学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第6部 西校舎攻略編

第156話 意地!チョウジンの秘策!

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 西校舎を手に入れるため、俺たちリュービ軍は盟主・リュウショウが本拠地としている美術室を目指した。だが、そこまでの道中に三つのとりでがあった。

 第一のとりでは、新軍師・ホーヨウの策で敵将・ゴイらを寝返らせて陥落。

 第二のとりででも、敵将・リゲンを味方につけ、彼女の策略で陥落させた。

 これにより残るとりでは後一つとなった。

「残る第三のとりでの守備隊長はリュウジュン。これに恐らく第二のとりでを追われたリュウカイ・チョウジンの軍が合流したものと思われます」

 元リュウショウ配下の、帽子に片眼鏡、厚手のコートを着た女生徒、新軍師・ホーセーが校舎の見取り図を手に、俺たちに説明してくれる。

「このリュウジュンは、西校舎盟主・リュウショウの実弟にあたります。

 これまで敵の総指揮はリュウカイがっておりましたが、今までの二度の敗戦の責もあります。恐らく、敵の事実上の総指揮はこのリュウジュンが代わってると思います」

 ホーセーの言葉に俺もうなずく。

 リュウカイは盟主・リュウショウの従弟いとこで、これまで全軍の指揮をってきた。だが、今まで敗戦を重ねるばかりで手柄はない。次のとりでにリュウショウの弟がいるのであれば、総指揮官が交代するのは充分考えられることだ。

 俺は続けてホーセーに尋ねた。

「ふむ、それで、そのリュウジュンというのはどういう人物なんだ?」

「一言で言うなら凡庸ぼんよう

 度肝を抜くような奇策を出してくる相手ではありません。しかし、馬鹿でもありません。

 リュウジュンは実弟だけあって率いる兵も多くいます。その上、あのとりでは本拠地までの最後の防衛基地だけあって、防備も充実しています。

 恐らく、手堅く守りを固めて、攻めるのは苦労するかと思われます」

「なるほど、兵も多く、手堅く守られたとりでを正攻法で落とすのは大変だな」

 その話を聞いて俺はひたいに手をやり、考え込んだ。

 難攻不落のとりでを多数の兵で堅実に守る。一見、普通のことに見えて、実はこれが一番厄介な防衛策だ。敵が策を使えば、それを利用する手もある。だが、ただただ守られては、こちらも正攻法で攻めるしか無く、敵の兵も多ければ、それだけ時間もかかる。

 あまり時間をかけたくない俺は、何か策を使えないかと、再びホーセーに尋ねた。

「前の二戦のように寝返り工作は難しいか?

 リュウジュンは弟、リュウカイも確か従弟いとこだったな。親族を寝返らせるのは難しいかもしれないが、例えばともにもるチョウジンはどうだ。寝返りに応じそうか?」

 寝返りに応じてくれれば、まだ攻略はできるはずだ。だが、これを聞いたホーセーは首を横に振った。

「チョウジンは犬のように忠義な男です。今までの敗戦で脱落しなかったことから見ても、説得するよは難しいかと」

 確かにホーセーの言う通り、ここまで残ったことから見ても、チョウジンは相当な忠義者と考えるべきだろう。

「そうか。

 うーん、これは時間がかかりそうだな」

 どうも、今回はかなり手強そうだ。

 やむを得ないので、俺は次の策を提案することにした。

「よし、作戦を最終段階に移そう。

 今のうちに南校舎からコウメイらを呼び寄せよう。南校舎の兵力を俺たちの軍に合流させて、大兵力でもって一気にこのとりでを落とそう」

 俺が提案したのは援軍を呼び寄せることだ。

 今、南校舎には防衛のために軍師のコウメイ、武将のカンウ・チョーヒ・チョーウンら我が軍の主力を残している。その全てを連れてくることはできないが、そこから援軍を出し、まだ手付かずの西校舎の東側を攻略してもらうのが、最終段階の作戦だ。

 援軍は東部攻略後、俺たちの軍に合流してくれれば、充分な兵力になる。それを使って、この第三とりで、さらに敵の本拠地を攻める事ができる。

 これは事前にコウメイと取り決めていた策でもある。俺たちの軍だけで西校舎全域を攻略するのは難しい。俺たちがある程度活躍し、敵の目をこちらに向けたところで、東からコウメイらの援軍が侵攻していく。これが今回の西校舎攻略の最終段階の作戦であった。

「敵の本拠地が目前なら、作戦も最終段階に移行してもいいだろう。コウメイらを援軍に呼ぼう」

 そう俺が告げると、ヒャハハという笑い声とともに、伸びた前髪で左目が隠れ、口に楊枝をくわえ、着物を着た、風来坊のような身なりの小柄な少女、コウメイと並ぶ軍師・ホウトウがやってきた。

 彼女はニヤリと笑いながら話し出した。

「ヒャハハ、コウメイを呼ぶのはござんす。

 ですがね、しかし、到着までとなると時間がかかるでござんしょう。

 それはそれとして、やはり、我らであのとりでは攻略すべきでしょう」

「それはそうだが、しかし、どうする?」

 こういうからにはホウトウに何か策があるのだろう。俺は彼女に聞き返した。

「既に我らは二つのとりでを攻め落とし、加えた兵力は膨大ぼうだいでござんす。ならば、この大兵力で敵を包囲し、敵を威圧しやしょう。

 敵のリュウカイは臆病な男と聞きます。これまでの敗戦で充分きもを冷やしておりましょう。

 ですから、大兵力で包囲されたとあっちゃあ、いよいよ戦意は消え失せて、降伏してくることでありやしょう」

 ホウトウの提案した、これまでの降伏兵を投入し、大兵力で包囲せよという策。確かにその大兵力で包囲できれば敵もビビるだろう。だが、それを実行できぬ事情もあった。

「待て、ホウトウ。

 大兵力と言うが、これまでの投降兵の多くは落としたとりでの防衛に配置してきた。そのとりでを放棄するわけにもいかない。

 今、ここには敵を包囲するほどの大兵力は残って無いぞ」

 これまで投降してきた部隊の多くは手に入れた領土の防衛に使っている。今手元にいる兵も少なくは無いが、それでも敵を包囲するには足りない。この数で敵を包囲すれば、兵力が分散してしまい、威圧するどころか、返ってめられてしまう。

 だが、その事情は兵の配備にもたずさわっているホウトウには百も承知。すぐに彼女は説明を始めた。

「わかっとりやす。

 要は敵が大兵力で包囲されたと思い込めば良いのでありやすよ。

 リュービ軍がこれまでの投降兵を総動員した大兵力でとりでを包囲するぞ、さらに南校舎から大援軍がやってくるぞと噂を流しやす。

 その間にあっしがコーチュー・タクヨーの先鋒軍を率いてとりでの背後に回りやしょう。そして、正面からのリュービ軍と背後のあっしの軍でとりでを攻めやす。

 こうすれば、二方面からの挟み撃ちが、敵にはあたかも大兵力に包囲されたように錯覚させることができやす」

 確かにホウトウの策なら、兵を分散させずに、大兵力で包囲しているように見せかけることが出来るかもしれない。だが、気がかりもある。

「なるほど、しかし、バレないかな?」

「敵が固く守っている間は、外を確認するのは難しいでござんしょう。それに我らはバレないように攻める方向を少しずつ変えていけばいいのです。

 もし、敵が確認しようと打って出たなら、それこそ敵の戦力を削ぐ好機!」

「うーん、確かにそうだな。

 敵が防御を固めているから困っているのであって、出てくるなら対策が打てる。

 よし、その策で行こう!」

 俺はホウトウの策にのり、この見せかけの包囲作戦を開始した。

 ~~~

 リュウショウ陣営・第三のとりで

 今やリュウショウのもる美術室まで、文字通り最後のとりでとなったこの教室に、リュウショウの弟・リュウジュン以下、リュウカイ・チョウジンの三将が集まっていた。

「まさか、こんなに早くここまで攻めてくるとはな……」

 そう語るのはリュウショウの弟・リュウジュン。彼はリュウショウの温和な顔つきによく似た容姿で、彼をそのまませさせたような見た目であった。

「それで、そんなに強いのか、リュービ軍は?」

 弟・リュウジュンの質問に答えるのは、これまで討伐軍の総指揮を執ってきたリュウカイ。彼はリュウショウ・リュウジュン兄弟の従兄弟いとこでもあった。

「ああ、強いなんてもんじゃない。我らの敗因は裏切り者が出たこともあるが、実際、リュービ軍とは真正面に向かって勝てる相手ではない。

 リュウジュン、君の方が序列は上だ。軍の指揮は君に任せるから、ここは固く守って、リュウショウにさらなる援軍を要請しよう」

 リュウカイはビクビクしながらそう答えた。彼は元々臆病な性格であったが、二度の敗戦ですっかり参ってしまっていた。

 本音を言えばもう降伏したいが、リュウショウの従弟いとこである自分が降伏すればどうなるかわからない。その恐怖のために未だ降伏を思い留まっているだけであった。

「うーむ、援軍といっても、美術室の守りもある。これ以上の援軍を兄さんが出してくれるかどうか……」

 弟・リュウジュンも困った様子で答えた。

 最初、リュービ討伐軍としてリュウカイ・ゴイら五部隊を派遣し、さらに追加でリゲンの部隊を派遣した。本拠地である美術室の防衛を考慮すれば、既にリュウショウ軍はカツカツであることは彼も知っていた。

「兄さんに援軍を頼むにしても、すぐには出せないだろう。とにかく、我らは奮戦して時間を稼がねばならない」

「そ、そうだよな~」

 この言葉にリュウカイは思わず脱力した。既に充分疲弊ひへいしているというのに、まだ奮戦せねばならないと聞いて、彼の心も折れかけていた。

 だが、そこに一人の男子生徒が名乗りを上げた。

「お二方、この俺にお任せください!

 必ずやリュービ軍を翻弄ほんろうし、充分な時間を稼いでみせましょう!」

 そう言うのは、これまでリュウカイとともに敗戦を重ねてきた白髪に三白眼、迷彩服の武将・チョウジンであった。

「おお、チョウジン、お前に何か策があるのか!」

 リュウジュンの問いかけに、チョウジンは自信満々に答えた。

「はい、俺に秘策があります。ですから、お二人はここを固く守っていてください!」

「その秘策というのは何だ?」

「それは今はお伝えすることは出来ません。

 ただ、二人は俺を信じてとりでを守っていてください」

 チョウジンは秘策と言うばかりで、肝心の中身を言おうとはしなかった。その様子にリュウジュンは少しいぶかしんだ。

「しかし、それでは……」

 弟のリュウジュンは、チョウジンの態度に策を採用するかを迷った。だが、既に心も折れかけていたリュウカイは、渡りに船とこれに乗っかった。

「いや、ここまで来たらもう他に頼るものもない。ここはチョウジンに賭けようじゃないか」

「あ、ああ、わかった、任せよう」

 結局、リュウカイに押し切られる形で、リュウジュンもチョウジンの策を採用することになった。

「ありがとうございます。では、俺は秘策のために出陣します。とりでの防衛はお任せします!」

 そう言うと、チョウジンは一人、颯爽さっそうと退出していった。

「さて、どうするかな……」

 二人が見えなくなったところで、チョウジンは一人つぶやいた。

 実のところ、チョウジンには秘策など何もなかった。

「しかし、ああでも言わねば、お二人の心は折れ、とても戦いにはならなかっただろう……」

 チョウジンが無策にも関わらず任せろと言ったのは、リュウジュン・リュウカイの二人に希望を与えるためであった。あの絶望のままリュービ軍と戦えば、戦わずして負けると思ったからである。

「これでお二人は、俺が外で秘策でもって敵を翻弄ほんろうしていると信じるだろう。

 もし、俺がやられたとしても、ここに戻りさえしなければ、二人は俺が外で戦っていると希望を残すことは出来る……」

 とりで内の兵に希望を与えるための戦い。それはつまり戻ることは絶対にできない戦いであった。

「辛いのは俺の部下にも嘘をつかねばならぬということだ。

 いくら部下でも、負けること承知で戦ってくれとは言えない。部下に対してもまるで必殺の秘策があるように振る舞わねばならない……

 部下を裏切る以上、例えこの戦いに勝てたとしても二度と武将の地位には戻れんだろうな」

 チョウジンは孤独を感じながらも、覚悟を決めねばならなかった。

「それでも俺がやらねばならん。

 何者でもなかった俺を武将に抜擢ばってきしてくれたリュウショウ様に恩を返す時だ!」





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