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カルテ#11 丑三つ時脱獄開始
しおりを挟む時刻は午前2時。
母国風に言うなら草木も眠る丑三つ時。
私とルキはそっと起き上がった。
眠い目をこする。
この歳になって徹夜はさすがにきついが、
やるしかない。
「いいかい、私の指示通りにやるんだよ」
「わかってる、オイラを誰だと思っているんだ」
「君は本当に王様の前でなければ一流なんだが…」
こそこそと小さな声でやり取りすると
ルキは自分が敷いている布をどかす。
その下から隠しておいた魔法陣が現れた。
続けて呪文を唱えていく。
「いでよ、幻惑の霧」
途端に目の前が真っ白になるくらいの霧が現れた。
「なっ、なんだよこれ!おいおっさん、召喚士!
なにしてんだ!」
慌てて衛兵Aが牢屋に近寄る。
霧のせいで何も見えない。
しかし、だんだんとその霧も晴れてくる。
「なんだ、どこいったんだ、あいつら…?」
牢屋には誰もいない。
もぬけの殻になっていた。
「とにかく、看守長を呼んでこないと」
そう言うと衛兵Aが走り去っていった。
「うまくいったな、桜先生」
「しっ、まだ油断は禁物だよ」
私とルキは衛兵Aが走り去ったのを確認すると
こそこそと話し始めた。
そうだ。
私たちはまだ牢屋を抜け出したわけじゃない。
幻惑の霧によって一時的に透明になっているだけだ。
「それで看守長、目の前で霧が発生したと思ったら
あいつらがいなくなってて…!」
「それは本当か!?」
どたどたと足音が戻ってくる。
衛兵Aと看守長が牢屋にやってきた。
看守長は大柄な体躯、牛のような顔。
丸太のような腕で殴られたら一たまりもない。
こっちは一般人。戦いになったら勝ち目はない。
ゴクリ。
ルキと二人で生唾を飲み込んだ。
看守長が牢屋に近づく。
穴が開くほど牢屋を見渡す。
「本当に誰もいないな。どういうことだ?」
「わかりません」
「とにかく鍵を開けて中を確かめよう」
ガチャリ。キーッ。
後ろで衛兵Aが控える。
音を立てて錠が下ろされ、扉が開けられた。
そして牢屋の中に看守長が入ってくる。
「いでよ。眠りの聖霊よ」
小さな声でルキがつぶやく。
看守長の大きな耳がピクリと動いた。
「今、何か、聞こえたな?」
ぎぎぎとこちらを向く看守長の目。
真っ赤に染まるそれが見えないはずのこちらを見ている気がして、
恐ろしさに鳥肌が立つ。
「~゛っ!」
悲鳴を上げる寸前だったルキの口を私は必死で抑える。
「あいつらはまだここにいる!今すぐ扉を…」
看守長が扉の前にいた衛兵Aに叫んだ。
その時だった。
看守長の耳元で緑の光が光った。
「~~~~~~♪」
私とルキは急いで耳栓をする。
彼女の歌が鳴り響くと、看守長はその場で崩れ落ちた。
そろりそろりと看守長に近づく。
そして、完全に眠っていることを確認すると
鍵束を看守長のベルトから外した。
「やったな!」
「早く出るよ!」
二人で牢屋から出た時、私たちは見落としていた。
一つは幻惑の霧の効果が切れているということ。
二つは耳を塞いだ衛兵Aがそこに立っているということ。
油断しきった私たちの目の前に衛兵がいた。
「お前ら…覚悟はいいかぁ?ああ゛?」
スっと衛兵Aが刀を抜く。
「こっちは何かあったら切り捨てていいって許可が出てんだよ」
おらぁっ!という掛け声とともに刀が振り下ろされる。
何とか一撃を交わし、二人で走り出した。
「こっちだ、早くルキ!」
私よりも体力のないルキを引っ張って暗い石造りの廊下を走っていく。
「待てこらぁ!」
相手は衛兵とはいえ足に古傷がある。
早くは走れない。
そして私にはある考えがあった。
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