『知性の果てで、僕らは問いかける』

leviathan

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【第一部:思考する機械の夜明け】

第三章:知性の設計図 ― チューリングの想像力

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1936年。ケンブリッジ。

一人の若き数学者が、ノートの余白に線を描いていた。
長く伸びる紙の帯。そこに記号を一つずつ書き込む仮想の装置。
機械はそれを読み取り、書き換え、次の動作を選択し、移動する。

それは――考える機械だった。

彼の名は、アラン・チューリング。
この論文のタイトルは、「計算可能数について」。
人間の思考を極限まで単純化した、チューリング・マシンの誕生だった。

それは実在しない抽象機械だった。
だがこの発想が、後にすべてのコンピュータの理論的基盤となる。



時代はすぐに、思索に夢を見ている余裕を許さなくなった。
世界は再び戦争に突入する。

第二次世界大戦。ナチス・ドイツの暗号機「エニグマ」は、
日々暗号設定を変え、連合軍の通信を無力化していた。
その解読を託されたのが、イギリス・ブレッチリー・パークの機密チームだった。

その中心にいたのが、チューリングである。

彼は「ボンブ」と呼ばれる電気機械を設計し、膨大なパターンを自動で試す装置を作り上げた。
それは史上初の「暗号解読マシン」であり、事実上のプログラム制御式コンピュータだった。

エニグマの解読は、戦争を2年早く終結させ、1400万人の命を救ったとも言われている。

だがチューリングの功績は、終戦と共に秘密の帳に包まれ、
彼自身は国家機密保持の名のもとに歴史から姿を消した。

――そして、国家は彼を裏切る。

同性愛が違法であった英国法のもと、
英雄は罪人として裁かれ、ホルモン治療を強いられ、
1954年、自ら命を絶った。

彼の死後、20世紀末になってようやく、
人類は彼の残した言葉の意味を理解し始める。

「もし機械が人のように振る舞うなら、それは知性を持つと言えないだろうか?」

チューリング・テスト。
それは今もなお、人工知能の“本物らしさ”を測る問いとして、
知性とは何かを私たちに突きつけ続けている。

人は、考える葦。
では、考える機械は何なのか?

問いは続く。
知性とは何か。人間とは何か。
そして――何を“創った”のか。
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