学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第5部 赤壁大戦編

第79話 動転!リュウヒョウ陣営!

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「カイエツ!」

「サイボウさん!」

 南校舎の一角で、男女二人の絶叫が木霊こだまする。

「大変なことが起こったぞ!」
「大変なことが起こりました!」

 長身スーツ姿に、黒髪をきっちり整髪料で固めた男子生徒・サイボウと、同じく長身スーツ姿の、肩ぐらいまでの長さの黒髪の女生徒・カイエツがほぼ同時に叫んで、互いの元に駆け寄った。

「なんだと!」

「まさか、サイボウさんの方でも何かあったのですか?」

 サイボウもカイエツも弁論部副部長であり、リュウヒョウ陣営の副官を務める重鎮じゅうちんだ。

 その二人が同時に大事件に直面した。

「これ以上、事態がややこしくなるというのか!

 カイエツ、何があった?」

 長身スーツの男子生徒・サイボウは頭を抱えながら、同じく長身スーツの女生徒・カイエツの話を聞いた。

「はい、リュウヒョウ部長が倒れました」

「何!まさか刺客か!」

「違いますよ!

 病気です。

 しかも、入院することになりまして、1ヶ月は学校を休まれるそうです」

 リュウヒョウは弁論部部長であり、この南校舎の盟主でもある。

 南校舎はその主を突然失うこととなった。

 それも最悪のタイミングで…

「よりにもよってこんな時にか…」

「リュウヒョウ部長より伝言です。

 リュウキ君、リュウソウ君の二人を部長代理とし、リュービを副部長に昇格させなさい。

 もし、ソウソウが攻めてきたらリュービが、チュー坊が攻めてきたらサイボウが指揮をり撃退しなさい。

 …とのことです」

 リュウキ、リュウソウはともにリュウヒョウの双子の弟である。

 彼ら二人を部長代理とし、客将のリュービを副部長に昇格させ、ソウソウに対処させる。

 しかし、リュービの昇格は、サイボウらと同格になるということでもある。

「リュービを副部長にして指揮権を与えるだと…

 私よりリュービに…

 リュウキ・リュウソウの二人は今どこにいる?」

「リュウソウ君なら今は教室にいます。

 リュウキ君は、今リュウヒョウ部長に付き添って病院にいるそうなので、この後、遅れて学校に来るようです」

「そうか…うーむ…

 私の話はリュウソウをまじえて話そう。

 呼んできてくれ」

 リュウヒョウの弟・リュウソウを交え、サイボウ・カイエツの二人は図書室に集まった。

 まず、リュウソウが口を開いた。

「サイボウ先輩、姉さんが入院してしまった以上、俺たちは大きな動きはできない。

 おとなしくして守りを固めことにしよう」

「それがそうもいかなくなった。

 ソウソウがこの南校舎に攻めてくる」

 サイボウの口より告げられた大事件、それはソウソウの南校舎征伐であった。

「それは本当なのか!?」

「先程、宣戦布告が届けられた。

 ソウソウのほぼ全軍がこちらに向かっているそうだ」

 その報告にはカイエツも慌て出し、いつものおだやかな表情を崩し、あせりの表情へと変化していた。

「それならここで悠長ゆうちょうに話している時間はありません。

 早く部長の伝言に従い、リュービさんをまじえて作戦会議を開きましょう!」

 カイエツから上げられたリュービの名に、サイボウを怒りを表しながら反論する。

「お前はリュービがソウソウに勝てると本気で思っているのか!

 北の大勢力・エンショウを破り、更に兵力がしたあのソウソウに!」

「だからこそ、その対応をリュービさんと相談するんじゃないですか!」

「リュービは客将に過ぎん!

 したう者も多いが嫌う者も多い。

 奴に指揮を任せれば、我が軍は真っ二つに別れるぞ!」

「サイボウさん、それはあなたがリュービさんに従えないということではないのですか?」

「…仮に私が従っても、ソウソウとの戦いには従えない者がたくさんいる!」

「それでは答えになってませんよ!」

 サイボウとカイエツの口論が白熱し、あわててリュウソウが仲介に入る。

「まあまあ、二人とも落ち着いてくれ。

 じゃあ、サイボウ先輩はリュウヒョウ姉さんからの伝言を無視する気なのか?」

「リュウヒョウ部長は病気により弱気になっている。

 それに彼女は、ソウソウが攻めてきた事を知らないから、現実的な意見とは言えないだろう」

「では、どうする気だ?」

「リュウソウ、君が一人で部長代理を務めるんだ」

「え!

 しかし、それではリュウキが…」

 リュウソウは、双子の兄・リュウキへの裏切りとも言える単独での部長就任に躊躇ちゅうちょした。

 「リュービと親しいリュウキでは、リュービに相談してしまう。

 リュービが加わればソウソウとの開戦は避けられない。

 それに部長代理が二人では本当に南校舎は二つに別れることになってしまう。

 ここは、君一人で部長代理になるんだ」

 リュウソウ、今や南校舎を一つにまとめれるのは君しかいないんだよ」

 サイボウの熱心な説得に、リュウソウの心も少しずつ彼の提案にかたむきだした。

 だが、それに対して、同じく副部長のカイエツは待ったをかけた。

「待ってください!

 それではリュウヒョウ部長の意思に背くことになりますよ!」

「では、カイエツ、お前はリュービに戦いを任せるのか?

 あいつは必ずソウソウと戦う。

 だが、リュービではソウソウに勝てん!

 後に残るのは荒れ果てた南校舎のみ…

 荷担した我らだって捕虜となるか、逃亡するか、いずれにせよあわれな末路が待つのみだぞ!」

 サイボウの言葉についにリュウソウは決意を固めた。

「わかった…部長はこのリュウソウが一人で引き継ごう」

「リュウソウ君!

 しかし、それではリュウキ君はどうするのですか?

 まもなく彼も学園に到着します。

 リュウキ君はリュウヒョウ部長の伝言も知っています。

 彼がすんなり従うわけがありません!」

「私に任せろ」

 カイエツの問いに、サイボウはそう答えた。

 しばらくして、渦中かちゅうのリュウヒョウの弟・リュウキが図書室にやってきた。

 しかし、その扉の前でサイボウが彼を待ち構えていた。

「サイボウ先輩、もう聞かれたと思いますが、リュウヒョウ姉さんが入院されました。

 我ら兄弟が部長代理を務めますので補佐をよろしくお願いします」

 何も知らないリュウキは、丁寧にサイボウにそう伝えた。

 しかし、それを受けたサイボウの表情はとてもけわしいものであった。

「リュウキ、残念だが、それどころでは無くなった。

 東校舎のチュー坊がまた南校舎に攻め込むという情報が入った。

 君はすぐに渡り廊下の防衛に向かってくれ」

「え、それは一大事ですが…

 しかし、僕には部長代理の仕事が…」

 戸惑うリュウキにさらにサイボウは詰め寄った。

「コウソの後任として東の守備につくことは先日、君自身が志願したことではないか。

 今、君がその任務を放棄すれば、南校舎はチュー坊軍に占拠されるぞ」

 ここ南校舎と東校舎を結ぶ渡り廊下の防衛は、これまでコウソが務め、東校舎のソンサク軍の攻勢から守っていたが、先日、ソンサクの後継者・チュー坊の攻撃により、コウソが敗れた。

 後のリュウヒョウ軍の攻撃で渡り廊下の防衛拠点だけは死守したが、いなくなったコウソの後任として、リュウキが自ら志願していた。

「わかりました。

 では、僕はこれより渡り廊下の守備に向かいます」

 リュウキは図書室に入ることなく、渡り廊下へと向かっていった。

「こんな手でリュウキ君を追い返して、これでは詐欺さぎではないですか!」

 サイボウの手口に、カイエツは不満をぶつけた。

 しかし、サイボウは一向に気にする素振りも見せなかった。

「南校舎を守るためだ、やむを得ん。

 さて、リュウソウ君、これからのソウソウへの対処について会議を開きましょう」

 図書室にはリュウソウ、サイボウ、カイエツを中心に、南校舎の代表格の生徒たちが集められた。

 だが、その場にはもちろん、リュウキやリュービの姿はなかった。

 サイボウの口からこれまでの状況が、生徒たちに説明された。

 しかし、その内容は、サイボウによって都合よくねじ曲げられたものであった。

「 …ということで、リュウソウ君が今後、部長代理を務めることとなった。

 そして、ソウソウがこの南校舎に攻めてくる。

 その対処についてこれから話し合いたい」

 淡々と話を進めるサイボウに、一人の女生徒が異を唱えた。

「待ってください。

 なぜ、兄であるリュウキ君を差し置いてリュウソウ君一人が部長代理についているのですか?

 それにソウソウへの対処ならリュービさんをこの場に呼ぶべきではないですか?」

 赤毛のショートに、カチューシャとメガネをかけた彼女の名はイセキ、長らくリュービとも親しくしていた女生徒である。

 イセキの意見に落ち着いた様子でサイボウは答える。

「リュウキ君は兄と言うが、リュウソウ君とは双子だ。

 その兄弟順は問題ではない。

 気の弱いリュウキ君よりもリュウソウ君の方が代理に相応しいと、リュウヒョウ部長は判断したのだ」

 リュウソウ単独での部長代理就任はあくまでもリュウヒョウ部長の指示、そうサイボウは断言した。

 さらにサイボウは話を続ける。

「それにソウソウと戦うとはまだ決まったわけではない。

 今はまだ交渉の段階だ。

 その会議に客将であるリュービの意見は必要ではない。

 カイエツ、ソウソウへの対処はどうする?」

「残念ですが、今の私たちの戦力で勝てる相手ではありません。

 やはり、降伏が最良かと」

 サイボウの詐術に未だ納得のいっていないカイエツであったが、彼女も自分たちがソウソウに対抗できるとは思っていなかった。

 元々、カイエツはカントでエンショウとソウソウが戦った時、ソウソウとも親交を結ぶよう提案していた。

 しかし、リュウヒョウはそれをはねのけ、エンショウのみに味方した。

 エンショウが滅び、ソウソウの仇敵きゅうてきとしてただ残ってしまったこのリュウヒョウ陣営との和平の提案を、ソウソウが許すとは思えず、戦わないのであれば降伏一択。

 そうカイエツを初め、この場にいる多くの者は考えていた。

 しかし、この降伏の流れに反対する者がいた。

 新たに部長代理になったばかりの弟・リュウソウである。

「待ってくれ。

 このまま何もせず降伏してしまうのか。

 この南校舎は今や学園で二番目に大きな勢力だ。

 もう少し様子を見て、何か手を考えないか」

 彼も戦ってソウソウに勝てる自信はなかった。

 だが、姉・リュウヒョウから受け継いだこの南校舎を早々に敵に渡すような真似は、彼も認められなかった。

 しかし、そのリュウソウの意見に、多くの生徒は同意しかねている様子であった。

 博士帽にコート姿の男子生徒・フソンがまず反論を述べた。

「仮にリュービを用いたとしてもソウソウの大軍は防げないでしょう。

 それにリュウソウ部長は、リュービとご自身を比べてどちらが強いと思いますか?」

「…俺ではリュービに及ばない」

 うつむいて答えるリュウソウに、さらにフソンはたたみ掛ける。

「例えリュービがソウソウに勝てたとしても、リュウソウ部長より強いリュービを、我々が従えさせることは難しいでしょう。

 今、判断を誤れば、ソウソウ・リュービ、2つの敵を作ることになりかねません」

 そのフソンの意見に、メガネをかけ、ほおのこけた男子生徒・カンスウが同調する。

「自分もそのように考えます。

 リュービは度々ソウソウとの対決を望み、そのことにリュウヒョウ部長は手を焼いていました。

 彼がおとなしく我らに従うとは思えません」

 彼らの意見に、目元までボサボサ髪でおおわれた女生徒・オウサンが加わり、さらに追い討ちをかける。

「ソウソウはかつて、劣勢の中、エンショウ、リョフ、リュービと強敵を破ってきました。

 今、リュービに賭けるには勝率は低く、仮に勝ててもリュウソウ部長の不利になる可能性が高いのであるならば、我らはソウソウに降伏し、しかるべき地位を保証してもらう方が得策ではないでしょうか」

 オウサンの言葉が終わるとともに、博士帽の男子生徒・フソンがリュウソウに念を押すように申し上げる。

「今は降伏が最良です。

 リュウソウ部長は余計なことに迷わされることの無いように」

 彼ら彼女らの説得にリュウソウは何も言い返すことはできなかった。

「…サイボウ先輩、あなたも戦いにはどうしても反対か?」

 リュウソウの問いにサイボウは答える。

「はい、私もソウソウと戦って勝てるとは申せません。

 しかし、我らには学園第二位の戦力があります。

 この戦力を背景に交渉を有利に進め、降伏のための条件をより多く獲得する方が良いと判断します」

「わかった。

 身の安全と地位を保証するのなら降伏するとソウソウに伝えよ」

「わかりました。

 交渉はこのサイボウにお任せください。

 決してあなたを敗者には致しません」

「しかし、そうなるとリュービはどうする?

 逆上してこちらに攻めこんできたら防げるのか?」

「説得をするしかないでしょう。

 彼もバカではない。

 我らの支援なく、単独でソウソウに戦いを挑むほど無謀でもないでしょう」

「その説得の使者には誰を差し向ける?」

 サイボウは思案した。

 ここで親リュービ派を向かわせると、彼に寝返ったり、余計なことをしゃべる可能性がある。

 幸い、彼は親リュービ派の人物に関しては情報を集めており、該当がいとうしない人物を上げるのは容易よういであった。

「使者にはソウチュウがよろしいかと思います。

 彼はその博識さで学園に名の知られた人物です。

 もし説得が失敗しても、リュービも彼に対して手荒なことはしないでしょう」

「よし、ソウチュウ頼むぞ」

 リュウソウに呼ばれ、青白い顔の、せた男子生徒・ソウチュウが前に進み出た。

「任せるのである」

「ソウチュウ、少し耳を貸せ」

「なんであるかな、サイボウよ」

 退出しようとするソウチュウを、部屋のすみでサイボウが呼び止める。

「リュービの元には少し遅れて行け」

「なるほど、わかったのである」

 ソウチュウは含み笑いをすると、ゆっくりと部屋を後にした。

「これでいい。

 リュービも時間がなければ余計なこともできまい」
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