【完結】家族に虐げられた高雅な銀狼Ωと慈愛に満ちた美形αが出会い愛を知る *挿絵入れました*

亜沙美多郎

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フォーリア8歳、アシェル18歳 ——出会い——

バース性の突然変異 ーasideアシェル

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 一七歳の時、突然謎の高熱に一週間魘された。

 俺の家は代々医者の家系で、父も例に習って名医と呼ばれる医師である。それなのに父でも高熱の原因が分からなかった。随分苦しんだのを今でもよく覚えている。生死の狭間を彷徨ったことさえも鮮明に。

 その時の高熱でもう一つ不可解な現象が起きた。それまでアルファだった俺がオメガに突然変異したのである。


 この世界には様々な獣人が存在している。異種族同士での結婚も出来る。そして我ら獣人には男女の性別と、それとは別にもう一つ、アルファ・ベータ・オメガという三種類のバース性が存在している。十歳になると全員強制的にこのバース性の検査を受ける。
 
 ローウェル家は混じり気のない銀狼一家で、しかも全員がアルファだ。それ故アルファ以外のバース性を持つ者が産まれるはずがなかった。むしろその為に銀狼以外の種族との結婚は許されなかったし、ましてやアルファ以外のバース性を持つ者との結婚もご法度なのである。

 もちろん俺も十歳の頃に受けた検査ではアルファと診断されていた。今でもその診断書を保管しているので間違いない。それなのに……。

 この時の高熱で様々な検査を受けた。その結果、間違いなく俺はオメガになっていたのだ。

 原因が分からない。病名も無い。すなわちそれは治療のしようがないということを意味している。俺よりも父の方が落胆していた。その落ち込みようを見ていると、一番辛いはずの俺は悲しめず、とにかく父に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 俺は三人兄弟の長男で、幼い頃から英才教育を受けて育った。長男が父の病院を継ぐ、それが代々受け継がれてきた我が家の仕来りである。それは俺にとっても名誉のあることだったし、父は俺に対して多大なる期待を寄せてくれていた。父も母も厳しいが愛情たっぷりと育ててくれた。この時までは……。

 俺がオメガになると、家族からの扱いが明らかに変わった。いつ発情しないかとヒヤヒヤしていたのだろう。家にアルファしかいないのだから、当然とも言える。

 父の病院はアルファとベータしか利用出来ない。なのでオメガ用の薬も無い。だが俺がオメガ専用の病院に行けば世間に暴露てしまう。それを恐れた父は、知り合いの医者に頼んで発情抑制剤を譲ってもらうことにした。その医者とは俺が生まれる前から家族ぐるみの付き合いをしていて、父も信頼を寄せている一人だ。又、そこの娘と俺は同級生でもあり、幼馴染でもあるから自分としても安心だ。

 俺がオメガになっても変わらず仲良くしてくれるのも嬉しかった。勿論、オメガになってしまった事実を知ってるのは他に居ない。

 オメガになって一番困ったのは学校である。なぜならアルファ専用の学校に通っているからだ。バース性は変わっても父の病院を継ぐ夢は捨てきれず、バース性の突然変異は隠して通うことにした。復帰して1年は良かった。オメガになったからと言ってもすぐに発情期が来るわけではない。自分でもオメガになったのを忘れるほど、変わり無い日々を過ごした。発情期は来なくとも抑制剤の服用は忘れずに続けていたし、いつも自分の体調を気遣い、必要以上に慎重に過ごしていた。学校でヒートなんて起こせば一大事である。


 オメガはアルファと番になれる。その中でも稀に『運命の番』と出会う人がいる。運命の番と出会ったら、オメガは自分でも抑えられないほどの甘い香りを発するらしい。

 アルファの時でさえオメガの香りを嗅いだことはなかったから、それがどれほどのものなのかは分からない。ただ、オメガが発情した時、アルファはその甘い香りに抗えず「孕ませたい」という欲求のまま行動する。つまり発情したオメガを意思の同意など関係なく襲うのだ。

 学校でそんな事態が起これば大変なんていうものじゃない。勿論薬も常備しているし、いざという時のため、即効性のある注射も持ち歩いている。これで何とか卒業まで漕ぎ着けたいものだ。

 初めて発情したのはオメガになって半年が過ぎた頃だった。丁度学校は休みで自室で勉強をしてる時だった。

 突然目眩がしたかと思うと、頭がぐらぐらして吐き気を催した。あの高熱の時と同じ症状だ。とにかくベッドで横になろうと移動すると、息が荒くなり、どうしても下半身が疼くのだ。

 それでようやく「これがヒートか」と気づいた。ふらつく体でどうにかベッドに戻るとすぐに自慰行為に移った。如何にも体が熱っぽくて気分が悪い。勃起した自分のモノを抜かないことには治らなかった。
 初めて味わうオメガのヒート。こんなに苦しいのが一週間も続く? オメガなんて最悪だ。自分のことをこれほどまでに嫌になったことはない。
 この日、夕飯時になって母がダイニングに来ない俺を心配して部屋を訪ねた。匂いですぐに解ったらしい。弟たちにもオレの部屋には絶対に近づかないよう言い聞かせてくれた。母の気遣いだと思いたかった。

 初めてのヒートから、母や弟からの態度は明らかに変わってしまった。よそよそしくて、腫れ物に触るような接し方になっている。ヒートは一般的には3ヶ月のスパンで来るが、アルファとしか交流のない母たちは俺がいつヒートを起こすか分からず困惑していたようだった。

 あの時、母の気遣いと思っていたのは間違いだったと気付くまでに時間は掛からなかった。母も弟も俺が疎ましいのだ。母は世間体をとても気にしている。代々アルファしかいない我が家系からオメガが出た事実を受け入れられない様子であった。それとともに、世間に暴露るのを心底恐れている。

 弟は、長男の俺がオメガになっても父の後を継ぐ気でいるのが信じられないようである。俺がオメガなら、父の病院は次男に譲るべきだと話し合っているそうだ。

 それからというもの、俺はだんだん家にいるのが苦痛になっていった。発情期じゃない間は良いが、いやでもその時はやって来る。

 父に相談して、発情期の間は自宅から離れた場所に篭れるよう住まいを準備してもらった。食事などの世話はベータの所要人がしてくれる。同じ苦しみの時間であっても、自宅の自室で気を使いながら過ごすよりよほど気が楽になった。

 発情期が近づくと、学校には父の病院で研修を受けているという体で二週間ほど休みを取る。それでも常に首位の成績は落としたことがない。意地だと思う。自分への、そして母や弟への。

 オメガでもなんでもやれると証明したい。それが出来れば、少しは認めてもらえるかもしれないと希望を抱いている。欲を言えば俺の苦しみを理解して欲しい。家族なのだから、最後には味方をしてくれると期待していた。でもそれが無理だと分かってしまった今、せめてアルファとオメガの違いなんて発情期があるかどうかだけだと、俺が証明したいと思った。


「アシェルさん、甘い香りが……。アレじゃなくて?」
 あぁ、そうだ。確かにそろそろアレが来る頃だ。
「すみません。直ぐに出ますね、お母様」
 直ぐに食事を止め、席を立った。
 気丈に振る舞っても項垂れている尻尾までは隠せない。失笑している弟を背に受けながら退室した。

 その足で別宅へと向かう。別宅への移動も本格的にヒートが起こらないうちに、と急いで家を出たので、いつもは使用人に送らせるのだが一人で歩いて向かった。気を使いすぎて疲れていた。一人になりたかったのだ。

 別宅は自宅から徒歩30分くらいの場所にある。そこまでの道のりはとてものどかで人気も少ない。別宅は森に入って少し奥にある。なので余計に人気はなかった。こんな所にによく空屋があったものだ。こじんまりとしているがシンプルで居心地が良い。
 発情期は厄介だが、ここは気に入っている。

 心地よい風が俺の見方になってくれているかのように優しく吹いた。
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