190 / 223
第6部 西校舎攻略編
第156話 意地!チョウジンの秘策!
しおりを挟む
西校舎を手に入れるため、俺たちリュービ軍は盟主・リュウショウが本拠地としている美術室を目指した。だが、そこまでの道中に三つの砦があった。
第一の砦は、新軍師・ホーヨウの策で敵将・ゴイらを寝返らせて陥落。
第二の砦でも、敵将・リゲンを味方につけ、彼女の策略で陥落させた。
これにより残る砦は後一つとなった。
「残る第三の砦の守備隊長はリュウジュン。これに恐らく第二の砦を追われたリュウカイ・チョウジンの軍が合流したものと思われます」
元リュウショウ配下の、帽子に片眼鏡、厚手のコートを着た女生徒、新軍師・ホーセーが校舎の見取り図を手に、俺たちに説明してくれる。
「このリュウジュンは、西校舎盟主・リュウショウの実弟にあたります。
これまで敵の総指揮はリュウカイが執っておりましたが、今までの二度の敗戦の責もあります。恐らく、敵の事実上の総指揮はこのリュウジュンが代わって執ると思います」
ホーセーの言葉に俺も頷く。
リュウカイは盟主・リュウショウの従弟で、これまで全軍の指揮を執ってきた。だが、今まで敗戦を重ねるばかりで手柄はない。次の砦にリュウショウの弟がいるのであれば、総指揮官が交代するのは充分考えられることだ。
俺は続けてホーセーに尋ねた。
「ふむ、それで、そのリュウジュンというのはどういう人物なんだ?」
「一言で言うなら凡庸。
度肝を抜くような奇策を出してくる相手ではありません。しかし、馬鹿でもありません。
リュウジュンは実弟だけあって率いる兵も多くいます。その上、あの砦は本拠地までの最後の防衛基地だけあって、防備も充実しています。
恐らく、手堅く守りを固めて、攻めるのは苦労するかと思われます」
「なるほど、兵も多く、手堅く守られた砦を正攻法で落とすのは大変だな」
その話を聞いて俺は額に手をやり、考え込んだ。
難攻不落の砦を多数の兵で堅実に守る。一見、普通のことに見えて、実はこれが一番厄介な防衛策だ。敵が策を使えば、それを利用する手もある。だが、ただただ守られては、こちらも正攻法で攻めるしか無く、敵の兵も多ければ、それだけ時間もかかる。
あまり時間をかけたくない俺は、何か策を使えないかと、再びホーセーに尋ねた。
「前の二戦のように寝返り工作は難しいか?
リュウジュンは弟、リュウカイも確か従弟だったな。親族を寝返らせるのは難しいかもしれないが、例えばともに籠もるチョウジンはどうだ。寝返りに応じそうか?」
寝返りに応じてくれれば、まだ攻略はできるはずだ。だが、これを聞いたホーセーは首を横に振った。
「チョウジンは犬のように忠義な男です。今までの敗戦で脱落しなかったことから見ても、説得するよは難しいかと」
確かにホーセーの言う通り、ここまで残ったことから見ても、チョウジンは相当な忠義者と考えるべきだろう。
「そうか。
うーん、これは時間がかかりそうだな」
どうも、今回はかなり手強そうだ。
やむを得ないので、俺は次の策を提案することにした。
「よし、作戦を最終段階に移そう。
今のうちに南校舎からコウメイらを呼び寄せよう。南校舎の兵力を俺たちの軍に合流させて、大兵力でもって一気にこの砦を落とそう」
俺が提案したのは援軍を呼び寄せることだ。
今、南校舎には防衛のために軍師のコウメイ、武将のカンウ・チョーヒ・チョーウンら我が軍の主力を残している。その全てを連れてくることはできないが、そこから援軍を出し、まだ手付かずの西校舎の東側を攻略してもらうのが、最終段階の作戦だ。
援軍は東部攻略後、俺たちの軍に合流してくれれば、充分な兵力になる。それを使って、この第三砦、さらに敵の本拠地を攻める事ができる。
これは事前にコウメイと取り決めていた策でもある。俺たちの軍だけで西校舎全域を攻略するのは難しい。俺たちがある程度活躍し、敵の目をこちらに向けたところで、東からコウメイらの援軍が侵攻していく。これが今回の西校舎攻略の最終段階の作戦であった。
「敵の本拠地が目前なら、作戦も最終段階に移行してもいいだろう。コウメイらを援軍に呼ぼう」
そう俺が告げると、ヒャハハという笑い声とともに、伸びた前髪で左目が隠れ、口に楊枝を咥え、着物を着た、風来坊のような身なりの小柄な少女、コウメイと並ぶ軍師・ホウトウがやってきた。
彼女はニヤリと笑いながら話し出した。
「ヒャハハ、コウメイを呼ぶのは良ござんす。
ですがね、しかし、到着までとなると時間がかかるでござんしょう。
それはそれとして、やはり、我らであの砦は攻略すべきでしょう」
「それはそうだが、しかし、どうする?」
こういうからにはホウトウに何か策があるのだろう。俺は彼女に聞き返した。
「既に我らは二つの砦を攻め落とし、加えた兵力は膨大でござんす。ならば、この大兵力で敵を包囲し、敵を威圧しやしょう。
敵のリュウカイは臆病な男と聞きます。これまでの敗戦で充分肝を冷やしておりましょう。
ですから、大兵力で包囲されたとあっちゃあ、いよいよ戦意は消え失せて、降伏してくることでありやしょう」
ホウトウの提案した、これまでの降伏兵を投入し、大兵力で包囲せよという策。確かにその大兵力で包囲できれば敵もビビるだろう。だが、それを実行できぬ事情もあった。
「待て、ホウトウ。
大兵力と言うが、これまでの投降兵の多くは落とした砦の防衛に配置してきた。その砦を放棄するわけにもいかない。
今、ここには敵を包囲するほどの大兵力は残って無いぞ」
これまで投降してきた部隊の多くは手に入れた領土の防衛に使っている。今手元にいる兵も少なくは無いが、それでも敵を包囲するには足りない。この数で敵を包囲すれば、兵力が分散してしまい、威圧するどころか、返って甜められてしまう。
だが、その事情は兵の配備にも携わっているホウトウには百も承知。すぐに彼女は説明を始めた。
「わかっとりやす。
要は敵が大兵力で包囲されたと思い込めば良いのでありやすよ。
リュービ軍がこれまでの投降兵を総動員した大兵力で砦を包囲するぞ、さらに南校舎から大援軍がやってくるぞと噂を流しやす。
その間にあっしがコーチュー・タクヨーの先鋒軍を率いて砦の背後に回りやしょう。そして、正面からのリュービ軍と背後のあっしの軍で砦を攻めやす。
こうすれば、二方面からの挟み撃ちが、敵にはあたかも大兵力に包囲されたように錯覚させることができやす」
確かにホウトウの策なら、兵を分散させずに、大兵力で包囲しているように見せかけることが出来るかもしれない。だが、気がかりもある。
「なるほど、しかし、バレないかな?」
「敵が固く守っている間は、外を確認するのは難しいでござんしょう。それに我らはバレないように攻める方向を少しずつ変えていけばいいのです。
もし、敵が確認しようと打って出たなら、それこそ敵の戦力を削ぐ好機!」
「うーん、確かにそうだな。
敵が防御を固めているから困っているのであって、出てくるなら対策が打てる。
よし、その策で行こう!」
俺はホウトウの策にのり、この見せかけの包囲作戦を開始した。
~~~
リュウショウ陣営・第三の砦~
今やリュウショウの籠もる美術室まで、文字通り最後の砦となったこの教室に、リュウショウの弟・リュウジュン以下、リュウカイ・チョウジンの三将が集まっていた。
「まさか、こんなに早くここまで攻めてくるとはな……」
そう語るのはリュウショウの弟・リュウジュン。彼はリュウショウの温和な顔つきによく似た容姿で、彼をそのまま痩せさせたような見た目であった。
「それで、そんなに強いのか、リュービ軍は?」
弟・リュウジュンの質問に答えるのは、これまで討伐軍の総指揮を執ってきたリュウカイ。彼はリュウショウ・リュウジュン兄弟の従兄弟でもあった。
「ああ、強いなんてもんじゃない。我らの敗因は裏切り者が出たこともあるが、実際、リュービ軍とは真正面に向かって勝てる相手ではない。
リュウジュン、君の方が序列は上だ。軍の指揮は君に任せるから、ここは固く守って、リュウショウにさらなる援軍を要請しよう」
リュウカイはビクビクしながらそう答えた。彼は元々臆病な性格であったが、二度の敗戦ですっかり参ってしまっていた。
本音を言えばもう降伏したいが、リュウショウの従弟である自分が降伏すればどうなるかわからない。その恐怖のために未だ降伏を思い留まっているだけであった。
「うーむ、援軍といっても、美術室の守りもある。これ以上の援軍を兄さんが出してくれるかどうか……」
弟・リュウジュンも困った様子で答えた。
最初、リュービ討伐軍としてリュウカイ・ゴイら五部隊を派遣し、さらに追加でリゲンの部隊を派遣した。本拠地である美術室の防衛を考慮すれば、既にリュウショウ軍はカツカツであることは彼も知っていた。
「兄さんに援軍を頼むにしても、すぐには出せないだろう。とにかく、我らは奮戦して時間を稼がねばならない」
「そ、そうだよな~」
この言葉にリュウカイは思わず脱力した。既に充分疲弊しているというのに、まだ奮戦せねばならないと聞いて、彼の心も折れかけていた。
だが、そこに一人の男子生徒が名乗りを上げた。
「お二方、この俺にお任せください!
必ずやリュービ軍を翻弄し、充分な時間を稼いでみせましょう!」
そう言うのは、これまでリュウカイとともに敗戦を重ねてきた白髪に三白眼、迷彩服の武将・チョウジンであった。
「おお、チョウジン、お前に何か策があるのか!」
リュウジュンの問いかけに、チョウジンは自信満々に答えた。
「はい、俺に秘策があります。ですから、お二人はここを固く守っていてください!」
「その秘策というのは何だ?」
「それは今はお伝えすることは出来ません。
ただ、二人は俺を信じて砦を守っていてください」
チョウジンは秘策と言うばかりで、肝心の中身を言おうとはしなかった。その様子にリュウジュンは少し訝しんだ。
「しかし、それでは……」
弟のリュウジュンは、チョウジンの態度に策を採用するかを迷った。だが、既に心も折れかけていたリュウカイは、渡りに船とこれに乗っかった。
「いや、ここまで来たらもう他に頼るものもない。ここはチョウジンに賭けようじゃないか」
「あ、ああ、わかった、任せよう」
結局、リュウカイに押し切られる形で、リュウジュンもチョウジンの策を採用することになった。
「ありがとうございます。では、俺は秘策のために出陣します。砦の防衛はお任せします!」
そう言うと、チョウジンは一人、颯爽と退出していった。
「さて、どうするかな……」
二人が見えなくなったところで、チョウジンは一人呟いた。
実のところ、チョウジンには秘策など何もなかった。
「しかし、ああでも言わねば、お二人の心は折れ、とても戦いにはならなかっただろう……」
チョウジンが無策にも関わらず任せろと言ったのは、リュウジュン・リュウカイの二人に希望を与えるためであった。あの絶望のままリュービ軍と戦えば、戦わずして負けると思ったからである。
「これでお二人は、俺が外で秘策でもって敵を翻弄していると信じるだろう。
もし、俺がやられたとしても、ここに戻りさえしなければ、二人は俺が外で戦っていると希望を残すことは出来る……」
砦内の兵に希望を与えるための戦い。それはつまり戻ることは絶対にできない戦いであった。
「辛いのは俺の部下にも嘘をつかねばならぬということだ。
いくら部下でも、負けること承知で戦ってくれとは言えない。部下に対してもまるで必殺の秘策があるように振る舞わねばならない……
部下を裏切る以上、例えこの戦いに勝てたとしても二度と武将の地位には戻れんだろうな」
チョウジンは孤独を感じながらも、覚悟を決めねばならなかった。
「それでも俺がやらねばならん。
何者でもなかった俺を武将に抜擢してくれたリュウショウ様に恩を返す時だ!」
第一の砦は、新軍師・ホーヨウの策で敵将・ゴイらを寝返らせて陥落。
第二の砦でも、敵将・リゲンを味方につけ、彼女の策略で陥落させた。
これにより残る砦は後一つとなった。
「残る第三の砦の守備隊長はリュウジュン。これに恐らく第二の砦を追われたリュウカイ・チョウジンの軍が合流したものと思われます」
元リュウショウ配下の、帽子に片眼鏡、厚手のコートを着た女生徒、新軍師・ホーセーが校舎の見取り図を手に、俺たちに説明してくれる。
「このリュウジュンは、西校舎盟主・リュウショウの実弟にあたります。
これまで敵の総指揮はリュウカイが執っておりましたが、今までの二度の敗戦の責もあります。恐らく、敵の事実上の総指揮はこのリュウジュンが代わって執ると思います」
ホーセーの言葉に俺も頷く。
リュウカイは盟主・リュウショウの従弟で、これまで全軍の指揮を執ってきた。だが、今まで敗戦を重ねるばかりで手柄はない。次の砦にリュウショウの弟がいるのであれば、総指揮官が交代するのは充分考えられることだ。
俺は続けてホーセーに尋ねた。
「ふむ、それで、そのリュウジュンというのはどういう人物なんだ?」
「一言で言うなら凡庸。
度肝を抜くような奇策を出してくる相手ではありません。しかし、馬鹿でもありません。
リュウジュンは実弟だけあって率いる兵も多くいます。その上、あの砦は本拠地までの最後の防衛基地だけあって、防備も充実しています。
恐らく、手堅く守りを固めて、攻めるのは苦労するかと思われます」
「なるほど、兵も多く、手堅く守られた砦を正攻法で落とすのは大変だな」
その話を聞いて俺は額に手をやり、考え込んだ。
難攻不落の砦を多数の兵で堅実に守る。一見、普通のことに見えて、実はこれが一番厄介な防衛策だ。敵が策を使えば、それを利用する手もある。だが、ただただ守られては、こちらも正攻法で攻めるしか無く、敵の兵も多ければ、それだけ時間もかかる。
あまり時間をかけたくない俺は、何か策を使えないかと、再びホーセーに尋ねた。
「前の二戦のように寝返り工作は難しいか?
リュウジュンは弟、リュウカイも確か従弟だったな。親族を寝返らせるのは難しいかもしれないが、例えばともに籠もるチョウジンはどうだ。寝返りに応じそうか?」
寝返りに応じてくれれば、まだ攻略はできるはずだ。だが、これを聞いたホーセーは首を横に振った。
「チョウジンは犬のように忠義な男です。今までの敗戦で脱落しなかったことから見ても、説得するよは難しいかと」
確かにホーセーの言う通り、ここまで残ったことから見ても、チョウジンは相当な忠義者と考えるべきだろう。
「そうか。
うーん、これは時間がかかりそうだな」
どうも、今回はかなり手強そうだ。
やむを得ないので、俺は次の策を提案することにした。
「よし、作戦を最終段階に移そう。
今のうちに南校舎からコウメイらを呼び寄せよう。南校舎の兵力を俺たちの軍に合流させて、大兵力でもって一気にこの砦を落とそう」
俺が提案したのは援軍を呼び寄せることだ。
今、南校舎には防衛のために軍師のコウメイ、武将のカンウ・チョーヒ・チョーウンら我が軍の主力を残している。その全てを連れてくることはできないが、そこから援軍を出し、まだ手付かずの西校舎の東側を攻略してもらうのが、最終段階の作戦だ。
援軍は東部攻略後、俺たちの軍に合流してくれれば、充分な兵力になる。それを使って、この第三砦、さらに敵の本拠地を攻める事ができる。
これは事前にコウメイと取り決めていた策でもある。俺たちの軍だけで西校舎全域を攻略するのは難しい。俺たちがある程度活躍し、敵の目をこちらに向けたところで、東からコウメイらの援軍が侵攻していく。これが今回の西校舎攻略の最終段階の作戦であった。
「敵の本拠地が目前なら、作戦も最終段階に移行してもいいだろう。コウメイらを援軍に呼ぼう」
そう俺が告げると、ヒャハハという笑い声とともに、伸びた前髪で左目が隠れ、口に楊枝を咥え、着物を着た、風来坊のような身なりの小柄な少女、コウメイと並ぶ軍師・ホウトウがやってきた。
彼女はニヤリと笑いながら話し出した。
「ヒャハハ、コウメイを呼ぶのは良ござんす。
ですがね、しかし、到着までとなると時間がかかるでござんしょう。
それはそれとして、やはり、我らであの砦は攻略すべきでしょう」
「それはそうだが、しかし、どうする?」
こういうからにはホウトウに何か策があるのだろう。俺は彼女に聞き返した。
「既に我らは二つの砦を攻め落とし、加えた兵力は膨大でござんす。ならば、この大兵力で敵を包囲し、敵を威圧しやしょう。
敵のリュウカイは臆病な男と聞きます。これまでの敗戦で充分肝を冷やしておりましょう。
ですから、大兵力で包囲されたとあっちゃあ、いよいよ戦意は消え失せて、降伏してくることでありやしょう」
ホウトウの提案した、これまでの降伏兵を投入し、大兵力で包囲せよという策。確かにその大兵力で包囲できれば敵もビビるだろう。だが、それを実行できぬ事情もあった。
「待て、ホウトウ。
大兵力と言うが、これまでの投降兵の多くは落とした砦の防衛に配置してきた。その砦を放棄するわけにもいかない。
今、ここには敵を包囲するほどの大兵力は残って無いぞ」
これまで投降してきた部隊の多くは手に入れた領土の防衛に使っている。今手元にいる兵も少なくは無いが、それでも敵を包囲するには足りない。この数で敵を包囲すれば、兵力が分散してしまい、威圧するどころか、返って甜められてしまう。
だが、その事情は兵の配備にも携わっているホウトウには百も承知。すぐに彼女は説明を始めた。
「わかっとりやす。
要は敵が大兵力で包囲されたと思い込めば良いのでありやすよ。
リュービ軍がこれまでの投降兵を総動員した大兵力で砦を包囲するぞ、さらに南校舎から大援軍がやってくるぞと噂を流しやす。
その間にあっしがコーチュー・タクヨーの先鋒軍を率いて砦の背後に回りやしょう。そして、正面からのリュービ軍と背後のあっしの軍で砦を攻めやす。
こうすれば、二方面からの挟み撃ちが、敵にはあたかも大兵力に包囲されたように錯覚させることができやす」
確かにホウトウの策なら、兵を分散させずに、大兵力で包囲しているように見せかけることが出来るかもしれない。だが、気がかりもある。
「なるほど、しかし、バレないかな?」
「敵が固く守っている間は、外を確認するのは難しいでござんしょう。それに我らはバレないように攻める方向を少しずつ変えていけばいいのです。
もし、敵が確認しようと打って出たなら、それこそ敵の戦力を削ぐ好機!」
「うーん、確かにそうだな。
敵が防御を固めているから困っているのであって、出てくるなら対策が打てる。
よし、その策で行こう!」
俺はホウトウの策にのり、この見せかけの包囲作戦を開始した。
~~~
リュウショウ陣営・第三の砦~
今やリュウショウの籠もる美術室まで、文字通り最後の砦となったこの教室に、リュウショウの弟・リュウジュン以下、リュウカイ・チョウジンの三将が集まっていた。
「まさか、こんなに早くここまで攻めてくるとはな……」
そう語るのはリュウショウの弟・リュウジュン。彼はリュウショウの温和な顔つきによく似た容姿で、彼をそのまま痩せさせたような見た目であった。
「それで、そんなに強いのか、リュービ軍は?」
弟・リュウジュンの質問に答えるのは、これまで討伐軍の総指揮を執ってきたリュウカイ。彼はリュウショウ・リュウジュン兄弟の従兄弟でもあった。
「ああ、強いなんてもんじゃない。我らの敗因は裏切り者が出たこともあるが、実際、リュービ軍とは真正面に向かって勝てる相手ではない。
リュウジュン、君の方が序列は上だ。軍の指揮は君に任せるから、ここは固く守って、リュウショウにさらなる援軍を要請しよう」
リュウカイはビクビクしながらそう答えた。彼は元々臆病な性格であったが、二度の敗戦ですっかり参ってしまっていた。
本音を言えばもう降伏したいが、リュウショウの従弟である自分が降伏すればどうなるかわからない。その恐怖のために未だ降伏を思い留まっているだけであった。
「うーむ、援軍といっても、美術室の守りもある。これ以上の援軍を兄さんが出してくれるかどうか……」
弟・リュウジュンも困った様子で答えた。
最初、リュービ討伐軍としてリュウカイ・ゴイら五部隊を派遣し、さらに追加でリゲンの部隊を派遣した。本拠地である美術室の防衛を考慮すれば、既にリュウショウ軍はカツカツであることは彼も知っていた。
「兄さんに援軍を頼むにしても、すぐには出せないだろう。とにかく、我らは奮戦して時間を稼がねばならない」
「そ、そうだよな~」
この言葉にリュウカイは思わず脱力した。既に充分疲弊しているというのに、まだ奮戦せねばならないと聞いて、彼の心も折れかけていた。
だが、そこに一人の男子生徒が名乗りを上げた。
「お二方、この俺にお任せください!
必ずやリュービ軍を翻弄し、充分な時間を稼いでみせましょう!」
そう言うのは、これまでリュウカイとともに敗戦を重ねてきた白髪に三白眼、迷彩服の武将・チョウジンであった。
「おお、チョウジン、お前に何か策があるのか!」
リュウジュンの問いかけに、チョウジンは自信満々に答えた。
「はい、俺に秘策があります。ですから、お二人はここを固く守っていてください!」
「その秘策というのは何だ?」
「それは今はお伝えすることは出来ません。
ただ、二人は俺を信じて砦を守っていてください」
チョウジンは秘策と言うばかりで、肝心の中身を言おうとはしなかった。その様子にリュウジュンは少し訝しんだ。
「しかし、それでは……」
弟のリュウジュンは、チョウジンの態度に策を採用するかを迷った。だが、既に心も折れかけていたリュウカイは、渡りに船とこれに乗っかった。
「いや、ここまで来たらもう他に頼るものもない。ここはチョウジンに賭けようじゃないか」
「あ、ああ、わかった、任せよう」
結局、リュウカイに押し切られる形で、リュウジュンもチョウジンの策を採用することになった。
「ありがとうございます。では、俺は秘策のために出陣します。砦の防衛はお任せします!」
そう言うと、チョウジンは一人、颯爽と退出していった。
「さて、どうするかな……」
二人が見えなくなったところで、チョウジンは一人呟いた。
実のところ、チョウジンには秘策など何もなかった。
「しかし、ああでも言わねば、お二人の心は折れ、とても戦いにはならなかっただろう……」
チョウジンが無策にも関わらず任せろと言ったのは、リュウジュン・リュウカイの二人に希望を与えるためであった。あの絶望のままリュービ軍と戦えば、戦わずして負けると思ったからである。
「これでお二人は、俺が外で秘策でもって敵を翻弄していると信じるだろう。
もし、俺がやられたとしても、ここに戻りさえしなければ、二人は俺が外で戦っていると希望を残すことは出来る……」
砦内の兵に希望を与えるための戦い。それはつまり戻ることは絶対にできない戦いであった。
「辛いのは俺の部下にも嘘をつかねばならぬということだ。
いくら部下でも、負けること承知で戦ってくれとは言えない。部下に対してもまるで必殺の秘策があるように振る舞わねばならない……
部下を裏切る以上、例えこの戦いに勝てたとしても二度と武将の地位には戻れんだろうな」
チョウジンは孤独を感じながらも、覚悟を決めねばならなかった。
「それでも俺がやらねばならん。
何者でもなかった俺を武将に抜擢してくれたリュウショウ様に恩を返す時だ!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる