学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第6部 西校舎攻略編

第128話 錦旗!バチョウ快進撃!

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 西涼の大軍を側面から叩こうと、ソウソウ本隊は北へ大移動を開始した。

 だが、それは移動中、無防備な側面を敵にさらすということでもあった。

 それを絶好の機会ととらえた西涼せいりょう首魁しゅかい・カンスイは敵大将・ソウソウを捕らえんと、全軍による一斉攻撃を開始した。

 しかし、絶好の機会であるはずの出撃が、彼ら西涼せいりょう諸侯に絶望を与えるのであった。

「俺たちじゃ、届かねーっていうのかよ!」

 悲痛な絶叫がむなしくひびく。

 一斉攻撃を開始した西涼せいりょうのリョウコウたちであったが、防衛軍を指揮するチョーコーに軽くいなされ、相手との力量差に愕然がくぜんとするのであった。

 自分たち西涼せいりょう軍と、相手のソウソウ軍では力の差がありすぎる。誰も彼もがそれを肌で実感し、西涼せいりょう軍は絶望に包まれた。

 だが、その絶望の空気を一人の少女が撃ち破った。

 その者の名はバチョウ。

 そのなびく長い金髪は、光に反射でより一層美しく輝き、そのあおい瞳は、薄暗い校舎の中でも爛々らんらんと輝き、シルクのように白い肌は傷一つなく、着崩した制服に長いスカート、首や左腕にアクセサリーをつけたその美女こそ西涼せいりょう連合の盟主・バチョウその人であった。



「アタシがソウソウを倒す!」

 彼女は、立ちはだかる敵将・チョーコーに一撃を加え、羽毛のような軽さで天を舞い、いくたの西涼せいりょう兵がはばまれた敵の包囲を、難なく突破してみせた。

「そうはいかない!

 君がバチョウだな!

 ソウソウ会長の元には行かせはしない!」

 胸にバチョウの蹴りをくらった敵将・チョーコーだったが、すぐに態勢を立て直し、軍へ指揮を飛ばす。

 チョーコー指揮の下、一度は敵陣を突破したはずのバチョウの前に、みるみる人の防壁が作り上げられていった。その人壁はバチョウを囲み、徐々に彼女に迫ってきた。

「バチョウ、戻れ!

 お前一人じゃやられちまう! やられたら元も子もねーぞ!」

 敵に包囲されんとするバチョウに対し、西涼せいりょうのリョウコウは大声で叫んだ。それはかつての怒号とは全く声質の違う絶叫であった。

「心配するな、先は任せろ」

 バチョウは周囲を軽く見回すと、両腕をダラリとらし、目をつむった。

 周囲の敵兵は観念したのかと察して一斉にバチョウに襲いかかった。だが、次の瞬間、バチョウの体はその場より消え失せ、それと同時に敵兵の一人は宙へと吹き飛んだ。

 その一瞬の出来事に、皆の頭が追いつけぬ間に、爛爛らんらんと輝くあおい光が包囲する敵兵に次々と迫る。

 縦横にらぐ金色の髪に連動するかのように、包囲する敵兵は一人、また一人と弾丸のごと彼方かなたへと吹き飛ばされる。

 その光景に遠巻きに囲っていた敵兵たちは、獣でも見るかのような恐怖を抱き、自然と後退あとずさりを始めた。先ほどまで十重二十重とえはたえに囲まれていたはずのバチョウは、十数人を倒したところで、その包囲はほぼ瓦解がかいしてしまっていた。

「なるほど、我らに楯突たてつくだけの実力はあるようだな。

 だが、お前をこれ以上進ませるわけにはいかない!」

 崩壊した包囲の中心に進み出てきたのは、白い学生服を着用し、右腕にブレスレットを付け、緑色の髪を後ろに一つ結びにし、細長い木の棒を手にした細身の男子生徒、防衛の指揮官・チョーコーであった。

「私はソウソウ十傑衆の一人・“白騎士・チョーコー”

 私が相手になろう」

 チョーコーは手にした木棒もくぼうをバチョウに向けて構えた。だが、バチョウは依然いぜん、構える気配を見せない。

「邪魔だ、退け。

 アタシの相手はソウソウだ」

「良い度胸だ。だが、それを認めることは出来ん!」

 この女をソウソウ会長の元に行かせるわけにはいかない。

 そう思い、チョーコーは目にも止まらぬ速さで、バチョウに向けて木棒を突き出した。しかし、バチョウはヒラリと宙を舞うと、そのまま突き出された木棒の上に飛び乗り、さらには木棒を踏み台にしてチョーコーの頭上を軽々と飛び越えて背面に回る。そして、そのままチョーコーの背中を蹴り飛ばした。

 チョーコーは倒れそうになりながらも、木棒で地面を突いてその反動で振り返り、さらに反動の威力を乗せて木棒をバチョウに向けて繰り出した。

 だが、バチョウは咄嗟とっさかがんで、切り付けてくる木棒をかわすと、そのまま獣のように飛びかかり、胸に拳で一撃を与えた。

 胸の一撃によろめきながらも、チョーコーは木棒を振り回し、バチョウを引き離させた。

 ここまでの展開はバチョウ有利。

 しかし、敵将はソウソウ十傑衆のチョーコー。なかなか決定打を与えるまでには至らない。戦うバチョウの顔に若干じゃっかん苛立いらだちが見えた。

退け! ソウソウの元に行かせろ!」

「だから、行かせんと言っている!」

 戦いが長期化するかに見えたその時、バチョウの元に二人の男子生徒が駆けつけた。

わか、ここは私たちが引き受けましょう」

「バチョウは僕らに構わず、ソウソウのもとに」

 バチョウの元に駆けつけたのは、頭に羽飾りをつけ、ネイティブアメリカンのようなマントを羽織った部下のホートク。

 そして、学帽、片眼鏡を身に着けた従兄弟いとこのバタイ。

 その二人の出現に、バチョウは多少、安堵あんどの様子を見せた。

「わかった、任せるぞ。ホートク・バタイ」

「行かせるか!」

 すぐにバチョウの進行を止めようとチョーコーは素早く木棒を繰り出すが、部下のホートクは手にしていたトンファーでそれを受け止め、さらに従兄弟いとこのバタイが横から敵の胴体に蹴りを入れる。

 二人の連携に動きを封じられたすきに、金髪碧眼へきがんの美女・バチョウは壁を蹴り飛ばして天高く舞い上がり、そのまま敵兵頭上を飛び越えていった。

「バチョウを行かせるな!

 なんとしても捕らえろ!」

 チョーコーは必死で指示を飛ばすと、すぐにホートク・バタイに対して武器を構えた。

「悪いが、早急に終わらせる」

「私たちも負ける気はない」

 ホートク・バタイも構えたが、その後ろからバットを持った男が敵将・チョーコーに殴りかかった。

 それは西涼せいりょうの狂犬・リョウコウであった。

「リョウコウ殿!」

 ホートクの呼びかけに振り向きもせず、狂犬・リョウコウは敵将・チョーコーに向けてバットを振り上げた。

「間違いねー……バチョウこそ、天が与えた俺たちのやいばだ!

 俺はこれからバチョウのために動く!

 ここは俺らで食い止める!

 ホートク・バタイ! お前らは構わずバチョウの元に行け!

 絶対に倒させるんじゃねー!」

「わかった、リョウコウ殿、後は頼む!」

 チョーコーの相手は狂犬・リョウコウへと移された。

 だが、先ほどまでリョウコウらを軽くいなしていたチョーコーからすれば、今更、リョウコウ一人敵ではない。すぐに終わらせるつもりで木棒を構えた。

「私を食い止めるか。

 先ほどまで私にかなわなかったあなたが大口を叩くものだな」

「俺じゃかなわねーのは百も承知だ。

 だから、俺一人でやりゃしねーよ。

 者ども一斉にかかれ!」

 リョウコウの合図で、彼の部隊は一斉にチョーコー目掛けて攻めかかった。

「同じことだと言っている!」

 チョーコーはまた軽くいなすつもりで木棒を振るったが、リョウコウの兵の動きは、先ほどまでやられていた者と違っていた。

 先ほどまで各々おのおの勝手に攻めかかっていた彼らが、今は互いに協力し、チョーコーの動きをふうじこめることを第一にした戦い方へと変わっていた。

「俺たちは弱え、それは認める!

 だから、オメーら協力しろ!

 全員で力を合わせてそいつを止めろ!」

「先ほどただ闇雲に突撃していた兵が連携するようになったか!

 これだけの間に!」

「この乱の主役は誰か、誰のために何をすべきか。それに気づいたのよ!

 さあ、今のうちに行け、ホートク・バタイ!」

 元々、兵の数は西涼軍の方がチョーコー軍より圧倒的に多い。ただそれまでは一人一人が闇雲に突っ込むだけであったので、いくらも対処が出来きた。だが、連携されてはさすがのチョーコーも手に余る。

 彼はせめて防衛戦が崩壊しないよう必死に指示を飛ばした。そのすきにホートク・バタイは後方へとすり抜けていったが、チョーコーにはそれを止めるほどの余裕はなかった。




 西涼陣営・カンスイ本陣~

 バチョウらがソウソウ軍に攻めかかっている頃、その後方、本陣にカウボーイハットをかぶった男子生徒、この乱の首謀者・カンスイはいた。彼は前線の指揮を部下のエンコウに任せ、自身は全体の指揮に専念していた。

 その彼の元に一人の女生徒が報告に走る。

 頭を包むボンネットタイプの帽子にクラシカルなドレス姿の彼女はの名はセイコウエイ。カンスイを武勇で支える部下がエンコウなら、知略で支えるのがこのセイコウエイであった。

「カンスイ様、前線より報告です。

 バチョウ様は敵の第一の包囲を突破、これに我が軍は勢いづき、戦局は我らの有利に傾いております。」

 あくまで報告ということで淡々と話すセイコウエイだが、その言葉の端々はしばしに喜色がにじみ出、前線の活気が伝わってくるようであった。

 だが、その報告を受けても、カンスイの態度はあくまで冷静。感情の変化は一切見せなかった。

「まだ、ソウソウを捕えてはいない以上、油断はできぬが、立ち上がりは上々だな。

 バチョウは俺が見込んだ以上の成果を上げたようだ」

 自身も淡々と伝えたが、それ以上に冷淡な態度のカンスイに、もう少し喜んでも良いのではと思い、部下のセイコウエイは少し言葉を付け足した。

「これまで、二度、ジョコー軍にあしらわれ、我らの士気は低下しておりました。

 この度のバチョウ様の働きはそれを払拭ふっしょくするに余りあるものかと思われます」

「そうだな。バチョウにはそれだけの力がある。

 そういえば、奴の二つ名がまだついていなかったな」

 カンスイはふと思い出したかのように言った。

 カンスイの荒野の梟雄きょうゆう、リョウコウの狂犬のように西涼せいりょうの番長の多くは周囲から二つ名がつけられ、恐れられていた。だが、入学して間もないバチョウにはいまだ二つ名はなかった。

「ここまで活躍したのだから、自然と二つ名がつくだろうが、あまり変なのでは格好がつかない。

 今のうちに俺がつけてやろう。

 セイコウエイよ、お前ならバチョウになんとつけるか?」

 カンスイはかたわらに立つ部下のセイコウエイに尋ねた。

「そうですね……バチョウの一撃は敵を貫きました。西涼せいりょうの槍や矛ではいかがでしょうか?」

 咄嗟とっさに聞かれたセイコウエイは、内心無難だなと思いつつ、適当な候補を挙げた。

「ふむ、悪くはないが……足りぬな。

 西涼せいりょうにとってバチョウは存在の証明だ」

 難解な言い方をするカンスイに、今度はセイコウエイが尋ねた。

「存在の証明……?

 西涼せいりょうがあるからバチョウがいるという意味ですか?」

「逆だ。

 バチョウがいるから西涼せいりょうがある」

「それは……」

 予想外の規模の大きな話に、思わずセイコウエイは息を呑む。

 だが、カンスイは構わず話を続ける。

「今やバチョウそのものが西涼せいりょうの存在を証明している。

 バチョウの存在そのものがこの乱の正当性を証明しているのだ」

 カンスイは一息つき、バチョウがいるであろう方向へ目をやった。

「ソウソウは生徒会をにしき御旗みはたに掲げ、我らの支配下に置こうとしている。

 ならば、我らはバチョウをにしき御旗みはたに掲げ、あらがうのだ。

 我らのにしき御旗みはたはバチョウ!

 にしきのバチョウ、“きんバチョウ”!

 それがあやつの二つ名だ!」




 一方、“きんバチョウ”に攻められる側、生徒会をにしき御旗みはたに掲げるソウソウの本隊では、粛々しゅくしゅくと兵の北への移動が行われていた。

 赤みがかった長い黒髪と同色の瞳、き通るほどの白い肌、スラリとしたモデルの様な体型、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカート姿の生徒会長・ソウソウは、自ら最後尾に身を起き、陣頭指揮を行って、自軍の兵を順番に渡り廊下を渡らせていた。



「ソウソウ会長、既に後方では戦闘が始まったようです。

 このままでは兵の移動が完了する前に敵がここまで来るかもしれません。

 移動を急がせるべきではありませんか」

 陣頭指揮をるソウソウの後ろに立つせた男が、焦った様子で彼女に進言する。

 このせた男の名はトーホ。元リュウヒョウ配下で、今はソウソウのもとで秘書の一人として働いている。

「無理を言うなよ、トーホ。

 大人数の移動は押さない、駆けない、喋らない、だ。

 あせってかせば、混乱が生まれ、返って遅くなるものだ。

 問題を起こさず移動するのが、結局一番早い」

 既に後方の喧騒けんそうはソウソウの耳にも届くほどの距離となっていた。

 だが、あせる秘書・トーホの意見に、ソウソウはあくまで冷静に返す。

「ならば、せめてソウソウ会長だけでも先に渡り廊下を渡っておいてください。

 指揮なら他の者でもれます。

 ここに残られるのは危険です」

 その秘書・トーホの言葉に、ソウソウはフッと笑う。

「それこそ無理な話だ。

 私が我先に移動すれば、ここは危険なのかと兵の心が動揺してしまう。少しでも心に動揺が生じれば、わずかなことにも取り乱し、あっという間に部隊の秩序が崩壊しかねない。

 それこそ返って危険な状態を招くことになってしまう」

「しかし、ソウソウ会長の身にもしものことがあれば……」

 秘書・トーホは本気で心配する様子でソウソウに告げる。

 ソウソウはこの軍の指揮官であると同時にこの全軍の総大将でもあり、学園の生徒会長でもある。万が一の事態なんて決してあってはならない。それはトーホのみならず、ソウソウ陣営の総意と言えた。

「お前の気持ちはもう。

 だが、人の上に立つ以上、如何いかなる事態が起ころうとあせってはならない。

 あせりはすぐに部下に伝わる。

 お前もあまり焦りの気持ちを外に出すなよ、トー……」

 それは一瞬の出来事であった。

 ソウソウが後ろに立つトーホの方へと振り返ろうとしたまさにその瞬間、トーホの体は宙を舞い、彼方かなたへと吹き飛ばされていた。

「……ホ」

 ソウソウが彼の名前を言い終わったその時、それまでトーホのいた場所には全く別のものが立っていた。

 金色のたてがみたたえ、あお色の眼光で射抜き、前身より殺気を放つ一頭のけもの

 自身の瞳にけもののように映るそのものは言葉を発した。

「お前がソウソウだな」

 その一言を、ソウソウは何事もないかのような態度で受け止めた。

「……お前がバチョウか。

 よく来た」

 ここに両雄、ついに対面す。



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