ここは弊社のゲームです~ただしBLゲーではないはずなのに!~

マツヲ。

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106:チェックメイトまで、あと少し!

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 ベルが転入してきた日の朝から、すぐに俺が寮の部屋を代わるためにいなくなったところで、翌日───つまり今朝の映像に切り替わった。

 そこから先は、カイエンが遅刻しそうになりつつもパレルモ様を連れて登場して、ベルが遅刻をしてきたところがさらっと流される。
 もちろんそこでは、カイエンが巻き込まれたパレルモ様とリオン殿下のやりとりも網羅されている。

 その場で厳しいことを言われたパレルモ様が、カイエンに向かって『リオンくんがいじめる』と泣きつくそれは、やはり先ほどのリオン殿下の証言のとおりだった。

 そして少し早送りされて休み時間になった。
 俺が冤罪をふっかけられた、件の『パレルモ様号泣事件』へと至る。

 リオン殿下の叱責で泣き出したパレルモ様に、タイミングよくあらわれたベルと担任教師によって俺が犯人あつかいされ、いくらリオン殿下が真実を伝えようとしてもねじ曲げられる、ヒドいシーンが映し出される。

 きっかけこそベルが俺を見ながら糾弾し、担任が『犯人はダグラス』だと決めつけたわけだけど……。
 皆があやつられたかのように、ベルと担任のセリフに乗ってくる。

 まぁ何度見てもツラくなるとしか言いようがないそれは、あらためて見ても、はじめから俺を犯人に仕立てあげ、そしてクラス中から糾弾させるというシナリオに沿った不自然なものとしか思えなかった。
 そういう『物語の強制力』のようなものでも働いてなきゃ、こうはならないだろ!

「───よろしい、そこで止めてくれ」
「はい、校長」
 校長からの指示にしたがい、魔法科の教師が杖をふるう。

「なんと酷い…!」
「担任教師という立場でありながら、確認すらせずに特定の生徒を犯人と決めつけるとは、教育者の風上にもおけないじゃないか!」
 ……うん、ごもっともな意見だ。

「それにあのベル・パプリカという生徒、この神聖なる査問会の場で、なにひとつ正確な証言をしていなかったな?!まったく、とんでもない生徒だ、品性が疑われる!!」
「本当に、正しく真実を告げられているリオン殿下のお言葉を無視するとは、あきれたヤツらだ」
 そうそう、そこに気づいてくれたなら、もう俺の勝ちは確定したようなもんだろ。

「それどころか、見たか?あのクラス中の生徒たち、まるでそろってダグラスくんをいじめているようじゃないか!」
「あぁ、しかも担任じきじきに指揮したようにも見えたな……」
 査問委員をつとめる教師陣からは、口々にそんな声があがっていた。

「さて、今見てもらったものがすべてなわけだが……はたしてどちらの主張が正しいものだったかは、言うまでもないと思う」
 校長の心なしか固い声が、妙に重苦しい空気のなかに響く。

「さて、これより採決に入るとしよう……」
「待ってください!まだお話しすべきことがあります!」
 校長が採決をうながそうとしたところで、あわてて声をあげる。

 むろん、今の映像を見れば、俺がふたりによってハメられたのは一目瞭然だったとは思う。
 ただ、このままだと誤解がのこったままになってしまう。
 今の映像だけを見たら、たしかにベルが最初に俺をうたがってはいたものの、むしろ担任が名前を出して決めつけたのが発端になって、クラスメイトたちからも俺が一方的に責められていたように見える。

 でも、ちょっと待ってほしい。
 これって本当に担任もクラスメイトたちも、彼ら自身の意思でやったことなのか?って。
 そこをハッキリさせなくちゃ、真の原因はあぶり出せないだろ!

 俺のかんがえとしては、言うなれば彼らはこの世界に侵食したヤツの手により、無理やりに設定をゆがめられたせいで俺を攻撃したにすぎないんだと思う。
 ここが『星華せいかとき』の世界で、彼らがゲームのなかのキャラクターでもある以上、『物語創作者シナリオライター』の権能には決して逆らえないのだから。

 もし俺が、ただ自分にツラくあたったヤツらを見かえしてスッキリしたいだけなら、このまま判決を待てばいい。
 そうできるだけの理解は、査問委員たちから十分得られているとは思う。
 でもこのままだと、より罪が重いのは、直接俺を犯人と断定した担任のほうになってしまうんじゃないだろうか?

 ベルは、ちょっと暴走気味だしウソつきではあるけれど、それは友だち思いだという点の裏がえしなだけだという評価を受けて、なんだかんだと責任をのがれられる可能性もなくはない。
 俺はそこを、完ぺきに封じたかった。

 だって、権能の力であやつられてしまった担任の教師も、クラスメイトも、ある意味でみんな被害者なんだから。
 この世界において、その責任を取るべきものは、この世界に侵食して権能の力を奪った犯人だけだろ!

 そう、つまり───この場においては、もっとも侵食者とうたがわしい存在の、ベルだ。

「私のことを犯人であると最初に断定したのは、担任の先生ではありましたし、クラスメイトの皆さんもそれに乗って責めてきました……」
 と、そこでいったん言葉を切る。

「ですがそれは、とある魔法による影響を受けたせいであることを主張いたします!」
「『とある魔法』……?」
 毅然とした態度で言いきれば、校長がハッとした顔になる。
 校長と理事長だけは、昨夜のあの夕食会の席にいたからこそ、知っていることだ。

「───パレルモ様はご自覚がないままに、強力な魅了の魔法を常に周囲へとふりまいてらっしゃいます。その精神支配により、魔法の影響を受けたものは、すべからくパレルモ様をあがめたてまつる状態となってしまうのです!」
 だから、その影響を受けているものが俺を攻撃しておとしめようとするのは、おかしなことでもなんでもないのだと主張する。

「たしかに……昨晩までのリオン殿下のご様子はおかしかったし、その魔法が解ける瞬間も、しっかりとこの目で見ましたね」
「あぁ、まちがいない。はずかしながら俺も、その魔法の影響を受けてしまっていた」
 俺の主張に、校長が首肯し、リオン殿下も肯定してくれた。

「だからこそ、その魔法の影響を受けているかどうかを、まずご確認いただきたい!」
「なるほど、承知した」
 さっきまで『保安記録セキュリティー・レコード』の操作をしてくれていた魔法科の教師が、今度はこの部屋全体にかかる分析の魔法を操作する。

「鑑定が終わったぞ、この場でかかっているものとそうでないものは、だいたい半々くらいだ。ここにいる君のクラスのメンバーうち、先ほどの映像で君を糾弾していたものは、1名をのぞいて皆、魅了の魔法の影響を受けていた」
 魔法科の教師のセリフに、一気に心拍数があがっていく。

「その、『影響を受けていない1名』とは?」
 いよいよだ!
 校長のたずねる声に、最後の大詰めが近づいてきているのを感じて、手のひらに汗がにじむ。

「それは───ベル・パプリカ、君だけだ」
 魔法科の教師の淡々とした声が、ベルの名前を呼んだ。
 よっしゃ、リーチはかかった!

 あと少しで俺への冤罪事件は、完全に逆転できる。
 その予感に、俺は胸がおどるのを感じていた。
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