【完結】初恋の女神の弟がなぜか俺にちょっかいを出してくるんだが? ~恋、始まり今いずこ~

上杉

文字の大きさ
15 / 53
1 Side 慧

14 染谷家

しおりを挟む

 夏休みに入り、誉史と約束したあの日がやってきた。
 俺は、スマホに連絡の来た場所へと向かっていた。
 ちょうど家から三十分ほど歩いた頃だろうか。そこは俺の家から喫茶みどりを挟んでちょうど反対側の場所に位置する、川沿いにある一軒家の多いエリアだった。
 ――この家か。
 小さな庭の付いている、お洒落なグレーの壁の家に辿り着いた俺は、表札がきちんと染谷であることを確認し、スマホで連絡を送る。
 するとすぐに既読がつき、扉が開いて誉史が現れた。
「誉史、来たぞ」
「お疲れ様です。どうぞ」
 そう言って入れと手で示すので、俺は恐る恐る玄関へと上がった。
 靴を脱ぎ、誉史の後ろをキョロキョロしながらついていく。
 俺がそんなにも挙動不審だったのは、今まで積極的に友達を作ってこなかったせいで、友達の家に遊びに行った経験がほぼなかったからだ。
 誉史が入っていったのは、玄関の隣のリビングダイニングだった。
 そこには南向きの大きな掃き出し窓があり、そこから夏の日差しとと温い風が吹き込んだ。ふわりと膨らむカーテンの隣には、鮮やかなオレンジ色の布張りのソファが置かれていて、その手間には四人座れる木製のダイニングテーブルがある。女性的で柔らかなインテリアだった。
 ――うちとは違って……お洒落な家だな。
 男兄弟ふたりを抱える家とは、やっぱり女性の割合が違うことで雰囲気も変わるのだろう。
 壁に寄せられた棚にも、お洒落な小物や照明が飾られている。その可愛らしい様子は、誉史のスポーティーな雰囲気とはちぐはぐで、すこしだけ浮いているようにみえた。
 すると、当の本人は奥のキッチンの冷蔵庫を開けながら俺に声をかけた。
「先輩、何飲みますか?」
「ああ、なんでも構わない」
「了解です。俺準備するので、先に俺の部屋に行っててください。階段上がってすぐ右です。……左じゃないですからね!」
「……わかってるって!」
 誉史のにやにやした顔を背に、俺は言われた通り廊下に出て、玄関に面した正面の階段を上がっていく。
 ――階段からすぐ右の部屋。
 二階に辿り着いたあと、左側にも一瞬扉が見えたものの、俺は欲を押さえて右の部屋に入った。
 誉史の部屋は、想像していたよりもすっきりとしていた。
 川側に設けられた窓の脇にベッドが置かれ、部屋中央のローテーブルの側には高校生らしく漫画やゲームの端末があった。しかし基本的に物が少なく、特に想像していた部活関連のものがひとつもないことに驚いた。
 ――俺が来るからクローゼットにでも片付けたのだろうか。……いや、それならもう少し全体的に綺麗にするだろう。
 ベッドの上はさっき起きたみたいに荒れているし、漫画の並ぶラックの周りの床にも、なぜか無数の写真が散らばっていた。
 俺は、そのすべてが裏になっていることに気付き違和感を覚えた。
 ――そういえば、この家はあまり写真を飾っていないな。
 自分の家では、小さい頃から母が何かあるたび写真を撮っていたから、いまでもリビングには無数の家族写真が飾られている。
 しかしこの家のリビングには一枚もなく、それなのになぜかこんなところに放置されたように散らばっているのだ。
 ――写真の床置きは……気になるな。とりあえず、まとめて机の上に置いとくか。
 そうして俺が無意識に一枚手に取ると、それは確かに染谷家の家族写真だった。
 小学生くらいの誉史と――幼さの残る表情をした英梨さんがいた。そのふたりを見守るように立つ大人は、おそらく両親だろう。
 ――なんで家族写真がこんなところに。
 俺は付いていたほこりを手で軽く払うと、とりあえずラックの左にあった勉強机の上に返して置いておいた。
 そして、続けてほかの写真に手を伸ばそうとしたときだった。
「先輩!」
 そう言って誉史が入ってきたので、俺はびくっとしてからだを固める。
「すみません、待たせました。先輩はそっちの座布団あるほうに座ってください」
 そう言われたので、俺は指示のとおりに座卓の反対側に腰を下ろした。
 そのときの誉史の瞳は、どこか普段と違って見えた。
    
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?

甘塩ます☆
BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。 だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。 魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。 みたいな話し。 孤独な魔王×孤独な人間 サブCPに人間の王×吸血鬼の従者 11/18.完結しました。 今後、番外編等考えてみようと思います。 こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)

処理中です...