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1 Side 慧
22 女神再臨
しおりを挟む「星野くん、久しぶり!もう、なんだか立派になったねえ」
英梨さんという憧れのひとにそう言われ、俺はいまが勤務時間であることを忘れ、思わずじーんとしてしまった。
「英梨さん……」
だから彼女の背後にもうひとり立っていることに、すこしも気づかなかった。
「こんにちは!」
そう言って英梨さんの脇から店内に入ってきたのは、センスの良いライトグレーのセットアップに身を包んだ男だった。身長が高く、その涼やかな目元はいかにもできる営業マンだったので、その見慣れなさに俺は一瞬驚く。
すると、なぜか彼は俺の方をまじまじと見ながら、その立ち姿に似合わない大きな声でまくし立てはじめた。
「うっわ!すげーイケメンがいる!ねえねえ、まさかきみが噂の星野くん?」
――噂の?
そう疑問に思ったものの、俺はとりあえず勢いのままに頷く。
「は、はい……星野ですが」
「やっぱりそうか!きみ、すごく芯があってシゴデキらしいじゃん!受験生?進学先は決めたの?」
その怒涛の問いに呆気にとられていると、それに気づいた英梨さんがため息をつきながら言う。
「…………星野くん、紹介するね。このひとはあたしの同僚で――」
「婚約者の松村でーす!いやー星野くん、それにしても本当に男前だね。こんな年下イケメンに真正面から告られたら、俺でもいいよって言っちゃうかも――痛っ!ちょっと染谷!暴力禁止!」
英梨さんがひとを小突いているのを、俺はこのとき初めて見た。
ようやく松村さんが大人しくなったところで、英梨さんは俺に言う。
「星野くん……うるさいのまで連れてきちゃって本当にごめんね。いまお店入れる?」
「もちろん。ご覧の通りノーゲスなんで、少しくらいうるさくても全然大丈夫です」
俺がそう言いながら案内すると、英梨さんは、
「ほら、こういうところが優秀なの」
そう笑いながら松村さんを肘でつついていた。
そのときの笑顔は俺に向けられているものではなかったものの、以前にもまして太陽のように輝いて見えた。
店長も、久しぶりに店に現れ婚約者を連れてきた英梨さんを前に喜びをあらわにしていた。
英梨さんと松村さんはカウンター席に座ると、手元でコーヒーを入れる店長と三人で話に花を咲かせ始めた。どうやら、英梨さんのいまの職場や仕事ぶりについて話をしているらしい。
その姿を脇で見ながら、俺はふと自分が穏やかな気持ちで満たされていることに気づいた。
おそらく初恋であり、告白もしたあの憧れの女神が少しだけうるさい素敵な彼氏を連れてきた。だから本来ならショックを受けるはずなのに、いまの俺は久しぶりに会えたことを心から喜んでいた。
――一体何故なのだろう。
俺にとって英梨さんは憧れの女神だった。火花が付いたように始まったあの時間は、確かに初恋だった。
なのにいま、笑顔の英梨さんを見ると俺の中に浮かび上がるのは、誉史の笑顔だった。同時に胸の奥を締め付けるような痛みが襲い、俺は思う。
互いにぎくしゃくして、会話すらままならない状態でも、確かに自分のなかで燃え続けているこの思い。
それは英梨さんに抱いた火種のような感情ではなく、長い時間をかけ深くこころの奥まで入り込み、静かに燃え広がり続ける炎のように思えた。
英梨さんが俺の方へ向いたのはそんなときだった。
「そういえば星野くん、今日誉史は?」
そんな突然のことばに俺の心臓は跳ね上がる。
「……今日は、あいつは体調不良で休みです」
すると、英梨さんは想像していた以上に驚いた。
「え……嘘?」
そう言って松村さんと顔を見合わせるので、俺は反射的に聞いてしまった。
「英梨さん、誉史がどうかしたんですか?」
「……大したことじゃないんだけど。今日さ、このあと家族みんなで揃って食事に行く予定になってるの。それで、ここに来る前にあたしたち実家に寄ったんだけど、誉史……いなかったんだよね。だからバイトに出てるもんだと思って来たんだけど……」
「……そうなんですか?」
俺がその事実に驚いていると、ふたりは突然真剣な口調でぶつぶつと言い始めた。
「……うーん、ありえるなあ。探しにいかないと」
「でも……嫌がっているのならまだ早いのかもしれないぞ」
その二人の声色に、俺はたまらず店長に視線を送ってしまった。そして微笑みが返されたのち、俺は言う。
「英梨さん、俺もうあがりなんで……誉史のこと聞いてもいいですか?」
ずっと気になっていた、誉史の過去といまのあいつが抱えているもの。
それが本人を苦しめているというのなら、俺がすべきことはただ一つだった。
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