【完結】異世界でラスボスの生贄になったはずなのに何故か溺愛されました ~次は、あなたの物語~

上杉

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2章 あなたを幸せにしたい

2 魔力

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 急いで部屋に戻ったところ、先客はいなかった。
 ややあってスタブが朝食を持って現れたので、理人は無事寝たフリをして出迎えることに成功した。
 黒いパンと根菜のスープでお腹を満たしていると、スタブがなにかを思い出したよう口を開いた。
「理人、あとでアヌサバさまがいらっしゃるらしい。ここで待っていろとのお言付けだ」
 そのことばに理人はほっと胸をなで下ろした。
 どうやら、昨日の失態は王から伝わっていないらしい。待っていろということは、老翁自ら出向くということだ。スタブも警戒している様子はなかったので、理人はすっかり安心した。
 しかし次第に召喚主である老翁アヌサバが、何を伝えに現れるのか気になりはじめた。
 ――俺は、一体何を言われるのだろうか。
 何か仕事を与えてくれるのか、それとも城の外で達者に暮らせと言うのだろうか。
 しかしいまの緩い軟禁状態を考えると、きっと前者に違いないと思えた。城の外に出すなら、きっともうすでにやっているはすだ。
 途端、なぜかあの王の顔が思い浮かんだ。
 それはよく知る冷酷な表情ではなくて、穏やかに緩んだあの寝顔だった。そして自分を呼び止めた時の、まっすぐで澄んだ眼差しも。
 ひねくれているものの、どこか寂しがり屋に見える影の王。
 あの人も自分と同じように、この世界にひとり閉じ込められたようなものだ。
 自らを犠牲にし、この平和な世界に閉じ込められた孤独なセヴェト=オルカロス。
 いま、あの人は何をしているのだろうか。 
 そう思うも理人は頭を振る。
 ――いや、王のことよりいまは自分のことだって!
 自分はなにも持たずに異世界に召喚されてしまった、ごく普通の人間だ。力を持って自らこの世界に赴いたあの人とはまるで状況が違う。
 そもそも、軟弱で高校生活もまともに送れていなかったのだ。そんな自分にできることが、この世界にあるのだろうか。
「……はあ」
 理人がため息を漏らすと、スタブが食器を片付けながら声をかけた。
「どうした理人?」
「いや、大したことじゃないんだけど……。俺にできることが、この世界にあるのかなーってふと思ったんだ」
 すると、突然スタブはガシャンと食器を乱暴にバスケットにしまったあとで、大声で主張した。
「なにを言っているんだ。理人には膨大な魔力があるじゃないか!」
「……魔力!?」
「ああ。アヌサバさまがお前を召喚し生贄にしようとしたのは、王さまに魔力を捧げるためだった。理人から溢れる魔力はいまも爛々と輝いて見えるほどで、私にもすごく美味しそうに見える」
 そう言われ理人は戸惑う。
 ――どういうことだろう。でもそんなものが本当にあるのなら、こんなに苦労していないはずだ。
 理人はそう思いながらも続ける。
「スタブ、そうなの?」
「そうだ!食べればもう百人力なのに、なぜあのとき王さまが食べなかったのか今も私にはわからない」
「ええ…………それ本当?」
「もちろん!スタブは嘘言わない!」
 スタブは胸を張ってそう言ったものの、理人は少しも信じられなかった。
 魔力はゲームのなかで存在していたものの、それがいまの自分にある実感が全くなかった。
 身体は現世で普通に生活していたときと少しも変わっておらず、膨大な魔力が溢れ出ていると言われても、まったくわからなかった。
「スタブ、俺魔法使える気がしないんだけど……」
「……それは私にはわからない。ただ私たちは腹の下のところに介在器官があって、魔力を変換することができる」
 理人はそのことばに自然と納得した。
 実際にゲーム内でもエリアスが魔法を使うためには、魔導器と呼ばれる特別な武具が必要だったのだ。それがエリアスの手に入れたあの霊剣であり、ストーリーの中核を担っていたことを理人は思い出した。
 ――あの設定そのままなんだ。
 だからおそらくスタブの言う通り、この夜ノ国に生を受けたものはみな魔法が使えるのだろう。
 ゲーム内ではそのような設定になっていて、影の王セヴェト=オルカロスが命を削って闇の力を手に入れたことも、理人は思い出した。
 そんなとき、スタブがどこかそわそわした様子で近寄ってきた。
「スタブ……どうした?」
 するともじもじとしたあとで、彼はこう言った。
「理人、私にちょっとだけくれないか?魔力」
 頼まれた理人は単純に驚く。
「……え?そんなことできるの?俺はてっきり魔力をあげたら死ぬんだと思ってた」
 そう答えたときだった。
 スタブが次のことばを口にする前に、彼の後ろの扉が音もなく開いた。
 颯爽と現れたのは、見覚えのある長いローブに身を包んだ老人だった。
「……よろしいかな。以降は儂が教えるとしよう」
 召喚主老翁アヌサバは静かに言ったものの、その表情は長い髭に隠れてわからなかった。
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