【完結】初恋の女神の弟がなぜか俺にちょっかいを出してくるんだが? ~恋、始まり今いずこ~

上杉

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終章

50 恋はどこまでも

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「一緒にいてもヤらない。勉強する」
 そう約束してから、約一年間。俺たちはときどきふざけあうこともあったけれど、大抵真面目に勉強していた。
 家は保証できなかったので図書館や学校の自習室にこもって、またふたりであったこともあるし、ほなみや皆川、真野を交えてみんなで集まりもした。
 そして終盤はひとりだった。受験は個人の勝負になるし、同じ大学を目指すといえど、誉史はまがりなりにも医学部だ。俺は理工学部だったから、個別の対策も内容もまったく変わってくる。
 そんな高い目標へ向かっているときの誉史の視線はしっかりと未来へ向けられていて、俺には輝いて見えた。彼はしたいことがすでに決まっていて、対して俺は大学で具体的に何を学ぶかも曖昧で、将来のことなんて少しも決まっていなかったから。
 そう言うと、誉史は笑ってこう言った。
「大丈夫だろ。慧も変わった。これからまた新しいものが見えて、やりたいこともきっと出てくるはず」
 だから最終的に同じところに進学できることが決まったときには、本当に嬉しくて俺たちは馬鹿みたいに駆け回った。そして人目をはばからず抱き合って、こっそりとキスをした。これからも誉史と一緒なら、きっと新しい世界も臆することなく歩いて行けると思えた。

 日差しが暖かくなって、春の暖かい風が吹き始めた頃。俺たちは進学先の東京へと引っ越すことになった。  
 新居として選んだのは2LDKのシェアルームだった。ここをうちの家族と誉史一家と相談して、ふたりで住むことに決めたのだった。
 どちらの親たちも比較的放任主義で、一緒に受験勉強していた仲を知っていたこともあり、彼らは簡単に首を縦に振った。ただ俺達の本当の関係性はまだ伝えておらず、あくまで友人としてルームシェアをするていだ。
 もちろんいつか言わなくてはいけない。しかし母親以外の俺の家族は、まず友達ができたことすら信じてくれなかった。友人とのルームシェアでさえ、父と兄は笑い転げて話にならなかったから驚きだ。どうやら普通に友人ができるくらい俺が変わったことが、本当に信じられないらしい。
 しかし確かに、こうして引っ越しを手伝いに来てくれているみんなを見て俺も思う。
「慧、このラックここでいいの?」
「もう少し右か?棚にぴったり付けて……あ、そんな感じ――み、皆川さん、ちょっとそれは開けちゃ駄目!」
「星野くん、ごめん。わざとじゃないの。真野くんが……」
「……真野!」
「えー、星野くん、俺もわざとじゃないんだけど――染谷、ちょちょちょっと!目が怖いって!」
 こんな感じで、集まってくれた友人たちと俺と誉史でわいわい荷物の片付けをするなんて、確かに昔の俺なら考えられない。
 幼なじみのほなみはまあよしとして、今日は皆川と真野も手伝いに来てくれた。みんな東京の大学に進学を決定していて、とくに皆川は俺達と同じ大学――東京先端科学大学に進学するらしい。だからこれからもこうして集まってくだらないことをいいながら何かできると思うと、単純に嬉しかった。
 これまで進学のたび、誰も知らないところに行きたいと思っていた自分はどこへいってしまったのやら。俺自身も驚いている。
 そうして騒いでいると、ガチャリと玄関の扉が開きふたりの影が見えた。
「みんなー、頑張ってる?差し入れ買ってきたよ!」
「お疲れ様!君たちも素敵な大人になって、後輩たちにスペシャルな差し入れができるように頑張ってくれよ」
 手土産を差し出しながらそう言ったのは英梨さんと松村さんだった。
 ふたりは今日引っ越しであることを誉史から聞き、手伝いに来てくれたのだ。しかし想像以上に人手が多く、手伝う代わりにこうして差し入れを買って来てくれたのだった。
「英梨さん、ありがとうございます!」
 俺がそう感謝すると、女子陣も英梨さんへ群がり始めた。
「わー、ダッツだ♡テンションあがります!」
「お姉さん、神!ありがとうございます!」
 その脇で「俺には?」と言いたげな顔をしている松村さんの元へは、男達がフォローを入れていたのが少し面白かった。
 そんな賑やかな光景を眺めていると、英梨さんは俺のもとにやってきて満面の笑みを浮かべながらこう言った。
「星野くん……変わったね」
「……そうですか?」
「うん。前もかっこよかったけど、いま、すごくいい顔してる」
 そう言った英梨さんの瞳はきらきらと輝いていた。
 それは隣に松村さんがいるからだろうか、それともいまの仕事が順調だからなのか。俺にはわからなかったものの、きっと素敵なひとたちに囲まれているからだろうと思えた。
 それはおそらく俺も同じ顔をしているだろうという確信から来るものだった。
「英梨さんにそう言ってもらえて嬉しいです。俺も……いまの俺が一番好きなんで」
 そう自然に返すと、英梨さんは満足そうに微笑んだ。そして駄々をこねる松村さんを引き擦って帰っていった。

 みんなで昼食を食べに行ったあと、無事に荷ほどきと片づけが終わると友人たちは帰っていった。そして最低限のものが置かれた部屋のなかで、誉史と俺のふたりだけになった。
 大勢がいたときとの差に俺がそわそわしていると、頬にぴたりと冷たいものが当たった。
「うわっ」
 振り返ると誉史がスポーツドリンクを手にこちらを見ていた。
「慧、お疲れ。とりあえず無事に終わってよかったな」
「ああ、ありがとう。喉乾いたからちょうどよかった」
 そう言ってそれを受け取ると、誉史は小さなキッチンを眺めながら言う。
「まだ早いけど、今日晩飯どうする?」
「うーん、そうだな……荷解きはできたけど、確かガスが明日だろう?今日は外を散策してみて、いろいろ見てみるか」
「了解」
 その笑顔を端に見ながら、俺はスポーツドリンクの蓋を開ける。直前まで冷蔵庫に入っていたらしいひんやりとした手触りに、俺はどこか既視感を覚えていた。すると誉史はそれをまじまじと見ていたらしく、目を大きく開きながら俺に聞いた。
「どうした?」
 そのまなざしはきらきらと輝いていた。だから俺は、
「いや、なんでもない」
 と答えながら思い出した。
 まぶしい笑顔を向けてひんやりと冷たいおしぼりを渡してくれたのは、英梨さんと初めて会ったときのこと――そう、あれがすべてのはじまりだった。
 あのとき、初めて恋をして俺の中で見える景色は変わった。
 世界は光で満たされて、俺の目は覚めるように開かれて。そして気づけば人が集まってあたりは色鮮やかになった。
 それがまさかこうして――こんなところにたどり着くなんて。
 俺はこちらに微笑みを向ける誉史を見ながらひとり思う。
 あの日はじまった恋は、すっかり形を変え今もここにある。
 それは愛と呼ばれるものになって、きっとこれからどこまでも続いて行くのだろう。


(終)
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