学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第6部 西校舎攻略編

第132話 掌上!バチョウの疑心!

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 バチョウらの奇襲が失敗に終わり、バチョウ、カンスイの間に亀裂きれつが入ってからいくらかの時間が流れた。

 この間、ソウソウ軍は依然として徐々に西涼せいりょう陣営に向けて移動しているのに対し、西涼せいりょう軍は何も行動を起こさなかった。

 前の敗戦の反省から、カンスイは無闇な出撃を禁じ、バチョウも積極的な攻勢を主張しなくなっていた。そのために他の西涼せいりょう諸将も次第に消極的になり、陣内に厭戦えんせん気分が蔓延まんえんした。

 そんな状態の中で、ソウソウ軍とは一旦講和しようという議題が上がるのは自然な流れであった。

 だが、その講和条件を巡り、西涼せいりょう陣営は大きく分かれることとなった。

「ダメだ!

 アタシたちは今この場所までを支配下に置いている。西北校舎からこの中央校舎の半ばまでをアタシたちの領土として譲渡するよう主張すべきだ!」

「バチョウよ、それでは講和交渉になるまい」

 長い金髪に、あおい瞳、輝く白い肌の美少女、この連合軍の盟主・バチョウは講和条件にも強気な姿勢を崩さず、対して講和を成立させたい、カウボーイハットをかぶった厳つい男子生徒、この乱の首謀者・カンスイと意見が対立した。



「なんだと!」

「お前はいちいち拳を握らねば会話もできんのか!」

 本来なら和平交渉の中心となるべき連合盟主のバチョウ、カンスイがその講和の条件を巡っての対立は、会議を止めるのに充分であった。

 まだ戦う意志のあるバチョウは、その講和条件として、今この時点で西涼せいりょう軍が駐屯している地点から西北校舎までを生徒会不可侵の領土として認めさせるよう主張した。

 しかし、これでは西北校舎に加えて、以前のソウソウ領であった中央校舎の西側までも譲れということであり、到底、ソウソウが受け入れるとは思えない。そう考えるカンスイは、西北校舎の自治権のみを条件にするよう主張した。

 バチョウとカンスイを中心に、西涼せいりょう陣営の意見も真っ二つに別れ、話は平行線となった。やむなく、ソウソウに対しては休戦の提案をするのみに止め、具体的な講和条件については後日という形で落ち着いた。

「全く、バチョウの奴め……」

 無駄な会議を終え、自陣の教室に戻ったカウボーイスタイルの男子生徒・カンスイは席に座り嘆息たんそくする。その言葉に、横にはべる彼の文官、ボンネットタイプの帽子にクラシカルなドレス姿の女生徒・セイコウエイが応じる。

「バチョウは講和自体には賛成のようですが、条件はとてもソウソウが飲むとは思えませんね」

 その言葉にカンスイは少し声を荒らげながら返す。

「奴は講和する気なぞないわ。

 今回の士気の低下はバチョウの無断出撃した挙げ句の敗北に起因している。その負い目があるから賛同しているだけで、本心では講和の話が流れても構わないと思っているのよ。

 他の連中にしてもそうだ」

 ブツブツと言葉を続けるカンスイのなげきに、部下のセイコウエイはメモに目をやりながら答える。

「講和条件を西北校舎の自立のみとされるのがカンスイ様、その意見に積極的支持なのがヨーシュー、消極的支持がセーギ。

 西北に加え、中央校舎西部まで範囲に組み込もうとされているのがバチョウ、その意見に積極的支持がリョウコウ、消極的支持がテーギン、コーセン、リカンのお三方といったところですね」

「消極的支持の連中は当てにならん。

 どいつもこいつも内心ではまだ戦いたいと思っとる。だが、自分の実力ではソウソウに敵わんことも知っておる。

 結局、バチョウに頼るしかない。バチョウが勝てそうなら戦うし、負けそうならやめる。どう判断するかで意見なんてすぐ変わるだろうよ」

 カンスイは足を机の上に乗せ、悪態をつくかのような態度でそう言った。その様子に部下のセイコウエイは自身の提案を述べる。

「ならば、バチョウを消極的支持をしているお三方に利害をいてこちらにつけてはどうでしょう」

 だが、この意見にカンスイは首を横に振りながら答える。

「多数決で決まる話ならそうもする。

 向こうはバチョウにリョウコウと、この陣営きっての武闘派だ。二人だけになったとしてもとても受け入れまい。

 対してこちらの支持者はヨーシュー。あの頭の悪い知恵者気取りでは、下手に喋らせばこちらの支持を失いかねん」

「ソウソウに対してはどうしますか?

 今は停戦の申し出を受けてくれていますが、いい加減、交渉を先に進まねば、しびれを切らしかねません」

「仕方がない。バチョウのことを正直に話そう。

 バチョウに反感を持たれても構わんが、こちらまで反感を買うのは得策ではない。

 それで向こうが多少でも譲歩してくれれぼもうけものだしな」

「わかりました。そのように致しましょう」

 カンスイの指示の元、講和についてまとめた手紙をソウソウへ送ると、その返礼の使者がやってきた。カンスイら連合軍の盟友たちは全員でそれを出迎えた。

 ソウソウよりの使者が伝令を伝える。

「ソウソウ会長は講和についてはよくわかったと申しております。

 ついては講和について、より話を詰めていくために、カンスイ殿と二人のみでの“首脳会談”を行いたいと希望されております」

 その使者の言葉に、思わずバチョウは立ち上がって講義する。

「待て!

 カンスイと二人で“首脳”会談を行うとはどういうことだ!

 この乱の盟主はこのバチョウだ! その盟主が参加しないのが“首脳”会談であるものか!」

 バチョウは烈火れっかの如く怒り散らして使者に詰め寄るが、使者は困惑しながらも、あくまでソウソウの言葉であることを強調した。

「そう言われましても、私は使者なので、ソウソウ会長のお言葉を伝えることしかできません」

「ならば、アタシを含めた三者会談で良いだろう!」

「できません。ソウソウ会長ははっきりと、カンスイ殿とのみの首脳会談が行いたいと申されております。

 バチョウ殿の名はうけたまわっておりません」

「なんだと!」

 思わず手を出そうとするバチョウを、カンスイは止めた。

「まあ、落ち着けバチョウ。

 講和のやり取りは俺が行っているのだから、俺が行くのが筋だろう。

 ソウソウの誰と話をすればよいか、よくわかっているじゃないか」

 その言葉にバチョウは今度はカンスイに食って掛かる。

「アタシでは務まらないというのか!」

「役割分担ということだよ!」

 またも両者の会話が熱をびだしたのを見て、恰幅かっぷくのよい男子生徒、同じく連合軍の一人・セーギが仲裁に入る。

「まあ、二人とも落ち着くんじゃ。

 とにかく、ソウソウがカンスイを指名しとる以上、変更は難しかろう。ここは応じようぞ。

 会談は二人きりとはいえ、その手前まで軍が同行するのが習わしじゃ。バチョウはその軍とともに行くというのはどうかな?」

「……わかった。そうしよう。

 カンスイの軍にアタシも同行する。問題はないな」

 カンスイもその提案に応じ、それを聞くとバチョウは準備だと言って、美しい金髪をひるがえし、自陣へと戻っていった。

 それを見送ると、カンスイはため息混じりにセーギに礼を言った。

「助かったぞ、セーギ。

 しかし、バチョウめ。余計なことを考えねばよいのだが……」

「余計なことをじゃと?」

 カンスイは心配そうにバチョウがいるであろう方向に目を向けた。



 日を改めて、両陣営の首脳会談が開かれた。

 互いの陣営の前に両軍の兵士がズラリと並び、その中央の地を目指し、三人ずつが前に進み出た。

 西涼せいりょう陣営からは先頭に乱の首謀者・カンスイ、その両脇に陣営の盟主・バチョウとカンスイの部下・エンコウの三名。

 ソウソウ陣営からは先頭に生徒会長・ソウソウ、その両脇に親衛隊長・キョチョ、参謀のカクの三名。

 その各三名が両陣中央にて顔を合わせた。

 顔を見るなり、赤黒い髪と瞳、胸元を大きく開いた服に、へそ出しミニスカートの生徒会長・ソウソウが、驚くほど気さくな態度で、カンスイらに話しかけた。



「よく来られたカンスイ殿。

 それにバチョウ殿と……」

 ソウソウの目が脇のエンコウに移ると、彼は自発的に自己紹介を始めようとした。

「お初にお目にかかります。私はカンスイの部下の……」

 だが、その言葉をソウソウはさえぎった。

「知っているよ。

 エンコウだろう。西涼随一せいりょうずいいちの武勇の持ち主として君の名は中央校舎にまで響いているよ」

「わ、私のことまでご存知とは……。恐れ入ります」

 眼帯の男・エンコウは西涼せいりょうではその武勇でよく知られた生徒だ。しかし、それはカンスイの部下の中ではの話で、まさか、生徒会長が自分の名まで知っているとは思ってもいなかった。

 だが、ソウソウはエンコウの肩を叩き、友人のように親しげに彼に語りかけた。

「君ほどの実力者なら知っていて当然さ。

 君のような人材なら是非にも我が陣営に欲しいものだ」

「滅相もないことです」

 照れて目をらす部下のエンコウを見て、カンスイはゴホンとせき払いして、ソウソウをたしなめる。

「おいおい、ソウソウ殿。

 人の部下を眼の前で口説かないでもらえるかね」

「ハハハ、すまんな。

 ところで、カンスイよ。

 後ろにいるのは西北の生徒たちか?」

 ソウソウの視線は今度はカンスイらの後ろの生徒へと向けられた。

「はい、皆私の部下でございます」

 その言葉にソウソウの赤黒い目が怪しく光る。

「いや……何人か他校の生徒がいるな」

 ソウソウの言葉にカンスイはギクリとした。彼は少しでも数を多く見せようと、自分の軍隊に他校の生徒を混じえていたのだが、制服を着ているわけでもないので、まさか見破られるとは思っていなかった。だが、ソウソウはそれを一発で見抜いた。

「も、申し訳ありません。どうしてもソウソウ会長のお姿を一目みたいと言われてので……」

「そうか、私が見たかったのか」

 そう言うとソウソウはそのまま後ろのカンスイ軍に向かって歩き出した。

「ソウソウ会長、どちらに?」

「挨拶だよ」

 ソウソウは軍隊の前に身一つで立つと、大音声だいおんじょうでカンスイ軍に呼びかけた。

「お前たち! わざわざソウソウを見に来たのなら、とくと見よ。

 しかし、私はお前たちと同じ人間だぞ。目が四つ、口が二つあるわけではない。

 ただ、人より知恵と、美貌びぼうがあるだけだ」

 そう言い、ソウソウはその場でクルリと回って見せ、その様子に衆人はヤンヤと喝采かっさいをあげ、それを背後に抱えて再びソウソウはカンスイらの元に戻ってきた。

「さて、ではここから、首脳会談を始めようか」

 そのあまりに堂々とした態度に思わずカンスイはうなった。

「おお、これが生徒会長・ソウソウか」

 その様子にソウソウはニヤリと笑った。

「では、私とカンスイはそこの中庭で話をさせてもらう。それ以外の者はここで待っていてくれ」

 ソウソウ・カンスイの二人は廊下から離れ、中庭へと場所を移した。

「さて、ソウソウ殿、わざわざ私を呼び出したということは講和のことであろうな。条件についてなのだが…」

 早速、本題に入ろうとするカンスイの言葉を、ソウソウはさえぎった。

「まあ、そうあせるなよ、カンスイ。

 私たちは以前に会ったことがあるのだが、覚えているかな?

 あれは私が一年生の頃、生徒会に同行して西涼せいりょう校を訪問した時であった……」

 突然の思い出話にカンスイは内心どういうつもりかといぶかしんだ。だが、せっかく向こうから親睦しんぼくを深めようとしてくれているのに、無碍むげにするわけにもいかんだろうとソウソウの話に乗っかった。

 幸い、ソウソウのことは覚えていたので、苦もなく会話を続けることができた。

「そんなこともありましたな。

 別段、言葉をわしたりはしませんでしたが、あなたは今と変わらぬ目立つ身なりであってのでよく覚えております」

「ハッハッハ、私の身なりをどうこう言う者もいるが、存外、役に立つものだな」

「ハッハ、全くそうですな」

 二人が雑談にきょうじている頃、バチョウはそれを遠くから眺めていた。

 場所が眼の前の中庭ということで、二人の姿は見ることができる。しかし、その会話内容までは聞き取ることができない。ただ、時折、両者の笑い声が漏れ聞こえてくるのが、バチョウの心をき乱した。

(何の話をしている?

 講和条件で笑うことがあるのか? ソウソウとはあんなににこやかに笑う女であったか? 何故、カンスイまで笑っている?

 二人は何の話をしているのだ……?)

 その内容に少しでも耳を傾けんと、徐々にバチョウは前のめりになっていった。

「バチョウ、身を乗り出し過ぎだ」

 バチョウの姿勢をたしなめたのは、ソウソウの親衛隊長、小柄な空手着の少女・キョチョであった。

「すまない」

 指摘を受けたバチョウは元の直立姿勢に戻った。

 思えば不思議な構図だなと、バチョウは思った。先日、命懸けの激闘を繰り広げた相手が、今、真横に立っている。

 両者視線はソウソウ・カンスイに向け、互いを見ることはないが、共にその一挙手一投足に最大の注意を払っている。隙あらばこの場でソウソウを害しようとも考えていたバチョウであったが、キョチョは視線をソウソウに向けながらも、バチョウへの注意は一切途切れることがなかった。

(ソウソウを倒そうとして、このキョチョに背中を見せることはできんな……)

 会談中、このキョチョが集中力を途切れさせることはないだろうと、観念してバチョウは隣の彼女に話しかけた。

「ソウソウを守る愚直な虎がいると聞いたことがある。その虎に噛みつかれたら最期、死ぬまで決して離さぬと。

 虎とは貴公のことか?」

 キョチョはバチョウの方を向くことなく答えた。

「そう呼ぶ者もいる。

 ソウソウ会長の身に危害を及ぼす者あらば決して許さんのも事実だ」

「なるほど」

「だから、次があると思うなよ」

「君が虎ならアタシは獅子ししだ。

 アタシの牙も決して獲物から離さん。

 だが、今は虎の君に敬意を払おう」

「ならば、私もこの場では牙をつつしもう」

 バチョウとキョチョ、一切目線を交えぬ両者の淡々とした会話が一段落した頃、ソウソウ・カンスイが会談を終えたのか、こちらに戻ってきた。

「カンスイ、楽しい一時であったが、時間が来てしまった。この先のことは手紙を寄こそう」

「はい、わかりました」

 そうほがらかに話すソウソウに対し、一体、どんな会話ならあんな表情になるのかと、バチョウは内心疑問に思った。

 なので、ソウソウらがそのまま引き上げると、バチョウはすぐさまカンスイに問い詰めた。

「カンスイ、あなたはソウソウと何を話した?」

「ただ、雑談をしただけだ」

 カンスイは正直に答えたのだが、バチョウはそれで納得することはできなかった。

「ふざけるな!

 わざわざ首脳会談を開いて雑談で終わるはずがないだろう!」

「本当に雑談だけで時間が終わってしまったのだ。

 だから、続きは書簡で送ると言ってきた」

「あくまで白を切るのか……」

 ソウソウ・カンスイの首脳会談は、バチョウの怒りと疑惑をさらに深める結果となった。




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