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1 Side 慧
18 名前は……親友?
しおりを挟む浜辺ではビーチバレーが始まり、クラスメイトたちがネットを境にボールを追い回している。
俺はその端のパラソルの下で、横たわりながらそれを眺めていた。
なぜひとりこうしているのかと言うと、簡単に言えば調子に乗ってしまったということだ。
誉史とともに海に入ったあと、あいつに泳げるのかと煽られた俺は、うっかりその誘いにのってしまった。そして近くの岩場まで一往復したところで、完全に体力を使い切ってしまったのだった。
要するに、はしゃぎすぎて疲れたということだ。
俺は着ていたパーカーを枕にしながら横になり、楽しくボールを追いかけているクラスメイトたちを見ながら思った。
――あいつらは……底なしか。
さっきまで泳いだり好き勝手遊んだあとにも関わらず、みんな元気に暑い中を動き回っている。
そうして俺がぼんやりとそれを見ていたときだった。パラソルの下に入ってくる人影がひとつあった。
「慧、大丈夫?はい、これ」
その声はほなみだったので、それならいいかと横たわったままでいると、背中にひやりとしたものが触れる。
「――冷たっ」
「あはは」
それは冷えたスポーツドリンクのパウチだったので俺はほなみを軽く睨むも、感謝を言ってすぐそれを顔に当てる。
「慧、そういえばさ、さっき言ってた聞きたいことって何?」
そう言われ俺は一瞬なんだろうと思ったものの、覚えていたのかと気づき驚きながらほなみに聞く。
「ああ。誉史のさ……部活のことなんだけど」
「……染谷くんのことね。あんたたち最近仲良さそうだと思ってたから、もう知ってると思ってたの。染谷くん、高一の冬に怪我で部活辞めちゃったらしいんだよね。いまはほぼ完治してるみたいなんだけど、復帰しないから。せっかくなら海どうかなーと思って声かけてもらったの。あんたも仲いいし、千夏も染谷くんのこと気になってるみたいだから」
「……そうか」
その話を聞いた俺は考える。
高一の冬というと、ほんの半年も前のことだ。誉史かどれだけ部活に力を入れていたかはわからないが、まだ気持ちの切り替えができていなくてもおかしくはない。
俺にとって勉強のようなものだったら、そう思うとなかなか大変なことではないか。
俺がそう考えていたときだった。不意にほなみは真剣な声色で言う。
「やっぱり、慧変わったね」
「そうか?」
「……うん。これまで他人に興味を持ったことなかったのに。本当に感慨深いよ」
たしかに、そう言われれば俺はずっと他人に興味がなかった。それは俺が無意識に周囲を嫌っていたからであり、それを周りも感じ取っていたからだろう。だから普段から誰かに必要以上に声をかけられたことはなかったし、夏休みにこうして海に来て遊ぶことも、これまでの俺なら考えられないことだった。
ぼんやりと思いながら、俺の視線はふと誉史に向かう。
楽しそうに笑いながら、汗を流してボールを追う誉史。
その姿をみた俺は、ほなみにもうひとつ聞きたいことがあったことを思い出した。
「そうだ、もうひとつあるんだ。俺…………誉史のことが気になるんだけど」
そう言いながら俺はすこし恥ずかしくなる。しかしほなみは至って冷静に静かに返す。
「気になるってどういう風に?」
「それは……その……部活のこととか、家族のこととか。前に勉強を教えにあいつの家に行ったんだけど、一緒にすごしていると少し気になることがあって…………だけどあいつは俺の前でもいつもあんなで、なにかを抱えている気がするのに何も見えないから。だからそれがどうも気になって仕方がないんだ」
するとほなみは真剣な目をして、
「……うーん、慧は……染谷くんの親友になりたいの?」
と言った。
「親友?」
「知りたいとか、助けてあげたいとか。それは、ただの友情を超えた親友の位置に辿り着きつつあるんじゃないかと思うけど。親愛の情、みたいな?」
「そうか。なるほど」
親友、そのことばを聞いた俺は、どこかほっとしていることに気づいた。
――仮にこの気持ちが恋であったなら、俺は英梨さんのときみたいになるのが怖くて、一歩も動けなくなってしまっていただろう。
しかし親友なら大丈夫だ。これまで築いた関係が、一言で壊れるなんてことはおそらくない。
「慧はさ、友達も親友もいなかったもんね。あたしは……幼馴染だし」
「別にいいだろう。これまで友達も親友もいなかったとしても。まあ、とりあえずありがとう。わかってよかった」
俺はそう言って立ち上がると、みんなのもとへ向かった。重たかったからだはなぜか羽が生えたように軽くなり、ビーチバレーもできそうな気がしたのだった。
だから後ろでほなみがぽつりと呟いたことばは、俺の耳には届かなかった。
「うーん、あの熱視線。親友じゃなくて……恋愛の線もあったりする?」
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