【完結】異世界でラスボスの生贄になったはずなのに何故か溺愛されました ~次は、あなたの物語~

上杉

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4章 陽ノ国

2 光の王

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 牢屋から出された理人は、衛兵に従い白凰宮の中を歩いていた。その手には錠も何も付けられることはなく、はたから見れば一般人が謁見を行うように見えただろう。
 逃げようと思えば簡単に逃げられる、始め理人はそう思いながら緊張していた。しかし宮殿内を歩くにつれその感情は次第に変化していった。
 理人の目の前に広がっていたのは豪奢な内装や丹精込めて作られた細やかな装飾、そして道を行き交うぎらぎらとした兵たち――それはかつてゲームでエリアスを通して見ていた憧れの世界だった。
 そんな光景が目の前に広がる中、理人は徐々にエリアスに会うことが楽しみになっていった。
 ――まさかこうして会えるなんて。
 理人は王の間へと続く扉の前で鼓動が速くなるのを感じた。
 衛兵が一枚板の扉を叩くとそれは開き、目の前に大広間が広がった。広々としたホールの中央を赤い絨毯が貫き、天井を大きなシャンデリアが彩るなか。衛兵に従い理人はゆっくりと進んだ。
 ここは黑夜城とは違い王座の目の前まで平坦で、気づけば止まれと軽やかに声が上がったのだった。
 その聞き覚えのある声に思わず顔を上げる。そこにいたのは光の王であり主人公のエリアスだった。
 ――本当に……エリアスだ。
 黄金の髪はまるで彼の豪胆な性格を示すようにおおらかに広がり輝きを放っていた。その下の大きな瞳は夕日のようなオレンジ色で鮮烈な視線を送っている。しかし口元はこの世界さながらに明るい笑みを浮かべていた。
 小柄ではあるものの圧倒的な存在感があり、理人はその姿に目を離せないでいた。するとエリアスがおもむろに口を開いた。
「きみがセヴェトの召喚したという魔力供給源だね。はじめまして。私はエリアス。この国を統べる者さ」
 理人はエリアスと会話をしている事実に嬉しくなり、思わず名乗ろうとした。
「お、俺は――」
 しかし名前を言う前にエリアスの言葉に遮られてしまう。
「手短に話すから、しかと耳を広げて聞いてくれ。この陽ノ国は、きみが召喚された夜ノ国と対を成す世界なんだ。かつてふたつの国は――」
 そうエリアスは世界の説明を始めたものの、それは少しも理人の耳に入ってこなかった。なぜならエリアスがこちらの発言をまったく求めていないことに気付き、がっかりとしていたのだ。
 ――エリアスって……こんな人なんだ。
 そう思う理人の前で、彼はいまだこの世界の成り立ちについて嬉しそうに説明していた。
 確かにこの話は召喚されて右も左もわからないやつには必要だろう。しかしゲームを熟知している理人にとって、エリアスから語られる話はもう聞き飽きたものだった。
 だからこの時間は彼にとって一方的なものに感じられた。エリアスがこちらに話を振ってくれたなら、知っているから大丈夫と話を進められたのに。そんなことは求められていないように思えた。
 ――そういえば夜ノ国の人たちは、みんな俺の話を聞いてくれた。
 そう思いながら理人は、目の前で語るエリアスがどこか自分の母親に似ていると思った。
 高校に入って引きこもるようになってから母は積極的に理人と関わろうとした。もちろん心配してくれているのはわかった。けれどあの人はこちらの話を全く聞かずに情報を押し付けてくるだけだった。こちらがそれを求めていないにも関わらず。
 今思えばそれは当人にとってどうでもよかったのだろう。
 エリアスが語る姿を見て、理人はまじまじと理解したのだった。
「――セヴェトには悪いけど、種は根こそぎ取り払わなければいつ危険が生まれるかわからないからね。あの顔は私を訝しんでいる顔だった」
 その発言に理人は気付いた。どうやら黑夜城でエリアスはセヴェトと顔を合わせたらしい。途端、理人の胸にざわめきが広がる。
 初めて王と合った時の、こちらを恐れる奇異な眼差し。
 そして寝台で後ろから身体に強く回された腕。
 さらに書庫の中央で寂しく輝くあのアミュレットを思い出す。
 ――そういえば、あの人はこの人、エリアスが好きだったんだ。
 エンディングを終えふたつに分かれた世界で、ひとりになってしまったセヴェト=オルカロス。しかしまさかこんな簡単に行き来ができるなんて、思ってもいなかった。
 ――そうか……なら……俺はもしかしていらない?
 ベレトの強い視線が脳裏に蘇る。
『お前なんてこの世界に必要ない』
 そう言わんばかりの表情は、今思えば彼がすでに陽ノ国と行き来できることを知っていたからなのかもしれない。
 そもそも今、魔力が地に溢れてみな困っいるのだ。それなら王はそこから供給すればいいし、アヌサバも納得してくれるだろう。
 ――でも。
 強く抱きしめられて。数え切れないほど口付けを落とされて。
 少しだけでも必要とされて理人は嬉しかった。
『お前は、ここで俺の相手をしていればいい』
 そう言われて、心から救われた。
 現世では存在する意味を感じられなかった人生――この世界ではそれに意味があって、自分の存在を確かに喜んでくれる人たちがいた。
 ――だから皆に、感謝を言いたい。
 たとえ夜ノ国から追放されたとしても、一度だけはあの穏やかな世界戻って皆に会いたかった。
 なのにまさかあんなことを告げられるなんて。このときの理人は少しも想像していなかった。
 エリアスは全く変わらない笑みを浮かべたまま静かに言った。
「――という訳で、君にはここですぐに死んでもらわないといけないんだ。短い間で残念だけど……本当にごめんね」
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