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第5部 赤壁大戦編
第89話 議論!チュー坊陣営!
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東校舎・チュー坊陣営~
「いやぁ、無事に到着してよかったですなぁ」
灰色の長い髪に黒いリボンをつけ、ブラウスの上から黒いローブを羽織り、手に扇子を持った女生徒、チュー坊陣営客将・ロシュクは、からからと笑いながら、同行する二人に目をやった。
「あ…あ…あの…」
しかし、同行するうちの一人、目にかかるぐらいの長さの薄水色の髪、まだ幼さの残る愛らしい顔つきに、透き通るような白い肌、背は低く、とても華奢な体躯の女生徒、リュービ陣営軍師・コウメイは息も絶え絶えに返事をする。
「おやおや、どうされましたか、コウメイ嬢」
「コウメイちゃん、さっきの検問で知らない人にたくさんあったから人酔いしちゃったみたいなの」
同行するもう一人、茶髪をおさげに結い、浅黒い肌に、メガネをかけた女生徒、コウメイの友人・ゲツエイが代わりに答える。
「いつにも増して検問が厳しくなっていましたものねぇ。
いつもはここまでではないんですが、やはりソウソウが南校舎を落としたことで、我がチュー坊陣営も警戒レベルを上げているようですな」
ソウソウの南校舎制圧の報に、周辺勢力には緊張が走った。
ここ東校舎・チュー坊陣営でも、臨戦態勢を整え、コウメイとゲツエイの二人も、ロシュクの案内があるとはいえ、厳重な検問を通過しての入場となった。
「それに検問の隊長さん?
なんというか、よく話しかけてくれる方だったので…」
「ああ、ハンショーですな。
粗暴で無遠慮な男ですから、コウメイ嬢には毒でしたな」
その検問を抜け、人見知りのコウメイがひとしきり消耗したところで、東校舎の玄関口である剣道場へとたどり着いた。
「元々、南校舎近くのここ剣道場を、我が陣営では対リュウヒョウの前線基地として使っておりました。
今は対ソウソウの基地として、引き続きここを拠点としておりますぞ」
通されたのは確かに剣道場とは名ばかりで、端に『国士無双』と書かれた掛け軸がかけられ、その下に朱塗りの木刀が飾られているものの、他の剣道の備品は片付けられ、長机がいくつも置かれ、ほとんど会議室の様相であった。
「本当に前線基地といった感じですね。
おや、部屋の奥のは…剣道場なのに竹刀じゃなくて木刀を飾っているんですね?」
「ああ、あれはですな…」
「ロシュク!
なぜここにいるのじゃ!」
ロシュクがゲツエイに答えようとすると、つんざくような声が辺りに響いた。
背が低く、長い髪の、一見幼女のような、黒い漢服(中国風の着物)を着た女生徒、チュー坊陣営筆頭文官・チョウショウの声であった。
「おやおや、これはチョウショウ先生。
ロシュク、ただ今戻りました」
「姿が見えぬからてっきり逃げ出したと思っておったのに…
後ろの二人はなんじゃ?
この忙しい時に、また穀潰しでも連れてきたのか!」
「こちら、リュービ陣営軍師・コウメイ様と、その付き人のゲツエイ様でございます」
ロシュクの紹介に、チョウショウはキッと睨み付け、叫んだ。
「リュービの軍師じゃと!
貴様、その者を連れ込むという事がどういう事かわかっとるのか!」
「ええ、わかっております、わかっておりますとも。
これこそ我がチュー坊陣営が助かるための最善手でございます」
ロシュクの言葉に、よりチョウショウは激昂し、声をあらげる。
「何が我が陣営じゃ!
転がりこんだ分際で!
今ならまだ間に合う!
早く追い返すのじゃ!」
「チョウショウ先生、それはお考え違いというものですぞ。
リュービ陣営は…」
その時、人酔いでふらふらであったコウメイが、途端に背筋を伸ばし、玄関に向けて一礼した。
「チョウショウ公、そのぐらいでよい」
その場に現れたのは、小柄で細身、赤紫の髪に太陽の髪飾りをつけた童顔の男子生徒、この陣営の長・チュー坊であった。
「あなたがリュービ陣営から来た使者か。
僕がこの東校舎を束ねる呉孫権仲、皆からはチュー坊と呼ばれている」
顔にまだ少年のようなあどけなさを残す彼であったが、その口調は対称的に落ち着いていて、大人びたものであった。
「リュービ陣営軍師・諸葛孔明、コウメイとお呼びください」
「コウちゃ…コウメイのお供・光月英理、ゲツエイです」
「ロシュク、リュービ陣営よりコウメイ殿、ゲツエイ殿二名を連れ、帰還いたしました」
「よく戻ったロシュク。
よく来られたコウメイ、ゲツエイ。
これより群臣たちと今後の対策について会議を行う。
君たちも加わってくれ」
リュービの使者・コウメイ、ゲツエイに、客将・ロシュクの会議の参加に筆頭文官・チョウショウは難色を示したが、チュー坊自身の提案にやむなく従い、彼らは末席につくこととなった。
「ロシュクさん、どんどん人が入ってきましたね」
ゲツエイがロシュクに小声で話しかける。
「皆さん、我が陣営を代表する参謀方ですぞ。
チュー坊様の右隣、上座に座るのが先ほどの生意気なロリっ娘、筆頭文官のチョウショウ。
その隣の背が低く、赤い漢服の女生徒がチョウコウ。
その隣の男性生徒がシンショウ、それにチンタン。
彼女ら彼らがソンサク様の代より重んじられた文官の中心人物たちですぞ。
お、あちらにはコウメイ嬢のお兄様・ショカツキン殿もおられますぞ。
コウメイ嬢、挨拶されますか?」
「いえ、今回は公的な用ですので、私的な用は後にしておきます」
「そうですか。
そしてチュー坊様の左隣に座るのが我が陣営の副将・シュウユさん…
あれ、シュウユさんが来られてませんね?
チュー坊様!チュー坊様!」
「なんじゃロシュク!
これから会議が始まるというのにうるさいぞ!」
「すみません、チョウショウ先生!
ですが、シュウユさんがまだ来られておられないようですが」
そのロシュクからの問いかけにチュー坊が答える。
「シュウユなら今、万が一に備えて最前線に出陣している。
今回の会議には参加しない。
では、会議をはじめるぞ。
議題は南校舎を占領したソウソウへの対応についてだ」
シュウユ不在の報告に、ロシュクは見るからにショックを受けていた。
「おお、なんということですか。
シュウユさんがいなければ、チョウショウら文官連中が議論を主導していってしまいますぞ。
困った困った…」
小声ながらも狼狽えるロシュクを、これまた小声でコウメイが落ち着ける。
「ロシュクさん、ここはまず議論を聞き、今のチュー坊陣営の状況を把握しましょう。
今回の議論ですべてが決まるわけではありません」
陣営の主・チュー坊がまずこれまでの状況を話し始めた。
「知っての通り、ソウソウが隣の南校舎を占領した。
まだ、この東校舎へソウソウより要求は来ていないが、すでにソウソウの部隊が度々国境付近で目撃されており、活発な軍事活動を行っていると推測されている。
さらに次の様な事件があった。
シュチ、報告を頼む」
「はい」
チュー坊に呼ばれ、赤いバンダナを、茶髪の長い髪にヘアバンドのように巻いた女生徒・シュチが立ち上がった。
「先ほど、チュー坊様のイトコであるソンフンの様子がおかしかったので問い詰めたところ、密かにソウソウより空手部部長の地位を約束され、その代わりにソウソウに人質を送るよう要求されていたとのことでした」
ソンフンはチュー坊のイトコで、東校舎平定に功績があったことから高い地位にいたが、ソンサクが倒れた時に自分を東校舎の盟主にするよう主張するなど、なにかとチュー坊と対立している人物であった。
「ふむ、ソウソウがソンフン殿と交渉したのも、おそらくこの東校舎の分裂を企んでのことじゃろうて」
チョウショウの言葉にシュチが続けて述べる。
「はい、人質というのも、本人は妹であるソンホを送るつもりであったと供述していますが、チュー坊様を送り、自らが東校舎の盟主になろうという腹積もりだったのかもしれません」
シュチの言に続いて、茶髪のショートに、色白の落ち着いた雰囲気の女生徒が発言した。
「我が兄が申し訳ありません。
以前より兄の態度には目に余るものがありました。
兄に代わりお詫び申し上げます。
現在、兄は我が部隊で監視しております」
発言した女生徒は、先ほど名が上がったソンフンの妹・ソンホであった。
それに続けてチュー坊が再び口を開いた。
「今、ソンフンは後方に置き、ソンホの監視下においている。
だが、ソウソウが我が陣営に侵略意図を持っているのは明白である。
攻めてきてからでは遅い。
如何に対応すべきか方針を定めたい」
まず、筆頭文官であるチョウショウが発言した。
「確かにソウソウは問題の多い御仁であります。
しかし、彼女は生徒会長という立場にあり、さらに学園長をも味方につけております。
そんなソウソウに、学生である我らが逆らうのは大変な困難を伴うでしょう。
それに加えソウソウは南校舎の降伏により、その兵をそっくり手に入れることとなりました。
ソウソウとの戦力差が歴然となった今、少しでも早く降伏し、我らの立場を保証してもらうことが第一ではないでしょうか」
チョウショウに続き、チョウコウ、さらにシンショウ、チンタンと続いて意見を述べたが、どれも皆、ソウソウへの降伏論ばかりであった。
その降伏論ばかりの有り様に、末席にいるロシュクは段々と腹を立て始めた。
「ああ、やはり文官どもは降伏論ばかりですな。
これではチュー坊様はソウソウの家来に成り果ててしまいます。
シュウユさんのいない今、私が説得しなければ」
「今は止めておきましょう、ロシュクさん。
この場で抗戦を主張しても、集中砲火を浴びて潰されるだけです」
「しかし、コウメイ嬢、このままでは降伏してしまいますぞ」
「これだけ重鎮が降伏論を唱えながら、チュー坊さんはまだ首を縦に振っておりません。
彼は内心では降伏を望んではいないということでしょう。
説得のチャンスは必ずきます」
「しかし…」
ロシュクが次の言葉を続けるより先にチュー坊が再び声を発した。
「会議が長引いてきたな。
ここで一旦休憩をとろう」
そういうとチュー坊は席を立ち、退出していった。
「おお、コウメイ嬢、この時を狙えと言うことですな。
では、行って参りますぞ」
そういうとロシュクは、脱兎の如くチュー坊を追って駆け出した。
「コウメイちゃん、ロシュクさん出ていっちゃったけど、追わなくていいの?」
「ええ、ロシュクさんは見た印象より頭の回る方です。
上手くやってくれるでしょう。
それにしても、最初にチュー坊さんが言われていたソウソウの部隊の国境付近での目撃報告というのは、おそらくリュービさんを探してのことでしょう。
ですが、結果的にそれが近隣の勢力に緊張感を与えることになったようですね。
これを上手く利用できるかもしれません」
一方、退室して控室に戻ったチュー坊は依然悩んでいた。
「果たしてこのまま降伏すべきなんだろうか。
それとも戦うべきなんだろうか。
やはり姉さんに確認するべきだったんだろうか。
でも療養中の姉さんの負担になるようなことは…」
「はい、お茶でも飲んで落ち着きなさい」
「ありがとう…え?
エンジュツ先輩!
なんでここに!」
「私も居候なんだからこのぐらいするわよ」
チュー坊の隣に立つのは、濃い紫の長い髪に、大きな金色のリボンをつけ、幼げで、体つきも小柄な女生徒。
かつて中央校舎の一角に勢力を築いていた後漢学園の群雄の一人・エンジュツであった。
彼女はリュービに敗れ、その勢力を失ってからは、流れ流れて今は東校舎のチュー坊陣営の厄介となっていた。
「悩んでいるようね、チュー坊。
このエンジュツお姉さんが話を聞いてあげるわ」
「お姉さんって…
まあいいか…
僕はこのままソウソウに降伏すべきなんだろうか。
それとも…」
「そんな難しいこと私に聞かないでよ!」
エンジュツはガンと言い返した。
「ええ…
僕はソンサク姉さんの代わりを務めなきゃいけないんだ。
それなのに…」
俯くチュー坊の肩に手を回し、エンジュツは優しく寄り添った。
「私に戦うべきかどうかなんて難しいことはわからないわ。
でもわかることもあるわ。
あなたは兄ソンケンの代わりでも、姉ソンサクの代わりでもない。
一人の男の子よ。
だから、二人に囚われないで」
エンジュツはチュー坊の頭を自分の胸に引き寄せて、そっと抱き締めた。
「エンジュツ先輩…
おっぱい大きいですね」
ゴスッ!
「痛い…」
「あんたね!
情緒もなにもないんだから!」
「ごめんなさい…」
「ああ、もう!
あんた本当に可愛い顔してるわね」
エンジュツは、また俯くチュー坊の顔に手を添えると、その少年のような顔を強引に自分の方に向けた。
「チュー坊、好きよ。
ソンケンやソンサクの弟としてではなくてね。
一人の男として、私はあなたが好き」
「先輩で僕を二人の弟として見なかったのはあなたが初めてです。
エンジュツ、僕もあなたが好きです」
「んー!
愛しているわ、チュー坊!」
「痛い!
そんなに強く抱き締めないでよ」
「いいじゃない、チュー坊」
「…エンジュツ」
…
…
…
「んっ…
チュー坊、あなたは立派な男の子よ。
私が保証するわ」
「エンジュツ…
ありがとう、行ってくるよ」
チュー坊は乱れた衣服を直しながら、部屋を後にした。
「いやぁ、無事に到着してよかったですなぁ」
灰色の長い髪に黒いリボンをつけ、ブラウスの上から黒いローブを羽織り、手に扇子を持った女生徒、チュー坊陣営客将・ロシュクは、からからと笑いながら、同行する二人に目をやった。
「あ…あ…あの…」
しかし、同行するうちの一人、目にかかるぐらいの長さの薄水色の髪、まだ幼さの残る愛らしい顔つきに、透き通るような白い肌、背は低く、とても華奢な体躯の女生徒、リュービ陣営軍師・コウメイは息も絶え絶えに返事をする。
「おやおや、どうされましたか、コウメイ嬢」
「コウメイちゃん、さっきの検問で知らない人にたくさんあったから人酔いしちゃったみたいなの」
同行するもう一人、茶髪をおさげに結い、浅黒い肌に、メガネをかけた女生徒、コウメイの友人・ゲツエイが代わりに答える。
「いつにも増して検問が厳しくなっていましたものねぇ。
いつもはここまでではないんですが、やはりソウソウが南校舎を落としたことで、我がチュー坊陣営も警戒レベルを上げているようですな」
ソウソウの南校舎制圧の報に、周辺勢力には緊張が走った。
ここ東校舎・チュー坊陣営でも、臨戦態勢を整え、コウメイとゲツエイの二人も、ロシュクの案内があるとはいえ、厳重な検問を通過しての入場となった。
「それに検問の隊長さん?
なんというか、よく話しかけてくれる方だったので…」
「ああ、ハンショーですな。
粗暴で無遠慮な男ですから、コウメイ嬢には毒でしたな」
その検問を抜け、人見知りのコウメイがひとしきり消耗したところで、東校舎の玄関口である剣道場へとたどり着いた。
「元々、南校舎近くのここ剣道場を、我が陣営では対リュウヒョウの前線基地として使っておりました。
今は対ソウソウの基地として、引き続きここを拠点としておりますぞ」
通されたのは確かに剣道場とは名ばかりで、端に『国士無双』と書かれた掛け軸がかけられ、その下に朱塗りの木刀が飾られているものの、他の剣道の備品は片付けられ、長机がいくつも置かれ、ほとんど会議室の様相であった。
「本当に前線基地といった感じですね。
おや、部屋の奥のは…剣道場なのに竹刀じゃなくて木刀を飾っているんですね?」
「ああ、あれはですな…」
「ロシュク!
なぜここにいるのじゃ!」
ロシュクがゲツエイに答えようとすると、つんざくような声が辺りに響いた。
背が低く、長い髪の、一見幼女のような、黒い漢服(中国風の着物)を着た女生徒、チュー坊陣営筆頭文官・チョウショウの声であった。
「おやおや、これはチョウショウ先生。
ロシュク、ただ今戻りました」
「姿が見えぬからてっきり逃げ出したと思っておったのに…
後ろの二人はなんじゃ?
この忙しい時に、また穀潰しでも連れてきたのか!」
「こちら、リュービ陣営軍師・コウメイ様と、その付き人のゲツエイ様でございます」
ロシュクの紹介に、チョウショウはキッと睨み付け、叫んだ。
「リュービの軍師じゃと!
貴様、その者を連れ込むという事がどういう事かわかっとるのか!」
「ええ、わかっております、わかっておりますとも。
これこそ我がチュー坊陣営が助かるための最善手でございます」
ロシュクの言葉に、よりチョウショウは激昂し、声をあらげる。
「何が我が陣営じゃ!
転がりこんだ分際で!
今ならまだ間に合う!
早く追い返すのじゃ!」
「チョウショウ先生、それはお考え違いというものですぞ。
リュービ陣営は…」
その時、人酔いでふらふらであったコウメイが、途端に背筋を伸ばし、玄関に向けて一礼した。
「チョウショウ公、そのぐらいでよい」
その場に現れたのは、小柄で細身、赤紫の髪に太陽の髪飾りをつけた童顔の男子生徒、この陣営の長・チュー坊であった。
「あなたがリュービ陣営から来た使者か。
僕がこの東校舎を束ねる呉孫権仲、皆からはチュー坊と呼ばれている」
顔にまだ少年のようなあどけなさを残す彼であったが、その口調は対称的に落ち着いていて、大人びたものであった。
「リュービ陣営軍師・諸葛孔明、コウメイとお呼びください」
「コウちゃ…コウメイのお供・光月英理、ゲツエイです」
「ロシュク、リュービ陣営よりコウメイ殿、ゲツエイ殿二名を連れ、帰還いたしました」
「よく戻ったロシュク。
よく来られたコウメイ、ゲツエイ。
これより群臣たちと今後の対策について会議を行う。
君たちも加わってくれ」
リュービの使者・コウメイ、ゲツエイに、客将・ロシュクの会議の参加に筆頭文官・チョウショウは難色を示したが、チュー坊自身の提案にやむなく従い、彼らは末席につくこととなった。
「ロシュクさん、どんどん人が入ってきましたね」
ゲツエイがロシュクに小声で話しかける。
「皆さん、我が陣営を代表する参謀方ですぞ。
チュー坊様の右隣、上座に座るのが先ほどの生意気なロリっ娘、筆頭文官のチョウショウ。
その隣の背が低く、赤い漢服の女生徒がチョウコウ。
その隣の男性生徒がシンショウ、それにチンタン。
彼女ら彼らがソンサク様の代より重んじられた文官の中心人物たちですぞ。
お、あちらにはコウメイ嬢のお兄様・ショカツキン殿もおられますぞ。
コウメイ嬢、挨拶されますか?」
「いえ、今回は公的な用ですので、私的な用は後にしておきます」
「そうですか。
そしてチュー坊様の左隣に座るのが我が陣営の副将・シュウユさん…
あれ、シュウユさんが来られてませんね?
チュー坊様!チュー坊様!」
「なんじゃロシュク!
これから会議が始まるというのにうるさいぞ!」
「すみません、チョウショウ先生!
ですが、シュウユさんがまだ来られておられないようですが」
そのロシュクからの問いかけにチュー坊が答える。
「シュウユなら今、万が一に備えて最前線に出陣している。
今回の会議には参加しない。
では、会議をはじめるぞ。
議題は南校舎を占領したソウソウへの対応についてだ」
シュウユ不在の報告に、ロシュクは見るからにショックを受けていた。
「おお、なんということですか。
シュウユさんがいなければ、チョウショウら文官連中が議論を主導していってしまいますぞ。
困った困った…」
小声ながらも狼狽えるロシュクを、これまた小声でコウメイが落ち着ける。
「ロシュクさん、ここはまず議論を聞き、今のチュー坊陣営の状況を把握しましょう。
今回の議論ですべてが決まるわけではありません」
陣営の主・チュー坊がまずこれまでの状況を話し始めた。
「知っての通り、ソウソウが隣の南校舎を占領した。
まだ、この東校舎へソウソウより要求は来ていないが、すでにソウソウの部隊が度々国境付近で目撃されており、活発な軍事活動を行っていると推測されている。
さらに次の様な事件があった。
シュチ、報告を頼む」
「はい」
チュー坊に呼ばれ、赤いバンダナを、茶髪の長い髪にヘアバンドのように巻いた女生徒・シュチが立ち上がった。
「先ほど、チュー坊様のイトコであるソンフンの様子がおかしかったので問い詰めたところ、密かにソウソウより空手部部長の地位を約束され、その代わりにソウソウに人質を送るよう要求されていたとのことでした」
ソンフンはチュー坊のイトコで、東校舎平定に功績があったことから高い地位にいたが、ソンサクが倒れた時に自分を東校舎の盟主にするよう主張するなど、なにかとチュー坊と対立している人物であった。
「ふむ、ソウソウがソンフン殿と交渉したのも、おそらくこの東校舎の分裂を企んでのことじゃろうて」
チョウショウの言葉にシュチが続けて述べる。
「はい、人質というのも、本人は妹であるソンホを送るつもりであったと供述していますが、チュー坊様を送り、自らが東校舎の盟主になろうという腹積もりだったのかもしれません」
シュチの言に続いて、茶髪のショートに、色白の落ち着いた雰囲気の女生徒が発言した。
「我が兄が申し訳ありません。
以前より兄の態度には目に余るものがありました。
兄に代わりお詫び申し上げます。
現在、兄は我が部隊で監視しております」
発言した女生徒は、先ほど名が上がったソンフンの妹・ソンホであった。
それに続けてチュー坊が再び口を開いた。
「今、ソンフンは後方に置き、ソンホの監視下においている。
だが、ソウソウが我が陣営に侵略意図を持っているのは明白である。
攻めてきてからでは遅い。
如何に対応すべきか方針を定めたい」
まず、筆頭文官であるチョウショウが発言した。
「確かにソウソウは問題の多い御仁であります。
しかし、彼女は生徒会長という立場にあり、さらに学園長をも味方につけております。
そんなソウソウに、学生である我らが逆らうのは大変な困難を伴うでしょう。
それに加えソウソウは南校舎の降伏により、その兵をそっくり手に入れることとなりました。
ソウソウとの戦力差が歴然となった今、少しでも早く降伏し、我らの立場を保証してもらうことが第一ではないでしょうか」
チョウショウに続き、チョウコウ、さらにシンショウ、チンタンと続いて意見を述べたが、どれも皆、ソウソウへの降伏論ばかりであった。
その降伏論ばかりの有り様に、末席にいるロシュクは段々と腹を立て始めた。
「ああ、やはり文官どもは降伏論ばかりですな。
これではチュー坊様はソウソウの家来に成り果ててしまいます。
シュウユさんのいない今、私が説得しなければ」
「今は止めておきましょう、ロシュクさん。
この場で抗戦を主張しても、集中砲火を浴びて潰されるだけです」
「しかし、コウメイ嬢、このままでは降伏してしまいますぞ」
「これだけ重鎮が降伏論を唱えながら、チュー坊さんはまだ首を縦に振っておりません。
彼は内心では降伏を望んではいないということでしょう。
説得のチャンスは必ずきます」
「しかし…」
ロシュクが次の言葉を続けるより先にチュー坊が再び声を発した。
「会議が長引いてきたな。
ここで一旦休憩をとろう」
そういうとチュー坊は席を立ち、退出していった。
「おお、コウメイ嬢、この時を狙えと言うことですな。
では、行って参りますぞ」
そういうとロシュクは、脱兎の如くチュー坊を追って駆け出した。
「コウメイちゃん、ロシュクさん出ていっちゃったけど、追わなくていいの?」
「ええ、ロシュクさんは見た印象より頭の回る方です。
上手くやってくれるでしょう。
それにしても、最初にチュー坊さんが言われていたソウソウの部隊の国境付近での目撃報告というのは、おそらくリュービさんを探してのことでしょう。
ですが、結果的にそれが近隣の勢力に緊張感を与えることになったようですね。
これを上手く利用できるかもしれません」
一方、退室して控室に戻ったチュー坊は依然悩んでいた。
「果たしてこのまま降伏すべきなんだろうか。
それとも戦うべきなんだろうか。
やはり姉さんに確認するべきだったんだろうか。
でも療養中の姉さんの負担になるようなことは…」
「はい、お茶でも飲んで落ち着きなさい」
「ありがとう…え?
エンジュツ先輩!
なんでここに!」
「私も居候なんだからこのぐらいするわよ」
チュー坊の隣に立つのは、濃い紫の長い髪に、大きな金色のリボンをつけ、幼げで、体つきも小柄な女生徒。
かつて中央校舎の一角に勢力を築いていた後漢学園の群雄の一人・エンジュツであった。
彼女はリュービに敗れ、その勢力を失ってからは、流れ流れて今は東校舎のチュー坊陣営の厄介となっていた。
「悩んでいるようね、チュー坊。
このエンジュツお姉さんが話を聞いてあげるわ」
「お姉さんって…
まあいいか…
僕はこのままソウソウに降伏すべきなんだろうか。
それとも…」
「そんな難しいこと私に聞かないでよ!」
エンジュツはガンと言い返した。
「ええ…
僕はソンサク姉さんの代わりを務めなきゃいけないんだ。
それなのに…」
俯くチュー坊の肩に手を回し、エンジュツは優しく寄り添った。
「私に戦うべきかどうかなんて難しいことはわからないわ。
でもわかることもあるわ。
あなたは兄ソンケンの代わりでも、姉ソンサクの代わりでもない。
一人の男の子よ。
だから、二人に囚われないで」
エンジュツはチュー坊の頭を自分の胸に引き寄せて、そっと抱き締めた。
「エンジュツ先輩…
おっぱい大きいですね」
ゴスッ!
「痛い…」
「あんたね!
情緒もなにもないんだから!」
「ごめんなさい…」
「ああ、もう!
あんた本当に可愛い顔してるわね」
エンジュツは、また俯くチュー坊の顔に手を添えると、その少年のような顔を強引に自分の方に向けた。
「チュー坊、好きよ。
ソンケンやソンサクの弟としてではなくてね。
一人の男として、私はあなたが好き」
「先輩で僕を二人の弟として見なかったのはあなたが初めてです。
エンジュツ、僕もあなたが好きです」
「んー!
愛しているわ、チュー坊!」
「痛い!
そんなに強く抱き締めないでよ」
「いいじゃない、チュー坊」
「…エンジュツ」
…
…
…
「んっ…
チュー坊、あなたは立派な男の子よ。
私が保証するわ」
「エンジュツ…
ありがとう、行ってくるよ」
チュー坊は乱れた衣服を直しながら、部屋を後にした。
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戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
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わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
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今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
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