学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第5部 赤壁大戦編

第90話 決意!若き盟主ソンケン!

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 チュー坊が部屋を出ると、そこには灰色の長い髪に黒いローブを羽織った女生徒・ロシュクが待ち構えていた。

「ロシュク!

 まさか今までのを見ていたのか」

「私はそこまで野暮じゃありませんぞ。

 何も見ておりませんし、何も聞いておりません。

 もちろん口外もいたしませんぞ」

「何か反って脅されている気分だ」

「ならば、私の意見に耳を傾けてはいただけないでしょうか。

 それが私の要求でございます」

「会議の席でいやに黙っていると思っていたが、やはり言いたい事があったか。

 それぐらいならいいだろう、聞こう」

「はい。

 先ほどの皆さんの議論を聞いていましたが、どれもこれもチュー坊様を誤らせる意見ばかりで、とても聞けたものじゃあありません。

 よく聞いてくださいな。

 私どもはソウソウを受け入れることはできますが、チュー坊様!

 あなた様は受け入れることはできません。

 ソウソウは人材が好きですから、私やチョウショウ先生のような文士であれば重く用いられ、中には生徒会役員に抜擢ばってきされる者もおりましょう。

 ですが、チュー坊様、あなたはすでに東校舎の盟主だ。

 ソウソウはきっと東校舎が再びチュー坊様を中心に団結することをおそれ、この陣営は解体されることでしょう。

 そして、再び旗頭はたがしらに使われる危険のあるあなた様に果たして自由が与えられるでしょうか。

 その時になってソウソウと戦いたいと願っても、もう動かせる軍隊は側におりません。

 さらにさらに、ソウソウは大変な女好きとして知られておりますぞ。

 かつて彼女に敗れたエンショウやチョウバクが今はソウソウとの性奴…おっと、夜の相手を務めているのは公然の秘密。

 チュー坊様は男性ですから良いとしても、姉上のソンサク様が復帰された時、どのようや目に会うかわかりませんぞ。

 それにエンジュツ様だって…」

 ロシュクの言葉にチュー坊が青ざめる。

「ソンサク姉さん…それにエンジュツもか。

 僕はただソンサク姉さんが帰ってくるまでこの地を守りたかった。

 姉さんは帰る場があるのなら、降伏もありかもしれないと思ったが、もしそのために姉さんや、さらにはエンジュツがソウソウの毒牙どくがにかかるようなことになったら、僕は…」

「チュー坊様、まだ降伏が決定したわけではありませんぞ!

 先ほどの議論を忘れ、急ぎ大計を定められるべきです」

 ロシュクの言葉になおもチュー坊は逡巡しゅんじゅんしたが、覚悟を決めたようにうなずいた。

「そのようだな。

 やはり姉さんのためにも、エンジュツのためにも、この場所を守るためにも、降伏するわけにはいかない」

「そうですとも、そうですとも。

 まずはコウメイ様の意見をお聞きください。

 彼女ならこの場をまとめることができるでしょう。

 それと同時に急ぎシュウユさんを呼び戻してください。

 シュウユさんも加われば、降伏派を納得させることができましょうぞ」

「わかった、そうしよう。

 ロシュク、君のおかげで道が開けそうだ。

 きっと天が君を僕に授けてくれたのだろう」

 チュー坊はロシュクの手を取り、剣道場へと戻っていった。

 東校舎の盟主、赤紫の髪に太陽の髪飾りをつけた童顔の男子生徒・チュー坊が会議室へと戻ってきた。

 しかし、その顔は先ほどよりも一層引き締まっていた。

「では、これより会議を再開する」

 その言葉に文官筆頭、黒い漢服かんふく(中国風の着物)を着た、幼女のような外見の女生徒・チョウショウが口を開いた。

「チュー坊様、すでに意見は出揃でそろいました。

 後はチュー坊様が決定を下すのみでございます」

「いや、まだ意見を述べていない者がいる。

 リュービ陣営軍師・コウメイ、君の意見を聞きたい」

 チュー坊に呼ばれ皆の視線が、末席に座る目にかかるぐらいの長さの薄水色の髪、まだ幼さの残る愛らしい顔つきに、透き通るような白い肌、背は低く、とても華奢きゃしゃ体躯たいくの女生徒、リュービ陣営より来た軍師・コウメイへとそそがれる。

「しかし、チュー坊様。

 彼女はよそ者ですぞ」

 コウメイの名にチョウショウは怪訝けげんな顔をする。

「今、この事態において身内もよそ者もないだろう。

 それにわざわざ使者として来て、何も言わずに帰すわけにもいかない。

 さあ、コウメイ、君の意見を聞かせてくれ」

 その言葉に、リュービ陣営軍師・コウメイは立ち上がる。

「では、お話させていただきます。

 ただ今、学園の天下は大いに乱れ、チュー坊様は東校舎を所有され、我が主君・リュービも南校舎で軍勢を収め、ソウソウと天下を争っております。

 今、ソウソウは大乱をほぼ平定し、さらにこの度南校舎を破り、その威勢は学園に鳴り響いています。

 そのために英雄といえども武力を用いる余地なく、やむなくリュービも遁走とんそうしました。

 チュー坊様、あなたはご自身の力量を推し量り、この事態に対処してください。

 もしも、チュー坊様の軍勢で、ソウソウに対抗できるならば、即刻交流をつべきです。

 もしも、対抗できないのであれば、軍備をき、臣下の礼をとって服従するべきです。

 今、チュー坊様は、外では服従をよそおい、内では問題を引き伸ばすばかりで、ここまで事態が切迫しているのに決断しないのであるなら、必ず災いが訪れるでしょう」

 そのコウメイの言葉に、重鎮じゅうちん・チョウショウは嘲笑あざわらうように返した。

「御大層に何の話をするのかと思えば、今の状況をただ列挙しただけではないか。

 お主はそんな話で、チュー坊様に誤った道を進ませようというのか。

 ならば私から君に問おう。

 君はチュー坊様に、ソウソウに対抗できるならば戦え、できないなら降伏せよと極端な二択を迫っとるが、君の主・リュービは、対抗できなかったにも関わらず、未だ降伏せずに逃走しているではないか。

 これは如何いかに?」

 重鎮じゅうちん・チョウショウの言葉に、チュー坊が続ける。

「コウメイ、チョウショウ公の語気が強いのは許してやってくれ。

 だが、確かにその通りだ。

 なぜ、リュービはソウソウに降伏しない?」

 これに対してコウメイは、落ち着いた素振りで返した。

「はい、我が主君・リュービは世に卓越たくえつした英傑えいけつです。

 多くの人士が彼を慕うのは川の流れが大海に注ぎ込むように自然なことであり、例え流浪しようともその王者の器を損なうことはございません。

 その王者であるリュービの成否は天命のよってのみ決まります。

 どうして奸雄かんゆうであるソウソウの下につけましょうか」

 コウメイが最後の言葉を言い終わるやいなや、チョウショウの怒号ともとれる声が剣道場に轟いた。

「貴様!

 あんにチュー坊様を王者の器に非ずと言うのか!」

 そのチョウショウの怒りをしずめながらも、チュー坊もそれに続いて意見を述べた。

「僕はこの東校舎を治め、千の兵を抱えている。

 我が陣営はリュービに決して劣らぬものであると自負している。

 だが、そのリュービは敗れた。

 どうしてリュービに続いて、ソウソウと戦うことができるだろうか」

 これにコウメイ答えて曰く。

「リュービは敗れたといえども、まだ百の兵を率いております。

 これにリュウキの兵が百。

 さらにソウソウの兵は南校舎到着後、リュービ追撃に駆り出され、そのリュービを逃がしたために今も気をゆるめられない状態です。

 これではどんな精鋭でも弱ってしまいます。

 さらに南校舎の兵は、ソウソウの力を恐れて従っているのであって、心から従っているわけではありません。

 今、チュー坊様が数百の勇猛な兵を出され、リュービと力を合わせればソウソウを破れます。

 成否の天命のきっかけは、今日この場にあるのです」

 その言葉にチュー坊が答えた。

「良いだろう。

 僕がリュービに劣らぬ王であると見せようではないか」

 コウメイの話に乗ろうとするチュー坊に、チョウショウは慌てて口を開いた。

「お、お待ちください、チュー坊様!

 先ほどはがらにもなく激昂げっこう致しましたが、王者の器とソウソウとの戦いは、本来何も関係がありません」

 重鎮じゅうちん・チョウショウはなおも食い下がり、降伏論へと話をもっていこうとする。

 その様子をコウメイの後ろ姿をながめるゲツエイは、コウメイの微妙な変化を感じ取っていた。

「まずいわね…

 このままじゃコウメイちゃんが負けちゃうわ」

 彼女のポツリとつぶやいたこの発言に、隣に座るロシュクは驚いてたずねた。

「なぜですゲツエイじょう

 チョウショウの意気は盛んとは言え、チュー坊様の心はこちらに傾いておりますぞ」

「コウメイちゃんが少し震えているわ。

 今まで人見知りを押し込めて話していたけど、そろそろ限界がきそうね」

「そんな!

 なんとかなりませんか」

「うーん…

 気持ちを落ち着けるお香とかなら持ってるけど…」

心許こころもとないですな…

 こんな時にシュウユさんがいてくれれば…」

 小声で話すゲツエイ、ロシュクの会話をかき消すようにチョウショウの声が響く。

「とにかくチュー坊様!

 ソウソウとの間に歴然たる戦力差があるのですから、こんな乾坤一擲けんこんいってきの戦いによって東校舎の命運を決めるべきではございませんぞ!」

「そうではありませんよ、チョウショウさん」

 その時、剣道場に颯爽さっそうと一人の女生徒が入ってきた。

 金髪の長い髪に白い肌、西洋人形のような整った顔立ちで、頭に黒いレースの帯飾り、フリルのついた黒いロングスカートに黒いハイヒール姿のその美少女は、つかつか剣道場の中央まで歩くと、その場にひざまずき、一礼した。

「チュー坊様、シュウユ、只今戻りました」

「おお、シュウユさんが戻られましたぞ。

 なんとか間に合いましたな」

「シュウユ、よく戻ってくれた。

 それで、そうではないとは?」

「はい、ソウソウは学園の生徒会長ですが、他者の領域までおかそうとする悪逆の徒です。

 一方、チュー坊様は優れた文武の才を持ち、兄ソンケン様、姉ソンサク様の威勢を受け継ぎ、この東校舎の地に割拠かっきょしております。

 この東校舎は広大で、その軍勢も精鋭ですから、充分ソウソウに対抗できます。

 ましてやソウソウ自ら、この東校舎に飛び込んでくるのであるなら、勝てぬ道理はありません。

 この状況でソウソウの配下になるべきではないと考えます。

 このシュウユに300の兵をお与えください。

 必ずソウソウを倒して御覧にいれます」

 その力強いシュウユの意見に、チュー坊は安堵あんどするかのように大きくうなずいた。

「あのソウソウが生徒会長にいてこの方、傍若無人ぼうじゃくぶじんに振る舞っていることは周知しゅうちの事実だ。

 かつてはエンショウ、エンジュツ、リョフ、リュウヒョウ、そして我が姉ソンサクがにらみをかせ、あの女を抑制よくせいしていたが、全て消え去り、ソンサクより受け継いだこの僕だけが今も残っている。

 姉の意志は僕の意志でもある。

 ソウソウをこのまま野放しにすることはできない。

 シュウユ、僕の意見は君と同じだ」

「しかし、チュー坊様…」

 それに対してチョウショウが意見を述べようとしたが、チュー坊はそれを阻止そしすると、背後に飾ってある朱塗しゅぬりの木刀を手に取り、自分の前の机に叩きつけた。

「もはや議論は決着を迎えた。

 これ以上、ソウソウへの降伏を説くことは許さない」

 この東校舎の盟主になって初めて見せるチュー坊の真剣な眼差しに、群臣たちは静まり返った。

 そして、チュー坊はシュウユを呼ぶと、自ら手にした朱塗しゅぬりの木刀を指し示した。

「シュウユ、この木刀は、ここの卒業生で国士無双こくしむそうと呼ばれ、リューホー生徒会長の学園統一に多大な貢献をしたという先輩・カンシンの愛刀であったと伝わる逸品いっぴんだ。

 今、君に精鋭300を与え、その総司令官に任命する。

 そして、その総司令官のあかしとしてこのカンシンの木刀を与える。

 必ずソウソウを倒し、この地に平穏をもたらしてくれ」

つつしんでお受けいたします。

 このシュウユ、必ずやソウソウを打ち倒してみせます」

 シュウユはチュー坊の目の前まで歩み寄り、再びひざまずくと、その木刀をうやうやしく受け取った。

 チュー坊は木刀を渡し終えると、辺りを見回し、改めて口を開いた。

「それと開戦にあたり、僕はチュー坊の名前を改める。

 チュー坊の名では、幼い印象を与え、あなどりを受けるかもしれない。

 本名の呉孫権仲くれまご・よしなかの“孫”と“権”を取り、これより名をソンケンとする」

 その発言に重鎮じゅうちん・チョウショウが皆を代表してたずねる。

「チュー坊様…いえ、ソンケン様。

 それでは兄のソンケン様と同じ名前になってしまわれますが」

「僕は早くチュー坊の名を改めたかった。

 しかし、兄と同じ名前では、その威勢を利用しているようで躊躇ためらわれた。

 だが、今の僕なら、兄ソンケン、姉ソンサクの威勢を受け継ぎながら、なお、兄とは別の一人の男として立ち上がれる。

 そう思えたからこそ、あえて同じ名のソンケンを名乗る!」


 そのチュー坊改めソンケンの言葉に、い並ぶ群臣たちはひざまずいた。

 そして、再び群臣たちを代表するようにチョウショウが発言した。

「わかりました。

 それだけの決意をなされたのなら、我ら群臣一同、異論を挟む余地はございません。

 我ら一同、ソンケン様の名前と開戦の意志、確かに受けとりました」

「ありがとう。

 では、シュウユ、これより開戦準備に移ってくれ」

「はい、わかりました」

「そしてロシュク!」

 もはや全ては終わったと一段落していたロシュクは、名前を呼ばれて慌てて立ち上がった。

「は、はい」

「君にシュウユの参謀を命じる。

 ともにソウソウを打ち倒してくれ」

「ははっー!

 了承しました!」

 こうして東校舎の盟主・ソンケンは、ソウソウとの開戦を決定した。

 後に『赤壁せきへきの戦い』と呼ばれるこの戦いは、この学園の未来に大きな影響を及ぼすことになるのであった。
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