【完結】初恋の女神の弟がなぜか俺にちょっかいを出してくるんだが？ ～恋、始まり今いずこ～

1 Side 慧

2 再会

　そのあとの俺の行動の速さは、奇跡に近いものだった。　

　汗だくになって家に帰ってきた俺は借りてきた本を玄関に放り投げると、自室までの階段を駆け上がった。
　そして部屋に入るや否や、手のスマホで地図アプリを起動し、家から図書館までのあいだの道を、スライドしてくまなく探した。

　――あった。『喫茶みどり』。

　そうして勢いのままに電話をかけたのだった。
　結局、引き気味の店長に半ば強制的にアルバイトを申し込むと、面接の連絡がありあれやこれやしているうちに、いとも簡単に初出勤日を迎えることになった。
　そこでようやく英梨さんとの二回目の出会いが叶ったのだった。

　始めての出勤日、俺は店長に言われた通り、学校の制服の白シャツと黒いズボンを身に付け店に向かった。
　もちろん、そのときの心臓はどれだけ跳ね上がっていたか。

　――この扉の奥に、あの素敵な人がいる。

　そう思うだけで、胸はいとも簡単に高鳴った。

　――落ち着け。緊張するな。

　とにかく少しでもよく見られたかった俺は、そう自分に言い聞かせてなんとか心を落ち着けようとした。
　そうして玄関の扉の前で立ち止まっているうちに、なんとそれは突然ぱっと開いたのだった。
　それに気付いた俺が顔を上げた瞬間、目の前に立つ英梨さんの姿が目に入り――。

「あれ……きみ……」

　彼女の大きな瞳がこちらに向けられるも、突然のことで俺は言葉を発することができなかった。
　そのまま無言で呆然としていると、彼女は突然目を見開き俺に言った。

「あ！前そこで頑張っていた子だ！……まさか、今日からの子ってきみ？」

　その言葉になんとか必至に頷くと、英梨さんは太陽のような笑顔を俺に向向けてこう言った。

「そっか！一緒に働けて嬉しいなあ」 
　
　ああ、なんていう女神。
　その日から――英梨さんが俺を認識してくれたあの日から、俺の景色は確かに変わったのだった。