【完結】異世界でラスボスの生贄になったはずなのに何故か溺愛されました ~次は、あなたの物語~

上杉

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6章 ひとり

2 危機

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 ――まさか、王があの竜の姿になってしまうなんて。
 城からの緊急伝達を受けたベレトが移動の準備を始める中、理人はひとり呆然としていた。
 その頭にあったのは、ゲームの中のラスボス戦で見せたあの巨大な黒い竜の姿だった。
 ――どうしてあの姿になってしまったのだろうか。
 ゲームのストーリーでは、膨大な魔力で自我を失いエリアス達によって正気に戻され人の姿に戻っていた。それを知っていたからこそ、今回も抑えられていたはずの魔力が暴走しこうなったのではと理人は思った。
 だから不意に頭をよぎったのは、俺のせいかもしれないという疑念だった。
 理人が顔を真っ青にしていると、後ろからベレトが声をかけた。
「理人、大丈夫か?」
「今回の件……俺のせいかもしれません」
「何だと?どういうことだ?」
 そう確認するベレトに向かって言ったのはケラヴノスだった。
「……それは違うと思うよ」
 そんな彼は先程とは打って変わって正装を身にまとい、さらに魔装具を重ねた重装備の姿になっていた。それを見たベレトは思わず言う。
「ケラヴノス!……まさかお前」
「ああ、僕も同行させてもらうよ。ベレト、転移魔法が発動しないんだろう?」
「なぜそれを……」
 驚くベレトに向かってケラヴノスは淡々と告げた。
「いいから。君の黒虎を出してくれ。魔法で強化し空から向かえば大した距離じゃない」
「……わかった」
 そうしてベレトが頷いた後で、ケラヴノスは落ち込む理人に向かって諭すよう言った。
「理人、気を落とさないで。まずは急いで向かおう」

 三人は二頭の虎に跨り空へと舞った。鎧をまとったベレトはひとりで、ケラヴノスと理人はふたりで虎に乗って先を急いだ。
 前から襲い来る猛烈な風の中で、ケラヴノスは前に座る理人に向かって言った。
「理人、いろいろあって頭がごちゃごちゃしてると思うけど、今回の王の件は君のせいではないよ」
 その穏やかな言葉に引き出されるように、理人は思っていることを口にした。
「……でも、アヌサバ様は当初弱っている王を心配して生贄を召喚しようとしました。それで俺も度々王に魔力供給をしていて、最近はすっかり元気な顔をしていたんです。なのに……俺が陽ノ国へ連れて行かれたりいろいろあって、最近あまりできていなかったんです。だから――」
 焦る理人に淡々とした口調でケラヴノスは言う。
「違うよ。理人、落ち着くんだ。確かに君の供給する魔力は王に届き、彼を抑えていたのだろう。ただ遅かれ早かれ確実にこうなっていたと思うよ」
「……そんな」
「おそらく王の不調は大地に流れる魔力と連動しているんだ。魔力の乱れが見られたのはずっと以前からのことだし、最近落ち着いていたことからも君の魔力によってある程度制御されていたのだと考えられる。ただ、流出する魔力は加速度的に増加していく傾向にあった。だから君が魔力を供給しようが、いつかは限界を超えてこうなっていたということだよ」
「……そっか」
 沈鬱な声でぼそりと言うと、ケラヴノスはなぜかこう聞いた。
「君は、閣下のことをどれだけ存じ上げている?」
「え……どういうことですか?」
「いや、あの方は秘密が多い。家臣たちは信頼しているようだが、僕は一研究者としてあの方の魔力に思うことがある」
 その言葉に理人は思わず聞いた。
「それは…………陽ノ国の出身ということですか?」
 するとケラヴノスは一瞬驚いたように言葉を失ってから静かに口を開いた。
「……そうだね。あの方はこちらに出自がないにも関わらず、魔導器を必要とせずに力を使う。しかも僕みたいに方陣や魔石で強化せずありのままだ。だから秘密があると思うのは当然だろう」
 魔力の研究をするためにわざわざ西の果ての地を治める領主になった彼には、気になることなのだろう。
 理人は思わず自身の記憶を辿り、ゲームの内容を思い出してみた。
 ――そういえば……力を得るために大いなる闇と契約した、そんなセリフがあったっけ。
 ほんの一言、エリアスに対して煽るように言ったその言葉が、セヴェト自身と地に流れる魔力の謎に関係しているのだろうか。
 理人がそう考えていると、突然身体に触れる風が弱くなった気がした。ゆっくりと見下ろすと、みるみる高度は落ちており視線の先に小さく城が見えた。
「さあ、降りるよ」
 その言葉と同時に二頭の黒虎は風を蹴り空を旋回しはじめた。そして城の上空から見えたのは、城の裏の庭で暴れる巨大な竜と禍々しい黒い風だった。
「まずいな、空からは無理だ。降りるぞ」
 ベレトの掛け声を合図に、二頭は地へ駆けると流れるように着陸した。同時にこちらに気付いた衛兵たちが駆け寄って来たのだった。
「ベレト将軍!」
「お前たち、大丈夫か?」
 ベレトがそう尋ねると、彼らは息を荒らげて答えた。
「駄目です!兵たちと老翁が必死に抑えていますが未だ近づけず……むしろ少しずつ城壁を崩されています!」
「まずいな……市街へは何をしても抑えねば」
 そうぽつりと呟いたところに現れたのは老翁アヌサバだった。
「将軍、理人!よくぞ戻ってくれた!それに……ケラヴノス!そなたもか!」
「師匠、久しぶりです」
 微笑むケラヴノスに向かってアヌサバは喜んで言った。
「そなたがいれば話は早い。……よし、地脈からの魔力供給を一時中断し王の活動を停止させる。そなたは反対から儂の補助を頼む。さあ、方陣を描くぞ」
「なんなりとお任せください」
 次にアヌサバはベレトの方を向いて言った。
「将軍は兵らと共に王を抑え込み、陣の完成後その中に誘導してほしい。閣下相手ではなかなか大変な仕事だと思うが、頼んだぞ」
「……ああ。承知した」
 そう返答すると同時にベレトは振り返り理人に向かって言った。
「理人、お前はさがっていろ」
「でも――」
「今の王は自我を失われている。お前には危険だ」
 そう言われてしまえば理人は従うほかなかった。
 何故なら今この状況で自分が何が出来るのか、理人にはまったく想像がつかなかったのだ。
 視線の先には、王の面影のない禍々しい気を放つ竜が叫び声を上げ迫る兵たちを薙ぎ払っていた。その身体は城を囲う城壁の倍はあり、黒光りした鎧のような鱗は全身を禍々しく見せていた。ただ輝くふたつの小さな瞳だけはあの人と同じ紫水晶だった。
 理人は自我を失い暴れ続ける彼の姿を見て思った。
 この人――自分にとってかけがえのない大切な人であるセヴェトに今危機が訪れている。にも関わらず、なぜ自分は彼に何もしてあげることができないのだろう。自分のときは時空を超えてまで助けに来てもらったのに。
 なぜ自分だけあの人を助ける術がなく、こうして見守っていることしかできないのだろう。
 ずっとそばにいると――あなたを幸せにすると決めたはずだったのに。
 そうして理人がひとり自責の念に襲われていたときだった。

「――少年。君はそこで立ってばかりで何もしないのかい?」

 聞こえたのは理人のよく知る澄んだ声だった。
 それはかつて彼が親しみ憧れ、こんな人になりたいと願った『ロード・エクリプス』の主人公――エリアス=ディアマンテその人だった。
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