【完結】異世界でラスボスの生贄になったはずなのに何故か溺愛されました ~次は、あなたの物語~

上杉

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5章 疑念

3 西の領主

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 西の果てに住んでいるケラヴノスという人物なら、何か手がかりが掴めるかもしれない。
 そんな新しい可能性を得た理人だったが、問題はどうやって彼に会いに行くかだった。
 西の果てはゲームには存在しない全く未知のエリアだった。そのためこの黑夜城からどのくらいかかるのかも、ひとりでどうやって行ったらいいのか少しもわからなかった。
 かといって、会いに行きたいから連れて行ってくれと誰かに頼むことも出来なかった。
 アヌサバには忘れろと強く言われたばかりだったし、もちろん王は論外だった。気にしないでじっとしていろと釘を刺されたのに、それを自ら破ろうとしていては絶対に怒られてしまう。
 ――ほかに頼れる人もいないし……もう言われた通り本当にじっとしていようか。
 アヌサバから頼まれたおつかいの途中、理人は青の燭台に照らされた自分の銀の腕輪を見た。それは今は熱を持っているわけでも振動しているわけでもなく、ただ輝きを放つだけの装飾品になっていた。
 ――そういえば……最近少しも呼ばれていない気がする。
 実際、彼が陽ノ国から戻ってきて以来、王の呼び出しは確実に減っていた。おそらく夜ノ国に広がる魔力の暴走問題が解決していないため、王はその対応に走り回っているのだろう。
 不意に彼はセヴェトの姿を思い出した。
 愛しげにこちらを見つめ、全身に口付けを落とす彼。
 あの大きな手や身体で優しく包み込まれると、心も身体もいっぱいに満たされることを理人は知っていた。
 ふと彼のもたらす熱を思い出してしまい、理人は回廊の端で赤くなりながら顔を横に振った。
 ――駄目駄目。セヴェトはそれどころじゃないんだから。
 ただ、だからこそ彼の力になりたかったし、自分のことは自分で解決したいという思いもあった。
 ――とりあえず……今日はもう部屋に戻ろう。
 そうして諦めて自室へ向かって歩き始めたときだった。
「どうした?浮かない顔だな」
 後ろからそう声をかけたのは、濃い色の肌と角が特徴のベレトだった。王の前で謝られてから度々会話を交わすようになった彼に呼ばれ、理人は思わず立ち止まる。
「……ベレト将軍」
 このとき理人は思った。
 ――この人なら例の領主様のことを知ってるかもしれない。
 未だこの世界の将軍という仕事があまりよくわかっていなかったものの、相手が一地方の領主とあらばベレトは知っているはず――。
 そう思った理人はすぐに聞いたのだった。
「将軍!ケラヴノス領主のことをご存知ですか?」
 すると彼はなぜか嫌そうな顔で答えた。
「……ああ。わざわざ家を捨て、西の果ての辺境領主の養子に入った変人だろう。あいつに何の用だ?」
 あいつ――その雑な口調に理人は気付いた。あいつと呼ぶということは、実はかなり親しい間柄なのかもしれない。
「知り合いなんですか?」
「……まあそのようなものだ。一応学閥の同期だが専攻はもちろん違う。俺は地政学であいつは魔術学専攻だった」
 そう答えたあとで、ベレトは何かに気づいたようにはっとして腕を組むと、ひとり考え始めた。
「……待てよ。あいつなら……わかるかもしれない」
 そうしてぶつぶつ言ったあとで、思い出したようにこちらを見て彼は感謝を口にする。
「理人、ありがとう。解決の糸口が掴めそうだ」
 アヌサバに続きベレトもそう言ったということは、やはり西の果ての男は本当にキーパーソンらしい。
 急ぎ足でその場をあとにしようとする将軍に向かって、理人は思わず声をかける。
「将軍!」
「ん?」
「俺もその人に話を聞きたいんです!自分に流れるこの変な魔力について。一緒に行っては駄目ですか?」
 すると表情を変えずに彼は答えた。
「それは閣下が許さないだろう。理人、お前ちゃんとお伺いを立てたのか?また勝手に動こうとしているのだろう?」
「……う」
 図星を突かれて理人は口ごもった。
 確かにそう言われればその通りだった。将軍がまずはセヴェトに許可を取れというのは当たり前のことだ。
 しかし理人の胸にあったのは、少しでも力になりたいという強い思いだった。それに自分のことは自分で明らかにしなければという使命感だった。
 この世界でお世話になったみんなには助けてもらってばかりで、まだ自分から何も返すことができていなかった。
 だから――。
「でも……今の魔力の問題が百パーセント俺のせいではないってまだ言えないし、早く俺のこの変な魔力を明らかにしたいんです。無害とわかれば、ほかにもいろいろと使えるかもしれないし」
 ベレトの金色の眼差しがこちらに向けられる中、理人は続けた。
「それなら現物も行かないと駄目だと思うんです。今回は国内の移動になるし、貴方と一緒なら危険はないでしょう?最近、王は忙しく飛び回っていて、俺もできることなら少しでも力になりたいんです。将軍、お願いします」
 それは心からの言葉だった。
 しばし沈黙が流れたあとでベレトは降参したように言った。
「……そうだな。計画しよう。しばらく待っていてくれ」
 その表情は穏やかながら凛々しく引き締まった将軍の顔をしていた。

    
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