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第6部 西校舎攻略編
第116話 悶着!ソン姉弟!
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「実はうちとリュービは結婚を前提に付き合うことになったんよ!」
「え、えーーー!」
「え、えーーー!」
ツインテールに三日月の髪飾りをつけ、ミニスカートにブーツ姿で細身の訛口調の女生徒・ソンサクのまさかの発言に、俺とソンケンは同時に絶叫した。
「ちょっと待って!
なんでリュービさんまで驚いているんですか」
弟・ソンケンはそんな俺をギロリと睨む。
確かに当事者であるはずの俺が驚くのはおかしな話なのだが、俺だって今初めて聞いたんだから見逃して欲しい。しかし、ソンサクは必死に話を合わせてと、目で合図を送ってくる。
ソンサクには協力するといった手前、引くには引けない。やむなく俺はソンサクの話に合わせることとした。
「いや、実はそうなんだよ。
俺とソンサクは付き合うことになったんだよ。
今、ソンケン君に言うとは思わなくて驚いただけさ」
俺としては必死に取り繕ったつもりだが、まだ疑っているのかソンケンの睨む目は一向に俺から逸れない。
「ほ、ほんまじゃソンケン!
うちとリュービは付き合っとる!」
ソンサクは俺を庇うように間に入って話を進めだす。
「そもそも、うちとリュービの出会いはトータクが学園を支配し始めた頃じゃった…」
「姉さんの話は長そうなんでいいです。
それよりもリュービさんにお聞きします」
ソンケンの俺を睨む目はますます鋭くなり、真偽を確かめようと、グイと顔を近づけてくる。
「リュービさんにお訊ねします。
あなたにはカンウやチョーヒといった方がいるでしょう!
彼女たちとはどうなんですか!」
「い、いや、二人とも俺の義妹であって別に付き合ってるわけでは…」
カンウもチョーヒも俺の義妹だ。義妹なんだが、妙にしどろもどろに答えてしまって、返ってソンケンの疑惑を強める結果となってしまった。
思わず言葉に詰まってしまった俺を見かねて、ソンサクが良かれと思って助け舟を出す。
「ソンケン、リュービとカンウ・チョーヒが桃園の誓いをして義兄妹の契りをかわしたのは有名な話じゃ。聞いたことあるじゃろ?」
「姉さん、義兄妹の契りをかわすことと、恋愛関係になることは別の話ですよ。
それに、有名な話というなら、カンウ・チョーヒがリュービの恋人ではというのも有名な話でしょう」
ソンサクの助け舟はあっさりソンケンにかわされてしまった。しかし、俺たち兄妹のことは周囲にそういう風に言われてるのか。もう少し世間の目を気にした方がいいか。
「姉さん、これでわかりましたか!
リュービという男は女性にだらしなく、優柔不断で手ばかり早い奴なんです。
そんな奴に姉さんを任せることはできない!
だいたい、姉さんは男を見る目がないんだから、もっとじっくり考えるべきなんだ」
「ちょっとソンケン!
うちが男を見る目が無いってどういうことじゃ!」
ソンケンの説教じみた言葉に、ソンサクは腹を立てて食って掛かる。
ソンサクの嘘に付き合うつもりが、とんでもない姉弟喧嘩に巻き込まれてしまったようだ。
止めかねて、どうしたものかと思案していると、扉が開かれ、一人の女生徒が喧嘩お構いなしに顔を覗かせてきた。
「ソンケン、いるー?
お弁当作ったから一緒に食べましょ…あら?
リュービにソンサク、二人もいたのね」
その覗かせてきた顔には見覚えがある。
濃い紫の長い髪に、大きな金色のリボンをつけ、幼げな顔つきの女生徒、間違いない。
「お前は…エンジュツ!
なんでここに?」
そう、彼女はエンジュツ。かつて群雄の一人として名を馳せ、中央校舎を中心に勢力を拡大。生徒会長を自称し、俺やリョフ、ソウソウらと対立したが、最終的に俺に敗れ、以降、表舞台から姿を消していた。(※第三章、第四章参照)
「え、えーと、私はお邪魔だったかしら」
エンジュツはフフッと笑みを浮かべて、そのまま退出しようとするが、ソンサクは彼女を逃さなかった。
「待ち、エンジュツ。
お弁当ってなんじゃ!
エンジュツ、あんたにそんな乙女な甲斐性なかったじゃろ!」
「む、失礼ね!
私もその…ソンケンのためなら料理くらいするわよ」
頬を赤らめて、照れながら話すエンジュツのその顔は、戦った俺たちでは見ることのなかった表情だ。
「え、ソンケンのためなら?
もしかして二人って…え、そういうこと?」
俺の指摘にますます頬を紅潮させるエンジュツのその顔つきを見れば、二人の仲がただならぬものであることを察することができる。
そして、同じく察してしまったソンサクは、今度はソンケンに詰め寄っていった。
「ちょっとソンケン、どういうことなんじゃ!」
「え、えーと…ゴホン!
実は姉さん、僕はエンジュツとお付き合いさせていただいているんだ」
「な、なんじゃって!」
「もう、ソンケン言っちゃうんだから」
ソンケンの発言に、ソンサクは驚き、エンジュツは照れて返す。いや、二人が付き合ってるのは俺だって驚きだが。
「え、“あの”エンジュツと付き合ってるだって!」
「ちょっとリュービ、“あの”ってどういう意味よ!」
「いや、だって“あの”エンジュツだし…」
俺の言い回しに、エンジュツが噛みつく。しかし、俺はエンジュツとは敵対してたということもあるが、正直、あまりいい印象はない。
そして、それはソンサクも同じ思いであったようだ。
「そうじゃ、エンジュツ!
あんた行くところが無いって言うからここに置いてあげたのに、うちの弟に手を出すとはどういうことじゃ!」
「だって、しょうがないじゃない…
す、好きになっちゃったんだから」
「なに乙女の顔しとんじゃ!」
ソンサクの怒りは収まらないが、確かにエンジュツの顔は乙女のそれで、あの頃の俺たちでは到底見ることのできない表情だ。その表情を見れば本当に付き合ってるのが実感できる。だが、その顔はますますソンサクの火に油を注ぐこととなる。
「ソンケン、わかっとるん!
エンジュツという女は気難しくて、自分勝手で我儘ばかりの奴なんよ!
そんな奴はソンケンの相手に相応しくないんじゃ!
だいたい、ソンケンは女を見る目がないんじゃから、もっとじっくり考えなきゃいけんのよ!」
「ちょっと姉さん!
僕に女性を見る目が無いなんて言いすぎじゃないか!」
今度はソンケンがソンサクに責められる図となったが、ソンケンだって負けていない。
「姉さんのいうエンジュツのどうこうって話は昔のことだろ。
エンジュツには良いところもたくさんあるんだよ」
「あんたの言うリュービの話も噂レベルじゃろ!
実際のリュービにだって良いところはたくさんあるんじゃ!」
いよいよ姉弟喧嘩も過熱して、入る隙を見つけられない俺とエンジュツは取り残される形となった。
「まさか、エンジュツがソンケンのところにいたとはね」
俺はエンジュツに話しかけた。思えばエンジュツと直接話すのはいつ以来だろうか。
「あなたにやられた後、ソンサクに保護してもらったのよ。
チョウクンやキレイもここにいるわよ」
チョウクン、キレイはともに元エンジュツ配下で、最後までエンジュツと一緒にいた二人だ。
「あの二人もまだ一緒にいるのか。
そして、君は今やソンケンの彼女とは…」
「なによ、文句あるわけ?
あなただって、まさかソンサクと付き合うなんて思わなかったわよ」
「いや、俺のはまあ、その…」
「なによ、はっきりしないわね!
女の子にははっきり好きって言わなきゃダメよ。
ソンケンなんてよく私に…って何言わせるのよ!」
エンジュツはバシンと力強く俺の背中を叩く。なんで今、俺叩かれたんだ?
「イタタ…
君が勝手に言い出したんだろ」
「えーい、もういい!
とにかく、みんなの前ではっきりするよ!」
この姉弟喧嘩は、ソンサクの一声により第二ラウンドへと移行した。
「それで私たちを集めて、結局どういうことになったのですかな?」
事情もよくよくわからないまま集められたチョウショウら、ソンケン陣営の文官一同。ソンケンが会議の決定事項をソンサクに報告しに行ってきたはずなのに、どうやら事情が大きく変わってしまったようだという事は、なんとなく理解しているといった顔つきだ。
「えー、コホン。
うち、ソンサクこと呉孫咲香はこの度、リュービと結婚を前提に付き合うこととなりました」
「はっ?」
「そのために東校舎の盟主職を正式に弟・ソンケンに譲り、うちはリュービのもとに行こうと思うんじゃけど…」
「いや…いやいやお待ち下さい。
リュービと付き合う?いや、盟主を辞める?
これはどういうことでありましょうか?」
群臣たちの反応お構いなしに、つらつらと話を進めるソンサクに、臣下を代表してチョウショウが止めに入った。まあ、こんなことをいきなり言われても困るだろうから当然の反応と言える。
「どうもこうもないよ、突然、姉さんが訳の分からないこと言い出したんだ」
横で若干、不貞腐れ気味のソンケンが、チョウショウらに答える。
「そ、そうですな。
百歩譲ってソンサク様がリュービと付き合うのは良しとしても、何も盟主までお辞めになることはないのではありませんかな?」
ソンケンもチョウショウも、俺との交際自体納得しかねる様子だが、それを差し引いても盟主の引退までは必要ないといった面持ちだ。
「いや、うちがおらん間、ソンケンはうち以上に立派に盟主の責を果たしてくれた。
じゃからこそ、うちはソンケンに譲りたいんじゃ」
「では、ソンサク様とソンケン様、両人を盟主として、二頭体制で治めるというのは?」
ソンサクの意思が固いのを感じとり、群臣の一人が両者の間を取った妥協案を提示する。
しかし、この意見にソンサクは首を横に振った。
「盟主が二人いちゃ混乱の元じゃろう。
天に二つの太陽が無いように、一国に二人の君主はいらん。
ここの太陽はソンケンじゃ!」
元々、ソンサクの目的は盟主を引退して、ソンケンに任せるところにあった。俺と付き合うだのなんだのと余計な話がついたが、目的が引退である以上、彼女が二頭体制を認めるはずもなかった。
だが、そんなソンサクを見て、納得できかねるソンケンは、苛立ちを募らせて口を開いた。
「姉さんは勝手だ!
勝手に僕を盟主代理にして、今また勝手に盟主を引退しようとする」
「ソンケン、確かにこれはうちの始めたことで、それを全うせずにお前に譲ろうとするのは勝手じゃと思う。
じゃけど、あなたは東校舎を治め、見事ソウソウの脅威をはねのけた。
あなたの君主としての能力はうち以上じゃ。じゃから、うちはソンケンに譲りたいんじゃ」
「でも、僕より姉さんの方が強いじゃないか。
僕には姉さんのようになれないよ!」
「そうじゃね、この東校舎の軍勢を総動員して、群雄と直接、雌雄を決することに関してはうちの方が上手いじゃろう。
じゃけどね、部下を起用してその能力を活かし、この地を守ることに関してはあなたの方が上じゃ。
今、群雄の数が絞られ、ただ戦の勝敗だけでは生き残れなくなった。必要とされているのはあなたの力じゃ」
「…わかったよ。
僕で本当に大丈夫なのかわからないけど、姉さんがそこまで言うのなら盟主になるよ」
「ありがとう、ソンケン」
「では、ソンケン様が正式に盟主となられるということでよろしいですな」
「うん、どうかチョウショウたちは弟をよく助けてあげてね」
「では、ソンサク様はリュービの許に行かれるということなのですね…」
話を進めようとするチョウショウを、ソンサクは止めに入った。
「そうじゃけど、ちょっと待ち!
ソンサクの名前は有名になりすぎじゃ。
うちがこの名前を名乗るとソンケンの統治に支障があるじゃろうから、うちは名乗りを変えようと思うんよ」
ソンサクは自身の名のりの改名を提案した。確かに今や小覇王・ソンサクの名は学園中に轟いているから、ソンケンの作る新時代には、邪魔になるかもしれない。
「改名ですか?
よろしいですが、如何様に名乗られるのでしょうか」
「そうじゃなぁ…
名前が咲香じゃから…『香』の方をとってソンカ…じゃかぶるし…
うーん、小覇王…咲香…ショウ…カ…うん。
うちはこれから、小覇王の“小”と咲香の“香”を取って、ソンショウカ…いや、『香』を音読みして、“ソンショウコウ”と名乗ることにするよ!
ソンショウコウか、長い時はショウコウと呼んでね!」
「しかし、姉さん…」
「姉さんいうのもよくないように思うんよ。
今度からうちはソンケンの妹ということでどうじゃろ?」
「いや、それはさすがに勘弁してください」
「え、えーーー!」
「え、えーーー!」
ツインテールに三日月の髪飾りをつけ、ミニスカートにブーツ姿で細身の訛口調の女生徒・ソンサクのまさかの発言に、俺とソンケンは同時に絶叫した。
「ちょっと待って!
なんでリュービさんまで驚いているんですか」
弟・ソンケンはそんな俺をギロリと睨む。
確かに当事者であるはずの俺が驚くのはおかしな話なのだが、俺だって今初めて聞いたんだから見逃して欲しい。しかし、ソンサクは必死に話を合わせてと、目で合図を送ってくる。
ソンサクには協力するといった手前、引くには引けない。やむなく俺はソンサクの話に合わせることとした。
「いや、実はそうなんだよ。
俺とソンサクは付き合うことになったんだよ。
今、ソンケン君に言うとは思わなくて驚いただけさ」
俺としては必死に取り繕ったつもりだが、まだ疑っているのかソンケンの睨む目は一向に俺から逸れない。
「ほ、ほんまじゃソンケン!
うちとリュービは付き合っとる!」
ソンサクは俺を庇うように間に入って話を進めだす。
「そもそも、うちとリュービの出会いはトータクが学園を支配し始めた頃じゃった…」
「姉さんの話は長そうなんでいいです。
それよりもリュービさんにお聞きします」
ソンケンの俺を睨む目はますます鋭くなり、真偽を確かめようと、グイと顔を近づけてくる。
「リュービさんにお訊ねします。
あなたにはカンウやチョーヒといった方がいるでしょう!
彼女たちとはどうなんですか!」
「い、いや、二人とも俺の義妹であって別に付き合ってるわけでは…」
カンウもチョーヒも俺の義妹だ。義妹なんだが、妙にしどろもどろに答えてしまって、返ってソンケンの疑惑を強める結果となってしまった。
思わず言葉に詰まってしまった俺を見かねて、ソンサクが良かれと思って助け舟を出す。
「ソンケン、リュービとカンウ・チョーヒが桃園の誓いをして義兄妹の契りをかわしたのは有名な話じゃ。聞いたことあるじゃろ?」
「姉さん、義兄妹の契りをかわすことと、恋愛関係になることは別の話ですよ。
それに、有名な話というなら、カンウ・チョーヒがリュービの恋人ではというのも有名な話でしょう」
ソンサクの助け舟はあっさりソンケンにかわされてしまった。しかし、俺たち兄妹のことは周囲にそういう風に言われてるのか。もう少し世間の目を気にした方がいいか。
「姉さん、これでわかりましたか!
リュービという男は女性にだらしなく、優柔不断で手ばかり早い奴なんです。
そんな奴に姉さんを任せることはできない!
だいたい、姉さんは男を見る目がないんだから、もっとじっくり考えるべきなんだ」
「ちょっとソンケン!
うちが男を見る目が無いってどういうことじゃ!」
ソンケンの説教じみた言葉に、ソンサクは腹を立てて食って掛かる。
ソンサクの嘘に付き合うつもりが、とんでもない姉弟喧嘩に巻き込まれてしまったようだ。
止めかねて、どうしたものかと思案していると、扉が開かれ、一人の女生徒が喧嘩お構いなしに顔を覗かせてきた。
「ソンケン、いるー?
お弁当作ったから一緒に食べましょ…あら?
リュービにソンサク、二人もいたのね」
その覗かせてきた顔には見覚えがある。
濃い紫の長い髪に、大きな金色のリボンをつけ、幼げな顔つきの女生徒、間違いない。
「お前は…エンジュツ!
なんでここに?」
そう、彼女はエンジュツ。かつて群雄の一人として名を馳せ、中央校舎を中心に勢力を拡大。生徒会長を自称し、俺やリョフ、ソウソウらと対立したが、最終的に俺に敗れ、以降、表舞台から姿を消していた。(※第三章、第四章参照)
「え、えーと、私はお邪魔だったかしら」
エンジュツはフフッと笑みを浮かべて、そのまま退出しようとするが、ソンサクは彼女を逃さなかった。
「待ち、エンジュツ。
お弁当ってなんじゃ!
エンジュツ、あんたにそんな乙女な甲斐性なかったじゃろ!」
「む、失礼ね!
私もその…ソンケンのためなら料理くらいするわよ」
頬を赤らめて、照れながら話すエンジュツのその顔は、戦った俺たちでは見ることのなかった表情だ。
「え、ソンケンのためなら?
もしかして二人って…え、そういうこと?」
俺の指摘にますます頬を紅潮させるエンジュツのその顔つきを見れば、二人の仲がただならぬものであることを察することができる。
そして、同じく察してしまったソンサクは、今度はソンケンに詰め寄っていった。
「ちょっとソンケン、どういうことなんじゃ!」
「え、えーと…ゴホン!
実は姉さん、僕はエンジュツとお付き合いさせていただいているんだ」
「な、なんじゃって!」
「もう、ソンケン言っちゃうんだから」
ソンケンの発言に、ソンサクは驚き、エンジュツは照れて返す。いや、二人が付き合ってるのは俺だって驚きだが。
「え、“あの”エンジュツと付き合ってるだって!」
「ちょっとリュービ、“あの”ってどういう意味よ!」
「いや、だって“あの”エンジュツだし…」
俺の言い回しに、エンジュツが噛みつく。しかし、俺はエンジュツとは敵対してたということもあるが、正直、あまりいい印象はない。
そして、それはソンサクも同じ思いであったようだ。
「そうじゃ、エンジュツ!
あんた行くところが無いって言うからここに置いてあげたのに、うちの弟に手を出すとはどういうことじゃ!」
「だって、しょうがないじゃない…
す、好きになっちゃったんだから」
「なに乙女の顔しとんじゃ!」
ソンサクの怒りは収まらないが、確かにエンジュツの顔は乙女のそれで、あの頃の俺たちでは到底見ることのできない表情だ。その表情を見れば本当に付き合ってるのが実感できる。だが、その顔はますますソンサクの火に油を注ぐこととなる。
「ソンケン、わかっとるん!
エンジュツという女は気難しくて、自分勝手で我儘ばかりの奴なんよ!
そんな奴はソンケンの相手に相応しくないんじゃ!
だいたい、ソンケンは女を見る目がないんじゃから、もっとじっくり考えなきゃいけんのよ!」
「ちょっと姉さん!
僕に女性を見る目が無いなんて言いすぎじゃないか!」
今度はソンケンがソンサクに責められる図となったが、ソンケンだって負けていない。
「姉さんのいうエンジュツのどうこうって話は昔のことだろ。
エンジュツには良いところもたくさんあるんだよ」
「あんたの言うリュービの話も噂レベルじゃろ!
実際のリュービにだって良いところはたくさんあるんじゃ!」
いよいよ姉弟喧嘩も過熱して、入る隙を見つけられない俺とエンジュツは取り残される形となった。
「まさか、エンジュツがソンケンのところにいたとはね」
俺はエンジュツに話しかけた。思えばエンジュツと直接話すのはいつ以来だろうか。
「あなたにやられた後、ソンサクに保護してもらったのよ。
チョウクンやキレイもここにいるわよ」
チョウクン、キレイはともに元エンジュツ配下で、最後までエンジュツと一緒にいた二人だ。
「あの二人もまだ一緒にいるのか。
そして、君は今やソンケンの彼女とは…」
「なによ、文句あるわけ?
あなただって、まさかソンサクと付き合うなんて思わなかったわよ」
「いや、俺のはまあ、その…」
「なによ、はっきりしないわね!
女の子にははっきり好きって言わなきゃダメよ。
ソンケンなんてよく私に…って何言わせるのよ!」
エンジュツはバシンと力強く俺の背中を叩く。なんで今、俺叩かれたんだ?
「イタタ…
君が勝手に言い出したんだろ」
「えーい、もういい!
とにかく、みんなの前ではっきりするよ!」
この姉弟喧嘩は、ソンサクの一声により第二ラウンドへと移行した。
「それで私たちを集めて、結局どういうことになったのですかな?」
事情もよくよくわからないまま集められたチョウショウら、ソンケン陣営の文官一同。ソンケンが会議の決定事項をソンサクに報告しに行ってきたはずなのに、どうやら事情が大きく変わってしまったようだという事は、なんとなく理解しているといった顔つきだ。
「えー、コホン。
うち、ソンサクこと呉孫咲香はこの度、リュービと結婚を前提に付き合うこととなりました」
「はっ?」
「そのために東校舎の盟主職を正式に弟・ソンケンに譲り、うちはリュービのもとに行こうと思うんじゃけど…」
「いや…いやいやお待ち下さい。
リュービと付き合う?いや、盟主を辞める?
これはどういうことでありましょうか?」
群臣たちの反応お構いなしに、つらつらと話を進めるソンサクに、臣下を代表してチョウショウが止めに入った。まあ、こんなことをいきなり言われても困るだろうから当然の反応と言える。
「どうもこうもないよ、突然、姉さんが訳の分からないこと言い出したんだ」
横で若干、不貞腐れ気味のソンケンが、チョウショウらに答える。
「そ、そうですな。
百歩譲ってソンサク様がリュービと付き合うのは良しとしても、何も盟主までお辞めになることはないのではありませんかな?」
ソンケンもチョウショウも、俺との交際自体納得しかねる様子だが、それを差し引いても盟主の引退までは必要ないといった面持ちだ。
「いや、うちがおらん間、ソンケンはうち以上に立派に盟主の責を果たしてくれた。
じゃからこそ、うちはソンケンに譲りたいんじゃ」
「では、ソンサク様とソンケン様、両人を盟主として、二頭体制で治めるというのは?」
ソンサクの意思が固いのを感じとり、群臣の一人が両者の間を取った妥協案を提示する。
しかし、この意見にソンサクは首を横に振った。
「盟主が二人いちゃ混乱の元じゃろう。
天に二つの太陽が無いように、一国に二人の君主はいらん。
ここの太陽はソンケンじゃ!」
元々、ソンサクの目的は盟主を引退して、ソンケンに任せるところにあった。俺と付き合うだのなんだのと余計な話がついたが、目的が引退である以上、彼女が二頭体制を認めるはずもなかった。
だが、そんなソンサクを見て、納得できかねるソンケンは、苛立ちを募らせて口を開いた。
「姉さんは勝手だ!
勝手に僕を盟主代理にして、今また勝手に盟主を引退しようとする」
「ソンケン、確かにこれはうちの始めたことで、それを全うせずにお前に譲ろうとするのは勝手じゃと思う。
じゃけど、あなたは東校舎を治め、見事ソウソウの脅威をはねのけた。
あなたの君主としての能力はうち以上じゃ。じゃから、うちはソンケンに譲りたいんじゃ」
「でも、僕より姉さんの方が強いじゃないか。
僕には姉さんのようになれないよ!」
「そうじゃね、この東校舎の軍勢を総動員して、群雄と直接、雌雄を決することに関してはうちの方が上手いじゃろう。
じゃけどね、部下を起用してその能力を活かし、この地を守ることに関してはあなたの方が上じゃ。
今、群雄の数が絞られ、ただ戦の勝敗だけでは生き残れなくなった。必要とされているのはあなたの力じゃ」
「…わかったよ。
僕で本当に大丈夫なのかわからないけど、姉さんがそこまで言うのなら盟主になるよ」
「ありがとう、ソンケン」
「では、ソンケン様が正式に盟主となられるということでよろしいですな」
「うん、どうかチョウショウたちは弟をよく助けてあげてね」
「では、ソンサク様はリュービの許に行かれるということなのですね…」
話を進めようとするチョウショウを、ソンサクは止めに入った。
「そうじゃけど、ちょっと待ち!
ソンサクの名前は有名になりすぎじゃ。
うちがこの名前を名乗るとソンケンの統治に支障があるじゃろうから、うちは名乗りを変えようと思うんよ」
ソンサクは自身の名のりの改名を提案した。確かに今や小覇王・ソンサクの名は学園中に轟いているから、ソンケンの作る新時代には、邪魔になるかもしれない。
「改名ですか?
よろしいですが、如何様に名乗られるのでしょうか」
「そうじゃなぁ…
名前が咲香じゃから…『香』の方をとってソンカ…じゃかぶるし…
うーん、小覇王…咲香…ショウ…カ…うん。
うちはこれから、小覇王の“小”と咲香の“香”を取って、ソンショウカ…いや、『香』を音読みして、“ソンショウコウ”と名乗ることにするよ!
ソンショウコウか、長い時はショウコウと呼んでね!」
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