果てていた店主中村は、和菓子の婆さんの歌声が聞こえてきて店には来ないでくれと必死に願っている。が店主中村の願いも虚しく引き戸に人影が浮かび上がる。
(ゲッ!来やがった!!・・・よしカウンターの下に隠れてババァをやり過ごすか!)
ガラガラガラと引き戸が開き
『何でも屋居るかい?饅頭を買いに・・・おや?居ないのかえ?』
婆さんが入店後暫くしたら引き戸が閉まる音が聞こえてくる。店主中村は婆さんが帰ったかと安心するが念の為もう2~3分隠れてるかと思い隠れ続ける。
もうそろそろ大丈夫かと店主中村がカウンターから頭を出すと、そこには歯の抜けた口をニンマリとさせた婆さんが立っていた。
(ゲッ!!まだ居たがった・・・)
『よ、ようババァ来てたのか・・・さ、捜し物をしていて気付かなかったぜ…(滝汗)』
『おや、そうかい捜し物ねぇ?ワシゃあ知ってるんだよ?ワシの姿を見て慌てて隠れた事をねぇ・・・イヒヒヒヒヒ‼』
『そ、そんな事は無いぞ、たまたま、そうたまたまだ…(ド滝汗)』
『アンタは気付いて無いかも知れないけどねぇ、中から客が来た事がわかるように、外からも中の人影が見えるんだよ☆』
『・・・そいつぁ知らなかったぜ…』
婆さんが来たから大慌てで隠れた事を知られており驚いた顔をして固まる店主中村。頑張れ中村、あともう一息だ中村、あと少しで今日の仕事は終われるぞ‼
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