【完結】異世界でラスボスの生贄になったはずなのに何故か溺愛されました ~次は、あなたの物語~

上杉

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8章 居場所

2 将軍の視線

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 アヌサバとスタブによく休めと言われ、理人は自室へと向かおうとしていた。
 その心は温かく心地よいもので満たされると同時に、内に爽やかな風も吹いているようだった。
 ――俺は……ここでこれからも生きていくんだ。
 そう思いながらひとり回廊を歩いていたときだった。城入口に面した大きなホールの手前で、後ろから彼を呼ぶものがあった。
「理人!」
 その声は暗魏将軍ベレトのものだった。彼も王との会議を終え、今後の世界の目指す先を知ったのだろう。凛とした響きはどこか普段よりもずっと明るく感じられた。
 彼は嬉しそうに理人のもとへと駆け寄ると、男前な笑みを浮かべて言った。
「……閣下のこと、本当にお前のおかげだ。理人、心から感謝する。ありがとう」
 まさかそんな風に言われると思っていなかったので、当の本人は心の中で少しだけ動揺した。そして照れていると、その間に何故か将軍は神妙な面持ちになって理人にこう聞いたのだった。
「あと……私のせいで西の果てで色々あったんだろう?すまなかった」
 その言葉に気付いた理人は言う。
「あれはしょうがなかったんです、将軍のせいではありません」
「分かっている。ただ、謝っておきたくてな。私が伝えておけば違ったのかもしれないが……お前も分かっていると思うが、あの時はそれどころではなかっただろう?」
「……はい。その通りです」
 ベレトはすでにケラヴノスから文句の一報でも受けていたのだろうか。苦々しい顔つきで申し訳なさそうに言った。
「理人、閣下は酷く心配されただろう?ただ、昨日今日のさっぱりとしたお顔付きと仕事に励む姿を見ている感じでは、お前はすでに意向を伝えたのだと思ったのだが?」
 その言葉に理人はどきりとした。
 こちらに戻ってきて以来まだふたりきりで面と向かって話し合う機会は得られていなかった。
「いえ……忙しそうにしていたので実はまだ話の方はできてなくて……」
 するとベレトは一瞬気まずそうな顔をしたものの、しょうがないと言う微笑みながら言った。
「……確かにな。見ての通り皆この有り様だ」
 そんな彼の視線は忙しそうに回廊を行き来する者たちへ向けられていた。皆、王の指示に従い世界を一つにするために動き出しているのだ。
 もちろんベレトにも個別で与えられた仕事があるのだろう。話している余裕なんて本当はないのでは、そう理人が思っているとベレトはこちらに視線を向けて聞いた。
「ただ、もうどうするかは決まっているんだろう?」
 その顔は微笑んでいたものの目は真剣そのものだった。
 理人はしっかりと目を合わせて口を開いた。
「……俺はここに身を置こうと思っています。もといた世界では俺はなんにもできなかった。けどここに来たおかげで変わることができたんです。だから戻りません。みんながいるここで、俺は新しい人生を生きます」
 言葉はきちんと自分の言葉となって、流れるように口から出た気がした。
 理人が満足しているとベレトは鋭い視線を和らげていった。
「……そうか。それは嬉しい話だな。お前がいなくなることなど正直考えられんからな。特に閣下も……もしそうなったらここからいなくなってしまうかもな」
 そう言って笑うので理人は静かに笑いながら反対する。
「それはないですよ。将軍もご存知の通り、王は責任感の強いお方です。魔力のなくなった俺のことをそこまでして追いかけませんよ」
 すると将軍はお前は何もわかってないと言いたげな笑みを浮かべて言った。
「何を言ってるんだ。魔力の有無なんてずっと前から関係なくなっているだろう」
「……へ?」
「お前はすでにそういう存在なんだ。お前のおかげで実際に話は進んでいるし――いや、進みすぎているかもしれないな」
「?」
 すると将軍は突然視線を城の入口ホールへ向けて言った。
「……早すきるだろう」
 そして突然ぴりっとした空気を辺りに醸し出し始めたので理人もその先を追いかける。
 ベレトの鋭い視線の先――城の入口から入ってきたのは、白く輝く鎧と全身に虹色のエフェクト――霊剣の加護をまとった男だった。
「また会ったな少年――いや、理人」
 彼がよく知る微笑みを投げかけたのは、光の王エリアスだった。
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