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第二話 萌芽
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当時はそれが何というものなのか、はっきりとは分からなかったが今は分かる。
アレは『殺意』だ。
これまで俺の言うことには何でも『すごいね陣くん!!』とか、『やっぱり陣くんが一番だよね!!』とか言って従って来たあいつが逆らった。
許せないと思った。
『だから僕も陣くんみたいに――』
『ふざけるな』
絵で食ってくなんて甘くないんだぞ。
絵画教室の先生に何度も言われた言葉だ。
始めはにこにこと教えてくれていた先生だったが俺がプロになりたいと知ると態度が変わった。
『あー。そういうふうに思うこともあるよね。でもこの道は正直お勧めはできないかな』
そう言って理由も説明してくれた。
サラリーマンと違って画家は全部、自分でやらないといけない、いわゆる自営業だということ。
『それってとても大変でね。例えば安定した収入の見込める公務員――これは国が雇ってくれているから会社がなくなって路頭に迷う、なんてことがないんだよね――になって欲しい、っていう親御さん多いんだよね』
親なら誰もが子供には安定した道を行って欲しいと願うもの。
小学生相手に懇切丁寧に説明してくれる先生は良い先生だと思う。
それでも俺は諦められなかった。
『でも、画家になってるやつらはいるんだろ?』
『うーん。そうなんだけどね。これはかなり厳しいなあ』
――どうしても、というならまずはいろんなことを学んでご両親を説得してからだね。
『何で!?』
『何で、って坂崎くん、今君が来てるお洋服も朝食べたご飯も全部、ご両親が買って用意してくれたものでしょう? 全部ご両親にやって貰っている立場でご両親を説得なんてできるの?』
キツイ言葉だが事実だった。
言葉に詰まった俺に先生は告げた。
『後のことはご両親と相談しなさい。きちんとどうして絵を描きたいのかも話すんだよ』
その後俺は両親と話し、どうして絵を描いていきたいと思ったのか、それに対して先生に言われた言葉も告げてそれでもどうしても絵で食っていきたいと言うと両親はしばらくの間考え込んだ。
やっぱりというかそこで話は纏まらず、何度も話し合い、時には殴り合いになりそうになりながらも幾つか条件付きで画家を目指すことが許された。
――学校の成績は落とさない。
――進学はすること。
――絵画教室の先生が及第点をくれるまできちんと学ぶこと。
いろいろ言われたが主にこの三つだった。
学校の成績とか進学のやつは保険だろ、と思った。
将来絵で行き詰まったときに公務員になれるように。
そう思って結果を絵画教室の先生に告げるとああ、やっぱりと言われた。
『そうだね。進学はした方がいいね。これは何というかやっぱりこの国特有の傾向なのかな。有名な学校出てると相手の態度が違う、って結構あるんだよね。それとできれば簿記も覚えるといいよ。収支決算とかも最初はひとりでやらないといけないからね』
ボキって何のこっちゃ、と思ったが先生はやっぱり先生できちんと俺の将来を見てくれていた。
将来の俺は先生にめちゃくちゃ感謝することになるのだが、それはさておき。
絵が上手い俺でさえそんなふうに揉めに揉めたんだ、あの優の絵がそこに追い付く訳ないだろ。
百、いや千年かかっても無理だろ。
『お前が絵描きなんて無理だからやめとけ』
何度もそう言ったのに優は諦めなかった。
『何で? まだ僕たち小学生だよ。陣くんはめちゃ上手いけどこれから僕だって努力すれば――』
瞬間、手が出ていた。
痛ったあ、と頭を押さえて蹲るやつに怒鳴り返す。
『ふざけんな!! 俺がどんな思いでやってるか知りもしないで!! 大体お前の絵でプロなんてできるわけねーだろ!!』
これは忠告だ。
身の程を知らない優への。
俺は悪くない。絵で食ってくってことがどれだけ厳しいことなのか、教えてるだけだ。
だから周りで見ていたやつらが先生を呼びに行っても俺は平然としていた。
俺は悪くない。
そんなふうに俺が優に対して示していたことが周りにどういった影響を及ぼすかまでは考えに至らなかった。
アレは『殺意』だ。
これまで俺の言うことには何でも『すごいね陣くん!!』とか、『やっぱり陣くんが一番だよね!!』とか言って従って来たあいつが逆らった。
許せないと思った。
『だから僕も陣くんみたいに――』
『ふざけるな』
絵で食ってくなんて甘くないんだぞ。
絵画教室の先生に何度も言われた言葉だ。
始めはにこにこと教えてくれていた先生だったが俺がプロになりたいと知ると態度が変わった。
『あー。そういうふうに思うこともあるよね。でもこの道は正直お勧めはできないかな』
そう言って理由も説明してくれた。
サラリーマンと違って画家は全部、自分でやらないといけない、いわゆる自営業だということ。
『それってとても大変でね。例えば安定した収入の見込める公務員――これは国が雇ってくれているから会社がなくなって路頭に迷う、なんてことがないんだよね――になって欲しい、っていう親御さん多いんだよね』
親なら誰もが子供には安定した道を行って欲しいと願うもの。
小学生相手に懇切丁寧に説明してくれる先生は良い先生だと思う。
それでも俺は諦められなかった。
『でも、画家になってるやつらはいるんだろ?』
『うーん。そうなんだけどね。これはかなり厳しいなあ』
――どうしても、というならまずはいろんなことを学んでご両親を説得してからだね。
『何で!?』
『何で、って坂崎くん、今君が来てるお洋服も朝食べたご飯も全部、ご両親が買って用意してくれたものでしょう? 全部ご両親にやって貰っている立場でご両親を説得なんてできるの?』
キツイ言葉だが事実だった。
言葉に詰まった俺に先生は告げた。
『後のことはご両親と相談しなさい。きちんとどうして絵を描きたいのかも話すんだよ』
その後俺は両親と話し、どうして絵を描いていきたいと思ったのか、それに対して先生に言われた言葉も告げてそれでもどうしても絵で食っていきたいと言うと両親はしばらくの間考え込んだ。
やっぱりというかそこで話は纏まらず、何度も話し合い、時には殴り合いになりそうになりながらも幾つか条件付きで画家を目指すことが許された。
――学校の成績は落とさない。
――進学はすること。
――絵画教室の先生が及第点をくれるまできちんと学ぶこと。
いろいろ言われたが主にこの三つだった。
学校の成績とか進学のやつは保険だろ、と思った。
将来絵で行き詰まったときに公務員になれるように。
そう思って結果を絵画教室の先生に告げるとああ、やっぱりと言われた。
『そうだね。進学はした方がいいね。これは何というかやっぱりこの国特有の傾向なのかな。有名な学校出てると相手の態度が違う、って結構あるんだよね。それとできれば簿記も覚えるといいよ。収支決算とかも最初はひとりでやらないといけないからね』
ボキって何のこっちゃ、と思ったが先生はやっぱり先生できちんと俺の将来を見てくれていた。
将来の俺は先生にめちゃくちゃ感謝することになるのだが、それはさておき。
絵が上手い俺でさえそんなふうに揉めに揉めたんだ、あの優の絵がそこに追い付く訳ないだろ。
百、いや千年かかっても無理だろ。
『お前が絵描きなんて無理だからやめとけ』
何度もそう言ったのに優は諦めなかった。
『何で? まだ僕たち小学生だよ。陣くんはめちゃ上手いけどこれから僕だって努力すれば――』
瞬間、手が出ていた。
痛ったあ、と頭を押さえて蹲るやつに怒鳴り返す。
『ふざけんな!! 俺がどんな思いでやってるか知りもしないで!! 大体お前の絵でプロなんてできるわけねーだろ!!』
これは忠告だ。
身の程を知らない優への。
俺は悪くない。絵で食ってくってことがどれだけ厳しいことなのか、教えてるだけだ。
だから周りで見ていたやつらが先生を呼びに行っても俺は平然としていた。
俺は悪くない。
そんなふうに俺が優に対して示していたことが周りにどういった影響を及ぼすかまでは考えに至らなかった。
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