【完結】異世界でラスボスの生贄になったはずなのに何故か溺愛されました ~次は、あなたの物語~

上杉

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5章 疑念

1 再会

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 理人が心地よい微睡みの中にたゆたっていたときだった。顔に柔らかい何かが触れたと思い目を開けると、そこには王の姿があった。
「……起こしたか」
 その優しい微笑みと窓の奥から差し込む明るい紫に、理人は心から安心する。
 ――そういえば、帰ってきたんだ。
 途端理人はあたりをきょろきょろと見回した。それは夜ノ国ではいつも朝目を覚ますとひとりだったからで、王がいることに違和感を感じ、寝過ごしてしまったのかと思ったのだ。
 王はそれを見てふっと軽く笑った後、サイドボードに乗せていた小さな籠を手に理人に渡して言った。
「……安心しろ。寝過ごした訳ではない。目が覚めたのならこれを口に入れて急いで着替えてくれ」
 籠を開けると中には入っていたのは黒パンとチーズだった。
 どうして、と理人が視線を送ると、王は呆れた口調で答えた。
「……みんなお前のことを待ってるということだ。なるべく急いでくれ」

 身だしなみを整えて王に付いていくと、彼が実務を行う執務机の前で待機する黒い影があった。
 近づいていくとその中の一際小さな影がこちらに気付き、真っ先に駆け寄ってきた。
「理人!」
 その声の主はスタブだった。その後ろに佇む老翁アヌサバの姿も確認し、理人も声を上げる。
「スタブ、老翁!ご心配をおかけしました」
「おお!よかったよかった。理人、無事で何よりじゃ」
「スタブも安心した……!理人いなくなって本当に寂しかった」
 そうして再会を喜んでくれるふたりは、理人にとってやはりかけがえのない人たちに思えた。
 この世界に来た当初の自分は、異世界に召喚された何もわからない生贄だった。
 その自分に居場所を与えてくれて、すっかり仲間だと受け入れてくれたふたり。もちろん王のためという理由もあっただろうが、今目の前で喜ぶ姿はきっとそれ以上のものがあると思えた。
「俺も一人は心細かったよ。ここに戻れてふたりにまた会えて本当によかった」
 そうしてしばし涙ぐんでいると、王が口を開いた。
「……理人。もうひとり、お前に話があるという者がいる」
「へ……?それは誰ですか」
 誰も思い当たらなかった理人の前に、柱の陰から姿を現したのは暗巍将軍ベレトだった。
 普段の威圧的な雰囲気はすっかり消え、どこかしょんぼりとした様子に理人は逆に動揺してしまった。するとベレトは目の前までやってきて頭を下げて言った。
「すまなかった。これまでのお前に対する非礼に対して謝る」
「え……」
「私は、昨今の国全体を脅かす魔力の暴走の件について、お前が原因だとずっと疑っていた。しかし先日お前が陽ノ国へ攫われたとき、状況は改善されると思ったものの少しも変わらなかった。……本当にすまなかった」
 その言葉に理人は逆に驚いた。
 なぜなら光の王も言っていたように自分こそが原因だから、自分が夜ノ国を離れている間きっと状況がよくなっていると思っていたのだ。
 自分がその原因でなくて嬉しい反面、他に真の原因があることを知り理人は困惑してしまった。
 彼のそんな様子に王は気付いたのだろうか、ベレトの隣で静かに口を開いた。
「それについてだが、あちらの世界――陽ノ国の者たちも関与している可能性がある」
「え?」
 ――世界はふたつに分かれて安定したはずなのに。
 そう理人が思っていると、アヌサバも穏やかに言う。
「理人や。そなたを攫ったキリウの登用はそなたを召喚する前からのこと。儂がそなたを召喚したことと、あやつらの動きはそもそもまるで関連がない。おそらく、違う目的があって潜伏していたということじゃ」
「……なるほど」
 すると王も思い出したようにぽつりと言う。
「エリアスのあの態度……むしろあちらの世界で先に兆候があったのかもしれないな」
 その言葉に理人は思う。
「理人、お前はなにか見たか?」
 王に突然そう聞かれ、彼は一生懸命思い出しながら答える。
「ええと…………特別なものは何も。ただ、エリアスは世界は平等に切り分けられたと言っていました。なのに俺の存在が均衡を崩しているから、そう言って処刑しようとして……」
「なんて野蛮な!」
 アヌサバの怒号を抑えるように王は言う。
「……あいつはお前がいつか害になるとも言っていたな。もしかすると、やつらも理人に原因があると早とちりしたのかもしれない」
 その言葉に理人は、やはり自分が結果的にふたつの世界の調和を乱しているのではと思い、気が気でなかった。
 途端王の大きな手が頭に触れ優しく撫でた。
「……気にするな。お前はこれまでどおりこの城の中でじっとしていろ」
「……でも」
 そう口ごもった瞬間、セヴェトは真剣な目つきでぴしゃりと言った。
「お前が動くと今回のように逆に大変になる。わかったならじっとしていろ」
「……はい」
 皆の前で強く言われ、理人は頷くほかなかった。
 ただその頭には新しく生まれた疑問――ならば自分の魔力は一体どこから来ているのだろうか――それですでにいっぱいだった。
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