人生・にゃん生いろいろ

景綱

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不思議な体験

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 不思議な体験をしたことってあるだろうか。私はある。

 あれはいつのことだったろうか。もう何年も前のことだ。
 あっ、前もって言っておくが怖い話ではないからご安心を。怖い話かと期待していた人には「ごめんなさい」だけどね。

 夜勤の仕事を終えての帰り道のこと。確か時間的には朝になっていただろうか。明るくなっていた覚えはある。
 車通勤でいつもの道を家に向かっていた。その日はよほど疲れていたのだろう。居眠りをしてしまった。信号待ちをしているタクシーにドン。寸前で気づいてブレーキを踏んだけど、間に合わなかった。
 やってしまった。タクシーになんて最悪。それにお客さんも乗せていた。

「もう、何をやっているんだ」

 溜め息しか出てこない。

 タクシー運転手がおりて来て、少し先の道を曲がったところで話すことに。
 どれくらい請求されるだろうか。ついお金のことが頭を過ってしまう。悪いのは私のほうだからしかたながい。
 もう気分は沈み暗闇の中って感じだった。けど、不思議なことが。

 あれ、なんで。
 タクシー運転手も首を傾げている。もちろん、私も首を傾げた。間違いなくぶつかった。ブレーキを踏んだから衝撃はそんなでもなかったとは思うけど。それにしたって、おかしい。

「見た感じ、傷はなさそうだね」

 タクシー運転手の言う通り、どこにも傷がない。そんなことありえるのか。そう思ったところで現実だ。実際に、まったく傷がなかった。念のため運転免許証を見せてほしいとタクシードライバーに言われて素直に渡した。なにかあったら連絡をするということになった。

 もうずいぶん経つ。十年以上は経つだろう。今のところ連絡はない。
 おい、今連絡あったらおかしいだろう。それこそホラーだ。そのときと住まいは違う。携帯電話もそのときは持っていなかったはずだ。

 おい、おい、そんな話を広げなくてもいい。
 なにを言っていると思った人、すみません。

 それにしても、あの事故は不思議な体験だった。いや、傷がないから事故があったことになっていないのか。ラッキーとしかいいようがない。けど、確かにちょっとした衝撃があった。今でもなんでだろうと思っている。

 不思議は他にもある。

 あっぱり、猫を登場させなきゃ。
 これはもっと前の話だ。私が高校生のときの話だ。
 やっぱり帰り道。なにがやっぱりなのかわからないけど、不思議なことは帰り道に起こるのかもしれない。そんな馬鹿な。

 見てしまった。見たくないものを。
 車に轢かれたであろう猫を。
 猫好きには最悪な光景だ。

『可哀想に』

 そう思ってしまった。そんなことを思うと猫が取り憑くなんて話を誰かに聞いたことがあるような。誰だったろう。そんなことはいいとして、可哀相にと思ってしまった。

 それが原因なのかわからない。
 その日以来、私は突然猫のように鳴きたくなる。それは気を抜いたときに起こる。鳴いてしまって、しまったって思う。鳴くときは大抵誰もいないから問題ない。そう、誰かいると気は抜いていないからだろう。だから鳴いてしまうときは家にいるときが多い。

 自分で言うのもなんだけど、猫にそっくりな鳴き声だ。猫も振り返りどこに猫がいるのだろうとあたりを探しているくらいだから、そっくりなのは間違いないと思う。
 それじゃ、猫の鳴き真似してみてと言われてもそのときそっくりな猫の鳴き声ができるかはわからない。鳴こうとしてやるとイマイチのときもある。やっぱり無意識に猫の鳴き声をあげるときが一番そっくりになる気がする。

 これってあの亡くなった猫が取り憑いたってことだろうか。いや、取り憑くっていうのとは違うのかも。背後霊として憑いて守ってくれていると思えばいいのか。いいように解釈したほうがいい。その猫が私を通して鳴いているからそっくりなのだろうか。なんて思ってしまう。

「なあ、おいら死んだのか」

 なんて声が聞えたら怖いだろうけど。今までそんな声を聞いたことはない。いや、実は猫の鳴き声だけどそう言っているなんてことも。

「ヒャーーー」

 なんて悲鳴はあげないけど、猫好きだから。猫でも、化け猫だったら怖いか。いやいや、そんな話はしなくていい。
 ただ事故で亡くなった猫に『可哀想』とはやっぱり思わないほうがいい。猫の霊と付き合うはめになるから。たぶん、きっと。
 今もたまに猫のように鳴いてしまうことがあるから、まだいるのかもしれない。
 なんだかちょっとホラーテイストになってしまって申し訳ない。怖い話じゃないと言ったのにね。いや、そんなに怖くはないかな。

 私自身は怖いとは思ったことはない。これといって悪いことが起きたってこともないからね。
 いや、気づいていないだけで霊的な体験をしているのだろうか。私って鈍感なのかも。

 タクシーとの事故も実は守護霊が助けてくれたのかもしれない。祖父あたりがギリギリで止めてくれていたってこともあるのか。衝撃は祖父の霊が押し戻したからとか。タクシーも同じだ。霊に押されてぶつかったと思ってしまったのかも。
 おいおい、なにを話している。
 そんなこと……ない。本当にないのだろうか。ないとは言えないか。

 やっぱり「ヒャーーー」だ。いや、「ウニャーーー」かも。

「ウニャ―」ってなんだって思った人。なんとなく猫が悲鳴をあげるとしたらそんな感じかなと思ったもので。うーん、悲鳴っぽくないか。

 ふと猫の悲鳴ってどんなのだろうって思ってしまった。正解を知っていたら誰か教えてほしいものだ。

 よし、通い猫さんに効いてみよう。

「また、馬鹿言っている」


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