学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第6部 西校舎攻略編

第184話 懇談!カンヨーの説得!

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 俺・リュービと軍師・コウメイは西校舎攻略の最後の一仕事に移ろうとしていた。敵の総大将・リュウショウの籠もる教室を取り囲み、内と外からジワリジワリと追い詰めていこうと策略を巡らせていた。

 しかし、その時に一人の人物が待ったをかけた。

「なー、リュービ。

 そのへんでやめにしねーかー?」

 そう後ろから声をかけられ、俺とコウメイは声の方へと振り返った。

 そこに立っていたのは金髪頭に、片耳からイヤホンをぶら下げている男であった。



「お前は……カンヨー!」

 いつもはへらへら笑っている悪友・カンヨーが真面目な面持ちでこちらを向いていた。

「なー、リュービさー。

 これ以上、リュウショウを追い詰める必要もないんじゃないかー?」

 カンヨーはいつもの口調なようで、どこか暗さをともなった話し方で語りかけてきた。

「カンヨー、今までろくに働きもしなかったくせに、突然現れて何を言い出すんだ?

 これは先々にソウソウと戦うために必要なことなんだ。今さら邪魔をするなよ」

 俺は少し強い口調でカンヨーをなじった。

 カンヨーと俺は中学からの付き合いだ。その縁を頼って俺の陣営に加わった。だが、これまでダラダラと過ごすばかりで、ロクに働きはしなかった。示しがつかないのでこの戦いに強引に同行させたが、宴会を楽しむくらいで、特に活躍もしなかった。

 そのカンヨーが、今まで見たこともないような神妙な顔で俺たちに意見し始めた。

「リュービ、お前はもー英雄って呼ばれる領域に足を踏み込んでんだろうなー。

 中学時代のお前を知る俺からすれば、誇らしくも思うさー。もーお前はソウソウと肩を並べる英雄だろうよー。

 コウメイ、お前もきっと英雄側の人間なんだろつよ」

 カンヨーはいやに遠回しな言い方をしてくる。一見、めているようで、その言葉にはどこかトゲがある。

「カンヨー、何が言いたいんだ?」

 俺はカンヨーに少しキツめの口調でそう尋ねた。

「お前らから見れば、俺は凡人だってことさ。

 到底、追いついけない遥か先に行っちまったのよ」

「それはお前が頑張ってこなかったからだろ!」

 今までロクに働こうとしなかった奴が今さら何を言っているのかと、俺は半ばあきれながらも、カンヨーをしかりつけた。

「頑張ったって越えられねー一線ってもんがあるのよ。

 それは越えられた奴にはわからねー。

 そして、リュービよー。

 リュウショウは凡人側の人間だ。

 俺はリュウショウとじっくり話したのは戦争前の宴会でのあの一回しかねー。でも、それで十分わかる。あいつは凡人側の人間だ。

 凡人のリュウショウが滅びるのは仕方のねーことかもしれねー。

 でも、あいつは凡人なりに責任を果たそーとするだろうさ。それがどんなに大変で、報われないとわかっていてもさ。

 だからよー、これ以上あいつを追い詰めないでやってくれねーか。

 リュービ、お前ならそれでもやれるだろ?」

 カンヨーが前の宴会でリュウショウと親しくなっていたのは見ていたが、まさかここまで肩入れしているとは思わなかった。

 しかし、頼まれたからと言っておいそれと実行できる問題ではない。

「カンヨー、確かに俺はリュウショウには悪いことをしている自覚がある。

 だが、これは西校舎を統治する上で、ひいてはソウソウに対抗する上でとても大事なことだ。

 それに追い詰めるなと言われても、リュウショウ自身が降伏を決断しなければこちらからはどうすることもできない」

「ならば、俺が降伏の使者になる!」

 カンヨーに諦めさせようと思って言ったことだったが、どうやら彼の意志をより重くしてしまったようだ。

 俺はしばし考えた。

「わかった……。

 お前が説得に成功したらそれを受け入れよう」

「リュービ、ありがとよー」

「しかし、失敗したらコウメイの策を採用するぞ」

「ああ、わかってるさー。

 その代わりに成功したらこれ以上リュウショウを追い詰めないと約束してくれ」

「わかった。約束しよう」

 俺はカンヨーを送り出した。将来のことを考えたらコウメイの策の方が良いのはわかる。

 だが、これまで頑ななまでに何もしようとしなかったカンヨーが、初めて自主的にやらせてくれと言ってきたことだ。尊重してやろう、悪友として。

 ~~~

 リュウショウ陣営・美術室~

 降伏の使者に赴いたカンヨーは、今やリュウショウ陣営最後の領土となった美術室の中へ通された。そして、重臣・兵士の居並ぶ中を抜けて、総大将・リュウショウの前へと連れてこられた。

 カンヨーの周囲を取り囲むように臣下一同が並び、彼へと殺意を向ける。これにはさすがのカンヨーも萎縮いしゅくして、すぐには声が出ない状態となってしまった。

 その様子を察した太めな体格の、温和そうな雰囲気の男子生徒、総大将・リュウショウは自分から話しを切り出した。

「使者がなかなか来ないとは思っていたが、まさかカンヨー、あなたが来るとは思わなかった。

 要件は“降伏”か?」

 リュウショウの口から出た“降伏”の一語に、周囲の武将たちに緊張が走る。武官の多くはまだ戦う意思を残しているようであった。彼らは一斉にカンヨーをにらみつけた。

 その様子を見たリュウショウはカンヨーに助け舟を出した。

「こんなににらまれては君も思うように喋れないだろう。隣の準備室に移ろう。二人だけで話しをしようじゃないか」

 そのリュウショウからの提案に、彼の側に立つ目つきの鋭い男が止めに入ってきた。

「兄貴、危険だぞ!

 こんなリュービの回し者と二人きりになるなんて!」

 男は目つきこそ鋭いものの、リュウショウをせさせたような顔つきをしていた。兄貴と呼んだことからも、恐らくリュウショウの弟なのだろう。彼からすれば当然の苦言であった。

 しかし、リュウショウはそんな弟をなだめて、意見を押し止めた。

「彼はそんなことをするような人物ではない。

 それにもしカンヨーが私を捕らえたとしても、準備室から一歩出ればお前たちが待ち構えているんだ。何が危険なことがあろうか」

「しかし、降伏勧告に来た使者の言うことなんて今さら聞く必要はないだろ!」

「聞かなかったからといって事態が好転するわけではない。

 さあ、カンヨー殿、隣の部屋へ」

 リュウショウにうながされ、カンヨーは隣の美術準備室へと移動した。

 リュウショウと二人きりになり、武将たちの視線から解放され、カンヨーはようやく落ち着きを取り戻した。

 カンヨーは平静を取り戻すと、リュービ陣営の誰もが見たこと無いほどにかしこまった様子で話し始めた。

「リュウショウ様の先ほど仰られた通り、私は降伏の使者として参りました」

 そのあまりの仰々ぎょうぎょうしい態度に、リュウショウはクスリと笑って答えた。

「そんなに気張らなくて良い。ここには私と君の二人しかいないのだから。前はもっとくだけた喋り方だったではないか」

「はは、そうだよな。俺も固っ苦しいなと思ってたんだよ」

 二人は隣にれぬほどの声量で笑い合った。

 一頻ひとしきり笑った後にリュウショウが口を開いた。

「ふふ、久しぶりに笑った気がする。

 君が来てくれたことに感謝しなければならないな。ありがとう」

 だが、カンヨーは彼のお礼の言葉を制止して話し出した。

「いや、まだ感謝されることはしちゃいないよ。

 俺はあんたを助けに来たのさ」

「それは笑えぬ冗談だ。助けに来たなどとおこがましいぞ、カンヨー。

 私は降伏はしない。

 まだまだ我らには強大な兵力が無傷で残っている。攻められても簡単に破られることはない。

 我らがここで頑強に抵抗すれば、形だけ降伏した西校舎の者たちもこちらに寝返るだろう。そうなれば勝つのは我々だ」

 そう語るリュウショウの顔つきは、言葉とは裏腹にどこか自信無さげであった。

 強大な兵力と言っているが、せいぜい数百人だろう。リュービ軍は全部合わせれば千人を超える。勝つ見込みが低いことはカンヨーにもわかった。そもそも、あのコウメイがあれだけ自信を持っていたのだ。リュウショウが逆転する目は限りなく無いだろう。

 だが、戦力の過多を語り、自軍の不利を説いたところで、リュウショウは納得しないだろう。カンヨーにはそれがわかっていた。

「なあ、リュウショウ。

 もし、リュービを撃退して西校舎が守れたら、お前は何がしたい?」

「不思議な事を聞く人だ。

 当然、西校舎を守っていく。これからも、この先も」

 そのリュウショウの回答に、カンヨーは一拍いっぱくおくと、神妙な面持ちで話し始めた。

「リュービはよ、この西校舎を取ったらそれを元手にソウソウに対抗しようと考えてやがる。

 そのソウソウを倒すのだってこの学園と生徒のことを考えてのことだ。そんな高尚なことを西校舎や南校舎の生徒の面倒も見ながらやっちまうんだろうよ。

 偉い奴さ、凄い奴さ。気づいたらとんでもなく遠くに行きやがった。

 俺なんかじゃとてもリュービの代わりは務まらない」

 つらつらと語るカンヨーに、リュウショウはただ黙って聞いていた。

「リュウショウよ、君は西校舎を守ると言った。だけどその先がない。

 君は前の宴会に俺に話してくれた。西校舎は兄から引き継いだ、と。

 兄から託されたものを守ろうとするお前の心意気は立派だけどよ。でも、お前はそこで止まっちまう。守ってその先どうしようがない」

 そこまで聞くと、それまで押し黙っていたリュウショウは口を開いた。

「確かにあなたの言われる通り、私には先を見通して未来を考える力はリュービやソウソウに比べて劣るのかもしれない。

 長年、リュービの友人を務めてきたあなたから見れば、私のような男が盟主をやっているのは滑稽こっけいに見えることだろう。

 しかし、私がいくら能力に劣るとしても、侵略者にこの地をタダで譲り渡すわけにはいかない」

 そう語るリュウショウの顔からは、普段の温和な表情とは違う、怒りの表情が見て取れた。

 だが、カンヨーはそのリュウショウの反応に対して、謝りながら返した。

「悪い、リュウショウ。俺は別に君を侮辱ぶじょくしようと思ってこんなことを言ったわけじゃないんだ。

 確かにリュービは立派になったよ。俺はあいつと中学からの付き合いだが、友として誇りに思う反面、それでいいのかと思うことがある」

 どこか遠い目でそう語るカンヨーに、リュウショウは尋ねた。

「それはどういう意味ですか?」

「リュービは遠くに行っちまったってことさ。

 もう、買い食いしながら馬鹿話するような相手じゃなくなっちまった」

 そう言いながらカンヨーは悲しげな目でリュウショウを見つめた。

「今やリュービやソウソウは立派な英雄だ。誰もがなれるような存在じゃねえ。

 でもよ、それ以上に誰もがなろうとしなきゃいけない存在でもねえと思うんだよ。

 俺たちはまだ高校生なんだぜ。

 誰も彼もがしかめっ面で、戦争だ平和だなんて考える必要はないんじゃないかよ。

 買い食いしながら馬鹿話して笑い合ってる方が、何倍も必要なんじゃないか?

 リュウショウ、君は兄から託された責任で、必死に背伸びしながらも青春時代と引き換えに立派に役目を果たしてきた。

 そろそろ終わりにしてもいいんじゃねえか?

 ここまで頑張ってきたんだ。今さらお前を無責任と非難する資格なんて誰にもないさ。

 ならば、こんな面倒事は英雄・リュービに任せちまってよ、俺たちと買い食いして、馬鹿話して、笑い合って、そんな高校生活を送らねーか?」

 そんなカンヨーの話を聞いていたリュウショウは、いつの間にか怒りの表情はけ、思わず笑い出した。

「ははは、カンヨー、あなたはつくづく人を説得するのが下手な人だ。相手が聖人君子であれば、怒り心頭で叩き出されているところだろう。

 しかし、私はどうやら聖人君子ではなかったようだ。ここで責任にまみれて西校舎の盟主を務めるより、あなたの話の方がよほど魅力的に感じてしまった。

 思えば私は西校舎の盟主になってからロクに友達もいなかった。周りにいるのは部下か敵。その部下も兄からの引き継ぎだから先輩ばかりで、とても居心地の良いとは言えぬ環境であった。

 英雄になれぬ凡人の身で、青春さえ犠牲にするところであった。

 良いだろう。私はリュービに降伏しよう。

 だが、一つ条件がある」

「なんだ?」

 リュウショウは自身の右腕でスッとカンヨーの前に差し出した。

「カンヨー、私の友人になってくれないか?」

 そのリュウショウの条件に、カンヨーは笑顔で手を握り返した。

「もちろんだ。

 俺だけじゃない。この西校舎はお前の馴染みの土地じゃないか。なら、俺と一緒に友達をドンドン作っていこうぜ。

 もう、お前に青春を邪魔する重荷はないんだからさ」

「それは楽しみだ」

 リュウショウとカンヨーは互いに固く握手をしながら、笑い合った。



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