苦手なものを克服する一番いい方法は?

羽月☆

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12 どこかに存在したシナリオの通り、そうなりました。

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結局次の日も連絡はせず、というか、出来ず。
そして次の日も、次の日も。
毎日視界の中にいる。
前ほど魔窟でもない方向。

時々原市さんが歩いて来ながら声をかけてくる。
それはいつものことだったりするけど、原市さんを見上げるとちょっとだけ視界に入ったりする。
なんとなく見られてる気がする。気がするだけ、だけど。

二人というか、三人ともそのことについては何も言ってこない。
原市さんはどこまで聞いてるんだろう?

私が怒って背中を向けた原因も聞いてるんだろうか?
怒られただろうか、アホとか馬鹿とか罵られただろうか?

いっそ何もかも忘れた気でいるのに慣れてしまいそうな金曜日。

外野の思惑が働いたのか、今週も引き続き四人で仕事の後に、連れ立ってどこかに向かった。
参加できますとは言った。
参加したいとは言ってない。
参加したくないとも言わなかったけど。
どんな顔して向き合えばいいのか。

当然と言えば当然、同じ席並びだった。
そして先週のような感じの雰囲気が漂い、仲良く話す協力者の二人。

「続報です。とうとう、インストラクターの篤君と二人で会うことになりました。」

何?
美沙子を見る。
まさか、いつの間に。・・・・・・羨ましい。

「おめでとう!やったね。」

「へっへへ~、細マッチョの素敵な体の彼が出来ました~。」

美沙子、そこは『かっこいい』でいいのに。

「長かったなあ~。もう通いまくりました。週に三日とか四日とか、最初はシフトも分からないから無駄打ちもあったし。仲間で飲みに行って、最初はライバルもいたけど、勝ち抜いて、射止めました。幸運をつかみました。」

握りこぶしをあげて喜ぶ美沙子。

「そんな苦労があったの?」

「そうだよ。そんな黙ってるだけでは細マッチョのいい男は手に入らない。行動あるのみ。」

へ~。

「だから、郷里さん、私は忙しくなりますので、阿里が寂しがらないようにお願いします。可愛がってあげてください。」

ん?

郷里さんの眉が上がる。
そして私を見る。
私は美沙子を見る。

「阿里、分かったでしょう?私だって時間をかけたの、途中で嫌な奴だと思ったらあっさり違う相手を探して、ジムでも真面目にトレーニングだけしてたって。郷里さんはすぐそばにいてくれるんだから、仲良くしても全然おかしくないし、ちょっとづつ一緒にいてみて。もしかしたら郷里さんが阿里のこといらないって思うかもしれないよ。阿里だけが選ぶんじゃないの。とりあえず一緒にいてみればいいの。ぐるぐる考えるだけ時間が無駄なんだから。」

私の最近の大きな議題に対する思考時間を『無駄』と一言で言い切った美沙子。

「阿里ちゃん、返事はまだでもいいよ。とりあえずは試供品扱いでデートしてみて。いつでも返品していいから。」

原市さんがそう言いながら、郷里さんの腕をつかむ。

「ね、阿里ちゃんが返事するまでは大人しく、太郎と同じくらい『待て』の状態だよ。変な手出しはしないから、安心して。」

「当たり前だ。」

郷里さんの低い声がする。
そうです、当たり前です!!それに、そんな心配はしてないし。

静かになった四人の四角。また、周りが勝手に決めていたらしい。

郷里さんの方をゆっくり見る。

「途中でいらないなんて絶対思わない。」

しーん。

しばらくして気がついた、美沙子が言ったことへの反論らしい。

「そこはいいよ。」

原市さんと美沙子が小さく言い合う。


「仲良しからで、よろしくお願いします。」

お辞儀をしてそのまま停止。
自分の顔が熱い。
恥ずかしい、なんで公開で返事することになった?
それはいつまでもズルズル考えながらも忘れたふりをしようとしてたから。
多分誰もがイライラしたんだと思う。
多分、郷里さん本人も、ちょっとは。

「は~、良かった。これで安心して篤君とのラブに集中できる。」

「ああ~、俺もやっと落ち着いてデートが出来る。郷里の泣き事がまた来るかもとか怯えなくていい、しばらくは。」

そういったら思いっきり郷里さんが原市さんを黙らせた。

泣き事・・・・言ったの?
例の件ですか?

そうじゃなくても原市さんは美沙子から聞いただろうから。
筒抜け感は同じかも。

そして返事をした私。

「じゃあ、明日と明後日の予定は今夜ね。」

何?予定って、約束してた?何?

「じゃあ、今夜連絡していいかな?」

郷里さんに言われた。勿論私が言われたのだ。

「はい。お願いします。」

デートする予定を決める予定。そういうことらしい。

「美沙ちゃんは?今週は?」

「もう、もっちろん、ラブです。」

「いいね、二人とも一緒にハッピーだね。」

「原市さん、三人です。忘れたら怒られますよ。」

美沙子が郷里さんを指さす。
ちょっと失礼だよ・・・・。

「ああ、そうか。まあ、どうでもいいや。」

いやいや、どの口が言いますか?


本当にお世話になりまして・・・・。はい。

話しは終わった、みたいな感じで二人がお金を置いて立ち上がった。

なんで?

「別にここで決めてもいいよね。」

「そうそう。もうお腹いっぱい。じゃあね。」

そう言って、本当に消えた。
どこまで打ち合わせをしてたの?
完璧シナリオ通りみたいな。
私のセリフも書いてあった?

「ここでいい?場所を変える?」

「いえ、ここで、大丈夫です。」

そう言ってはみたけど、一度落ち着こうと目の前のグラスを煽る。
メニュー表を見ながらお酒を頼む。

半個室を二人で使うという贅沢な感じになり、広くて逆に落ち着かない。

「ごめん。今回は全く知らない、頼んでもいないし、何も言われてなかったから。全部あの二人が仕組んだんだと思う。待つつもりで、いたから。」

「いいえ、・・・すぐに、返事をしなくてすみませんでした。偉そうに言ったのに、ずっと、どうしていいのか分からなくて。」

「うん、毎日、待って待って。悲しくて太郎にも『待つこと、待つこと。』なんて言ってたら、とうとう自分からはご飯がもらえないと思って最近冷たくされてる。」

冗談ですか?
さっきなんだか原市さんが言ってましたが。

「今日はお詫びに美味しいおやつを買ってあげることにする。」

冗談じゃないらしい。

「喜んでくれますね。」

思わず笑顔になる。
そんな一人と一匹は写真にもあった。だから簡単に想像できる。

「ねえ、週末、空いてる?」

「はい。私はジムには行かないので。」

「どこか行こうか?」

「はい。」

約束をする約束は、ここでしたからなくなった。

部屋に帰ってからは『おやすみなさい。また明日、よろしくお願いします。』だけにした。

寝てる太郎の顔と美味しそうなおやつの袋の写真が送られてきた。

『明日、あげます。』『楽しみにしてます。』と。

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