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6章 ひとり
3 次は自分の番
しおりを挟む「なんで……ここにあなたが……?」
光の王エリアスとその後ろに見えたのは、ゲーム『ロード・エクリプス』で理人がラスボス戦を戦ったメンバーだった。
陽ノ国のとある地方を治める領主フラウロスと、冶金師のケルフェ、そして紅一点の聖女ルエニが揃う姿に理人は思わず目を見開いた。
そしてさらに奥に見えたのは、理人を陽ノ国に攫った張本人であり謀反者のキリウだった。
「くっ、こんなときにやつらまで!――貴様ッ!どの面下げてここに来た!」
ベレトが怒声を上げるも、ケラヴノスが脇から現れ冷静に制した。
「待つんだ。君はすぐにそう熱くなるから対話という言葉を知ったほうがいい」
「何?」
ベレトを無視しケラヴノスは光の王に向かって言う。
「私は夜ノ国西方ドエル地方の現領主ケラヴノスと申す。光の王とその御一行とお見受けする。見ての通り状況が状況なので目的を簡潔に伝えて頂きたい」
するとエリアスは微笑みながら口を開いた。
「丁寧に感謝する。――キリウ」
「はっ」
名を呼ばれて進み出たのはキリウだった。
その姿は以前と同じ白銀の髪を優雅に束ね金の眼差しを向けていた。しかしそれはあのときよりも鋭く引き締まって見えた。
「私たちは以前より地を巡る魔力の異変に気付いておりました。その原因がもうひとつの世界にあるという可能性を潰すため、私はしばらくの期間そちらに潜伏していたのです」
鋭い金の瞳はちらりと理人に向けられた。
「――そこでたまたま特異な魔力を持つ彼の存在に気付き、彼が鍵を握っているのだと考えた私は陽ノ国へと連れて行くことにしたのです。その節は大変失礼しました」
かつてのキリウとは異なる真面目な口ぶりに理人が動揺するも彼は気にせず続けた。
「……そういう訳で、今回再び大きな魔力のひずみを観測した私たちはその原因が陽ノ国ではないことを知り、こちらに足を運んだのです」
「そういう理由で助けに来たという訳だ」
エリアスのさらりとした言葉にベレトは思わず言う。
「それはあまりにも一方的すぎるだろう!」
「……ああ。その少年に酷い思いをさせてしまったことは詫びよう。ただこれはふたつの世界を揺るがす一大事なんだ。私たちも力になりたい、そう思ってここに来た」
背後で竜の怒号が響き渡る中、エリアスの言葉を聞いたケラヴノスは少し考えた後で口を開いた。
「……貴方たちの言い分は承知した。今回は助太刀頂こう」
「おい、ケラヴ――」
その将軍の言葉は途中でケラヴノスに塞がれてしまった。ベレトは怒りに燃え上がったものの、ケラヴノスに何か言われようやく引き下がったのだった。
光の軍勢たちは武器を手に取ると、すぐさま巨竜の封じ込めにかかった。目の前で憧れのパーティたちが縦横無尽に舞う姿に理人は思わず驚いた。
――やっぱり……格好いい。
彼らは華麗な連携で城壁に迫った王をみるみる引き剥がすと、アヌサバとケラヴノスが用意した大きな方陣の内側に押し込んでいく。
そうして片足が入った瞬間――エリアスの剣戟が王の硬い表皮にぶつかり、巨躯が陣の中へと押されたときだった。
「今だ!」
エリアスの掛け声と同時にアヌサバが呪文を口にした。
すると陣が赤く輝き竜が戦慄いた。しかし――。
「何故……お戻りにならない」
ベレトがそう呟くのも訳はなかった。巨竜は苦しそうに悶えながらも一向に人の姿に戻らなかった。アヌサバは別の呪を口にし、白い眉をひそめながら言った。
「むう……地脈からは無事魔力が切断されている。なのに人の姿に戻らぬとは……」
その脇でケラヴノスは顎に手を当て考え込んだあとで口を開いた。
「……記憶を失ってるかもしれません」
「記憶、とな?」
「はい。戻らないということは、人であった記憶を一時的に失っている可能性が考えられます。だから何か記憶を思い出すようなことをすれば……」
「閣下が思い出すような記憶…………それは一体……」
ベレトがそう呟いたときだった。突然その脇でエリアスが何かに気づいたように振り返って言った。
「少年、君の出番だな」
「……え?」
何もわからないという顔をする理人を無視しエリアスは続ける。
「かつてのセヴェトは人を助ける男ではなかった。なのに君が攫われたと知ったとき、魔力を使ってまでひとりで陽ノ国に現れた。ということは……君はあいつにとって特別だということだろう?」
その言葉に一瞬理人は嬉しくなるも、逆にいま自分が何も力になれていないことに気付き虚しくなる。
そんな理人に向かってエリアスは微笑みながら言った。
「……だからよく知っていると思うが、あいつは――影の王はとんでもなく強情な奴なんだ。昔から思っていることを口にして自由にやればいいのに、そうしない。今回もきっと自らの異変に気づいていたのに、周りに何も言えなかったんだろう」
その言葉に理人は思わず口を開いた。
「それは……きっと怖いから」
「……どういうことだい?」
エリアスの諭すような問いかけに理人は続けた。
「……心配なんです。自分が言ったことを周りのみんなが受け入れてくれるのか」
そうして理人は思った。生まれたときから周りの人に何でも伝えられる太陽のようなエリアスには、きっとわからないことなのだ、と。
心優しいセヴェトは周囲に気を使って生きている。それは彼本来の性格もそうだし、自分が外から現れた王だからこそなのだろう。
だから彼は基本的に言いたいこともすべて内に抱えてしまう。そのため周りの人に、貴方はここにいていいと言われ、存在を認められて始めて言葉に出せるようになるのだ。きっと自分がそうであるように。
そうして理人は気付いた。今彼のためにできることがたったひとつだけあることに。
「…………あ」
「少年、君にはやるべき事がわかったようだね」
理人は真剣な眼差しで頷いた。
「……はい。多分、俺にしかできないことだと思います。……だからできる限り今すぐにあの人の近くに行きたい」
あまりにも唐突な理人の発言に、心配したのはアヌサバだった。
「理人や、大丈夫か?」
それに対して光の王が立ちはだかるように言った。
「安心してくれ。私が彼を導こう」
そうして手首の魔道具に口付けたと思えば、白い閃きがあって光り輝く大鳥が姿を現した。その三メートルはある大きな背中にエリアスと共に飛び乗ると、鳥はゆっくりと羽ばたきながら上空へと飛び立った。
「皆、閣下をできる限り落ち着かせろ!」
ベレトの声が響くと同時に、暴れる王をできるだけ陣の内側に押し込めようと皆動き始めた。
その様子を上空から見下ろしながら、エリアスは理人に問いかけた。
「少年、怖くないか?」
言われてみれば恐怖はなかった。ただ今理人にあったのは、自分にしかできないという使命感だった。
「大丈夫です。よく考えれば一度死んでるんで」
「そうか……悪かった」
陽ノ国での出来事について謝っているのだろうと思いながらも、理人は無視して言った。
「――あの姿でも、あの人であることに代わりはないので」
目の前に近づく巨竜は今も暴れ続けていた。しかし理人の心はそれに反して穏やかだった。
なぜならこれまで理人がセヴェトに傷つけられたことは一度としてなかったから。それにあの人は初めて会ったときからずっと優しかったのだ。
不安だった自分に気を使ってくれて、ここにいていいと言ってくれた唯一の人。
そんな大切で心から幸せにしたいあの人を、次は自分が助ける番だった。
「……セヴェト、セヴェト!俺はここにいるよ!」
理人はできる限りの大声で叫んだ。
「勝手なことして心配かけてごめん……!もう離れたりしない!……これからもずっとあなたの隣りにいて、あなたの全てを受け止める!だから――」
理人がそう続けようとしたときだった。
突然下から黒い靄が伸びたかと思えばそれは彼の身体を包んだ。そして闇へと引きずり込むようにエリアスの後ろから引き剥がした。
「少年!」
闇の中へ落ちていく理人の目に見えたのは、白く輝く大鳥の上で叫ぶエリアスの姿だった。
ただ彼の心を占めていたのは穏やかな安心感だった。
なぜなら身体を包む闇の温かさは、セヴェトに包まれた時と同じ温もりだったから。
理人は暗い影の中で目を閉じるとゆっくりと意識を手放した――。
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