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11 お兄ちゃんのバタバタに埋もれた、私に関するの小さな出来事。
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テレビを見てたら、すっかり忘れてた。
お父さんとクイズ対決をしていて、勝利に握りこぶしをあげていた。
やっぱり現役高校生は常識以外は強いのだ!
大人には大人の知識、私には子供の知識がある。
そうは言ってもそんなに偉そうには量は誇れないから、お父さん相手に威張るくらいだ。
階段からお兄ちゃんが降りてきた。
さっきよりは何とかなった表情。
お通夜のような食事は回避できるらしい。
きっと後でお礼に来るだろう、そうに違いない、そうだよね?
お母さんの手伝いをして、夕飯を食べる。
本当に三食とも家族と一緒に食べることが珍しくないお兄ちゃん。
さぞかしお金が溜まってる事だろう。
私のおねだりなんかじゃビクともしないくらいの金額が。
太郎は大人しく横になっている。
すっかり夕飯も終わって、一緒にテレビを見るような聞くような、そんな感じでそのまま寝ている。
今のところ太郎の頭が禿げる気配はない。
良かった良かった。
食事を終えて、終わった食器の片付けはやる。
途中からお兄ちゃんも加わって。
お兄ちゃんが一人暮らしを始めたら、私の仕事が増えるんだろうか?
太郎の世話とお母さんの手伝い全般。
早い内からお父さんを誘って、習慣づけるようにしてやる。
お兄ちゃんが食卓を欠席するようなことがあったら、お父さんと二人の会話風を装い、一緒にこうしてシンク前で並ぼう。
「話したい?」
お兄ちゃんを見た。
「ああ。」
「じゃあ、あとで。あと、あれ、開けていい?」
「もちろん。ちゃんと腕につけてみて。」
「うん。」
部屋をノックして入ってきたお兄ちゃん。
その冷静さは、いい方の感じだよね?
「さっき電話した。ちゃんと謝った上で話も出来たし、きちんと伝えた。」
言ったの?告白・・・ですが、言ったの?
「阿里さん、なんて?」
「すぐには無理って言われて、すごくがっかりしたら、返事はすぐには無理だって事だったみたいで、ちゃんと考えて、返事をしますって言われた。」
「びっくりしてた?」
「ああ、多分、全然気がついてなかった。ビックリしたと思うし、外野が協力してたって分かって、・・・・・どう思っただろう?」
「それは驚きと恥ずかしさと、あとは・・・・嬉しいって気持ちがあればいいね。」
お兄ちゃんが真面目な顔をして私を見る。
「もし全然でも、少しはそう思ってくれるかな?」
「うん、今まで全くだったとしても、すぐには断られなかったんだから、少しはそう思ってくれてると、私は信じたい。」
「椎名、なんだかすごく頼りになる妹になったな。」
「でしょう?お兄ちゃんがグダグダだからそう見えるんじゃないよ。本当に少しは大人になってるんだから。」
元気づける笑顔で。
「ほら、似合う?」
手首に巻いていたプレゼントを見せた。
「ああ、気に入ってくれたか?」
「うん。ありがとう。本当に何でもないのに、うれしい。」
「そこは原市に感謝してくれ、あと選んでくれた彼女に。」
「うん、二人にお礼を言っててね。」
「ああ、ちゃんと言う。」
「本当に阿里さんがいい返事をくれるといいね。」
「ああ。ありがとう。」
そう言って出て行った。
ああ、言い過ぎたかな?
楽観すぎたかなあ?
でもこれ以上、太郎の頭がゴチゴチ言うのも可哀想だからね。
阿里さんお願いします。
本当にいい奴です。おすすめです。
しばらくしたら携帯に連絡が来た、隣の部屋のお兄ちゃんから、なんで?
『今日のお礼が来た。楽しかったって、そう書かれてる。』
ここに来て報告するには顔が普通に戻らなかったんだろう。
多分落ち込んだ分、それだけのメッセージでも昇天するくらいうれしいんだろう。
それとももっと嬉しい言葉でもあったんだろうか?
腕のアクセサリーを見て、私もニンマリとして、箱に戻した。
パンパン!
手を合わせて二人のハッピーを祈りたい。
「椎名、どうだった?いいの買ってもらえた?」
学校で聞かれたのはすっかりおなじみになったお兄ちゃんの話。
どうしてもイライラして友達に相談のように話してしまったのだ。
本当に全部、ありのまま。
「うん、シンプルで、ちょっと大人っぽい、いい感じだよ。」
「いいなあ、私もそんな架空設定のご褒美くれるようなお兄さん欲しい。」
「お兄ちゃんより、その友達が勝手に言いだしたらしいよ。」
「そっちでもいい。で、どうなったの?」
「なんだか喧嘩別れみたいになったらしい。怒らせたみたいで、しょぼしょぼになって帰って来たから、連絡させて、ちゃんと伝えて、返事待ち。」
質問に丁寧に答えて私の知る情報は皆に分ける。
「微妙~。」
「まあね。私も太郎も気を遣うよ。」
「上手くいったらどこまで報告してくるのかな?いろいろバレそうだよね。椎名も我慢できずにお母さんとかにバラしそう。」
「多分浮かれ過ぎて、お母さんも気がつくよ。」
「そうかもね。」
最後はいい予感のする話の終わり方になったのは良かった。
皆もそう思ってくれてるならうれしい、なんて・・・・。
そう思って笑顔だったのに、なのに・・・・。
「で、椎名の方は?」
「・・・・別に。」
「それで逃げれると思ってるの?」
思ってる。別に・・・本当に別になのだ。
少し前に、誰かも分からない相手に古典的な『ラブレター』なるものをもらった。
いきなり名前を呼ばれて、振り向いたら誰かがいて、誰だろうと考えるまでもなく、手紙を渡されて、何だか分からない内に逃走された。
どんな人だか覚えてもいない。
後姿も制服で、どこの学校かは分からない。
同じ学校?
なんで名前を呼ばれたの?フルネームで呼ぶ?
丁度一人の時で、友達には誰にも見られてないと思ったのに、どうやら思った以上に視線があったらしい。
恥ずかしい。
二日ぐらいして、友達の一人に暴露された。
「椎名、そういえば路上での直撃、どうなったの?」
「何?」
「へっへ~、噂がやっと私まで来て、なんと、椎名が男の子に突撃されたらしい!と。」
うわさ?
「何何?聞きたい!」
「誰?何て言われたの?」
友達の視線を浴びる。
「分からない?知らない。誰だかも、用が何だったのかも。」
「手紙を渡されたんじゃないの?」
「そうなの?何?何が書いてあった?」
「開けてないから、分からない。」
えええっ~、と一同。
「だって誰だか分からない。知らないし。」
「余計興味湧くよ、開けてよ、今。捨ててないよね。」
さすがに捨ててはいない。バッグの底に入ってる。
ちょっとクシャクシャかも。
さすがに人前では、失礼かも、開けないよ・・・・・。
「大丈夫、見ないから。何が書いてたか、教えてよ。」
皆の視線の中、動けない。
一人で開ける勇気もない。
ラブレターだとは思ってる、でも、ただの嫌がらせだったら立ち直れない。
そんなことないと思ってるけど。
ごそごそとバッグの底から取り出した。やっぱりちょっとクシャっとなっていて可哀想な感じになってる。
でも、もらった時もそれなりにシワがあった気もする。
「ねえ、もし、嫌がらせとかだったら、慰めてね。何が書いてあるか、すごく怖い。」
残念ながらそんな世の中だから。
世の中の皆が楽しく前向きに生きてるわけじゃない。
後ろから前を行く人の足元にバナナの皮や生クリームの塊くらい平気で投げようとする人はいるかもしれない。
「大丈夫だよ。それはないよ。」
そう言われて、簡単にシールがつけられていただけの封筒をもう一度見返して開ける。
外には私の名前が書かれているだけだった。
珍しい名前で間違えようがない。
私に向かって書かれたものが入ってると思う。
ゆっくり開けて中身を取り出す。
同じくらいの大きさの便箋が二枚。
何で名前を知っていたかは分かった。
とりあえず、その時点で嫌がらせではなかったと分かってホッとした。
中学の時に同じ学校だった男の子の名前が書いてあった。
一回くらい同じクラスになった。ぼんやりと思い出せるくらいの子。
用件は。
『仲良くなって、話がしたい。』『一緒に勉強したい。』
同じ学校の子じゃない。
男子が多い近くの学校の名前と、ご丁寧にクラスと出席番号まで、そして名前が書かれてた。
『木佐貫 潤』
一緒に勉強するって、『一緒に』は意味があるの?
学校違うといろいろ違うと思うのに。
デートの誘いというには控えめで、『友達申請』だ。
う~ん?????
眉間にしわが寄って思わず天井を見上げる。
「どうしたの?全然嬉しそうでも、照れてるでもなく。」
「何?違ったの?」
同じ中学の子もいる。
その子にとりあえず聞く。
「ねえ、同じ中学だった守屋 崇文君って知ってる?」
「うん、知ってる。三年の時同じクラスだったよ。?まさか、守屋君?」
「違う。守屋君の友達みたい。守屋君に連絡取れそう?」
「二人くらい間に挟めば取れると思う。」
しょうがない。あんまり恥ずかしい内容でもないので、皆に見せる。
どう?
感想を聞きたい。
皆がテーブルに置かれた紙面を読む。
声を出して読んだ子を止めて、あくまでも黙読で。
「今連絡とってみる。」
そう言って携帯をいじっていてしばらく、素晴らしいクラスのまとまりがあったらしい。
すぐに守屋君から連絡が来た。
『拝島さん、どうしたの?僕に用?』
『私じゃない、郷里椎名ちゃん。わかる?』
『ああ・・・・・・・、分かった。』
『連絡先教えていいよね。』
『うん、お願い。ありがとう。やっと反応があったって、うれしいながらもビビってるのが隣にいる。そのことだよね?』
『詳しくは本人に。』
そうして教えられた連絡先に向かって聞いた。
『誰なのかさっぱり分からないの。だってこの間も顔も見えないくらいあっという間にいなくなったし。嫌がらせかもと思って、そのままにしてた。それは謝っててほしい。』
『想像できる。了解。いい奴だよ。是非友達になれたらって。』
『友達ならいいけど・・・・・。』
『僕が出来るのはそのくらい。あとは本人と会話してあげて。』
『わかった。夜、書かれてた連絡先に連絡する。本当に変な人じゃないよね、恨むよ、訴えるよ。』
『大丈夫。そんな大それたことは出来ない。シャイだから、安心して。がんがんリードして欲しいくらい。』
『そんなの知らない。』
何を期待してるのよ。
その夜に連絡してみた。
ゆっくりと文字で会話して、話の流れで、私は太郎の写真を送って、代わりにモモンガの写真が送られてきた。肩に乗ってるから、本人と思われる人も写ってる。
『本人だよね?』
『うん。いざという時にイメージと違うって言われたら、悲しいから、今の内に送れって言われた。』
『守屋君に?』
『妹に。バレたから相談したら、そう言われた。』
なるほど、まあまあいい。二十代後半の兄にアドバイスする自分もいるくらいだ。
世の中にはしっかり者の妹もいるのだから。
『そうだね、イメージがないと話をしててもなんだか映像が浮かばない。これで太郎のイメージもついたでしょう?』
『うん。』
そんな感じの友達だった。
ランダムに連絡して、たいてい太郎のニュース。
さすがに不出来な兄のグズグズから始まった恋愛相談の一部始終は披露しなかった。
本当に友達。
違う学校の友達だ。
だから、あれから、特別に披露するような話題ではない。
「なんだか、本当に友達で満足するタイプなのかな?」
「守屋君からはお礼が来たよ。楽しそうに報告してくれたって。」
「会ってみないの?」
そう聞きたいのは分かるけど。本人から頼まれてもいないのに言い出せない。
「そんな約束はしてない、話しにも出ない。」
「そうなんだ。」
誰もが何とも言えない不消化な気分のまま。
そう、この話は広がらない。盛り上がらない。
お兄ちゃんも全く知らない話だ。
自分のことが忙しくて私のことなんて気にしてる暇も余裕もないだろうから。
本当にただの友達だし。
お父さんとクイズ対決をしていて、勝利に握りこぶしをあげていた。
やっぱり現役高校生は常識以外は強いのだ!
大人には大人の知識、私には子供の知識がある。
そうは言ってもそんなに偉そうには量は誇れないから、お父さん相手に威張るくらいだ。
階段からお兄ちゃんが降りてきた。
さっきよりは何とかなった表情。
お通夜のような食事は回避できるらしい。
きっと後でお礼に来るだろう、そうに違いない、そうだよね?
お母さんの手伝いをして、夕飯を食べる。
本当に三食とも家族と一緒に食べることが珍しくないお兄ちゃん。
さぞかしお金が溜まってる事だろう。
私のおねだりなんかじゃビクともしないくらいの金額が。
太郎は大人しく横になっている。
すっかり夕飯も終わって、一緒にテレビを見るような聞くような、そんな感じでそのまま寝ている。
今のところ太郎の頭が禿げる気配はない。
良かった良かった。
食事を終えて、終わった食器の片付けはやる。
途中からお兄ちゃんも加わって。
お兄ちゃんが一人暮らしを始めたら、私の仕事が増えるんだろうか?
太郎の世話とお母さんの手伝い全般。
早い内からお父さんを誘って、習慣づけるようにしてやる。
お兄ちゃんが食卓を欠席するようなことがあったら、お父さんと二人の会話風を装い、一緒にこうしてシンク前で並ぼう。
「話したい?」
お兄ちゃんを見た。
「ああ。」
「じゃあ、あとで。あと、あれ、開けていい?」
「もちろん。ちゃんと腕につけてみて。」
「うん。」
部屋をノックして入ってきたお兄ちゃん。
その冷静さは、いい方の感じだよね?
「さっき電話した。ちゃんと謝った上で話も出来たし、きちんと伝えた。」
言ったの?告白・・・ですが、言ったの?
「阿里さん、なんて?」
「すぐには無理って言われて、すごくがっかりしたら、返事はすぐには無理だって事だったみたいで、ちゃんと考えて、返事をしますって言われた。」
「びっくりしてた?」
「ああ、多分、全然気がついてなかった。ビックリしたと思うし、外野が協力してたって分かって、・・・・・どう思っただろう?」
「それは驚きと恥ずかしさと、あとは・・・・嬉しいって気持ちがあればいいね。」
お兄ちゃんが真面目な顔をして私を見る。
「もし全然でも、少しはそう思ってくれるかな?」
「うん、今まで全くだったとしても、すぐには断られなかったんだから、少しはそう思ってくれてると、私は信じたい。」
「椎名、なんだかすごく頼りになる妹になったな。」
「でしょう?お兄ちゃんがグダグダだからそう見えるんじゃないよ。本当に少しは大人になってるんだから。」
元気づける笑顔で。
「ほら、似合う?」
手首に巻いていたプレゼントを見せた。
「ああ、気に入ってくれたか?」
「うん。ありがとう。本当に何でもないのに、うれしい。」
「そこは原市に感謝してくれ、あと選んでくれた彼女に。」
「うん、二人にお礼を言っててね。」
「ああ、ちゃんと言う。」
「本当に阿里さんがいい返事をくれるといいね。」
「ああ。ありがとう。」
そう言って出て行った。
ああ、言い過ぎたかな?
楽観すぎたかなあ?
でもこれ以上、太郎の頭がゴチゴチ言うのも可哀想だからね。
阿里さんお願いします。
本当にいい奴です。おすすめです。
しばらくしたら携帯に連絡が来た、隣の部屋のお兄ちゃんから、なんで?
『今日のお礼が来た。楽しかったって、そう書かれてる。』
ここに来て報告するには顔が普通に戻らなかったんだろう。
多分落ち込んだ分、それだけのメッセージでも昇天するくらいうれしいんだろう。
それとももっと嬉しい言葉でもあったんだろうか?
腕のアクセサリーを見て、私もニンマリとして、箱に戻した。
パンパン!
手を合わせて二人のハッピーを祈りたい。
「椎名、どうだった?いいの買ってもらえた?」
学校で聞かれたのはすっかりおなじみになったお兄ちゃんの話。
どうしてもイライラして友達に相談のように話してしまったのだ。
本当に全部、ありのまま。
「うん、シンプルで、ちょっと大人っぽい、いい感じだよ。」
「いいなあ、私もそんな架空設定のご褒美くれるようなお兄さん欲しい。」
「お兄ちゃんより、その友達が勝手に言いだしたらしいよ。」
「そっちでもいい。で、どうなったの?」
「なんだか喧嘩別れみたいになったらしい。怒らせたみたいで、しょぼしょぼになって帰って来たから、連絡させて、ちゃんと伝えて、返事待ち。」
質問に丁寧に答えて私の知る情報は皆に分ける。
「微妙~。」
「まあね。私も太郎も気を遣うよ。」
「上手くいったらどこまで報告してくるのかな?いろいろバレそうだよね。椎名も我慢できずにお母さんとかにバラしそう。」
「多分浮かれ過ぎて、お母さんも気がつくよ。」
「そうかもね。」
最後はいい予感のする話の終わり方になったのは良かった。
皆もそう思ってくれてるならうれしい、なんて・・・・。
そう思って笑顔だったのに、なのに・・・・。
「で、椎名の方は?」
「・・・・別に。」
「それで逃げれると思ってるの?」
思ってる。別に・・・本当に別になのだ。
少し前に、誰かも分からない相手に古典的な『ラブレター』なるものをもらった。
いきなり名前を呼ばれて、振り向いたら誰かがいて、誰だろうと考えるまでもなく、手紙を渡されて、何だか分からない内に逃走された。
どんな人だか覚えてもいない。
後姿も制服で、どこの学校かは分からない。
同じ学校?
なんで名前を呼ばれたの?フルネームで呼ぶ?
丁度一人の時で、友達には誰にも見られてないと思ったのに、どうやら思った以上に視線があったらしい。
恥ずかしい。
二日ぐらいして、友達の一人に暴露された。
「椎名、そういえば路上での直撃、どうなったの?」
「何?」
「へっへ~、噂がやっと私まで来て、なんと、椎名が男の子に突撃されたらしい!と。」
うわさ?
「何何?聞きたい!」
「誰?何て言われたの?」
友達の視線を浴びる。
「分からない?知らない。誰だかも、用が何だったのかも。」
「手紙を渡されたんじゃないの?」
「そうなの?何?何が書いてあった?」
「開けてないから、分からない。」
えええっ~、と一同。
「だって誰だか分からない。知らないし。」
「余計興味湧くよ、開けてよ、今。捨ててないよね。」
さすがに捨ててはいない。バッグの底に入ってる。
ちょっとクシャクシャかも。
さすがに人前では、失礼かも、開けないよ・・・・・。
「大丈夫、見ないから。何が書いてたか、教えてよ。」
皆の視線の中、動けない。
一人で開ける勇気もない。
ラブレターだとは思ってる、でも、ただの嫌がらせだったら立ち直れない。
そんなことないと思ってるけど。
ごそごそとバッグの底から取り出した。やっぱりちょっとクシャっとなっていて可哀想な感じになってる。
でも、もらった時もそれなりにシワがあった気もする。
「ねえ、もし、嫌がらせとかだったら、慰めてね。何が書いてあるか、すごく怖い。」
残念ながらそんな世の中だから。
世の中の皆が楽しく前向きに生きてるわけじゃない。
後ろから前を行く人の足元にバナナの皮や生クリームの塊くらい平気で投げようとする人はいるかもしれない。
「大丈夫だよ。それはないよ。」
そう言われて、簡単にシールがつけられていただけの封筒をもう一度見返して開ける。
外には私の名前が書かれているだけだった。
珍しい名前で間違えようがない。
私に向かって書かれたものが入ってると思う。
ゆっくり開けて中身を取り出す。
同じくらいの大きさの便箋が二枚。
何で名前を知っていたかは分かった。
とりあえず、その時点で嫌がらせではなかったと分かってホッとした。
中学の時に同じ学校だった男の子の名前が書いてあった。
一回くらい同じクラスになった。ぼんやりと思い出せるくらいの子。
用件は。
『仲良くなって、話がしたい。』『一緒に勉強したい。』
同じ学校の子じゃない。
男子が多い近くの学校の名前と、ご丁寧にクラスと出席番号まで、そして名前が書かれてた。
『木佐貫 潤』
一緒に勉強するって、『一緒に』は意味があるの?
学校違うといろいろ違うと思うのに。
デートの誘いというには控えめで、『友達申請』だ。
う~ん?????
眉間にしわが寄って思わず天井を見上げる。
「どうしたの?全然嬉しそうでも、照れてるでもなく。」
「何?違ったの?」
同じ中学の子もいる。
その子にとりあえず聞く。
「ねえ、同じ中学だった守屋 崇文君って知ってる?」
「うん、知ってる。三年の時同じクラスだったよ。?まさか、守屋君?」
「違う。守屋君の友達みたい。守屋君に連絡取れそう?」
「二人くらい間に挟めば取れると思う。」
しょうがない。あんまり恥ずかしい内容でもないので、皆に見せる。
どう?
感想を聞きたい。
皆がテーブルに置かれた紙面を読む。
声を出して読んだ子を止めて、あくまでも黙読で。
「今連絡とってみる。」
そう言って携帯をいじっていてしばらく、素晴らしいクラスのまとまりがあったらしい。
すぐに守屋君から連絡が来た。
『拝島さん、どうしたの?僕に用?』
『私じゃない、郷里椎名ちゃん。わかる?』
『ああ・・・・・・・、分かった。』
『連絡先教えていいよね。』
『うん、お願い。ありがとう。やっと反応があったって、うれしいながらもビビってるのが隣にいる。そのことだよね?』
『詳しくは本人に。』
そうして教えられた連絡先に向かって聞いた。
『誰なのかさっぱり分からないの。だってこの間も顔も見えないくらいあっという間にいなくなったし。嫌がらせかもと思って、そのままにしてた。それは謝っててほしい。』
『想像できる。了解。いい奴だよ。是非友達になれたらって。』
『友達ならいいけど・・・・・。』
『僕が出来るのはそのくらい。あとは本人と会話してあげて。』
『わかった。夜、書かれてた連絡先に連絡する。本当に変な人じゃないよね、恨むよ、訴えるよ。』
『大丈夫。そんな大それたことは出来ない。シャイだから、安心して。がんがんリードして欲しいくらい。』
『そんなの知らない。』
何を期待してるのよ。
その夜に連絡してみた。
ゆっくりと文字で会話して、話の流れで、私は太郎の写真を送って、代わりにモモンガの写真が送られてきた。肩に乗ってるから、本人と思われる人も写ってる。
『本人だよね?』
『うん。いざという時にイメージと違うって言われたら、悲しいから、今の内に送れって言われた。』
『守屋君に?』
『妹に。バレたから相談したら、そう言われた。』
なるほど、まあまあいい。二十代後半の兄にアドバイスする自分もいるくらいだ。
世の中にはしっかり者の妹もいるのだから。
『そうだね、イメージがないと話をしててもなんだか映像が浮かばない。これで太郎のイメージもついたでしょう?』
『うん。』
そんな感じの友達だった。
ランダムに連絡して、たいてい太郎のニュース。
さすがに不出来な兄のグズグズから始まった恋愛相談の一部始終は披露しなかった。
本当に友達。
違う学校の友達だ。
だから、あれから、特別に披露するような話題ではない。
「なんだか、本当に友達で満足するタイプなのかな?」
「守屋君からはお礼が来たよ。楽しそうに報告してくれたって。」
「会ってみないの?」
そう聞きたいのは分かるけど。本人から頼まれてもいないのに言い出せない。
「そんな約束はしてない、話しにも出ない。」
「そうなんだ。」
誰もが何とも言えない不消化な気分のまま。
そう、この話は広がらない。盛り上がらない。
お兄ちゃんも全く知らない話だ。
自分のことが忙しくて私のことなんて気にしてる暇も余裕もないだろうから。
本当にただの友達だし。
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