海賊ダンの恋

Rachel

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42. 妥協点

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 船倉は、調理場ほどひどい状態ではなかった。
 クレイヴン船長が言っていたように物置になっているようで、空の木箱や樽、ロープや木材などが無造作に放り込まれているくらいだ。古い食糧などが置かれているわけでもないので害虫がわいていることもないようだった。
 シルヴィアはバケツの水で濡らした雑巾で全てのものを拭き、ダンはモップがけをし、木箱を整列させていく。掃除は比較的スムーズに進んだ。掃除が終わると、ベッドやテーブルとして使う木箱や椅子なども並べ、別の木箱には衣服なども収納していった。
 しかしシルヴィアが木箱でベッドを作っていると、ダンがそわそわし始めた。出入り口付近をしきりにモップがけしていたが、そのうちに「お、俺なんかシーツの代わりになるようなもん探してくる」と言い放ち出ていってしまった。

 シルヴィアはひと通りの作業を終えて部屋を見回した。
 自分の荷物も主人と同僚と一緒に過ごしていたときと比べてうんと質素であるのは当然だが愛着があり、それに加えて前よりどこか開放的だった。捕虜としての立場ではなくなったからだろうか。
 でも乗組員としてここにいられるかどうかはわからないのよ。数日の間だけと考えた方が現実的だわ。その間だけでもこうして特別な配慮をしてもらえたことに感謝しなきゃ。それにここにいることができるのは姫様のおかげだわ。

 シルヴィアは主人のことを思い出して、ベッドにした木箱の上に座ると、ポケットから例の手紙を取り出した。
 そうして読み返していくと、主人の気持ちを直近に感じているようで心が温かくなった。

 三度目を読み返したとき、シルヴィアは一番下の部分に細い紙が貼り付けてあることに気づいた。
 何か間違いを書いて訂正したのかしら。それにしては変なところに貼ってあるわ。
 シルヴィアは気になって爪で紙を丁寧にめくってみた。
 そこにはカドーシャの文字で次のように書かれていた。


 “追伸 給料はもちろん渡す手筈になっているけど、実はバートラム号の船を降りる前に、あなたが再び船に乗ったときのことを想定して、金貨を船倉の床下に忍ばせておいたの。あなたのお給与です。これからの生活に役立てるように。あの船長にもマギーにも内緒よ。黒い床を探してみて”


「……え?」

 シルヴィアは思わず驚きの声を漏らした。
 まさか。
 シルヴィアはさっと床を見下ろす。
 大体どれも焦茶色の木だ。しかし部屋の奥の方に一つだけ、黒ずんだ木版があるのを見つけた。

 ためらいながらそこへ歩み寄り、おそるおそる床板を剥がしてみると、いつか見たような皮袋が5つも並べられていた。震える手でそのうちの一つの口を開けてみるとやはり金貨が詰まっている。
 そのとき、ふいにコンコンと船倉の扉が叩かれたので、シルヴィアはびくりとして慌てて床板を元に戻した。

「は、はい……! え、えと、お待ちを」

 シルヴィアは床板が違和感なく戻っているか確認してから、扉に歩み寄った。

 開けるとダンが眉尻を下げて立っていた。よく見ると、つい先ほどまで生えていた髭がきれいに剃られている。

「シルヴィア、その……ええっと、シーツも探してたんだけど、呼ばれちまって……」

 ダンはそのさっぱりした頬をかきながら、なんだか言いにくそうな顔をしている。

「すまねえ、ちょっと船長室まで一緒に来てくれるか?」

 きっと今後のことだろう。
 シルヴィアは少し緊張した顔になって「ええ、もちろん」と言って頷くと、荷物をもう一度きちんと木箱にしまってから船倉を出てダンの後に続いた。



 船長室に入ると、中央の大きな机の前にはクレイヴン船長が、その隣にはネヴィルとレイモンド、そして彼らの向かい側にはギレムとジョシュが立っていた。
 なんだか裁判所のようだわ。
 シルヴィアはどきりとして思わず立ち止まった。

 振り返ったダンがすかさず心配そうに「入れるか」と言ってくれたので、微笑んで「ええ、大丈夫よ」と返す。
 ダンに続いて部屋の中央まで歩いていく。

 しかし中央にいたクレイヴンはシルヴィアの姿を目にすると、にっと楽しそうに笑って「来たな」と言った。

「今後のお前のことについて意見が割れててよ、おもしろくなってるとこだ。お前のことだからな、まあ聞いてやってくれ……レイ」

「おう」

 レイモンドが言った。

「いいかねえちゃん、まず聞いてくれ……ねえちゃんがこの船に乗るってことには乗組員全員が賛成した」

「えっ」

 シルヴィアが目を瞬かせたのに、ネヴィルが「ほんとだ」と言った。

「飯はもちろん、ダンのこともあるし、何より仕事だ。たった数日だったが、お前はしっかり乗組員の新人として動いてただろう。嵐んときも途中で根え上げるかと思ったが、最後まで甲板に出て手伝ってたのも覚えてるぞ」

 ネヴィルが言ったのに、レイモンドと笑みを浮かべて続けた。

「乗組員の大半は、ねえちゃんが今まで通りあの船倉使うってことに賛成って意見だ。前だってねえちゃんたちがあそこ使ってて問題なかったし、このひと月だってあそこにゃろくに誰も入らなかったからな」

 そのときごほんとジョシュが咳払いをしたので、レイモンドが眉をしかめて、「だがな」と続けた。

「ここにいるジョシュとギレムがあんただけ別部屋を使わせんのはずるいって言うんだ。なんとかして説得できねえかって船長に相談してたってわけだ」

「あたりまえだ、新人なら新人らしくハンモックで寝やがれってんだ」

 ジョシュが口を歪めて言った。

「ダンをたらしこみやがって。何様か知らねえがな、女だからってお前だけが特別扱いされるなんざ許されるわけねえだろうが。俺らと別がいいならずっと見張り台にいりゃいい。そんで早く干からびちまえ」

 ジョシュはそう言ってシルヴィアをギロリと睨んだので、シルヴィアは思わず首をすくめた。

「あのう、それなら私、みんなと……」

「逆だったらどうすんだよ、ジョシュ」

 シルヴィアが言いかけたのを遮るようにダンが低い声で言った。

「おめえが女だった場合のことだ。それかおめえ以外みんな女だったら、どうなんだよ。おめえは大嫌えな女どもの隣でハンモックぶら下げて寝れるってのか? 厠も下着も女に見られちまうかもしれねえんだぜ? そういうのが一緒なのは互いに嫌だって思うことくれえ想像しやがれ、このくそ野郎」

 ダンの声はいつになく低く、ジョシュだけでなくその場にいたシルヴィアやレイモンドも恐怖を感じた。

 そのとき「だがな、ダン」と冷静な横槍が入った。
 ギレムだ。
 これまでずっと黙っていた長身の彼は真顔のまま言った。

「俺が十年以上ジェフの船に乗っているのは、序列がないからだ。ほかの船と違って上官とか幹部とか、そういう名目に従って誰かを特別扱いしない船だから、俺はジェフのとこにいる。食事もみんな同じだし、仕事は適材適所だ。ここは平等で対等だ。それが良い。そう思ってる連中は俺以外にもいるはずだ」

 シルヴィアは確かにそうだわと頷いた。
 最初の頃にピーターから船の話を聞いたときに驚いたのだ。甲板長や航海士の役名も名目でしかない。それは一緒に甲板作業をしてシルヴィアも肌で感じていた。ここではほとんどが皆同じように仕事も雑用もするし、食事の内容も同じなのだ。そう、捕虜である姫様だって同じだったわ。

 ギレムは続けた。

「そんな中で、1人だけ寝床も厠も別というのはどう考えても特別扱いになる。今はみんなが受け入れても、そのうちちょっとしたことでそれが不和の対象になる可能性がある。シルヴィアは謙虚だから驕ったりはしないだろうが、何かしらの妥協点を見つけない限り、結局恨まれるのはシルヴィアになるんだ。俺はそのときシルヴィアを弁護できる自信がない。料理を上手く作れるのは彼女だけだが、それだけで個室を手に入れられる理由にはならない」

 ギレムの正論に、ダンは眉尻を下げて困ったような、いじけたような顔で「だ、だけどよ……」とつぶやくようにぼぞぼそ言っている。
 シルヴィアはギレムの意見ももっともだと思った。狭い空間で生活していれば、小さなことでもめごととなる。そして自分が乗組員同士の衝突の原因になるかもしれない。ギレムさんは不和が起きたときの私のことを心配してくれているのだわ。

 そのとき、ずっと黙って聞いていたクレイヴン船長が「なるほど、妥協点か」と声を上げた。

「みんなを納得させられるような妥協点がありゃいいってわけだ……追加で仕事をさせてもいいが、いや……こういうのはどうだ、シルヴィアの給料を俺たちの半分にするってのは」

 クレイヴンの提案に、皆は目を瞬かせた。

「給料を半分?」

「そうだ。あの船倉は時価の家賃が発生するってことだ。シルヴィアの毎回の給料から家賃分を差し引いてその分みんなの給料に回す。それがシルヴィアの妥協だ。俺たちにゃ報酬こそが一番だからそいつを減らされちゃたまったもんじゃねえが、シルヴィアにゃそこまで痛手じゃねえだろう? 主人と違って質素な生活してるみてえだし、俺らみてえに酒飲みでも博打狂いでもねえ。どうだ?」

 シルヴィアはクレイヴンの提案に瞳を揺らした。ストマン帝国から逃がしてもらっている身だ、自分に給料が発生するなんて思ってもいなかった。もうすでに仲間として受け入れてくれているということだ。どこまで懐の深い人なのかしら。料理以外の私の甲板での働きぶりなんて、みんなの十分の一もないくらいなのに。


「なあるほど、いい考えじゃねえか!」

 ネヴィルが大きな声で言ったのにレイモンドも「さすがジェフ!」と賛同した。

「どうだ、ダン! お前もいいだろ?」

 ダンはシルヴィアの方を向いて彼女の表情を見てから「俺も賛成だ」と言った。
 ギレムは相変わらず無表情だったが、「確かにそれならみんなも文句は言わないな……いいと思う」と頷いた。
 ジョシュは黙って聞いていたが、小さく「悪くねえ」と呟いたあと、ダンの方を見て「悪くはねえがよ」と言った。

「いくらそこの女の給料減らしても、ダンをたらしこんで奴の給料奪っちまうと思うぜ。女ってのはそういう生き物だ。それでたらしこまれる野郎がどんどん増えてったら……うわっ」

 ジョシュが言いかけている途中で、ダンは突然彼の胸ぐらを掴むと低い声で「おい」と言った。

「“そこの女”じゃねえ、名前はシルヴィアだ、いいかげん覚えろ。どこまでシルヴィアに妥協させりゃおめえは気が済むんだ、え? それに俺の給料を俺がどう使おうとおめえには関係ねえことだ」

 ダンのもう片方の手の拳が振り上げられているので、「おいおい、落ち着けって!」と言いながらレイモンドとギレムがダンを両側から抑えようとする。
 シルヴィアも慌てて正面に回るとダンの胸に両手をやりながら「ダン、乱暴はやめて、お願いだから……!」と言う。

 ダンは3人に抑えられていたが、そのうちに力を緩めてジョシュの胸ぐらを離すと、荒く息を吐いた。シルヴィアが落ち着かせるように彼の胸を手でぽんぽんと叩くと、ダンは目の前の彼女を見下ろしたあとばつが悪そうに目を逸らした。

 クレイヴン船長が「ジョシュ」と呼んだ。

「お前もわかってるはずだ。シルヴィアはそういう人間じゃねえ。女だからって理由でいきり立つのはやめろ。問題起こしてるのはお前の方だぞ。お前が船を降りるか?」

 そう言われたジョシュは、一瞬親鳥に見捨てられた小鳥のような表情を浮かべたが、すぐにシルヴィアの方を睨みつけ、ふんと鼻を鳴らして船長室を出ていってしまった。
 レイモンドが「ったくしょうがねえなあ」と頭をかきながら出口の方へ向かい、ギレムも「俺も行く」と言って2人で彼のあとを追うべく船長室を出ていった。

「……まあジョシュは大丈夫だ。気にすんなよ」

 ネヴィルがシルヴィアに言った。
 クレイヴンもやれやれと肩をすくめてからシルヴィアの方を見た。

「で、肝心のお前はどう思う、シルヴィア。給料が半分に減っちまうがそれでもいいか?」

 シルヴィアは「え、ええ、私はかまわないけど……でも」とためらいながら言った。

「お給料と言ったって、食費は含まれないのでしょう? それなら私が使う当てはほんとうに身の回りの物くらいしかないわ。それに私は、甲板作業はまだまだ半人分も働けないし、その、もしストマン帝国の軍が襲ってきたとしても戦える自信がないの……怖くてきっと何もできないわ。私が胸を張ってできるのはお料理だけ。お給料がもらえる資格なんてとても……」

「何言ってやがる」

 ネヴィルが片眉を上げて言った。

「さっきギレムも言ってだだろうが、適材適所だって。お前はこの船でできることやりゃあそれで十分給料もらえることになってんだ。まあ……ストマン帝国の周辺にいる時間が長かったから、次の報酬がいつかってのはジェフじゃねえとわからんがな」

 クレイヴンは「俺だって決めてねえよ」と帽子をとって頭をがりがりかいた。

「今はストマン帝国から遠ざかることが一番だ。落ち着いたら考える。エグリランドの海軍だって避けなきゃならんしな。安心しろ、シルヴィア。俺らだって下手に奴らと関わって戦うつもりはねえ。武器の消費は避けてえからな、まずは避けれるもんは避けるってのが一番だ。とにかくもかくにも……シルヴィア、前にも言ったが、お前自身がほんとに俺たちの仲間になりてえってんなら大歓迎だ」

 クレイヴンがそう言ってにっと笑ったのに、シルヴィアは目を細めると感謝の気持ちを込めて「ありがとうございます」と言った。

 そのときネヴィルが「あっそうか!」と声を上げた。

「そんなら今夜は歓迎の杯、やるぞ! シルヴィアを仲間として受け入れるってんで改めてやろうぜ」

 シルヴィアは「えっ」と戸惑った声を出した。

「そ、そんな悪いわ、だって船を降りたのはひと月前なのよ。あんなに盛大に別れの杯をやってもらったというのに、なんだか申し訳ないわ」

 シルヴィアが恥ずかしそうに言ったのに、ネヴィルは「ははっ」と笑った。

「何が申し訳ねえもんか! 言ったろ、俺らは飲める口実がほしいだけだって。それにみんながお前を歓迎してることにゃ変わりねえ。いいだろう、ジェフ」

 クレイヴンは眉尻を下げて「そうだな」と言った。

「ただし一杯だけだ。今日は月曜日だし、この海域だ、万が一帝国軍の船に見つかっちまっても逃げられるようにはしておく」

「アイアイ、船長……よおし、そうと決まったら野郎どもに言ってくらあ!」

 どすどすと音を立てながらネヴィルも船長室を走って出ていってしまった。

 甲板長を見送ると、クレイヴンは「さてと」と再びシルヴィアの方を見た。

「ひとまずお前の仕事は前と同じにする。調理場中心、できるときにダンと一緒に甲板作業をやるってことでいい。そのうち持ち場をつける。それはそうと、正式に仲間になるなら掟を知らねえとな」

 クレイヴンはそう言うと、怒りのためか黙り込んでいるダンの方を見た。

「ダン、掟のこと頼んだぞ。給料のこととか、陸との違いとか……とくにお前がさっき破ろうとしたのも忘れるなよ」

 ダンは「だってよ」と頭をかいて口をへの字に曲げた。

「あんな風に言われたら黙ってられるかってんだ。女を敵だって思ってるとこ、どうにかならねえのかよ。シルヴィアがどれだけ譲ったって結局変わらねえとこがむかつく」

 クレイヴンは目を細めた。

「ああいうのは内心怖えからだ。あいつが過剰なくれえ嫌がってんのは自分に害があるかもって思うからだろう。まあ様子を見ようじゃねえか……シルヴィアは気分悪りいかもしれねえがな」

「悪りいどころじゃねえ、最悪だぜ。せっかくこの船に戻ってきてくれたってのに…………シルヴィア?」

 ダンは、困ったような顔で俯いている彼女に気づいた。

「どうした、やっぱジョシュが言ったこと気にしてんのか?! さっきも言ったがおめえは別に……」

 慌てたようにそう言ったダンにシルヴィアは「ち、違うの、全然関係ないことよ」と首を振った。

「その、私も乗組員になるから……その、言わなくちゃいけないことがあるの」

 シルヴィアはクレイヴン船長の方を見上げた。

「船長、私は姫様からお給与をいただいたんです」

 クレイヴンはきょとんとした。

「まあそりゃあ、つい最近まで働いてたんだからそうだろな」

「それがそのう、姫様の手紙でこの船の船倉に残しておいたものだと知ったんです。さっき掃除していたときに見つけました。とってもたくさんの金貨で……私の年俸より遥かに上回る量なの」

 ダンは目を丸くさせ、クレイヴンは顔に皺を寄せた。シルヴィアは続けた。

「ですからその、これは1人だけ財産を隠し持っているっていう掟違反にならないかしら。確か前に聞いたダンの話では、財産を隠していたら罰を受けなければならないでしょう」

 クレイヴンは両手で顔を覆い、「おいおい、あの高飛車女、結局シルヴィアが戻るって想定してたのか。どれだけ隠し持ってやがったんだ……くそ、これだから金持ちってのは……」とぶつぶつ呟いた。そしてそのあとに大きくため息を吐いてから両手を顔から外すと、シルヴィアに苦笑いを向けた。

「シルヴィア、お前が気に病む必要はねえ。そいつはお前が長年あのたかび……姫さんに仕えた立派な報酬だ。お前からは奪わん。俺が奪うのは働かねえ金持ちの権力者どもからだけだな」

 クレイヴン船長の言葉に、シルヴィアは戸惑った。
 ダンがシルヴィアにかっと笑いかけて言った。

「そうだぜ、シルヴィア。もうおめえは捕虜じゃねえ、俺たちとおんなじ立場の仲間だ。歓迎会だってネヴィルからの提案だぞ。あのおっさんもレイモンドも、ほかにジェイクとかトニーたちだって嬉しがってんだ……このジェフもだぜ」

 ダンが楽しそうに言うと、クレイヴンは「もちろんだ」と頷いた。

「だが、俺らと比べりゃお前は別格だろ、ダンーー今夜は歓迎会で残念だったな、ほんとは2人で話し込みたかったんだろうに。お前たちが望むんなら、俺がネヴィルたちに遠慮してくれって言ってやってもいいんだぞ」

 クレイヴンにそう言われ、シルヴィアはきょとんとした表情を浮かべた。2人で? 確かにそうしたい気持ちもあるけど、ネヴィルたちがせっかくはりきって仕切ってくれているのにそれは悪い気がするとシルヴィアは思った。

 ダンは「え、そりゃ、その……でも……」と口をもごもごさせたあとで、シルヴィアの方を見ると眉をぐっと寄せて言った。

「い、いや、いいんだ。みんなが歓迎してくれてるってのがシルヴィアにとって大事なんだからよ。そいつを壊すつもりはねえ」

「そうか? ほんとうにそう思ってるんならいいか。まあ掟守ってりゃ俺はガタガタ言わねえからな」

 ダンは眉を寄せて「へっ」と言って咳払いをすると、「もう夕食の支度の時間だ、行こうぜシルヴィア」と言った。
 シルヴィアが「それじゃあ失礼します」と先に部屋を出たタイミングで、クレイヴンが「あっそうだ、ダン」と声を上げた。そしてすたすた歩いて部屋の物置戸を開けて白い布を取り出すと、それをダンの方に放った。

「お前、シーツ探してただろう。余ってんのがあるから持ってけ。夕食準備の前にベッドのセットでもしてこい。ただし掟は守れよ」

 クレイヴンがにやりとからかうような表情で言ったのに、ダンは眉を釣り上げて「ジェフのくそ野郎!」と言って、さっさと船長室を出ていってしまった。


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