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イケ☆ハレ17
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俺はジャラール皇帝陛下に公共事業の話をするため、まだ自分でも整理できていない頭の中から必死で言葉を引っ張り出そうとした。
「えっと、実は――」
「あっ、見つけたぞ、ジア!こんなところに居やがっ……、へ?」
緊迫した空気を切り裂くようにして、もう一人の男が現れた。全員の視線が、声の聞こえてきた方へと向かう。
その闖入者――アーレフは、この場にそろった俺以外の面子の存在に気が付くと、ギョッと目を見開いた。
「なっ、何でジャラール皇帝陛下がここに……!?」
「……アーレフ、丁度良いところに来たな。実は、例の話をするためにアリが手紙を出してくれてたんだけど、予想してたよりもずっと早く、皇帝陛下が来ちゃった感じなんだよ」
何とも絶妙なタイミングで現れたアーレフに対して、俺が今の状況を当たり障りないように説明していると、それを横から聞いていたジャラール皇帝陛下の視線がこちらを向いた。
「アーレフも関わる話だったのか?」
「えっ?えーっと、アーレフも関わるというか……俺が提案したのを、アーレフが主体でやってくれることになった、って感じか?」
本当は、アーレフに任せるかどうか、まだ正式には決まってなかったけど……こうなってしまったら、決定事項として話していかないと話が前に進まない気がする。既に、ほとんどそういう方向で決まりかけてたんだし、もうそういうことにしちゃって良いよな。うん。
「ということは、お前から話を聞くのが筋になるか?アーレフ」
ジャラール皇帝陛下に名前を呼び掛けられ、その視線が向かうと……なぜか、アーレフは見る見るうちに顔を真っ赤に染め上げた。
……ん?何だろう、あの反応。ちょっと気になるけど……今はそんなことに構ってる場合じゃねえか。
「い、いや……まだ細かい部分が全然詰め切れていないし、皇帝陛下相手に奏上できるような段階じゃ……」
「いや、アーレフ。悪ぃけど、簡単でも良いからチャチャっと説明してやってくれねえか?このままじゃ、ジャラール皇帝陛下を無駄に呼び出したことになっちまうからさ」
俺がパチンと両手を合わせて頼み込むと、アーレフはグッと言葉を飲みこみ、視線を彷徨わせる。そのまま全員で次の言葉を待っていると、アーレフはやがて諦めた顔になって、低い声で説明を始めてくれた。
「……公共事業として、平民に薬を広げる。その許可をいただきたい」
「公共事業?」
そのシンプルな説明に訝しげな声を上げたジャラール皇帝陛下の視線が、なぜか俺の方を向いた。
「何だよ?」
「いや……この話は、お前が提案したのだと言っていたが、本当か?」
「そうだけど……?」
「よく、そんなことを知っていたな」
……ああ、なるぼど。公共事業とかいう難しそうな話が、俺から出た提案だというのが意外だったらしい。
そりゃあ、そうだよな。アリから話を聞くまで、俺は公共事業なんて言葉すら知らなかったんだから。実際、具体的な方法は一個も思いつかなくて、アーレフに丸投げしようとしてた訳だし。
俺がその経緯を一通り説明すると、ジャラール皇帝陛下は納得したように頷いて、アーレフに視線を戻した。
「アーレフ、お前が率先して引き受けたからには、何か考えがあるのだろう?細部を詰める前に一度話してみろ」
ジャラール皇帝陛下がそう言って促すと、アーレフは渋々といった顔をしながら口を開いた。
「……薬を平民に広げるためには、大きな問題が二つある。まず、薬師の絶対数が少なくて、平民に回すような余分な人員がいないこと。それと、薬そのものが高価すぎて、平民では薬代を払えないことだ」
おお、もう既に色々と考えてくれてたんだな。そう言えば、アーレフは俺を探してここまで来たみたいだった。もしかして、その話をするために俺を探していたのかもしれない。
ただ、薬が高価なせいで平民には買えないということくらい、俺だって知ってることだ。
「えっと……その高くて買えない薬を買うために、俺たちが金を出すんじゃないのか?」
俺が疑問に思ったことをそのまま発言すると、アーレフから馬鹿にしたような視線を向けられた。
「……お前の生活費の余剰分程度の金額をいくら注ぎ込んだところで、用意できる薬なんて、毎月、傷薬ひと瓶が精々だ。その程度で満足してたら公共事業とは呼べないだろ」
「ほえー、それっぽっちにしかなんねえのか」
それは、俺の生活費の余剰金が思ってたより少ないのか、それとも、薬がバカ高いのか……恐らく、後者なんだろうな。
「これまで平民に薬が広がらなかったことを考えても、まずは薬代の価格を改善しなければ、いくら薬師を帝都に派遣したところで無駄足になるだけだ」
「……つまり、薬を安くできれば良いってことか?」
今度は馬鹿にされることなく、アーレフは頷いてくれた。
「そう。薬の価格を落とすことが、差し当たっての目標になる。まあ、それ以外にも細かな問題は出てくるだろうが……とにかく、まずは平民でも買えるような薬を用意してやらないと、次には進めない」
「えっと、実は――」
「あっ、見つけたぞ、ジア!こんなところに居やがっ……、へ?」
緊迫した空気を切り裂くようにして、もう一人の男が現れた。全員の視線が、声の聞こえてきた方へと向かう。
その闖入者――アーレフは、この場にそろった俺以外の面子の存在に気が付くと、ギョッと目を見開いた。
「なっ、何でジャラール皇帝陛下がここに……!?」
「……アーレフ、丁度良いところに来たな。実は、例の話をするためにアリが手紙を出してくれてたんだけど、予想してたよりもずっと早く、皇帝陛下が来ちゃった感じなんだよ」
何とも絶妙なタイミングで現れたアーレフに対して、俺が今の状況を当たり障りないように説明していると、それを横から聞いていたジャラール皇帝陛下の視線がこちらを向いた。
「アーレフも関わる話だったのか?」
「えっ?えーっと、アーレフも関わるというか……俺が提案したのを、アーレフが主体でやってくれることになった、って感じか?」
本当は、アーレフに任せるかどうか、まだ正式には決まってなかったけど……こうなってしまったら、決定事項として話していかないと話が前に進まない気がする。既に、ほとんどそういう方向で決まりかけてたんだし、もうそういうことにしちゃって良いよな。うん。
「ということは、お前から話を聞くのが筋になるか?アーレフ」
ジャラール皇帝陛下に名前を呼び掛けられ、その視線が向かうと……なぜか、アーレフは見る見るうちに顔を真っ赤に染め上げた。
……ん?何だろう、あの反応。ちょっと気になるけど……今はそんなことに構ってる場合じゃねえか。
「い、いや……まだ細かい部分が全然詰め切れていないし、皇帝陛下相手に奏上できるような段階じゃ……」
「いや、アーレフ。悪ぃけど、簡単でも良いからチャチャっと説明してやってくれねえか?このままじゃ、ジャラール皇帝陛下を無駄に呼び出したことになっちまうからさ」
俺がパチンと両手を合わせて頼み込むと、アーレフはグッと言葉を飲みこみ、視線を彷徨わせる。そのまま全員で次の言葉を待っていると、アーレフはやがて諦めた顔になって、低い声で説明を始めてくれた。
「……公共事業として、平民に薬を広げる。その許可をいただきたい」
「公共事業?」
そのシンプルな説明に訝しげな声を上げたジャラール皇帝陛下の視線が、なぜか俺の方を向いた。
「何だよ?」
「いや……この話は、お前が提案したのだと言っていたが、本当か?」
「そうだけど……?」
「よく、そんなことを知っていたな」
……ああ、なるぼど。公共事業とかいう難しそうな話が、俺から出た提案だというのが意外だったらしい。
そりゃあ、そうだよな。アリから話を聞くまで、俺は公共事業なんて言葉すら知らなかったんだから。実際、具体的な方法は一個も思いつかなくて、アーレフに丸投げしようとしてた訳だし。
俺がその経緯を一通り説明すると、ジャラール皇帝陛下は納得したように頷いて、アーレフに視線を戻した。
「アーレフ、お前が率先して引き受けたからには、何か考えがあるのだろう?細部を詰める前に一度話してみろ」
ジャラール皇帝陛下がそう言って促すと、アーレフは渋々といった顔をしながら口を開いた。
「……薬を平民に広げるためには、大きな問題が二つある。まず、薬師の絶対数が少なくて、平民に回すような余分な人員がいないこと。それと、薬そのものが高価すぎて、平民では薬代を払えないことだ」
おお、もう既に色々と考えてくれてたんだな。そう言えば、アーレフは俺を探してここまで来たみたいだった。もしかして、その話をするために俺を探していたのかもしれない。
ただ、薬が高価なせいで平民には買えないということくらい、俺だって知ってることだ。
「えっと……その高くて買えない薬を買うために、俺たちが金を出すんじゃないのか?」
俺が疑問に思ったことをそのまま発言すると、アーレフから馬鹿にしたような視線を向けられた。
「……お前の生活費の余剰分程度の金額をいくら注ぎ込んだところで、用意できる薬なんて、毎月、傷薬ひと瓶が精々だ。その程度で満足してたら公共事業とは呼べないだろ」
「ほえー、それっぽっちにしかなんねえのか」
それは、俺の生活費の余剰金が思ってたより少ないのか、それとも、薬がバカ高いのか……恐らく、後者なんだろうな。
「これまで平民に薬が広がらなかったことを考えても、まずは薬代の価格を改善しなければ、いくら薬師を帝都に派遣したところで無駄足になるだけだ」
「……つまり、薬を安くできれば良いってことか?」
今度は馬鹿にされることなく、アーレフは頷いてくれた。
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