魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~

あめり

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29話 アゾットタウン その3

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 冒険者組合の仕事斡旋、集会所を兼ねているギルドと呼ばれる建物は、各街に点在している。各地に存在する多くの冒険者はこのギルドにて仕事を貰い、結果報告をするのが通例である。魔法の存在により、冒険者の報酬や成果の判断などの膨大な労力や処理に関しては低減しているが、ギルドに協力している事務員の数は相当数に上っており、元冒険者の者も多い。

「広い……、ここがアゾットタウンのギルドか」

 翌日、ギルドに顔を出した智司達。ネリスも連れて来ており、先頭に立つ智司はギルド内部の広さに感心していた。

 戦いを生業にしているギルドのイメージとしては、男臭い雰囲気を連想していただけに意外なところだ。

 幾つものソファーが理路整然と並び、上を見上げれば何処かのダンス会場を連想させるような豪華なシャンデリアが出迎えている。

 目の前に並ぶ受付のカウンターは年代を感じさせる木製の机となっていた。掃除も行き届いているようで、埃などは見当たらない。

 本来であれば、カシムという人物に紹介されるはずだったギルド。彼とはまだ、合流出来ていなかった。

「いらっしゃい。あら、随分若い子達ね?」

 目の前のカウンター越しに座る女性が智司達に声を掛けて来た。風貌などから、初めての客と判断したのだろう。周囲のソファーに座っている冒険者たちもなんとなく彼らを見ている。

 智司としては何を話せばいいのかわからなかった。いきなりソウルタワーのことを聞いても意味が通じない可能性がある。なにせ、冒険者ですらないのだから。

「カシムって人来てない?」

 そんな時、気さくな声で女性に話しかけたのはリリーだ。敢えてなのか、敬語を省いている。

「カシム? カシムさんがどうかしたの? ああ、君たちがあの人の言ってたランシール学園からの生徒さんね?」

 カシム・キルシュトを知っているような口調の女性。智司たちが来ることも本人から聞いているようで、一人で納得していた。

「はい、その通りです。カシムさんはお忙しいのでしょうか? 本来であれば、合流しているはずなのですが」
「カシムさんは……ほら、あの依頼に関連することで、ランカークスとして招集されてるわ」
「ん?」

 受付の女性が指差す方向。一つの依頼が張り出されていた。

「ヨルムンガントの森のドラゴン……?」

 智司は依頼内容を無意識に反復していた。レドンドが天網評議会のメンバーを討伐したことで、こうなることは予想していたが、いざ目の当たりにすると焦る気持ちが湧いてくる。

「シルバードラゴンの調査……可能であれば、討伐を依頼したいってなってるやん。はあ? ドラゴンなんて発見されたんか?」
「いや、流石に見間違いでしょ? そんなおとぎ話みたいなことがあるわけ……」

 依頼内容を見ていたのは智司だけではない。ナイゼルとリリーの二人も信じられないといった表情をしていた。

「そうなのよ。眉唾というか……そんな依頼ではあるんだけど。それなりに多くの冒険者が参加するみたいよ」

 受付の女性は言ってのけたが、サラの表情は変わっていた。

「それなりの人が参加するんですか……?」
「? ええ、そう聞いているけど……あ、大丈夫よ。みんな、腕には自信のある人たちだから」
「……そうですか」

 サラとしてはそれ以上何も言うことはできなかった。智司としても勘付いていたことだが、天網評議会のメンバーが死んでいることは、このギルドにはおそらく伝わっていない。だが、サラがそれを言うわけにもいかなかった。事情がわからないからだ。

 事実としては、シルバードラゴンの調査、討伐依頼が出ているだけに過ぎない。本当にドラゴンが居るなどとは信じていない者が加わっていたとしても、サラ自身に止める権利も義務もないのだ。腕に自信があるというのであれば、それを信じるしかない。

「まあまあ、腕の立つ冒険者言うてるんやし、大丈夫やろ。ただの学生の俺らが心配しても仕方ないで」
「え、ええ……そうですね……」

「信じる……か」

 智司は一人考えていた。また、多くの死体の山が出来上がるのだろうと。そして無情にもシルバードラゴンには傷一つ付けることが出来ずに終わるのだと。

「まあ、レドンドなら痛みを与えずに殺してくれるだろう。ああ、でも……エルメスやケルベロスはどうなんだろ……侵入者は苦痛でもがいて死ぬかもな」

 智司は決して周りに聞かれない程の小声でそんなことを言っていた。今の彼は紛れもなく自らの住処を守る「魔神」そのもの。敵にかける情けなど存在していないのだ。


「ドラゴンか……なんかピンと来ない感じ。まあ、ここにはソウルタワーのこと聞きに来たんだし、そっちの話聞いた方がいいんじゃない?」

 依頼内容にも興味のあるリリーではあるが、自らが受けるわけではないので、興味をソウルタワーへと移していた。視線も依頼の書かれている掲示板ではなく、受付の女性に向けた。

「前にも言うたけど、特別に許可の出てる冒険者しか入られへん。そうでしょ、姉さん?」

 そう言いながら、ナイゼルは受付の女性を見た。

「正解。ソウルタワーに自由な出入りが認められている方々は、ほんの一握りよ。それ以外にも、1回1回の許可制で認められている冒険者チームも居るけど。必ず1回ごとの申請が必要なの」
「ていうことは、俺達では絶対に入れないってことですか……」

 智司は非常に残念な顔になっている。自らの力を試したい衝動……それを存分に試せる伝説の塔が目の前にあるにも関わらず入れないのでは、これ以上のおあずけはないと言えた。かといって強引に行く勇気もないのは確かだ。無駄に印象を悪くしたいとは思っていない。

「はっはっはっは! なかなか学生の割りには根性あるみたいだな! 流石はランシール学園の生徒と言ったところか。毎回、血の気の多い奴が来やがる」
「まったくだな! ははははっ」

 智司達の話を聞いて、周囲で大笑いをしているのは冒険者と思われる者達だ。年齢は20代から30代といったところだが、彼らを馬鹿にしているという感じではない。むしろ、褒めているくらいの印象を受けていた。

「見たところ、あんたらも冒険者やな?」
「そうだ、俺の名前はバーン・コンダートだ。冒険者チーム「フルカネルリ」のメンバーだぜ」

 金髪を逆立てたような髪形をした中肉中背の男は大笑いしながら自己紹介をした。大男の豪快な笑い方とは違い、テンションの高いムードメーカーと言った印象を受ける人物だ。顔は二枚目ではないが、コミュニケーション能力の高さが余裕の笑みにも現れており、自信を感じさせる鋭い目つきも有していた。

「バーンさんか……いやいや、昨日いきなり印象最悪な奴を見たから、冒険者はクズな連中が多いって先入観があったわ。すみませんな、なんか」
「冒険者は血の気の多い奴も居るが、基本的には正義感に溢れる人間だぜ? でないと、人々の脅威である魔物退治なんてやってらんねぇよ」

 バーンの言葉に頷いているのはナイゼルの隣に立っていたネリスだ。それからすぐに話し出した。


「アルガスは……というより、周囲の視線で言えば、私のチームが異常なだけだ。冒険者全体の印象とは見ないでほしい」
「わかってるって。悪かったな」

 ナイゼルは陽気な態度でネリスに言った。彼もムードメーカーとしての資質は大いにあり、智司としても尊敬したいところなのだ。


「しかし、お前らはそんなに自分の力に自信があるのか? 学生の身分なら、プロになる為の力を付ける段階だろ? いきなりソウルタワーの挑戦なんざ無謀すぎるぜ?」

 その言葉に真っ先に反応したのは、ナイゼル……ではなくサラだった。

「はい。一応は天網評議会のメンバーですので。あ、私だけではありますが」
「!!」

 サラの言葉は決して大きくはない。だが、天網評議会という言葉にギルドの受付周辺は騒がしくなった。聞き取れなかった者を含め、何かを話している。非常に驚いている印象だ。目の前のバーンも例外ではない。

「マジか……? 学生、恐らくは18歳以下だろ? それで評議会の一員なのか?」

 バーンからは一筋の汗が零れている。雰囲気からして相当な強者の印象があるバーン。間違いなく塔の攻略組を思わせる自信に満ちた彼でも、評議会という言葉一つでここまでの態度の変化になっていたのだ。

「ええ。といっても私の序列は所詮10位、最下位になりますが。ちなみに1位の方は私と同じ一つ下で17歳みたいです。評議会メンバー最年少にして、最強の方。あまり年齢は関係ないみたいですよ」

 サラはなんとなく自慢気に話していた。こんなことを話すのは久しぶりだ。バーンという男が信用できる人物であると考えたことも大きいが、あまり他国の人間に話す内容ではない。それを心配してか、ナイゼルが口を挟む。

「お、おい。そんなこと、公共の場で言うていいんか?」
「大丈夫ですよ、意外と有名な話ですし。私自身、面識はありませんので、実力はわかりません。非常に気まぐれだし、女性なのに粗暴と言われています。ただし……」

 サラの言葉がそこで一旦、止まった。そして再び動き出す。

「あの方がその気になれば、ソウルタワーの完全攻略も可能かもしれません」

 智司ですら目を見開く事態だった。サラの言葉はそれ程に、自信に満ち溢れていたのだ。天網評議会序列10位の戯言。彼女はソウルタワーに挑戦したことすらないのだから。

 だが、バーンはそんな彼女に驚きを隠せず、決して蔑む態度を見せなかった。

「はっ、そいつはすげぇや。ぜひ、アルノートゥンの二人を見ても同じことが言えるのか確認したいね。しかし、こいつは面白いな……おい、メル」
「はい?」

 メル呼ばれた女性は先ほどまで話していた受付の女性だ。バーンにいきなり呼ばれ素っ頓狂な声をあげる。

「魔法空間でソウルタワーの再現をやってやりなよ。俺達の目標であるソウルタワー……一体どれほどに危険地帯か、身を持って知っておくのもいいんじゃねぇか? ランシール学園の者なら、魔法空間は知っているだろ?」

 バーンの言葉に、4人は市街地戦を思い出した。おそらくはあれと原理は同じだ。死亡したとしても現実に影響は与えない。事前にソウルタワーの予行演習が出来るということか。

「ソウルタワーの再現はコストが重いんですけど……「フルカネルリ」のこの前の依頼の報酬から引いておきますね」
「結構痛いが、こいつらがどこまで行けるのかを考えれば安いもんだな。そこまでの自信で行くんだ。がっかりさせんなよ?」

 バーンは智司たち4人に相当に期待している。ソウルタワーを再現した魔法空間だ。今更、断る気など彼らにも当然なかったが、既に周囲は景色が変わり始めている。ほとんど強制転送に近い。

「もちろんです。いきなり過ぎる気はしますが、まあいいでしょう。智司くん? なにか気合の入る一言でもあればどうぞ」

 サラは智司が力を持て余していることに気付いていたのか、唐突に振って来た。智司としては咄嗟に言葉を放つ。

「と、とりあえず最上階を目指します!」

 驚くほどに強烈な目標。さすがのバーンも大笑いをしていた。

「残念だな。再現は100階までしかできねぇよ。ただし、100階を超えられた奴なんて、現代では3組しか居ないぜ。20階を超えられたら十分過ぎるからな! 頑張れよ!」

 バーンがそこまで話すと、智司達4人は巨大な塔の内部へと入り込んでいた。とてつもない程にリアルな魔法空間……市街地戦ならぬ、ソウルタワー模擬戦が開始されたのだ。
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