学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第4部 カント決戦編

第49話 誹謗!チンリンの檄文!

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「あれからカンウ・チョーヒから連絡はあったか?」

「いえ、返信も電話もありません」

「そうか…とにかく、なんとしても連絡を取ろう。

 とりあえず今は俺たちだけでもエンショウ軍と合流しよう」

 俺たちはソウソウ軍の追撃を振り切り、北校舎に逃れた。だが、戦いの最中、チョーヒとははぐれ、守備に残したカンウとも連絡がつかない状況となってしまった。

 共に逃れたくせっ毛の女生徒・ビジクがカンウ・チョーヒへの連絡を絶えず行ってくれている。おかげで俺は逃げ延びた兵たちへの指示に専念できた。

「リュービさん、ソウソウ軍から逃げて皆疲れています。ここで少し休憩をとりましょう。購買部のリュウアンが差し入れにカツサンドをくれました。これでも食べてください」

「ああ、すまない。ん…このカツ旨いな。豚か?何の肉だ?」

 ソウソウに敗れ、俺は多くの仲間と拠点を失ってしまった。

 だが、まだ全てを失ったわけではない。どこかに落ち着けば、カンウやチョーヒ、他にはぐれた仲間たちとも合流できるだろう。エンショウが俺たちを受け入れてくれればいいのだが…



 北校舎・会議室(エンショウ本拠地)

 やや赤みを含んだ薄い紫のウェーブのかかった長い髪に、大きな瞳に高い鼻、胸元に一際大きな金色のリボンをつけ、白いマントを羽織り、紺のニーソという出で立ちの女生徒、この勢力の主・エンショウはリュービ到着の報告を受けた。

「リュービがソウソウに倒されて訪ねてきたですって!

 こんな早くやられるなんて不甲斐ないわね」

 その横に侍る白髪に執事服の青年・デンポウがエンショウを苦言を呈する。

「だから申し上げたのです。やるからには全軍でウキン軍を攻撃するようにと。戦力を出し惜しむから撃退されるのです。

 あそこでウキン軍を破れば、リュービと共闘してソウソウ軍を挟み撃ちできましたのに」

「うるさいわね。ソウソウが罠を残している可能性だってあったわ。

 とにかくリュービを出迎えなさい」

 俺はエンショウのいる会議室へ通された。

「エンショウ様、我らを受け入れていただきありがとうございます」

 俺を出迎えたエンショウは、椅子に腰掛け、姿勢を正し、冷たく目下ろすような目であった。

「リュービ、よく来ました。

 文芸部陥落は残念でしたが、あなたのその戦歴を買います。我が陣営に加わり、この学園のために励みなさい」

「ありがとうございます」

 まるで家来のような扱いだ。睨み付けてはいないが、冷たい表情だ。これがエンショウか。

『リュービ!』

 その時、突然後ろから俺の名前を呼ばれた。このよく通る声は聞き覚えがある。

 俺が声の方向に振り返ると、長身のメイド姿の女性が飛び付くように抱きついてきた。

「リュービ!会いたかったよ!」

「コウソンサン…先輩…?無事だったんですか?」

 少し長めのボブカットに、太めの眉とタレ目気味の目、その服装こそメイド服だが、押し付けられた胸部の破壊力は間違いなくコウソンサン先輩だ。


「エンショウに捕らえられてからここで掃除係として働いてるのさ」

「そうだったんですか…」

 先輩はエンショウに敗れ、行方不明になっていたが、やはりエンショウの下にいたのか。囚われの身ではあるが、無事で良かった。

「エンショウ様、コウソンサンを自由にしてはいただけないでしょうか?」

「自由?彼女は馬術部の部員の命運と引き換えに進んでここの掃除をやってるのよ。嫌なら逃げても構わないわ」

 ダメ元でエンショウに頼んでみたが、やはり無理か…

「でもそうね…

 リュービ、あなたが手柄を上げたら、その褒美にコウソンサンをあげてもいいわ」

「わかりました。必ず手柄を立てます。

 コウソンサン先輩、待っていてください。すぐに解放してあげます」

「リュービ~!さすが私のリュービだ~!」

「せ、先輩、苦しい…」

「良い返事ね。我がエンショウ軍は結果が全て。結果さえ出せば大抵のワガママは許してあげるわ」

 エンショウはその場に立ち上がり、白いマントを翻すと、整列するエンショウ陣営の幹部の面々に向けて言葉を発した。

「さて、今、同盟者リュービが倒され、ウキンが北校舎の治安を脅かしています。

 今こそ全軍を挙げてソウソウを討ちましょう!」

 しかし、エンショウに対し、デンポウは水を差す。

「お待ちください。今、ソウソウは後顧こうこうれいを断ち、こちらに大部隊を投入しております。

 戦上手のソウソウとは正面からぶつかるのは避け、後方のリュウヒョウと連携をとり、奇襲部隊でソウソウ軍の戦力を少しずつ割いていく方が確実です」

「デンポウ、あなたは先ほど、全力でウキンを攻撃しろと言ったじゃない!」

「機というものがあります。それを逃せば、当然作戦も変わります!」

 エンショウの表情がみるみる険しくなっていく。

 デンポウは常に確実性の高い策を提案していた。まだエンショウの勢力が小さかった頃は、その少ない兵力でやりくりする上で彼の策は重宝されたが、今やエンショウは大勢力を擁し、余裕があった。加えて本来、派手好きなエンショウにとって、その策は地味でつまらない策に写っていた。

「デンポウ、あなた、私に逆らって何様のつもり…?」

「私は旦那様よりエンショウお嬢様の事を託された身。そのために最善を尽くしているだけです!」

「デンポウ…お父様の名を出したら私が従うと思っているの!」

 エンショウはこの学園で父の名を聞きたくはなかった。双子の妹・エンジュツは父の名を使い、家の財力を注ぎ勢力を拡大していった。

 だが、自分は違う。自分は家も父も頼らずに、実力でここまで勢力を拡大してきた。彼女はそう信じていた。そのエンショウの勢力にあって唯一、父からつけられた人物、それがデンポウであった。

 父への義理で側に置いておいたが、次第にエンショウはデンポウをうとましく思うようになっていた。

 エンショウはデンポウを指差し、怒鳴り付けた。

「私をいつまでも子供扱いするのはやめなさい!あなたの参謀の任を解きます。教室で留守番していなさい!」

 しかし、デンポウはそれでもなお食い下がる。

「お嬢様、一度で勝利を得ようなどと欲張った事を考えるのはお止めください!」

「まだ言うつもり!ホウキ、この者は反逆者です。反省室に連れていきなさい!」

「は、はい、わかりました」

 メガネにポニーテールの女生徒・ホウキはやむなく、部下に命じてデンポウを取り押さえさせた。

「お嬢様!」

「すみません、デンポウさん。これもエンショウ様のご命令です」

 デンポウはそのまま何処かへと連れていかれた。

「よろしいですね、皆さん。私が欲しいのは結果であって意見ではありません。それは序列第一位のデンポウであっても例外ではありません。わかりましたね」

 エンショウの言葉を周囲は静かに受け止める。

「では、これより学園の平和のため、ソウソウを討ちます。

 チンリン、各勢力が私に味方するよう、ソウソウの罪状を連ねた檄文を書きなさい」

「わかりました」

 エンショウに呼ばれ、進み出たのは小柄で、髪をかんざしでまとめた女生徒・チンリン。

「私が求めるのは結果です。あなたの持てる力を尽くし、ソウソウをおとしめなさい」

「お任せください!」

 チンリンは一本のペンを取り出すと、そのペンに力を込めるかのように、叩きつけるように紙に文字を書き出していった。

「このチンリンの戦いの舞台は、戦場に非ず、会議室に非ず、ただ紙の上のみ。それが私でございます」

 『父は成金 その子はソウソウ

 狡猾災厄こうかつさいやく 天下の奸雄かんゆう

 エンショウ勇士を引き連れて

 逆臣トータク蹴散らせば

 爪牙そうがソウソウついてくる

 軽率ソウソウ度々危機におちいれば

 恩人エンショウ度々救う

 悪知恵ソウソウいつしか心は自惚うぬぼれて

 生徒会を取り込めば

 独裁厳罰 悪行苛烈あくぎょうかれつ

 学園の平和乱す時

 生徒の心荒む時

 我等は求める救世主

 その名はエンショウ!

 雷鳴轟き 猛虎が歩む

 業火ごうかが燃えて 大海狂う

 滅せぬ敵などあるものか

 さあ共に立ち上がろう!

 学園の平和 生徒の安寧

 全てはエンショウと共に!』



 中央校舎・臨時生徒会室~

 おさげ髪に、地味目な眼鏡をかけた、おっとりとした雰囲気の女生徒・ジュンユウの目にチンリンの檄文が入った。


「イク姉さん、なんですかこれは?学生のアジビラか戦隊ヒーローの主題歌かなんかですか?」

「なんなんでしょうね、ホントに…」

 呆れ顔でジュンユウに返すのは、ショートカットに、小さな丸メガネをかけた小柄な女生徒・ジュンイクであった。

 ジュンイクとジュンユウは同い年であったが、血縁上はジュンイクが叔母、ジュンユウが姪となる。

「そしてそこで笑い転げているのは一体…?」

「はっはっは!サイコー!

 狡猾災厄  天下の奸雄!

  はっはっは!」

 椅子にだらしなくもたれながら、腹を抱えて笑っているのは、赤黒い髪と瞳、胸元を大きく開けた彼女たちの主・ソウソウであった。

「どうもソウソウ様の笑いのツボに入ったようです」

「うーん、わからない…」

「はっはっは、最高に面白いじゃないか。おかげで頭痛が治ったよ」

「ユウ、本気で相手しなくていいですよ」

 チンリンの怪文書…もとい檄文は校内中にばらまかれ、一部の生徒に熱烈に支持され、いつしか曲をつけて歌われ出した。

 この檄文により、多くの生徒がエンショウ支持を表明した…かどうかは定かではない。
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